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第46話 王女様と夕方の紅茶の時間

「……支部長は居るって事かしら?」

「いえ。大口の依頼があるとの事で、今は領軍の司令部に出ています。……前、失礼致します。」


 受付のお姉さんは、部屋の名前が書かれた板を見て首を傾げるミィルさんの前に出ると扉を開ける。


 ……意外と普通だね。

 中を覗くとミィルさんの部屋と同じ感じに見える。だいぶ狭く感じるけど。

 お客さん用のテーブルが手間にあって奥の大きな窓の前には執務用の机がある。


 扉の鍵が開くのを見ていたミィルさんは受付のお姉さんに目を向ける。


「あら。貴女“執行部”の人間だったのね。」

「……申し遅れました。ハイゲン支部副支部長のツェイです。」


 受付のお姉さんは振り返ると軽く頭を下げながらカードを取り出す。

 ミィルさんはカードに目を通して頷くと顔を上げて受付のお姉さんと目を合わせる。


「……成る程ね。人員が足りずにって所かしら?」

「そんな所です。……さぁ、皆さんどうぞ。」


 受付のお姉さんは軽く頷くと扉を押さえて私達に顔を向ける。


「そうね。早く入りましょう。」


 受付のお姉さんに軽く頷いたミィルさんは扉を通って部屋に消えてしまう。


「エル。私達も行こ?」

「じゃな。」


 私はエルの手を引いて部屋に入ると一緒にソファに座る。


 ……あっ。ここにもあるんだ。

 ソファに座って周りを見ると窓の反対側に例のドラゴンの紋章と盾と剣の紋章が掲げられている。

 見ているとシエラちゃんとシエルさん、最後にサクラさんが入ってくる。


 シエラちゃんは私とエルの近くまで来るとシエルさんの手を軽く引いて声を掛ける。


「お母様。アーちゃん、エルちゃんと一緒に座ってもいいですか?」

「好きにしなさい。」

「ありがとうございます! お母様!」


 シエラちゃんは手を離すと、てくてく私達の側にやって来る。


「アーちゃん。エルちゃん。一緒に座っていいですか?」

「うん。いいよ。……エル。ちょっと寄って。」

「……ほれ。これでよいかの?」

「! ありがとうございます!」


 シエラちゃんはにっこりと微笑むとエルの左隣に空いたスペースにちょこんと座る。ちなみに私はエルを挟んで右隣、エルの前にはシエルさんが座っている。


 ミィルさんは私のちょうど向かいに座ると扉の所で待機している受付のお姉さんに声を掛ける。


「……ツェイ。ちょっと頼んでもいいかしら?」

「何でしょうか?」

「サクラの持ってるワッフルに合う物を用意して欲しいわ。」


 ミィルさんはさっとサクラさんの手の中にある袋に視線を向ける。


 まだソファに座って無かったサクラさんはそのまま受付のお姉さんに袋を差し出す。


「ツェイさん。どうぞ。」

「はい。……上の階の物ですね。紅茶の用意を致しましょうか?」


 袋を開けて覗き込んだ受付のお姉さんは顔を上げてミィルさんに目を向ける。


「ええ。それと、出来れば付け合わせにアイスクリームもお願いするわ。」

「了解しました。用意して参ります。」

「頼んだわよ。」

「はい。」


 ミィルさんに頷いた受付のお姉さんは私たちに礼をするとワッフルの袋を持って部屋を出ていく。


 部屋の扉が閉まるのを見ているとシエルさんがサクラさんに声を掛けるのが聞こえてくる。


「サクラも座りなさい。」

「はい。シエル様。」


 目を戻すとシエルさんの隣にサクラさんが座っている。


 ……あっ。そうだ。

 私は隣に振り向くとシエラちゃんに声を掛ける。


「……シエラちゃん。シュバさん元気?」

「アーちゃん。ちょっと待ってください。……シュバイン、出て来なさい。」


 シエラちゃんは静かに声を掛ける。少しするとシエラちゃんの左肩の髪がもぞもぞしてシュバさんが顔を覗かせる。


 ……そう言えば、シュバさん、どうやってシエラちゃんの肩に摑まってたんだろう? たしか丸まってた気がするけど……。


「シュバイン。こっちですよ。……はい。アーちゃん。」


 シエラちゃんはそっとシュバさんを掴むと手のひらに乗せて私に見せてくる。

 シュバさんは私と目が合うと背筋を伸ばしてじっと動かなくなる。


 ……あっ! 逃げた。

 シュバさんは目をぷいって逸らすとたったったとシエラちゃんの腕を登って髪の毛に隠れてしまう。


「シュバイン。……ごめんなさい。アーちゃん。」


 シエラちゃんは私の方を向くと申し訳なさそうな顔をする。


 ……小さな動物さんだし、しょうがないと思う。

 私は首を横に振るとシエラちゃんと顔を合わせる。


「うんうん。大丈夫。……サクラさん。シュバさんに興味あるの?」


 目線を逸らすとシュバさんが隠れた髪の毛をじっと見ているサクラさんが目に入る。


 目を少し開いたサクラさんは私の方に向き直って首を横に振る。


「あっ。……えっと。私の師匠を思い出したんです。師匠の眷属は真っ白な小鳥の方だったんですけどいつも師匠の髪に隠れていたので……。」


 へー。やっぱり小さな子って隠れたがるんだ。

 私は隣のエルに目を向ける。


「……なんじゃ。アルフェ。」

「何でもないよ。」

「ふん。」


 何でもないって言ったのにエルは鼻を鳴らしてそっぽを向く。


 ……うーん。もしかしてばれてる?

 首を捻っていると扉を叩く音が聞こえてくる。


「グランドマスター。ツェイです。」

「入りなさい。」

「失礼します。」


 ミィルさんの声を聞いて扉に目を向けると受付のお姉さんが紅茶とワッフルのセットをワゴンに乗せてやって来る。


 ……ワッフルからはちゃんと湯気が出ている。あの少し溶けているのはアイスクリーム?


「皆様。前の方、失礼します。」


 じっとワゴンの上を見ていると受付のお姉さんがワッフルと紅茶を順に配ってゆく。


 ミィルさんは並べられているお皿やカップを見ながら受付のお姉さんに声を掛ける。


「思ったよりも早いわね。」

「ちょうど客人用の用意があったので準備いたしました。」

「……ごめんなさいね。」

「いえ。……では失礼します。」


 受付のお姉さんは配り終えると軽く頭を下げて部屋から出て行く。


 横を見るとエルが額に皺を寄せてじっとワッフルを見ている。

 ……そんなに真剣に見なくても。


 目を逸らしてシエラちゃんを見ると目をきらきらさせながら私に顔を向ける。


「アーちゃん。美味しそうです。」

「だね。」


 私はシエラちゃんが頷き合っているとシエラちゃんの髪がごそごそ揺れてシュバさんが顔を覗かせて鼻をひくひくさせる。


「……シュバイン。お腹空いたのですか?」


 シエラちゃんはシュバさんの背中を軽く撫でながら静かに声を掛ける。


 すると前から声が聞こえてくる。


「シエラ。シュバインの事は後にしなさい。」

「はい。お母様。」


 シエラちゃんは私と目を合わせるとにこっとして顔を前に向ける。


 ……まぁ。ハムスターさんに人の食べ物は良くないよね。魔物化しているから多分平気だろうけど。

 私も前を向くと苦笑いしているミィルさんが目に入る。


「アルフェ様。エル様が待ちきれないみたいよ。」

「そうじゃ。そうじゃ。もうわしは準備出来ておるのじゃ。早よせんと先に食べるぞ。」


 隣を見ると私をじっと睨んでいるエルが目に入る。


 ……うっ。ごめん。エル。

 見た感じお祈りはしなくても良さそうだけどシエラちゃんやサクラさんもお祈りをしていたから、私もさっと手を動かして祈りを捧げる。


 捧げ終わるとミィルさんが口を開く。


「……いいかしら? では頂きましょう。」


 私はミィルさんに頷き返す。

 フォークとナイフを持って上に乗っているアイスクリームごと切り分けると一気に頬張る。


 んぅーー! 美味しい!……あっ。

 エルとお話ししようと隣に顔を向けたら、スプーンを持ったままエルが頭を抱えて蹲っている。

 机を見るとワッフルはそのままでアイスがほとんど無くなってる。


 ……エル。

 私はそっと目を離す事にした。


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