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第45話 王女様と小さな使い魔 Ⅱ

「えっと、“名付けの儀式”はどうしますか?」


 一瞬、身体を硬直させていると隣から女の子の声が聞こえてくる。


 見ると籠の横で控えている女の子がシエルさんに顔を向けている。

 ……そこは眷属契約と変わらないんだ。


 シエルさんを見ると少し額に皺を寄せている。


「……そうね。」

「お母様! もう名前は決めました!」


 でも、顔を上げたシエラちゃんと目が合うとシエルさんは頷いて店員の女の子に顔を向ける。


「分かったわ。……今すぐお願いするわ。」

「分かりました。では準備しますね。」


 女の子はこくりと頷くと籠を開けてハムスターさんに声を掛ける。


「起こしてごめんね。……こっちだよ。」


 ハムスターさんはびくっとして巣箱から顔を覗かせると外に出てくる。


 女の子はハムスターさんをくいっと取り上げるとシエラちゃんと目線を合わす。


「手を出してもらえますか?」

「はい。」


 女の子はシエルさんから離れたシエラちゃんの手の上にハムスターさんを乗せると声を掛ける。


「では、名付けをお願いします。」

「シエラ。ちゃんと魔力を込めるのよ。」

「はい。お母様。……『私があなたの“親”ですよ。あなたの名前はシュバインです。』」


 次の瞬間、一瞬だけ淡い光の糸がハムスターさんとシエラちゃんの間に現れる。


 ……

 光が消えると店員のお姉さんの声が聞こえてくる。


「……終わりですね。もう連れて行かれますか?」

「はい。……シュバイン。こっちですよ。」


 シエラちゃんはこくりと頷くと手のひらのハムスターさん……シュバさんで良いかな? に笑みを向ける。


 シエラちゃんの声を聞いたシュバさんは背筋をぴっと伸ばして軽く頷くと、たぁったぁったぁと腕を伝ってシエラちゃんの肩まで登ってくる。

 でも、そのまま髪の毛に隠れて丸まって寝息を立て始める。


 ……結構、マイペースだね。この子。

 でもシエラちゃんはシュバさんの背中を撫でながらにこにこしている。


 そんな様子を見ているとミィルさんの声が聞こえてくる。


「……移動しましょうか。」

「はい。ミィル様。……ティア。後は頼んだわよ。」

「分かったよ。メイお姉さん。……お嬢様もその子の事よろしくお願いしますね。」

「はい。ティア。」

「では案内します。」


 私達は女の子と別れると店員のお姉さんに先導されてお店の表に出てくる。


「本日はありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。…………サクラちゃんも街に居るならまた来てね。」

「分かりました。森に帰る前には必ず寄りますね。」

「ふふ。待ってるわね。」


 お店のお姉さんはサクラさんと少し離すと私達に軽く頭を下げてお店の中に戻っていく。


「……さてと、こんな所かしらね。アルフェ様達はフードを下ろしなさい。次は支部へ案内するわ。」


 お店の方をじっと見ていたミィルさんは店員のお姉さんが扉の中に消えたのを確認すると私達を見回して歩き始める。


 ……!!

 私は急いで自分とエルのフードを下げる。


「……はい。エル。」

「うむ。」


 見るとシエラちゃんもシエルさんにフードを下げてもらっている。

 私はエルと手を繋ぐとミィルさんを追って歩き始める。


「内階段は……ダメね。狭すぎるわ。一旦、大階段で外に出ましょうか。」


 ミィルさんは少し立ち止まって、目線を正面から逸らすけどすぐに歩き始める。


 ……確かにね。

 ミィルさんの目線を追うと狭い入り口から人が何人か出入りしているのが見える。そのまま通路を歩いて行くと道いっぱい下に広がった階段に突き当たる。

 ……ちょっと。怖いかも。


「……足元は気をつけて頂戴。」


 ミィルさんはほとんど人の居ない階段を降り始める。


「……アルフェお嬢様。手を繋ぎますか?」


 長い階段に尻込みしているとサクラさんが私の顔を覗いてくる。


 私は軽く頷くとサクラさんに右手を伸ばす。


「はい。……行きましょうか。」

「うん。」


 私はサクラさんと手を繋ぐとエルと一緒に階段を降り始める。


 ?

 よく見るとエルが持っていたワッフルの袋をサクラさんが持っている。


「サクラさん。それ、いつから持ってたの?」

「これですか? エルお嬢様が魔石燃料を観察される時に預かりました。」

「じゃな。」


 ……気付かなかった。ふんふん頷いているとミィルさんの声が聞こえてくる。


「ワッフル用の付け合わせを忘れない様にしないといけないわね。」


 !

 私はミィルさんに顔を向ける。


「ミィルさん。アイスクリームは大丈夫なの?」

「平気よ。お茶用の部屋を借りたら職員に頼むわ。」


 ふーん。なるほどね。どんなアイスクリームを乗せたら美味しいかなって考えていたら外の地面が目に入ってくる。


 階段を降りると目の前に道が現れて奥には塀がずっと続いている。

 ……なんか立派な軍服みたいな物を着ている人も歩いているね。


「将校ね。向こうの地区は領軍の施設だから良く見るわよ? ただ、貴族出身が多いから“面倒”なのが多いけど。」


 ……うっ。

 私はミィルさんに言われてすぐに目を逸らす。


「ふふ。絡まれても私が何とかするから平気よ。……入り口はこっちよ。」


 ミィルさんは私に笑い掛けると歩き始める。


 ……

 ついて行くと、ちょうど階段の隣に扉が有って看板が掲げてある。


 “武力ギルド白銀竜アーヴェン王国本部ハイゲン西部総支局ハイゲン支部”


「ここが支部の入り口。隣が上にあるホテル用の入り口ね。」


 へー。入り口って全部分かれてるんだ。


 ふむふむと頷いてミィルさんの後に続いて扉の中に入ると広い受付に何人か居て、受付の反対側でもテーブルで飲み物を飲みながら話している人もいる。

 ……魔の森の村とあまり見た目は変わらないかも。


 周りを見渡していると突然声が聞こえてくる。


「……おいおい姉ちゃんら。あんたら“みたいな”の入り口は“向こう”じゃないのか?」


 ……えっ。

 見るとテーブルで飲み物を飲んでいた男の人がミィルさんを見ながらにやにやしている。でも、次の瞬間その男の人の意識がぷつんっと切れて椅子から崩れ落ちる。

 ……ミィルさん?


 ゆっくりとミィルさんに目を戻すと、ぎょっとして立ち上がった受付のお姉さんに肩を竦めながら顔を向けているミィルさんが目に入る。


「ねぇ。昼間からお酒ってどうなのかしら?」


 ミィルさんはすたすたと受付のお姉さんに近づくとカードを目の前に差し出す。


「……ここって“一般”受付もしてるわよね? よく考えて頂戴。」

「!! 申し訳ありません。グランドマスター。」

「別に責めてる訳じゃ無いわ。今日はちょっと……っと、アルフェ様達もこっちに来たらどうかしら? 椅子もあるわよ?」


 ……あっ。


「エル。行こ?」

「うむ。」


 ぼーっとしていた私はエルの手を引っ張ると急いでミィルさんの所に駆けていく。ちなみにサクラさんはいつのまにか手を離してた。

 ……でも、さっきの“あれ”ってどうやったんだろう?


 少し伺うようにミィルさんの隣の椅子エルと一緒に座ると、遅れてシエラちゃんもやってくる。


「……アーちゃん。隣に座っても良いですか?」

「うん。」

「! アーちゃん。ありがとう。」


 私達が座ったのを確認したミィルさんはまだ立ったままの受付のお姉さんに声を掛ける。


「……貴女も座ったらどうかしら?」

「! 分かりました。」


 ふと、後ろを見るとサクラさんとシエルさんが並んでいてテーブルの方がよく見えない。


「姫様?」

「……なんでも無いよ。」


 私はシエルさんに顔を横に振ると今度は掲示板みたいな所に目を移す。サクラさんの体で半分見えないけど。


 ……ふーん。お仕事の依頼かな?

 お店番にお掃除、行方不明の使い魔を探して欲しいって物もある。


「アルフェ様。何を見てるのかしら?」


 顔を戻すと受付のお姉さんは居なくなっていて、ミィルさんが私の方に顔を向けている。


「あれ? 受付のお姉さんは?」

「部屋が空いておるか確認すると言っておったぞ。」

「そうなんだ。ありがとう。エル。……ミィルさん。あれって何?」


 私はエルに頷くとミィルさんの方を向いて掲示板を指差す。

 するとミィルさんは掲示板をざっと見ながら声を出す。


「……あれは見習い用の依頼ね。見習いはあそこに貼ってある仕事しか出来ないわ。“鉄”まで上がれば受付で直接仕事を斡旋する様になるけど。」


 ふーん。もう一度、掲示板を見ようと思ったら受付の奥から早歩きで駆けてくる受付のお姉さんが目に入る。


「……お待たせしました。こちらにどうぞ。」


 ミィルさんは椅子から立ち上がると声を掛ける。


「あら。空きはあったのかしら?」

「はい。大丈夫です。」

「なら案内して頂戴。」

「畏まりました。」


 受付のお姉さんが軽くミィルさんに頷いているのを見た私は、両隣に居る2人に声を掛ける。


「エル。シエラちゃん。手繋ご?」

「うむ。ほれ。」

「はい。アーちゃん。」


 私はエルとシエラちゃんと手を繋ぐと歩き出したミィルさんの後を付いて行く。


 ……

 少し通路を進むと受付のお姉さんが立ち止まる。


「こちらです。」


 見ると扉にはこう書いてあったんだ。


 “ハイゲン西部総局ハイゲン支部長室”


 って。


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