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第44話 王女様と小さな使い魔 Ⅰ

 少しすると小屋から女の子が駆けてくる。


 ……ちなみに白い犬さんは小屋の中に居るみたい。


「お待たせしました。……えっと、メイ姉さん。どう言う使い魔を探してるんですか?」


 女の子は私達の前にやってくると店員のお姉さんに顔を向ける。


「ティア。お客様は“一通り”見たいと仰ったからお連れしたのよ。」

「……なるほど。とりあえず見学したいって事ですね。」

「ちょっと、良いかしら?」


 店員のお姉さんと女の子が話しているとミィルさんが2人に声を掛ける。


「はい。ミィル様。何でしょう?」

「シエラ……この子は大きな使い魔が好きじゃないみたいなのよ。」


 店員のお姉さんに顔を向けられたミィルさんはシエルさんに引っ付いているシエラちゃんを見る。


 ……確かにね。私も目を向ける。

 シエラちゃんはびくっとするとローブから顔を上げる。


「……ミィル様。」

「シエラ。心配要らないわ。……シエルも良いわね。」

「ええ。」


 シエルさんが軽く頷いたのを見たミィルさんは私達に顔を向ける。


「アルフェ様。エル様。構わないわよね?」


 ミィルさんに言われて私はすぐに頷く。


「うん。良いよ。……エル?」


 ……エル。まだ、水筒眺めてたんだ。

 私はエルの腕をとんとんと軽く叩く。


「……! わしも構わんぞ。ミィルの好きにすれば良いのじゃ。」

「そう。サクラは……構わないと。メイと……ティアだったかしら? 頼むわね。」


 ミィルさんはサクラさんと目線を交わした後、店員のお姉さんと女の子に顔を向ける。

 店員のお姉さんは女の子と顔を見合わせると首を縦に振る。


「畏まりました。では、小鳥や小動物を中心に見ていきましょう。……ティア。」

「分かった。メイ姉さん。……お客さん。付いてきて下さい。」


 女の子は小屋の方に顔を向けるとゆっくりと歩き始める。


「……アルフェお嬢様?」


 ……!っと、ぼーっとしてた。

 私はサクラさんの声ではっとするとじっと私を見ていたエルの手をつかむ。


「エル。ごめん。」

「構わん。」


 私はエルの手を引いて、店員のお姉さん達とミィルさん、シエルさんとシエラちゃんの後について行く。


「……メイ。ティアって貴女の“妹”なのかしら?」

「ミィル様。違いますよ。妹みたいには思っていますが……。」

「メイ姉さん。ちょっと恥ずかしい。」

「ふふ。ごめんね。……でも、私達の付き合いって結構長いでしょ?」

「長いって、どれくらいなのかしら?」

「……えっと、5,6年前だと思います。初めての“依頼”でここの店番をしたのがメイ姉さんとサクラお姉様との出会いでしたからね。」

「あら? あなたって商業ギルドの見習いでは無いのね。どこの“ギルド”に入ってるのかしら?」

「ふふ。ミィル様。ティアは“白銀竜”様の“青銅”ギルド員なんですよ。」

「……一人前、一歩手前って所かしらね。」

「はい。まだまだです。……着きました。開けますね。」


 ……

 店員のお姉さんと女の子、それにミィルさんのお話を聞いているとすぐに小屋の前に着く。

 女の子が扉を開けるとぴーぴーと鳴く声が聞こえてくると共に家の動物小屋と似た“臭い”が漂ってくる。


 ……大丈夫かな?

 私は動物小屋で慣れている……とは言っても魔物さん達が綺麗にするし私も魔法で掃除するからそこまだきつくない。それにお薬の臭いも混ざってどっちかというと“病院”みたいな臭いだけど。


 周りを見てみるとシエラちゃんとエルが顔を顰めている。


「……お母様。」

「臭いがきついのう。」


 扉を開けていた女の子は2人の様子に気付くと苦笑いする。


「あー。すみません。臭いきついですよね。……『我命ず。清浄なる風よ。不浄なる気を祓い給え。』」


 次の瞬間、建物の中なのに女の子の髪がふわっと浮き上がる。

 だけど、私達の所には風は吹いてない。


 ……へー。この女の子。結構、魔法上手かも。

 女の子の髪がすとんと元に戻るとほとんど臭いがしなくなる。


「こんな感じかな? ……皆さん。どうぞ。」


 女の子に促されて中に入る。

 ……魔物さんは居ないみたいだね。


 私は少しほっとする。

 中にはいくつか籠が並んで居て小鳥さんやリスさん、あれはネズミさんかな? 尻尾がほとんど無い……あっ!“ハムスター”さんだ! 確か北の砂漠地帯に居る動物さんだったと思う。

 例の記憶にも同じ様な動物さんが居たっけ。


「……お母様。あのネズミさんを見ても良いですか?」

「ええ。良いわよ。」

「! ありがとうございます!」


 見ているとシエラちゃんがシエルさんの手を引いてハムスターさんの籠に近寄る。


「……“籠”に囚われた者は好きでは無いのう。」


 声が聞こえてきたので隣を見るとすごく不機嫌そうなエルの顔が目に入る。


 ……ドラゴンさんって“自由”の象徴だもんね。ただ、その割にはシエルさんとミィルさんは平然としているけど。


「エル。嫌なら外に出る?」

「そこまでしないで良いのじゃ。アルフェは見たいのじゃろ?」

「……うん。」

「なら、早う見に行くのじゃ。」

「一緒に見ても平気?」

「うむ。」


 ……そっか。

 私は苦笑いしながら頷くとエルの手を引いてシエラちゃんが見ている籠に近付いてみる。


 私達が近付いてきたのに気付いたシエラちゃんが私達の方を向いて笑顔になる。


「あっ。アーちゃん。エルちゃん。この子、すごいふわふわして可愛いです。」

「そうだね。……寝てるのかな?」

「はい。……ネズミさんとは違う種類みたいです。ティアに教えて貰いました。」


 私は籠の中を眺めながらシエラちゃんにこくこくと頷く。


 ……へー。例の記憶の“ハムスター”にそっくり。

 灰色をしたハムスターさんは巣箱の中にくるっと丸まって寝ているみたい。

 ……ちょっと可愛いかも。


 シエラちゃんと一緒に2人で眺めていると後ろからミィル声が聞こえてくる。


「……使い魔としては珍しいわね。」

「そうですね。確かこの子は魔の森に近い場所で捕獲されまして、恐らく何処からか逃げ出した子が生き延びたのではないかと。」


 ……ちょうど良いかな。

 私は振り向くとミィルさんと話している店員のお姉さんに声を掛ける。


「……あの、使い魔って何なの?」

「そうですね。……ミィル様。失礼します。」

「ええ。」


 店員のお姉さんはミィルさんから離れると屈んで私と目を合わせる。


「お嬢様。使い魔と言うのは“魔法”が使える動物を使役した場合の呼び名です。」


 ……なるほどね。眷属みたいなものかな。

 私は店員のお姉さんにふむふむと頷いているとミィルさんも私に近付いてくる。


「アルフェ様。眷属ほど強い繋がりがあるわけじゃ無いわ。長いこと一緒に居ると繋がりは深くなるけど。……あとそうね。ここには居ないみたいだけど、王都の“飛竜部隊”や“魔狼部隊”みたいに完全な魔物を使い魔にする事はあるわ。」


 ……へー。“飛竜部隊”なんてあるんだ。


 ちょっと驚いていると隣から鼻を鳴らす音が聞こえてくる。

 見るとエルが憮然とした表情をしている。


「ふん。嘆かわしいのう。“自由なる翼”に連なる者であろうに。」

「エル様。“弱き者”はそんなものよ。」

「シエルの言う通りね。それに人間に尻尾を振るドラゴンなんてほっておいてもすぐに“消える”わ。」


 ……シエルさんもミィルさんも怖い。

 それにシエルさん。お母さんの眷属だったよね?

 2人の発言にみんなきょとんとしているけど、2人がドラゴンだって知っていると意味が分かる。


 そっと目を離すと目線を籠に戻す。

 ハムスターさんは寝返りを打ったのかこっちにお尻を向けている。

 ……可愛い。


 じっと見ているとシエラちゃんがシエルさんに顔を向ける。


「……お母様。」

「何かしら。」

「この子を使い魔にしたいです。いけないですか?」


 シエラちゃんは少し不安そうな顔をしながら首を傾げる。


「……そうね。“初めて”には丁度良いかも知れないわね。構わないわ。」

「! ありがとうございます!」

「……本当に。」


 シエルさんは飛び付いてきたシエラちゃんを抱きとめながら声を漏らす。


 !!

 私はシエルさんの声にどきっとする。

 一瞬だけ、お母さんの姿が目に浮かんだ。


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