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第40話 王女様と建物の中の街

「アルフェ。開けて良いかの?」

「うん。」


 私が頷くとエルは私と繋いでいた手を離してワッフルが入った袋をがさごそする。


 ……歩きながらだと危ないよ。エル。

 少しはらはらしながら見ているとエルがぱっと袋を開けて私とシエラちゃんに見せてくれる。


「……うむ。かなり量があるのう。」


 ……確かに5個どころじゃないかも。

 見るとほんのりと湯気が立っているワッフルが袋にぎっしりと詰まっている。


「2,30個はあるわね。悪い事をしたわ。……これは何かしら?」


 エルが持っている袋を覗き込んでいたミィルさんは袋の外に張り付いていた紙をぺりっと剥がす。

 さっと紙に目を通したミィルさんは溜息をつく。


「……はぁ。私への“お礼”とアルフェ様達へのおまけだそうよ。」


 ミィルさんは紙を仕舞うとワッフルひとつ、袋からひょいっと取り出して口に入れる。

 すると、エルは立ち止まると目を丸くしてミィルさんの口元を見る。


 ……エル。そんなに驚かなくても良いのに。


「……特に“何も”無さそうね。…………? エル様どうしたのかしら?」


 ミィルさんはもぐもぐと口を動かしながら、唖然としているエルを見て首を捻る。


「…………いや。何でも無いのじゃ。食べても良いかの?」


 エルは首を横に振って顔を元に戻すとミィルさんの方を見る。

 ミィルさんは口を動かしてワッフルを飲み込むと、エルの方に顔を向ける。


「ええ構わないわよ。中々美味しいわ。元が“高い”だけあるわね。……シエルとサクラもどうかしら?」


 エルに頷いたミィルさんは私達の後ろを見遣る。

 私も後ろを向くとシエルさんがシエラちゃんの後ろに立ちながらワッフルを2つ“浮かべて”手元に持ってくる。


「そうね。頂くわ。……はい。シエラ。」

「お母様。良いのですか?」

「ええ。」

「! ありがとうございます! お母様!」


 シエルさんからワッフルを受け取ったシエラちゃんはにこにこしながらワッフルを頬張る。


 ……

 私も食べよっと。

 隣を見るとエルもワッフルをもぐもぐと食べている。

 エルの左手にある袋からワッフルを取り出すとぱくっと口に入れる。


 ……!

 すごいふわふわ!! しかも焼きたて!

 私ははふはふしながらワッフルを食べてゆく。

 ……うーん。ワッフルだけでも美味しいけど、蜂蜜やジャムを掛けたくなる。どのジャムが合いそうかな?


 そんな事を考えているとミィルさんの声が聞こえてくる。


「……サクラも食べなさいよ。」

「良いんですか?」

「こんなにあるんだから、むしろ食べて貰わないと困るわ。」

「はい。わかりました。……エルお嬢様。ちょっと失礼します。」

「うむ。」


 見るとエルの後ろから手をのばしているサクラさんと目が合う。


「……美味しいですか?」

「うん。」


 私が笑顔で頷くとサクラさんもにっこりとしてワッフルを手に取る。


「……でも、量が多いですね。」

「あら? サクラ。貴女、“手元”の方見てなかったかしら?」

「……ただのワッフルでしたから、数は数えて無かったです。なんか多いなって思いましたけど。」

「確かに、そんな感じになるわよね。」


 見上げるとミィルさんとサクラさんがうんうんと頷いている。


 ……ちょっと、怖いよ。ミィルさんとサクラさん。

 私は目を逸らしてワッフルを食べるのに専念する。

 …………うん。美味しい。


 ……

 少しするとミィルさんの声が聞こえてくる。


「……っと、こんな所で立ち止まってても仕方ないわ。移動しましょう。」


 その言葉を聞いた私は急いで残りのワッフルを口に押し込んで顔を上げる。


「そんなに急がんで良いじゃろ。」

「アーちゃん。体に悪いです。」


 呆れた感じのエルの声と心配そうなシエラちゃんの声が聞こえてくる。


 ……どうしよう。

 ワッフルで口が一杯だったのでとりあえず頷いとく。


「……大丈夫? 姫様。飲み物でも用意するわよ?」


 後ろを振り向くとシエルさんが少し心配そうな顔をしている。


 ……口一杯に頬張っているだけだよ。喉に詰まっている訳じゃ無いよ。

 私は口の中のワッフルを飲み込むと口を開く。


「……大丈夫だよ。シエルさん。」

「そう。」


 シエルさんは頷くとほっとした顔をする。

 顔を前に戻すとミィルさんがこっちを見ている。


「大丈夫かしら?」

「うん。」


 私が頷くとミィルさんは前を向いて歩きだす。


 みんなで通路の移動を再開する。

 さっきと同じ並びだけどみんな手にワッフルを持っている。


 ……

 時々、屋台で買い物したりお店に入ったりする人を見るけどやっぱりあまり居ないね。

 たまにワッフルを口に入れながら、きょろきょろと周りを見ていると後ろからシエルさんの声が聞こえてくる。


「……そう言えば、ミィル。“お礼”って何の事かしら?」

「ああ、言ってたでしょ“チンピラ”って。……確か、領軍将校で貴族出身のボンボンがギルド員にちょっかい掛けてて、通り掛かった私も“絡まれた”から“ちょっと”痛めつけてあげただけよ。」

「……聞いたことがないわね。いつの話かしら?」

「ちょうど5年前の、この時期ね。……確かシエルはシエラがお腹に居た筈よ。少しお腹が大きくなってた貴女の姿覚えてるわ。」

「……確か姫様が“産まれた”直後に貴女がやって来た頃の事かしら?」


 次の瞬間、ミィルさんがいきなり立ち止まって後ろにばっと振り向く。

 ……ミィルさんがすごく真剣な顔で私を見てくる。


「アルフェ様。貴女、この時期が誕生日なのかしら?」

「……うん。今年は“月が重なる”日が誕生日だったよ。」

「…………なんじゃと。」


 隣を見るとエルが目を見開いて私をじっと見ている。


 ……えっ。なんなの?

 少しあわあわしてるとミィルさんが前を向いて歩き始める。


「シエル。エル様。後で時間を作って頂戴。」

「……分かったわ。」

「じゃな。」


 …………本当になんだろう?

 私は顔を横に向けると無言で歩き始めたエルに声を掛ける。


「……エル?」

「“わしら”の話じゃ。アルフェは心配せんで良いのじゃ。」


 ……ドラゴンさん達のお話って事? よく分からないけどエルは教えてくれなさそう。

 私の誕生日について聞いて驚いていたから私にも関係ありそうだけど……。

 納得してないけどとりあえず頷いておく。


 私を横目で見ていたエルは目を前に向けてミィルさんに声を掛ける。


「……ミィル。礼で思い出したが“あれら”はどうなったのじゃ?」


 ミィルさんはすごく嫌そうな顔でエルを振り返る。


「あんな“物騒な物”持ち歩ける訳ないでしょ? 騎士団の本部に置いてるわ。」

「なんじゃ。“剣と盾”なんぞ使ってこそじゃろ。」


 私はエルの腕をツンツンする。


「エル。何の事?」

「前にミィルに街を案内して貰ったと言ったじゃろ? その時にわしが剣を“作って”のう。連れは盾を作ったのじゃが。……それらをミィルに礼として渡したのじゃ。」


 へー。そんな事があったんだ。

 私の服と同じで鱗から作ったのかな? 確かに武器なんて物騒だよね。


 私は頷きながら、まだ手に残っていたワッフルを頬張る。


「……はぁ。そう言えば、ワッフルあまり減ってないわね。焼きたてが勿体無いわね。幾つか“保存の魔法”を掛けておくわ。」


 ミィルさんは袋の下の方のワッフルにさっと魔法を掛ける。


「……後でお茶受けにしましょう。ちょうど良いわ。ここなら“アイスクリーム”も手に入るわよ?」


 !!

 熱々ワッフルにアイスクリーム!


 私はすごく美味しそうな組み合わせに飛び上がる。


「アーちゃん! すごく美味しそうです!」

「アイスクリームとはアルフェが言っておったのう。甘くてふわふわして冷たい奴じゃ!」


 シエラちゃんとエルは私の腕を掴みながらすごく騒いでいる。


「ミィル様。ここってアイスクリームも売っているのですか?」

「そうよ。ギルド員って結構高給取りが多いからかなり高めの値段でも普通に売れるらしいわ。」

「……アイスクリームなんて、家の料理長に頼めばすぐに出てくるわよ?」

「シエルの家は例外よ。…………と着いたわ。」


 ミィルさんは少し大きめの“お店”の前に立ち止まる。

 見上げるとお店の看板が目に入る。


 “冒険と探検の為の魔法用具店”

 “武力ギルド御用達!”


 私は目線を下げてお店の扉を眺める。

 少し胸をドキドキとさせながら。


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