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第39話 王女様と建物の中の屋台

「……この時間はあまり人がいないわね。」


 ミィルさんは扉の外に目を走らせる。

 扉の外は殆ど“街”みたいになっている。

 見ると“建物の中”のはずなのに家みたいのが建っている。

 扉の先からは道が延びていて、その道沿いにいくつか屋台が出ている。


 それに明るい。

 見た目だけならほとんど薬師ギルドへ行く時通った通りと変わらない。


 ……人はあまり居ないけど。ただ、屋台はそこそこ開いている。

 上を見上げみる。

 すると、天井全体が光っている。……天井も結構高いね。


 ミィルさんの後ろから扉の外の様子を観察しているとミィルさんが後ろに振り返る。


「……えっと、どうしようかしら? エル様は屋台が見たいのよね?」

「そうじゃな。」


 エルが頷くとミィルさんはシエルさんとサクラさんを見る。


「……という事よ。多分、何も無いと思うけど“もしもの時”は頼んだわよ。」

「ええ。」

「分かりました。」


 ……薬師ギルドに行った時みたいな事にはなって欲しく無いけど。大丈夫かな?


 シエルさんとサクラさんが頷くとミィルさんは前を見て扉の外へ歩き出す。


「……付いて来て頂戴。」


 私達もミィルさんの後を追って外に出る。


 ……やっぱり、少し変な感じがする。

 通路の脇の家……お店屋さんかな? 一応看板が掲げられている。とか、片付けられた屋台を見ていると後ろから声が聞こえて来る。


「……ミィル様。不思議な所です。お家の中にお家があります。」


 ……シエラちゃんの声だ。

 私も気になっていたので、ミィルさんに声を掛ける。


「ミィルさん。私も気になる。」


 ミィルさんは立ち止まって振り返る。

 少し上を見た後、また前を向いて歩き出しながら口を開く。


「……そうね。ここって場所を分けて貸し出してるらしいのよ。それで、天井が高いからって二階建ての建物を建てたバカが居て、みんな真似して好き勝手にしてたらこんな事になったらしいわ。二階建ては流石に危ないから取り壊したけど。……屋台も最初はこっちに無断でやり始めたのが居たのよ。今は場所代を取ってるけど。」


 頷きながらミィルさんの話を聞いているとエルが話し掛けてくる。


「……ふむ。昔、似たような場所に行った事があるのう。」

「へー。どんな所?」

「…………どうじゃったかの? もう人は住んでおらんかったが、空が見えん場所に家が並ん……!!」


 突然、エルが立ち止まって私の手を引っ張る。


「! どうしたの? エル。」

「あれの匂いじゃ!」


 エルが指差す方向を剥くと甘い匂いが漂ってくる。


 ……何の屋台だろう?

 屋台の方をじっと見ているとミィルさんの声が聞こえてくる。


「……エル様はあの屋台が見たいのかしら?」


 振り向くとミィルさんは私達が見ている屋台の方に顔を向けている。

 エルはちらっとミィルさんを見ると頷く。


「うむ。」

「なら、行きましょう。……みんな良いかしら?」


 みんな頷いたのを確認するとミィルさんは私達を先導して屋台に向かう。


 ……ワッフルだ。

 近付いて見ると蜂さんの巣みたいな格子が入ったお菓子が並んでいる。


 じっとお菓子を眺めているとミィルさんが店番をしているおばさんに声を掛ける。


「ちょっと良いかしら?」


 すると、ずっと頭を下げていたおばさんが顔をあげる。


「いらっしゃい。……ありゃ? もしかしてミィル様ですか?」

「あら? 何処かで会ったかしら?」


 ……おばさん。かなり驚いた顔してる。

 ミィルさんに聞かれたおばさんは軽く頭を横に振ると気を取り直した様に口を開く。


「いいえ。一方的に知ってるだけだね。……数年前だったかねぇ? ここでチンピラを取り押さえてたのを見たんですよ。後でギルドのグランドマスターだって聞いて驚いたよ。」


 ……ミィルさんが少し警戒してたのが分かったかも。

 ミィルさんを見ると少し顔を顰めている。


「……そんな事もあったわね。まぁ良いわ。……アルフェ様。来て頂戴。」


 ? 何だろう?

 じっと屋台を眺めていたエルの手を引っ張って、ミィルさんの横まで一緒に連れていく。

 私達が来たのを確認したミィルさんがおばさんに声を掛ける。


「1つ幾らかしら?」

1と半(1.5)“クレッセン”だよ。5個で丁度1“ルビス”だね。」

「5個だと少し負けてくれるのね。……アルフェ様。これが1ルビスよ。」


 ミィルさんは小さな銀貨を私達の目の前に見せてくる。


 ……サクラさんがリセラさんに渡していたお金と同じだ。後、ミィルさんに貰ったお金の中にもあったと思う。

 私が頷いたのを見るとミィルさんはそのお金をおばさんに手渡す。


「はい。5つ頂くわ。」

「はいよ。あと少しで焼きたてが出来るよ。待っていて下さいな。…………っと、これがお釣りだよ。」


 おばさんは私達の目の前の机に大きな銅貨と小さな銅貨を並べる。

 ミィルさんは首を傾げる。


「あら?」

「こんな“詰まった”銀貨を受け取ったらお釣りぐらい出さないと怒られるよ。……出来るまでそこの机を使って構わないからね。」

「そう。済まないわね。」


 ミィルさんは軽くおばさんに頷くと台の上に色んなお金を並べ始める。

 おばさん。屋台でワッフル焼いてたんだ。おばさんの手元が見えなかったから分からなかった。甘い匂いが強くなるとエルは首を伸ばして屋台の方を見ている。

 そんなエルに後ろから声が掛かる。


「……エルお嬢様。抱き上げましょうか?」


 見るとサクラさんがしゃがみ込んでエルと目線を合わせる。


「……良いじゃろう。」

「はい。」


 私と手を離したエルはサクラさんに抱き上げられてしまう。

 見ているとエルはおばさんの手元をじっと覗いているみたい。


「……お金って沢山あるのですね。」


 振り向くとシエラちゃんがシエルさんと一緒に私の後ろに近付いてくる。


「だね。」


 私がシエラちゃんに頷くとミィルさんの声が聞こえてくる。


「……こんなもんかしらね。」

「ミィル。こんな所で広げるなんて危なくないかしら?」

「別に平気よ。……アルフェ様。良いかしら?」

「うん。」


 ミィルさんは最初に、一番大きな銀貨を指差す。


「まず。これがアーヴェン正大銀貨。単位は“ルビス”で10ね。他の所の同じ大きさの銀貨は全部価値も同じだから覚えておくと良いわ。」


 そして、順に色んなお金を指差してゆく。


「さっき出したこれがアーヴェン正銀貨。で、こっちの少し大きめ銀貨がハイゲンの銀貨。だいたい、5ルビスぐらいね。……次にお釣りで貰ったこの大きな銅貨はハイゲンの大銅貨で1クレッセン。小さな方が半クレッセン。1ルビスで大体7クレッセンね。」


 ミィルさんは最後に一番端に置いた少し大きな金貨を指差す。

 ……執務室で宿に1週間は泊まれるって言っていた物だね。


「これはさっきも部屋で説明したわね? 単位はそのまま“クラウン”よ。大体100ルビスって所かしら? 地域によって50から200くらいまで差があるけど。」


 ミィルさんは金貨に描かれた“王冠”を指差しながら説明する。

 ……うーん。ルビスとクレッセンも何か理由があるのかな?


「ミィルさん。“ルビス”と“クレッセン”ってどこから来たの?」


 すると、シエラちゃんが私のローブをつんつんと引っ張っる。


「……アーちゃん。クレッセンは銅山の名前だったと思います。」

「そうね。シエラの言う通りよ。ルビスも銀山の名前が元だったはずよ。」


 ミィルさんが頷きながら言葉を続ける。

 ……へー。やっぱり名前の由来とかあるんだ。

 頷いていると屋台の方から声が聞こえてくる。


「……出来たよ。お嬢様方。もう少し待っておくれ。すぐに詰めるからね。」

「机を使わせてくれて感謝するわ。」


 ミィルさんがお金を片付けながらおばさんに顔を向ける。


「どうせ、この時間は客なんてほとんど来ないですよ。…………持つかい?」


 ……エル。まだ、サクラさんに抱っこして貰ってたんだ。

 抱き上げられているエルがじっとワッフルが入った袋を眺めていたので、おばさんがエルの方に袋を軽く差し出す。


「……サクラ。下ろすのじゃ。」

「はい。…………大丈夫でしたか?」

「うむ。サクラ。感謝するのじゃ。」


 おばさんは地面に降りたエルに袋を差し出す。


「はい。お嬢様。落とさないようにするんだよ。」

「分かっておる。」


 エルはおばさんから袋を受け取ると私達のいる所に駆けてくる。


 ……大丈夫かな。サクラさんが少し不安そうにエルを見ている。


「……アルフェどうしたんじゃ?」

「何でもないよ。手、繋ご?」

「うむ。」


 早く手を繋がないと転んでダメにしそう。


「……ミィル様。“少し”サービスしたよ。」

「そう。ありがとう。……次の場所に移動するわよ?」


 ミィルさんはおばさんと少し話した後、私達に振り返る。


 シエルさんはミィルさんに軽く頷く。


「そうね。……シエラ?」

「お母様。アーちゃんと手を繋いで良いですか?」


 シエラちゃんはチラチラとエルが持っている袋を見ている。

 ……シエラちゃんも気になるんだね。


「構わないわよ。」

「! ありがとうございます。お母様!…………アーちゃん。良いですか?」

「うん。良いよ。」

「はい!」


 私は左手をシエラちゃんに差し出す。


 私達が手を繋いだのを確認すると、みんな、屋台を離れて歩き始めたんだ。


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