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第36話 王女様と魔法の図書館 Ⅲ

「……帰って来るわね。」


 エルとシエラちゃんと一緒にシエルさんの読み聞かせを聞いていた私は声がした方に顔を向ける。


 通路の手すりに寄りかかって本を読んでいたミィルさんも本をぱたんと閉じると軽く振り向く。


 ……あっ! サクラさんだ。

 ミィルさんの目線を辿って目を凝らして見るとサクラさんとルーラさんが通路を伝って戻って来ている。


「……ここまでね。片付けましょう。……シエラはこの本を戻して来なさい。」

「はい。お母様。」


 私の隣に座っていたシエラちゃんは立ち上がる。

 ちょっと大きめの絵本をシエルさんから一冊、受け通って抱きかかえると本棚にとことこと歩いていく。


 ……

 私はシエラちゃんから目を離すとエルに話し掛ける。


「エル。“杖”を戻すから立ち上がって。」

「うむ。」


 エルが立ち上がったのを確認すると丸太みたいに大きくなっている杖に触れて念じる。

 ……小さくなれ。

 すると、すぐにしゅるしゅると小さくなっていく。


 大体、さっきと同じくらいの大きさに戻すと持ち上げて振り回してみる。

 ……ちょうど良いかな。


「アルフェ。」

「……ごめん。エル。」


 ……ここはちょっと狭いもんね。ちょっと危なかったかも。

 エルの方を向くと私をじーと見ている。


 ……早く杖を仕舞おっと。

 私はローブの下に杖を隠しながらシエルさんを見る。シエルさんも椅子を“鱗”に戻している。見た目は髪だけど。


 多分シエルさん。しょっちゅう同じ様な事しているんだと思う。シエルさんの読み聞かせを聞きたいってエルが言ったからみんなで座れる様に杖を変形させた時もシエラちゃんはそんなに驚いてなかった。

 ……“素材”が良くないとあんな事は出来ないんだけどね。


 シエルさんを見ていると隣から声が聞こえてくる。


「アルフェ。わしらも手伝うのじゃ。」

「うん。」


 私は頷き返すとエルと一緒にシエルさんに駆け寄る。


「シエル。その本はわしとアルフェが戻しておくぞ。」

「……良いのかしら?」

「うん。」


 シエルさんに頷くとシエルさんは持っている本を2つに分けて私とエルに手渡してくる。


「……これをお願いするわ。」

「うむ。」

「うん。」


 本を受け取った私とエルは頷くと本棚に駆け寄る。


 すると、本を戻し終わっているシエラちゃんが近づいて来る。


「……アーちゃん。その本はここだった思います。」

「……本当だ。ありがとう。シエラちゃん。」

「いえ。……エルちゃん。その本はこっちですよ?」

「うむ。」


 私とエルがシエラちゃんと一緒に元の場所に戻し終わって振り向くと丁度サクラさんの頭が階段の方から見えてきている。


「……あっ。みなさん! ……ルーラ様。着いたようです。」


 サクラさんは私たちに気付くとぺこりと頭を下げて後ろを見る。

 ルーラさんの姿もサクラさんの後ろからすぐに現れる。


「その様ですね。……グランドマスター。大丈夫でしたか?」

「平気よ。今何時くらいかしら?」

「……3時過ぎですね。」

「一番暑い時間は過ぎてるわね。……移動しても良いかしら?」


 ミィルさんは懐中時計を開いているルーラさんに頷くと私達を見る。


「ええ。姫様とエル様も……シエラも良いわよね。」

「うん。」

「構わん。」

「はい! お母様!」


 ミィルさんを見た後、私達に顔を向けたシエルさんにみんなで頷く。


 ……シエルさん。シエラちゃんがシエルさんの事をじっと見ていたからシエラちゃんが聞かれたがっているって気づいたみたい。

 私達を見ていたミィルさんはこくりと頷くと声を出す。


「分かったわ。付いてきて頂戴。」


 ミィルさんは階段を下り始める。

 そして、私もエルと手を繋いで後を追い掛ける。


 ……他の所も見たかったなぁ。

 壁の本棚を眺めながら色々考えているとすぐに下の階に着く。


 ずらっと並んだ本棚には、紙の束がそのまま置かれている場所が所々ある。

 ……まだ、製本されてない物かな?

 本棚の間をみんな無言で進んでいく。隣のエルも何か考え事している。


 ……?

 …………私達の気配を感じた職員さんかな? 近くにあったはずの人の気配がすぐに遠ざかってゆく。

 たぶん、私達と鉢合わせたくないんだね。


 そして、少しすると大きな扉の前までやってくる。

 結局、誰とも会わなかった。

 上から見た時は何人か居たのに。


 ミィルさんが扉を押し開いて外に出る。

 廊下の先にはさっきのエレベーターの扉が見えている。


 ミィルさんは廊下を歩きながらルーラさんに顔を向ける。


「……ルーラ。」

「はい。グランドマスター。」

「夕方に大神殿に向かう馬車はどうなってるのかしら?」

「先程、下に行った時に頼める者がいませんでしたので、私が直接手配してまいります。」

「……という事は、買い物には付いて来ない訳ね。」

「はい。申し訳ございません。」

「良いのよ。突然頼んだ事なんだから。寧ろ、雑用みたいな事させて申し訳ないわ。…………みんな先に乗って頂戴。」


 ミィルさんはエレベーターまで来ると、がらがらと扉を開ける。


 ……そう言えば、この“エレベーター”って多分、魔導具だよね?

 何の魔法を使ってるんだろう?

 みんなが乗り込んだ後、魔石を触っているミィルさんを見てみる。


「……アルフェ様?」


 あっ、気付かれた。……すぐに下に着くから今はやめといた方が良いよね。

 私は首を傾げながら見ているミィルさんに首を横に振る。


「ミィルさん。後で良いよ?」

「……そう。」


 少しの間、みんな無言になる。


 エレベーターの動きが止まると扉を開けながら私とエルとシエラちゃんを見る。


「外に出るからみんなフードを下ろしておきなさい。……ルーラ頼んだわよ。」

「了解しました。グランドマスター。」


 ミィルさんに顔を向けられたルーラさんは足早にさっき入って来た受付の方向に去ってゆく。


「……私達も移動しましょう。」


 ルーラさんの後ろ姿を見送ったミィルさんはルーラさんとは違う通路を歩き始める。


 ……私達も移動しないと。

 自分とエルのフードを降ろすとミィルさんの後をついて行く。

 少しするとミィルさんが歩きながら話し掛けてくる。


「……そう言えば、なんでみんな無口なのかしら?」


 ……確かにね。エルも考え事をしているみたい。手を繋いでいる私が引っ張って歩いている。

 後ろを見るとサクラさんは上の空だし、シエラちゃんもローブで顔は隠れているけどエルと似たような感じでシエルさんに引っ張られている。


「ミィル。貴女もそうじゃない。」

「……シエルが“金色の竜と囚われの姫君”なんかを読むからよ。」


 ?

 私は前を向くとミィルさんの後ろ姿を見る。

 ……なんで、ミィルさんが“金色の竜と囚われの姫君”の事を気にするんだろう?


「なるほどね。……私も“色々”と思い出す事があったのよ。ええ。」

「……お母様は何を思い出されたのですか?」

「“悪い王様”の事よ。」


 ……ぞわぞわ。

 後ろを振り向くと“笑顔”でシエラちゃんの頭を撫でているシエルさんが居た。シエラちゃんは嬉しそうにしているけど。


 …………見なかった事にしよっと。

 前を見るとぎょっとした顔で立ち止まって後ろを振り向いているミィルさんと目があった。


 ……ちょうど良いかな。

 私はミィルさんに話し掛ける。


「ミィルさん。」


 するとミィルさんは軽く頭を振って私を見る。


「何かしら?」

「あの“エレベーター”って何の魔法を使ってるの?」

「?……昇降機の事かしら? だったら単なる“浮遊の魔法”よ。」


 へー、結構単純なんだ。“例の記憶”の“エレベーター”って重りやロープが必要だったからもっと複雑だと思ってた。


 ミィルさんは前を向いて歩き出しながら話を続ける。


「ただ、消費魔力がかなり多いわ。ここの職員は大抵使えるけど。それに耐久度をあげると“材料費”が馬鹿にならなくて、ハイゲンだと魔術塔以外だとここにしか無いわ。教皇領だと縦横に動く物もあるけど。…………少し下がって頂戴。」


 ミィルさんは裏口みたいな小さな扉の取っ手を引いて外に出る。

 一緒に外に出ると視界が一瞬、白一色になる。

 ……眩しい。


 ……

 …………!

 えっ! “蒸気機関車”!?


 小さな黒い煙突から時々白煙を上げて鉄の道の上を走っている。

 目が外の太陽に慣れて外の景色が見えるようになると少し遠くでそんな光景が目に映った。


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