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第33話 王女様とドラゴンのギルド Ⅲ

「……良い匂いね。」


 シエルさんはカップから上る湯気に顔をくぐらせるとふーと息を吐いて口を付ける。


 私達は食事をした後、帰ってきたサクラさんがハーブティを配ってくれてそれを飲んでいる。

 ……食事はやっぱり重かった。

 私以外はみんなぱくぱく食べていたけど。

 ちなみに私とエルとシエラちゃんのハーブティはシエルさん達のとは違って、いくつかフルーツの匂いもしている。


 ……ほんのりと甘くてお腹が落ち着く。

 隣でカップを傾けているエルに声を掛ける。


「エル。おいしいね。」

「……うむ。しかし、わしはもう少し甘い方が好きじゃな。」


 エルは少し顔をしかめながらハーブティを飲んでいる。

 ……充分甘いと思うよ。

 ……少しお薬みたいな味がしてるからかな?


 カップに何度か口を付けているとミィルさんの声が聞こえてくる。


「……にしても、シエラは案外普通に食事してたわね。」


 隣を見るとミィルさんがカップをテーブルにおいてシエラちゃんに視線を向けた後、シエルさんを見る。


「そうね。……シエラ。なんでかしら?」

「お母様。お祭りでは神殿でみんな一緒にお食事をします。……お母様はいつも来られないので寂しいです。」


 シエラちゃんはシエルさんにぎゅっと抱きついて顔を隠す。


 ……どう言う事?

 シエルさんをじっと見ているとシエルさんはシエラちゃんを撫でながら少し苦笑いする。


「……シエラが言ってるのは魔女教の春分と秋分のお祭りの事よ。姫様。」


 ……あっ!

 シエルさんいつもその日はお母さんに会いに来てたもんね。眷属さん達も集まってた。

 大切な日だもんね。春分と秋分。

 ……実を言うとなんで集まってるのかはちゃんと聞いたことがないんだけどね。

 後で聞こっと。


 シエルさんに向かって頷いていると、ミィルさんの声が割って入ってくる。


「……神殿で思い出したけど、大神殿は行ったのかしら? 行くって言ってたわよね?」


 見るとミィルさんは私達を見回している。


「時間が無かったからまだよ。……今からなら“日の入り”の祭事まで待つべきかしらね。」

「……シエル。その時は私が移動手段を手配するわ。さっきみたいな怪しげな服装で動かないで頂戴。……アルフェ様、エル様、シエラは別よ? 領軍の話を聞く機会があったのだけど、街で何人かの子供が行方不明になってるそうよ。……まぁ、“貴女達”なら平気でしょうけど面倒は避けた方が良いわ。」


 ミィルさんはシエルさんから目を離すと私とエル、シエラちゃんを順に見る。

 ……あー。やっぱり居るんだ人攫い。

 大丈夫かな? エル。


 隣を見るとエルが少し不機嫌そうに、ミィルさんを見ている。


「……ミィル。このわしが人に攫われると思っとるのか?」


 ミィルさんはすーとエルから顔を背けるとカップに口を付ける。

 ……ミィルさん。私も分かるよ。エルお菓子あげるって言われたら知らない人でも付いて行きそうだもん。

 エルが私の事を額にシワを寄せて見て来たので、私もカップに口を付ける。

 ……おいしいなぁ。


 そんな私達を見ていたサクラさんが声を出す。


「夕暮れまでどうしましょう?」

「午後はギルドの敷地内の商店を案内する気だったけど、もう少し日が落ちてからが良いわね。……この文官棟でも見て回るかしら? あっちの扉の向こうには小さいけど礼拝室や祭壇があるわ。屋上も登れるわよ?」


 ミィルさんは執務机の窓の外を見た後、本棚が並んでいる反対側の扉を指差す。

 すると、今まで黙って私達の様子を伺っていたルーラさんが声を出す。


「……でしたら、図書館は如何でしょうか? 今の時間、屋上は暑いですし、礼拝室も大聖堂の方が立派です。それに、図書館には民話を基にした絵本もあります。お嬢様方には丁度良いと思います。」

「……それもそうね。ティータイムが終わったら図書館に向かうで良いかしら?」


 ミィルさんにみんな頷く。


 ……でも、どんな本があるんだろう?

 私はもう中身が無くなったカップを見ながら考える。

 エルの耳元に口を寄せる。


「……エル。魔導書とかあるかな?」

「さてのう。……アルフェが読める物はあまり無いかも知れんのう。」


 エルはゆっくりとカップを傾ける。


 ……ふん!

 私は頰を膨らますとカップをサクラさんに差し出す。


「……サクラさん。飲み終わったから返すね。」

「はい。お代わりは要りますか?」


 私は首を横に振って体をぷしゅーとソファーに沈みこませる。

 ……確かに今の私は基礎の部分しか出来てないけど。


 カップを空にしたエルは機嫌が悪くなった私を見る。


「……そんなに怒らんで良いじゃろ。」


 エルがしゅんとなって肩を落とす。

 ……はぁ。

 私は姿勢を戻すとエルの頭を撫でる。


「……なんじゃ?」

「さっきのお返し。」

「ふん。」


 エルは顔を向こうに向けるけど、やめろとは言ってこない。

 ……まぁ、良いかな。


 しばらく、エルの頭を撫でているとミィルさんの声が聞こえてくる。


「……そろそろ移動しましょう。」


 ミィルさんはカップをテーブルに置くとソファから立ち上がる。


「サクラ様。それは私が片付けておきます。」

「本当ですか? ありがとうございます。ルーラ様。」

「いえ。お客様であるサクラ様を差し置いて食事をしましたのでこれぐらいはさせて下さい。……グランドマスター。失礼します。」

「ええ。」


 ルーラさんはお茶のセットをワゴンに片付けるとミィルさんに礼をして部屋を出て行く。


 シエルさんはサクラさんの方を見ると声を掛ける。


「……そう言えば、サクラは食事をしたのかしら?」

「はい。下で頂きました。」

「そう。なら良いわ。……シエラ?」

「はい。お母様。」


 シエルさんはソファから立ち上がるとローブを着て、シエラちゃんにも着せている。


 全部終わったら、シエルさんはシエラちゃんと手を繋ぐとソファに座っている私達を見る。


「エル。」

「うむ。」


 私もエルと手を繋いで立ち上がるとシエルさんとシエラちゃんの後を追う。

 そして、いつもみたいに最後にサクラさんが付いてくる。


「図書館はこの下のフロアーよ。階段を使うわ。付いて来て。」


 みんなの準備が出来たのを確認したミィルさんはさっきルーラさんが外に出た扉じゃなくて、本棚の反対側にある扉を開ける。


 扉の中に入ると右側に絵画が飾られていて左側にいくつか扉がある細い廊下と下に向かう螺旋階段が見える。天井の一部がステンドグラスになっていて結構明るい。


「……あの一番奥の扉が礼拝室ね。……一応、“グランドマスター”の長期滞在を想定して寝室や風呂なんかもあるわ。最低限ではあるけど。」


 ミィルさんは廊下の奥を指差した後、階段を下り始める。


 ……ここにも絵が飾られてるよ。

 神話の話かな? ここでも竜王様のお話が多い気がする。ただ、大聖堂みたいに竜王様ばかりじゃないみたいだけど。


 ゆっくりと階段を下りながら絵を鑑賞していると下の方に大きな扉が見えてくる。

 ……さっきの紋章が入った大きな扉に似ている気がする。


 階段を下りるとミィルさんが扉の前に立ってさっきみたいに手を横に払う。

 ぎぎぎと扉が外側に開いていく。


「……一種の結界なのよね。これ。……さてと着いたわ。」


 ミィルさんと一緒に扉の外に出ると二階分丸々使った大きな空間に出る。

 エルと一緒に手すりに駆け寄って下を覗くとずらっと本棚が並んでいて何人かの人達が難しい顔をしながら本を手に取ってパラパラとめくっている。

 横を見ると壁一面に本がずらっと並んでいて、何本も通路と階段が壁に引っ付いている。

 ……へー。本の量だと家の図書室よりは多いかな?


 じっと周りを見ていると何人かこちらに気付いて目を丸くしている。


「アーちゃん。手を振ってみましょう!」


 いつのまにか隣に来ていたシエラちゃんが言うので一緒に手を振ってみると、凄い勢いで頭を深く下げられてしまう。

 ……失敗したかな?


「……ここから出てくるのは私かその関係者のみよ。流石にみんな礼ぐらいはするわ。」


 後ろから声が聞こえて振り返るとミィルさんが肩を竦めている。


 その後ろを見ると出てきた扉が完全に閉まって、さっと紋章が現れる。

 ……最初は気づかなかったけどこれってただの扉じゃないよね?

 ミィルさんが言ってた通り結界の一種。……家の周りにいつも張ってる“聖域”結界に似てる。……張ってるって言っても魔力を注いで“維持”してるだけなんだけどね。


 扉をじっと見ているとシエルさんが私達に近付いてくる。


「そろそろ。下に降りた方が良いわ。……本を探す時間が無くなるわよ?」


 ……!!

 そうだ! 本を読みにきたんだ!


「そうね、シエル。……みんなこっちよ。」


 ミィルさんは頷くと私達のいる踊り場の脇に向かう。

 急いで後を追うと下に向かう階段が付いている。


「……少し急だから気を付けて頂戴。」


 ミィルさんは階段を下り始める。


「エル。ちゃんと手を握って。私は手すりを持つから。」

「わかっておる。」


 私とエルも手を握ってミィルさんの後を追って足を踏み出す。


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