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第31話 王女様とドラゴンのギルド Ⅰ

「……着いたわ。」


 シエルさんの視線の先を見ると大きな看板が門柱に掲げられている。


 “武力ギルド白銀竜アーヴェン王国本部ハイゲン西部総支局”

 “白銀竜騎士団アーヴェン西部支部”


 …………騎士団?

 まぁ、良いや。後で聞こっと。


 そう言えば。

 サクラさんの話に出て来た“聖獅子騎士団”や“暗殺教団”も気になるけど。

 さっきはサクラさんの魔女疑惑で頭が一杯だったから聞けなかった。

 ……本当、“教会”ってどう言う所なんだろう?


 そんな事を考えながら看板が掲げられた門の先を見る。

 広い敷地の中に幾つか建物が建っている。どれもかなり大きい。

 それに大きな広場があって全体の広さが分かり易い。

 ……多分、さっきの薬師ギルドと医師ギルドの敷地を合わせた広さよりも大きいと思う。


「……ここの通りは余り人が居ないのう。」


 隣でエルが門の周りの通りを見ながら呟く。


 ……確かに。

 さっき通って来た通りよりは人は居るけど。

 あの人通りが少ない通りは大聖堂通りって言うらしい。大聖堂に行く時以外に使わないからみんなそう言う風に呼ぶようになったってマーテルさんが教えてくれた。

 その大聖堂通りに沿ってお城の周りをほぼ半周した私達は衛兵さんに門を通して貰って、大通りに沿ってここまでやって来た。


 私は目を動かす。


「……でも、“馬車”の通りは結構あるね。」


 大通りの真ん中を見ると“大砲”を乗せた馬車や兵隊さんを満載した馬車が行き交っている。

 そして、目の前でも沢山の荷物を乗せた馬車が門の中に消えて行っている。


「…………貴女達。問題起こしすぎじゃない?」


 !!

 突然声がする。

 声がする方向を見ると赤いドレスを着たミィルさんが門柱に背中を預けて腕を組んでため息を吐いている。


 ……いつ来たの?

 頭を捻っているとシエルさんがミィルさんに顔を向ける。


「……何の事かしら。」


 ミィルさんがもう一度ため息を吐くと私とエルの方を見る。


「……まず、朝に“ドラゴン”の姿が目撃されたわ。」


 ……私とエルは一緒に目を逸らす。


「しかも、とある魔術砲塔の魔石が色を失ったそうよ。……修理した人間によると対飛竜用に組み込んでいた拘束呪術が消し飛んでたそうね。城は目撃談と合わせて“白銀竜”が飛来したと判断して緊急招集をかけたわ。ここの幹部は魔の森の事もあって全員暫く城に缶詰よ。」

「と言うことは、レイアスも居ないのかしら?」

「……レイおじ様は居られないのですか?」


 目線を戻すとシエラちゃんが首を傾げている。


「そうよ。」

「……そうですか。残念です。」


 シエラちゃんが少し肩を落とす。

 ……叔父さんに会えるって喜んでたもんね。


 ミィルさんはシエラちゃんから目を離すと今度はシエルさんとサクラさんを順に見る。


「朝の件はまぁ良いわ。“肝心な所”は見られてなかったから。……問題は! 時計台前の広場の封鎖に“魔法大通り”での騒動! 更に薬師ギルド前でサクラが暴れた事や医師ギルドの建物を薬師ギルド長に案内させて通り抜けた事! 全部聞いてるわよ!」


 ミィルさんが途中から門柱から離れて私達に近付くとサクラさんとシエルさんに怒り始める。


 ……あー、やっぱり目立ってたんだ。

 他の事もそうだけど、医師ギルドでもかなり注目されてたもんね。大聖堂通りで別れた時、マーテルさんは“後で”医師ギルド長には話しておくって言っていたけど。

 意識を戻すとミィルさんはまだ怒っている。


「……それに、大聖堂通りで“魔女の集団”が何人も見てるのだけど、どこの“連中”の事かしらね?」


 ミィルさんはそう言いながら私達をゆっくりと見渡していく。

 ……うーん。でも、私とエルは仕方ないと思うけど。


「……ミィル。姫様とエル様は仕方ないわ。……それにシエラも。」

「別に彼女達について言った訳じゃないわ。……シエル。貴女の事よ!」

「……お主ら。早よう案内せい。腹減ったのじゃ。」


 シエルさんとミィルさんの言い争いにしびれを切らせたエルが、2人を睨みつける。

 ちなみに、サクラさんはさっきから冷や汗をかきながら明後日の方向を向いている。


 ……大丈夫かな?

 ミィルさんは怒っていた顔が一瞬真顔になってすぐに困惑した表情になる。


「……“腹が減った”? 何の事かしら?」

「ミィルが昼を用意してくれるのではないのかのう?」

「そんな事、聞いてないわ。」


 あー、やっぱり。

 隣では、エルが目を丸くしてミィルさんをぽかーんと見ている。

 そんな、エルとミィルさんを見ながらシエルさんが口を開く。


「エル様。ミィル。落ち着いて頂戴。さっきエル様の話を聞いて、ここに“家”の料理長を手配しておいたわ。……それに貴女、目立ってるわよ?」


 はっとしたミィルさんは周りを見る。

 ……確かに目立ってる。

 通行人の人や馬車に乗っている人達がチラチラとこっちを見ている。

 ……何となく、ミィルさんの方を見ている人達の顔が赤い気がする。


「んっんっ。案内するわ。着いて来て。」


 ミィルさんはわざとらしく咳をして早口で言葉を言うと踵を返して早歩きで門の中に消える。


 ……!!

 みんな、はっとすると急いで後をついて行く。


 ミィルさんは門に一番近い建物に入ると足を止めてため息を吐く。


「ふぅー。今から私の執務室に案内するわ。……貴女。シエルの所の料理人が来るらしいから後で私達の所に料理を持ってきて頂戴。」

「グランドマスターに……! シエル様! 了解しました。そのように致します。」

「よろしくね。……さてと、付いてきて頂戴。」


 ミィルさんは建物の入り口に控えていた女の人に声を掛けると建物の奥に入って行く。


 ……ふぅ。

 私とエルは建物に入ったのでフードを外す。

 見るとシエルさんとシエラちゃんも外している。

 ミィルさんの後を追いながら、建物の中を観察する。

 豪華って訳じゃないけど、廊下はきっちりと装飾が付いている。


 ……

 余り人が居ないね。時々、急いだ様子で紙の束を持って移動している人を見るくらい。

 私の目線に気付いたミィルさんが声を掛ける。


「……ここって、“文官棟”……ギルドの書類仕事をしたりする場所や客の対応する場所、……あと図書館なんかもあるわね。そう言う場所が集まってる建物でそもそも余り人が居ないのよ。その上、魔の森の情報が上がったからその対応で人員が出払ってるわ。残ってる人員も過去の資料集めで館内を駆け回ってるわ。」


 ……へー。だから、たまに見る人達は忙しそうにしてるんだ。


「あの。ミィル様。魔の森とはなんの事でしょうか? それに先程の女の人のお仕事は大丈夫なのですか?」

「? あぁー。ルーラの事ね。彼女はレイアスの秘書なんだけど、今は私が借りてるから平気よ。それと魔の森は……と。」


 ミィルさんは柵の様な扉の前で立ち止まる。

 ……魔術塔にあった“エレベーター”と一緒だ。


「魔術塔に行ったのならこれにも乗ったわよね? 執務室は最上階だからこれを使うわ。」


 ミィルさんはエレベーターに乗り込むと魔石に触れながら口を開く。


「……シエラ。魔の森については後で貴女の母親に聞きなさい。……シエルが話した方がいいでしょう。」


 エレベーターが動き出すとミィルさんは私とシエルさんを順に見る。

 ……?

 どう言う事だろう? 何で魔の森について教えてあげないの?

 私が微妙な顔をして首を捻っているとエルが耳元で囁いてくる。


「シエラにわしらの正体を喋るかどうかと言う事じゃろう?」


 ……なるほど。

 見るとシエラちゃんはミィルさんに頷いてシエルさんに話し掛けている。


「……お母様?」

「そうね。……ルファスが城に行ってる理由は聞いてるかしら?」

「……いいえ。お父様はお仕事だとしか聞いてないです。」


 シエラちゃんが口を開くと同時にエレベーターが止まる。


「……そうね。シエラ。“後”で“詳しく”話しましょう。今日の夜は少し起きていなさい。」

「! はい!」


 元気に頷くシエラちゃんを見ると、ミィルさんは目を細めて、エルは面白そうな顔をする。

 ……よく分からないよ。

 しかも今回はエル、教えてくれないみたい。

 ミィルさんはエレベーターの扉を開ける。


「……執務室はあれよ。」


 ミィルさんが指差す方向を見ると大きな扉が見える。


 その扉には白銀の竜翼を背に黒い盾と銀色の剣が交差した紋章が描かれていた。


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