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第29話 王女様と薬師の人々 Ⅱ

「……まさか。薬師のサクラか?」

「森に行ってるって話だった様な……」

「……あり得ない……あり得ない……あり得ない……。」

「嘘!? こんな街中で“アレ”を引くの?」

「……これは何の術だ?」

「知らないのか? 薬師のサクラの十八番だろ? 千本矢に千里眼を組み合わせた奴だ。……と言うかあのローブの方達ってまさか!」

「……やっと気付いたか? 領主様の紋章に“神木”と王冠なんて“あの方”の紋章以外の何物でも無いだろ!!」

「さっきもなんかローブを着た集団に衛兵が出てくる騒ぎがあったよ?」

「あー、子供のスリがお忍びの貴族に手を出したみたいね。」

「……あり得ない。……あり得ない。……あり得ない。」


 周りの人に騒ぎが広がっていく。

 薬師ギルドの敷地にある建物から騒ぎを聞きつけて白衣を着た女の人が、同じ様な格好をした人達を引き連れて出てくる。


「これは一体? ……サクラなの?」


 サクラさんは女の人に顔を向けると目を細める。


「……ギルド長。お久しぶりです。…………彼は一体何ですか?」

「……サクラは知らないわね。“知り合い”から頼まれた子なんだけど……。何かまずい事をしたみたいね?」


 女の人はローブを着ている私達とサクラさんを順番に見る。

 サクラさんは無言で受付に顔を向ける。


 ……!

 いつのまにか、受付のテーブルの上にはシエルさんのナイフが刺さっている。

 ……いつやったんだろう?

 目を丸くした女の人はすぐに膝をつけて頭を下げる。


「……どうかギルドの取り潰しだけは。私の首を差し出すので許して下さい。」


 サクラさんに地面に押さえつけられて、さっきまでぶつぶつと呟いていた受付の男の人が今度はガタガタと震え出す。


「……どういう事ですか! マーテル様! 私を見捨てるのですか! せめて、衛兵様が来るまで頑張って下さい! すぐに来ますから!」


 ……あぁー、何というかこの男の人って色々とアレだね。


「……あの男はバカなのか? 人の世に疎いわしでもこの状況はどういう事かわかるぞ。」

「それじゃあ、エルどういう状況なの?」

「…………あれじゃ、あれ。シエルは偉いのじゃろ? ……シエルは偉い人という事じゃ。」


 ……エルも良く分かってないよね? ……私も正直よくわからない。

 あの男の人はバカだって言うのはそうだと思うけど。

 そうこうしているとまた、さっきの衛兵さん達がやって来る。


「……お願いします。」

「心得た。」


 サクラさんは弓を引いたまま、体を男の人から避ける。


「助かりました。衛兵様。……サクラさん。なんて……! どういう事ですか!? 何故私が捕まるのですか?」

「……おとなしくしろ!!」

「何故! 何故! 何故!」

「少しは黙れ!!」

「何故!! 何故!! 何故!!」


 受付の男の人はサクラさんに詰め寄ろうとしたけど衛兵さん達に捕まってそのまま引きずられていく。

 ……ずっと喚いててすごく目立ってる。門の外に消えても男の人と衛兵さん達の声が聞こえて来るもんね。

 そして、最後に残った例の衛兵さんがシエルさんの前で地面に膝をつける。


「……如何なされますか?」

「あの男“だけ”で良いわ。」

「護衛は。」

「サクラだけで充分よ。帰りなさい。」

「御意。」


 シエルさんに剣を返してもらった衛兵さんは一瞬周りを見渡してから門を離れる。

 ……いつのまにか周りの人達が全員地面に伏せてるよ。

 シエルさんはサクラさんに目配せをする。


「サクラ。案内して。」

「分かりました。……ギルド長?」

「サクラ? ……分かったわ。」


 サクラさんは弓を構えたまま、困惑したギルド長を立たせるとそのまま奥に歩き出す。

 サクラさんに付いてエルと一緒に歩き出したら、リセラさんがずっと固まっていたので振り返って声を掛ける。


「……リセラさん?」

「えっ! あっ、はい!」


 リセラさんはシエルさんの後ろに駆け寄るとそのまま付いてくる。


 …………へー。思ってたのより大きい。

 塔からだと逆光だったし、建物で隠れてる所多かったもんね。

 薬師ギルドの建物を回り込むと、幾つかの大きな温室と小さな林に囲まれた薬草園が広がっている。


「サクラ。もう良いわよ。」

「……はい。」


 サクラさんは目に掛けた魔法を解くと手に持っていた弓も消してため息を吐く。

 ……うーん。なんだろ? 何か引っかかる。

 悩んでいるとサクラさんの声が聞こえてくる。


「……えっと、皆さん。こちらはハイゲン薬師ギルド長のマーテルさんです。」


 マーテルさんは膝をつけようとするけどシエルさんに止められて、立ったまま頭を深く下げる。


「ギルド長のマーテルです。……今回は誠に申し訳ありません。どの様な罰でも受ける覚悟はしております。」

「“貴女に”何かをする気は無いわ。」

「分かりました。……温室に案内いたします。」


 マーテルさんに案内されて温室に入るとムッと熱気が来る。

 すぐに魔法で相殺する。

 でも顔を顰めているリセラさん以外は特に暑そうにしてない。

 ドラゴンさん達は特に何でもないと思う。

 ただ、サクラさんとマーテルさんからは魔法を感じないから素なんだろうけど……。


 中を見渡すと色んな種類の植物で埋め尽くされている。

 ……へー。この大陸では見ない植物が結構ある。

 中にはテーブルもあって、お茶が出来る様にもなっている。


「……どうしますか? 一旦休憩も出来ますよ?」


 サクラさんがみんなに目を向けると、シエラちゃんがシエルさんの方を向く。


「お母様。少し疲れました。」

「そう。なら、私とシエラは休憩しましょう。……姫様とエル様はどうするのかしら?」


 ……

 …………!

 ちょうど良いかも! 私はサクラさんを見る。


「私はサクラさんと温室を見て回りたいな。」

「……私と、ですか?」

「うん。」


 私はサクラさんに頷く。


「わしもアルフェと一緒に見て回るかの。」

「……そう。サクラとなら平気ね。……それで構わないかしら?」


 シエルさんはサクラさんとマーテルさんを順に見る。


「私はそれで構いません。……リセラ。私の名前を出して構わないから飲み物を取って来て。」

「! はい!」


 ぼーっとしていたリセラさんはマーテルさんの声で飛び上がると凄い勢いで温室を飛び出す。

 ……大丈夫かな?

 リセラさんを目で追っているとサクラさんの声が聞こえてくる。


「アルフェお嬢様。エルお嬢様。行きましょうか?」


 見るとサクラさんが私達を手招きしている。


 見るとシエルさんとシエラちゃんはもうテーブルに座ってる。


「アルフェ。行くぞ?」

「うん。」


 私は振り返ると、エルと手を繋ぎながらサクラさんの後を追って大きな木や色んな色をしたお花を見て行く。


「サクラさん。」

「何ですか?」

「ここにある物って、“近く”に無いものだよね?」

「あー、アルフェ様だと分かりますよね。はい。この温室の植物は南の大陸から持ってきた物です。」

「なるほどの。確かにこの花の匂いは“あっち”で嗅いだ事があるのじゃ。」


 エルは蔦についた白い小さなお花に鼻を付けて空気を吸い込んでいる。

 私もエルと一緒に空気を吸い込んでみる。

 ……あれ? 殆ど匂いがしない。

 私は額に皺を寄せる。

 …………あぁ! エルってドラゴンだもんね。多分、私には感じられない匂いも分かるんだと思う。残念。

 私はお花から離れると後ろを振り返る。

 シエルさん達の姿は大きな木に隠れて見えない。

 ……大分離れてるよね。

 私は私達から少し離れて立っているサクラさんに向き直る。


「? アルフェ様?」

「サクラさん。サクラさんって何者なの?」

「……薬師ですよ。……ちょっと強いだけの。」


 サクラさんは薄っすらと笑みを浮かべてちゃんと答えてくれない。

 後ろを振り向くとエルはお花から離れて面白そうな目をして私を見ている。


 ……はぁ。

 私はもう一度サクラさんを見る。


「サクラさん。……それじゃあ。さっきの“弓”は何なの?」

「…………。」


 サクラさんは私から目をすーと逸らす。

 思い出したけど、さっき何もない所から出した“弓”と街に来た時に使っていた弓は“見た目”がかなり違っていた。

 しかも“何もない所”から取り出すって“普通”の人は出来ないよ。

 ……

 …………


「サクラさんって。“魔女”さんだよね?」


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