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第27話 王女様と魔法の通り

 私達はさっきの詰所に戻ってくると外に出る前にフードを下ろす。


 外では、衛兵さん達が直立不動で立っていた。

 ……さっきと位置が変わってない気がする。

 門越しに時計台の後ろ姿を眺めつつ、人通りの少ない曲がった道を戻って行く。

 左手は建物の間隔が空いているけど右手は門以外の所は殆ど建物で埋まっている上、隙間も壁で潰されている。


 ……門も衛兵さんで固められているし、普通の人は入れないのかな?

 私は左手に見えてきた真っ白な大聖堂を横目にシエルさんに声を掛ける。


「……シエルさん。ここって人があまり居ないけどどうして?」

「城に近いって言うのもあるけど、大聖堂以外に用がある所がないのよ。」

「……ですね。ほとんどお貴族様の館ですから。ただ、入る事自体は難しく無いですよ? 辺境伯様の許しを得たギルドの正会員になればいいので。……確か、ハイゲンの街自体は“自由都市”ですから。」


 後ろからサクラさんの声が聞こえてくる。

 薬師ギルドの人だからここに来た事があるのかな?

 ……でも、自由都市って何?

 不思議に思っているとシエルさんの声が聞こえてくる。


「……姫様。どんな人間でも“自由民”になれる都市の事よ。……自由民は分かるかしら?」


 自由民って何となく分かるけど説明しづらい。

 “奴隷”じゃないって事かな?


 ……でも、例のゲームによると、一応、アーヴェンには“奴隷”は居ない事になっていた。

 教会の教義で信徒を奴隷に落とす事が禁じられていたからだったと思う。

 でも、“裏”でやられると分からないんだよね。

 例のゲームだと“マーシェリー”が気に入らない貴族に対して良くやる手口だったりする。

 ……本当、ゲームの“マーシェリー”は“酷い”。“悪役令嬢”になる伯爵家の令嬢ファーテミアもその被害者。両親に囲まれて幸せそうにしている様子を見て、“マーシェリー”はファーテミアを“気に入らない”って思うんだよね。


 ……はぁ、頭を振って頭を切り替える。


「奴隷じゃない人?」

「そうね。もっと言えば、“議会”への選挙権を持ってる人よ。ギルド員になれば手に入るわ。……ただ、議会の自治は街の東部に限定されてるわね。街の他の場所は、城と付近は“城”、それ以外は領軍の管理って所かしら。」

「……議会の選挙権を持ってても余り意味は無いですよ。大抵内定者で占められますから。」

「サクラは前に議員をしていたわよね?」


 サクラさんの少し暗い声が聞こえてくると、シエルさんが振り返る。

 議員?

 首を傾げているとシエラちゃんがこっちを振り向く。


「……サクラ様は議員をなされていたのですか?」


 ……多分、シエラちゃんがサクラさんに声を掛けたのは初めてだと思う。

 後ろを振り向くとサクラさんは目を丸くしていた。


「……シエラ様。私の事は呼び捨てで結構ですよ。……えーと、そうですね。はい。一時期、薬師ギルドの席を占めていました。」

「えっと、それならサクラ。……ごめんなさい。新しい使用人と思っていました。」

「はい。大丈夫です。……それにシエル様に連れてこられたので大体同じ様な物ですよ。」

「サクラ。“しょっきゃく”は使用人とは違います!」


 シエラちゃんはビシッとサクラさんを指差すと少し胸を張る。

 ……シエラちゃん。ちょっと可愛いかも。

 シエルさんは目を細めながらシエラちゃんの頭を撫でる。


「リフィアから習ったのかしら?」

「はい! お母様!」


 ……良く分からないけど“作法”か何かで話しかけられなかったのかな?

 横を見るとエルは周りをキョロキョロしている。……フードを払って。

 ……はぁ。もういいや。人ほとんど居ないし。


 私はエルを無視して後ろを振り向く。

 大聖堂の入り口は殆ど見えない位まで離れている。


「……サクラ。薬師ギルドはこちらの通りから入れるかしら?」

「こっちの通りには入り口が無いです。……確か、次の大通り沿いに大きな入り口があったと思います。」

「そう。ならもう少し、歩きましょう。」


 …………!

 視線を感じて目を向けると、左手にある大きな家の庭で男の子と女の子がじっとこっちを見ている。


「……お兄様! 魔女様の集団だぁ!」

「バカ! 大声出すな。」


 男の子は慌てて女の子の口を抑えると、エルの事をちらちらと見ながら家の方に引きずって行く。

 ……エル可愛いもんね。

 エルの方は額にシワを寄せて騒ぎを見ているけど。


「魔女様の集団……あながち間違いでは無いですよね?」


 サクラさんに後ろから小声で囁かれてびくっとする。

 後ろを振り向いて、サクラさんを睨みつける。

 ……笑って誤魔化してもダメだよ。


 しばらく歩いているとさっきと同じ様な門が見えてくる。門の外は時計台の所よりは少ないけど、こっちの通りより凄い人通りがある。

 私は無言でエルのフードを下ろす。


「! 何をするんじゃ!」

「人が多すぎるよ。流石に隠さないと。」

「…………はぁ。アルフェは心配性じゃな。仕方ないのう。」


 エルはため息をついてフードを弄っている。

 シエルさんはさっきと同じやり取りをすると、今回は門の脇にある通用口に向かっている。

 ……今回は人混みの中を通るって事?

 少し不安に感じながら、シエルさんの後を追って門の外に出る。


「…………安いよ! 安いよ! 光の魔石も水の魔石も定価の2割引だ! 」

「領軍御用達の戦闘ゴーレム! 何と大銀貨100枚! 滅多に出ない放出品だよ!……。」

「魔方陣! 魔方陣! 滅多に手に入らない東の品だよ! 買った! 買った! 」

「えっと、その! これなんかは! ……あー、何でしたっけ?」


 門の外に出ると音が一気に耳に入ってくる。

 道沿いに露店や商店が並んで居て、沢山の“魔法”の品物が売られている。

 色んな色をした魔石がお皿に積まれていて、色んな形をしたゴーレムが並んでいる。その隣には色んな色をした液体が瓶詰めにされていて、魔方陣を書いているらしい紙の束が山積みになっている。

 他にも、“魔導書”や“魔導具”、色んな“素材”なんかも売っているのが見える。


「ここは、色んなギルドが品物を“安く”放出してる品を売り捌いてる“市場”ですね。……アルフェお嬢様。少し見て回りますか?」


 周りを見渡しながら私はサクラさんにこくこくと頷く。


 ……アレなんだろう?

 なんか、女の子が瓶を片手に色んなポーズを取っている。

 あっ、目が合った。……と、思ったけどフード被ってるから分からないよね?

 結局、女の子はすぐに私から目を離したけど、今度は後ろに立っていたサクラさんに目を止めて大きく目を開ける。


「サクラ先輩!! 助けて下さい!!」


 かなり大きな声だったので周りの人がみんなサクラさんを見る。

 サクラさんは苦い顔をしながら声を出す。


「……シエル様。」

「何かしら?」

「“あれ”はギルドの後輩なんですけど、行ってもいいでしょうか?」

「……ギルドって薬師ギルドかしら?」

「はい。」

「ちょうど良いわ。彼女にも案内を頼めば良いわ。」


 シエルさんはそう言って、女の子の露天に足を運ぶ。

 私もエルを引っ張って急いでついて行く。


 露店では、色んな種類の薬といくつか、“薬草”……薬草と言っても花の部分や種、樹皮なんかみたいに素材そのままで売っているのもある。

 ……結構、見た事ない物があるかも。

 じっと、眺めていく。


「先輩! ……? そっちの人達って誰ですか?」

「……後で説明します。……何を騒いでたの?」

「これが何の薬か分からないんです。」


 目線を上げると女の子の手の中には透明な液体が入った瓶がある。

 ……魔法薬?

 ほんのりと魔力が染み出していたので、多分魔法薬だと思う。


「……消毒液だね。……ただ、聖術も付与されてるから軽い傷なら掛けるだけで治る物だよ。」

「! 凄いお薬です!」

「少し見ますか?」

「はい! サクラ!」


 なるほどね。

 しげしげとシエラちゃんが持っている瓶を眺めていたら、シエラちゃんに少し小さな人影がぶつかる。

 …………!

 一瞬、杖を構えようとしたけど、もう既にサクラさんが動いていた。

 小さな人影……少し汚い格好をした男の子が地面に手を“矢”で縫い付けられている。

 その手の先には首飾りが転がっている。シエルさんが持っていたナイフと同じ紋章が入っている。

 ……あぁ。これはダメだ。流石の私も“領主”の家族に手を出すとどうなるか分かるもん。

 さっきまで賑やかだった通りはシーンと静まり帰っている。


「!!!! いったーーーー!! クソ!! なんなんだよ!!」

「黙りなさい。」


 サクラさんはさっきまでとは打って変わってすごく冷たい顔で男の子を見下ろしている。


「……!! お前がやったのか!! 早く抜けよ! クソババが!! 凄えいてぇえじゃねぇかぁ!!!!…………あああああ!!!!」


 サクラさんは無言で矢を“動かす”。


「……裂けるよ? 」

「…………。……くっ。」


 ……サクラさん。怖すぎ。

 シエラちゃんが完全に怯えてシエルさんにしがみついてる。

 そっと、目を逸らすと門から衛兵さん達が駆けつけて来るのが見える。

 その中で少しだけ恰好が違う衛兵さんがシエルさんではなくサクラさんに声を掛ける。


「……如何なされた?」

「……見ての通りです。」


 衛兵さんは転がっている首飾りを見て静かに目を閉じる。

 それを見ていたシエルさんはシエラちゃんの顔を上げさせる。


「……シエラはどうしたいのかしら?」

「お母様?」

「……分からないの?」

「……いいえ。お母様。」


 シエラちゃんはもう一度、シエルさんにぎゅっと抱き着くと首飾りの落ちている所に駆け寄る。

 一瞬、男の子を見て動きを止めるけど首飾りを拾い上げる。


「……サクラ。その子の手を直してやって。」

「はい。……その瓶を貸して下さい。」

「はい。」


 シエラちゃんがずっと手に持っていた魔法薬を受け取ると、サクラさんは屈んで地面から男の子の手ごと矢を一気に引き抜く。

 そして、サクラさんは男の子の手を取ると刺さった矢の先端を折ってから引き抜く。


「!!!!!!!!」


 手に薬を掛けられた男の子は目を大きく開けて歯を食いしばりながら声を出さない様に耐えている。

 その様子を横目に衛兵さんはサクラさんに声を掛ける。


「……、未遂と言う事で宜しいか?」


 サクラさんに目線を向けられたシエラちゃんはこくりと頷く。

 それを見てサクラさんも頷く。


「……はい。」

「では、……小僧、付いてくるんだ。」

「…………わかった。」


 それに頷き返した衛兵さんは他の衛兵さん達と一緒に何処かに男の子を連れて行く。


 みんな、どうして良いか分からなくて固まっていたら突然声が響く。


「……終わったぞ!」


 見るとエルが露店の薬や素材を並べ直して、分かりやすいようにしていた。

 ……何やってるの? エル?

 私はエルのフードをさっと下ろす。


 ……はぁ。

 私はため息をつく。

 周りを見渡すとみんなの時間が動き出していた。


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