表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/71

第26話 王女様とお星様の時計台

「……誰もおらんのう。」


 エルが広場をきょろきょろと見渡している。

 私も一度文字盤から目を離して後ろを振り向く。

 すると、広場に入る大通りの手前に衛兵さん達がこっちに背を向けてびっしりと並んでいる。

 沢山の人の気配を感じるけど目隠しの魔法ですりガラスみたいに衛兵さんの先が見えなくなっている。


 ……やりすぎだと思う。

 でも、周りの建物もみんなカーテンが下されているから私もフードを払う。

 ちなみに、エルはいつのまにか下ろしていた。


「……これは早めに切り上げた方が良いですね。」


 サクラさんも衛兵さん達を見て難しい顔をしている。


 ……ふぅ。

 私は文字盤に目を戻すとじっと眺めてゆく。

 一番上は普通の時計でわかりやすい。

 その下に暦表があって年月日が分かる様になっている。

 でも、下の方にある天文時計……多分だけど、が凄い。

 一瞬何がなんだか分からなかったけど、“現在”の天球図を思い描くと何となく分かってくる。


「……お母様。綺麗ですね。」

「そうね。」


 シエラちゃんの声が聞こえて来る。

 ……確かにいろんな色をしたキラキラした宝石みたいなのが動いているもんね。

 そんな事を考えていたら、時計台の方から人がやってくるのが見える。


 ……お爺さん?

 長い髭をしたお爺さんはシエルさんの前に来ると膝をついて“杖”を差し出す。


「……シエル様、シエラ様。お久しゅうございます。アーカイドで御座います。」

「! じーですか?」

「なんと! シエラ様。その通り、じーであります。私がお会いした時はまだ幼い頃であったのに覚えてられるとは! じーはとても嬉しゅう存じます。」


 お爺さんは少し驚いた様子で顔を少し上げる。

 シエラちゃんは誰か知っているのかフードを上げて、お爺さんに駆け寄ろうとするけどシエルさんが止める。


「アーカイド。」

「何なりと。」

「アレの説明をしてくれるかしら?」


 シエルさんはお爺さんの杖で天文時計を指す。

 お爺さんはそれを見てまた頭を下げる。


「元よりそのつもりでございます。」

「なら、立ちなさい。そのままでは説明できないわ。」

「御意。」


 お爺さんが立ち上がると、シエルさんは私達の紹介を始める。


「姫様。エル様。これは少し前までハイゲンの筆頭魔術師だったアーカイド。今は時計台の管理を請け負っているわ。」

「お初にお目にかかります。姫様方。時計台の主ことアーカイドでございます。」


 アーカイドお爺さんはせっかく立ち上がったのに、私とエルにまで膝をついて頭を下げる。

 ……どうしようこれ。


 シエルさんはあわあわしてる私を無視して紹介を続ける。


「こちらの2人は姫様と姫様の友達のエル様よ。」

「シエル様の“姫様”となれば、私も緊張するというもの。出来る限り分かり易くお話ししましょう。」


 アーカイドお爺さんは全然緊張してなさそうに私達2人に笑い掛けてくる。


 ……。

 私は助けを求めてシエルさんに目線を向ける。

 シエルさんはため息を吐くとアーカイドお爺さんに顔を向ける。


「……アーカイド。立ちなさい。姫様は気にしないわ。」

「御意。」


 シエルさんはアーカイドお爺さんが一度深く頭を下げて立ち上がるのを見て、サクラさんを見る。


「これは、サクラ。今は私達の専属薬師をしてるわ。」

「アーカイド様。お久しぶりです。」


 サクラさんが挨拶するとアーカイドお爺さんは軽く目を伏せる。

 ……私もそんな感じで良いんだけど。

 横を見るとエルはつまらなそうに空を見上げている。私も一緒に空を見上げてみる。

 太陽は殆ど南中している。


「サクラ殿。貴女は魔の森に行かれたと聞いていたが。」

「シエル様についてくる様に言われたので。」

「成る程。サクラ殿の腕は一流と聞く。故にシエル様の目に留まったのであろうな。」

「……はい。」


 サクラさんは微妙な感じで相槌を打つ。

 ……チョコレートドリンクが原因だもんね。

 空を見上げながら二人の会話を聴いていたら、誰かにローブの裾を引かれる。

 見るとシエラちゃんがぎゅっと私のローブを握っている。


「アーちゃん。時計読めますか? お母様も分からないの。」

「? 読めるよ。全部じゃないけど。……っと、まず1番上は分かる?」

「はい。その下もカレンダーと一緒なので分かります。」

「そっか。じゃあ、その下の一番大きな文字盤。あれが太陽で、あれとあれが月。……見ると欠け始めてるよ。」

「……! 本当です! 夜のお月様と同じ形です!」

「うん。……隣の文字盤は惑星だと思う。」

「惑星?」

「そう。惑星。普通のお星様と違う動きをするの。」

「……聞いた事が有ります。」

「惑星の名前は分かる?」


 シエラちゃんは首を横に振る。

 ……なら惑星は後回しにしよう。


「それじゃあ、星座は分かる?」

「はい! 前にお母様に教えて貰った事があります! 今の時期は…………“竜王座”がお空を支配してます! 」

「……竜王座とはなんじゃ?」


 エルが不思議そうな顔をしている。

 ……そっか。勉強教えて貰った時、エルは“古い”名前しか知らなかったもんね。


「……竜翼座と大体一緒だったと思う。」

「意味合い的には殆ど変わらんのう。」


 少し顔を顰めているエルから目を離すとシエラちゃんに意識を戻す。


「……竜王座を含んだ主要13星座は大きい文字盤でも読めるけど、隣の文字盤だと……あのルビー色の丸とエメラルド色の丸を見てみて。」

「…………! 竜王座です! 凄いです。」

「……初見でそこまで読めるとは!」


 喜んで飛び跳ねているシエラちゃんを見ているとアーカイドお爺さんの驚いた声が聞こえてくる。

 後ろを振り向くとシエルさんとサクラさんが頷きながら私を見ている。

 ……私の説明聞いてたんだ。


「……アーカイドは必要無かったわね。」

「左様でございます。」


 シエルさんに言われてアーカイドお爺さんは肩を落とす。

 ……ちょっと、かわいそうかも。

 少し悩んでいると、シエルさんが思い出した様に声を出す。


「……そうだったわ。魔術塔の魔石が壊れたのよ。連絡が来ると思うけど準備していた方が良いわ。」

「ふむ。何処の砲塔かお分かりになられますか?」

「館の裏手よ。」

「……第一魔術塔ですな。了解致しました。」


 アーカイドお爺さんは膝をついて深く頭を下げる。

 シエルさんは時計台の一番上の文字盤を見ると口を開く。


「……もう。殆ど昼ね。今日の所はこれで帰るわ。……次来る時は時計台の中を案内してもらいましょう。姫様も魔導具や機械はそこまで詳しくないと思うわ。」

「御意。」


 シエルさんはアーカイドお爺さんに杖を返すと広場の石畳に空いた階段に踵を返す。


 ……!

 シエルさんの後に付いて歩いていると視線を感じて振り向く。

 すると、建物のカーテンを引いて私達を見ていた女の子と目が合う。

 ぎょっとした女の子はすぐにカーテンを引いて隠れてしまう。

 ……顔見られちゃった。でも、普通の女の子に見えたし大丈夫だよね。

 そう思っていたら、険しい顔をしたアーカイドお爺さんが杖を翳して何かしようとしていた。


 ……えっ!


「アーカイド。」

「御意。」


 シエルさんが振り向きもしないで呼びかけると、アーカイドお爺さんはすぐに杖を収めて膝をつく。

 ……なんか怖いよ。


 階段を降りて通路に入るまで背中に意識を向ける。

 階段が消えて少しほっとしているとシエルさんが私に声を掛けてくる。


「姫様。流石にアーカイドも子供に“何か”したりしないから安心して頂戴。それに私が不問にしているからあの子に何か“罰”を受ける事もないわ。……こっ酷く叱られるでしょうけど。」


 ……叱られるって罰じゃないの?

 ちょっと、疑問に思うけど頷いておく。


「……私はさっきの“女の子”の気持ち分かります。私も子供の頃は“お姫様”に憧れていましたから。」

「……私には分からないわ。」

「お母様はお姫様なのですか?」

「……シエラ。あの女の子が見たかったお姫様は貴女の事だと思うわよ。」

「? ……! だと、お友達になれるかもしれません! お母様!」

「そうね。」


 シエラちゃんはシエルさんに頭を撫でられて目を細める。

 ……シエルさんもそうだけど。サクラさん、さっきの女の子に目線すら向けないで“女の子”って分かったんだ。

 あの“魔法弓”もそうだけど、何者なんだろう?

 私は通路を移動しながら、後ろに居るサクラさんに少し意識を向ける。


「? アルフェお嬢様?」

「……何でもないよ。」


 サクラさん、これにも気付くんだ。

 ……絶対に普通の人じゃないよ。

 後でサクラさんと話さないと。


 私はシエルさんについて通路を進んでゆく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ