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第23話 王女様と竜王様の大聖堂 Ⅰ

 私達は大通りまで出るとシエルさんについてお城の大きな門までやってくる。

 すると門の衛兵さん達がギョッとした表情で私達の姿を目で追っている。

 サクラさん以外はローブ姿だもんね。

 …………あっ。

 私はローブを着ているけどフードは下ろしているエルに目が止まる。

 じっと見ていたけどエルは顔をぷいっとする。

 ……はぁー。


 少し歩いて反対側の門の柱までやってくるとシエルさんはさっと手を触れる。


「確かこの辺りだったわね。」


 するとさっと石のブロックが消えて、下に向かう通路が現れる。

 衛兵さんをちらっと見ると私達から目を離して直立不動に戻っている。

 ……シエルさんって分かったのかな?

 シエルさんについて私達はそのまま中に降りていくと、後ろからの光が消えて一瞬だけ真っ暗になる。


「きゃっ!!」


 でも、すぐに周りに光が灯る。

 明るくなるとシエラちゃんがシエルさんに抱き着いているのが見える。

 さっきの悲鳴はシエラちゃんだったんだね……。

 私は人目がなくなったのでローブを払う。

 エルは勝手に火がついた松明をじっと見ているし、サクラさんは周りをキョロキョロして見回している。


「……凄いですね。」

「この通路はあまり使わないのだけど。…………逸れないようにして頂戴。ここは入り組んでる上、罠もあるから面倒よ。」


 シエラさんが私達を見回して注意する。

 私はエルの手を取って握り締める。


「何じゃ?」

「はぐれないように。」

「……ふん。」


 エルはそっぽを向くけど手を払おうとはしないみたい。

 シエルさんは私とエルを見て頷くとシエラちゃんと手を繋いで歩き出す。

 石で出来た通路は私達が進むと松明に火が灯って後ろの方が暗くなる。


 しばらく歩いていると私達の後ろを歩いているサクラさんの声が聞こえてくる。


「アルフェお嬢様。」

「何?」


 私達が振り向くとサクラさんは立ち止まって膝を地面に落とすと私の耳に口を寄せる。


「“アルフェ様”は“魔女様”なんですか?」


 …………!!

 私は一瞬悩んだけど頷く。

 サクラさんの方を見ると少し微笑んでいる。

 私とサクラさんは少しの間、見つめ合っていたけどエルの声が割って入る。


「……アルフェ。シエラを見失うぞ。」


 後ろを振り向くとシエラさんが通路を曲がって消える所だった。

 ……!

 私達は顔を見合わせるとすぐに走り出す。

 角を曲がるとシエルさんにすぐに追いついたから良かったけど。

 シエルさんは走る音に気付いて振り向くと目を細める。


「貴女達。逸れても知らないわよ。」

「ごめんなさい。」

「すみませんでした。」


 私とサクラさんはシエルさんに謝る。

 シエルさんは一瞬サクラさんを睨んだけど、直ぐに前を向いて歩き始める。

 サクラさん大丈夫かな?

 私はサクラさんの方を見るけど首を横に振られる。

 ……はぁー。


 私は息を吐くとエルの手を取って歩き始める。今度は見失わないようにお話をせず進んで行く。

 途中で松明から魔石に変わって石の組み方も変わる。

 シエルさんは突然、通路の真ん中で止まると壁に手をかざす。

 すると一瞬で階段が現れて外の光が通路を照らす。


「さて、行きましょう。」


 シエルさんの後を追って階段を上ると人の声が聞こえてくる。


「…………ゆえに女神様は竜王様や他の11柱の神王様方と共に世界を創造なされたのです。」


 階段の入り口で止まっているシエルさんの後ろから外を覗くと高い天井が見える。

 目線を落とすと真っ白な服を着た女の人が私達に後ろを向いて神話の話をしている。

 ……今は出られないね。

 階段の入り口が床にあるからわからないけど、多分向こうには椅子が沢山あって人も一杯居ると思う。


「……女神様の御心に従い生きとし生けるものすべてに感謝と敬意を。」


 そう言ってお話を締めた女の人が後ろを振り向いてしまう。

 床から顔を出した私はその女の人と目が合ってしまったのでニコッとする。

 ……フード被ってなかったよ。

 女の人は目を丸くして大きく息を吸っていたけど、すぐに目を閉じて跪いてお祈りを始める。


『我が天上の神々よ。我らに祝福あれ。

 “空を羽ばたく自由なる翼”よ。

 我らの卑屈なる心を許し給え。

 我らに何者にも屈しない強い心を与え給え。

 我らと共に翼があらん事を。

 “全ての命の母”よ。

 我らの生を許し給え。

 我らに愛を与え給え。

 我らと共に母の御心があらん事を。

 我らの母たる女神と自由なる竜王よ。日々の糧と我らへの愛に感謝し魔力を捧げます。』


 ……へー、ちゃんと儀式魔法になっている。

 私はお祈りを観察しながら感心する。

 でも、何で女神様と竜王様だけなんだろう?

 お祈りを終えた女の人が一瞬こっちを見たけど、何処かに歩いて行ってしまう。


 少しするとガヤガヤと人の声が聞こえてくる。

 席を立つ音も聞こえてくるから礼拝は終わったんだと思う。


「アーちゃん。」


 隣からシエラちゃんが声を掛けてくる。

 私が首を傾げるとシエラちゃんは言葉を続ける。


「さっきの方がルシィおば様。」


 一瞬誰か分からなかったけど、どこかで聞いた記憶がある。

 私が頷いていると今度はエルの声が聞こえてくる。


「……何故、女神と“竜王”なんじゃ?」

「教会の方針らしいですよ。」

「……らしいわね。」

「なんじゃ? それは。」


 何故かエルが不満そうにしているけど、確かエルが言うにはドラゴンさん達はあまり竜王様にお祈りしないんだっけ?


「……あの。皆さま?」


 私がふむふむと頷いていると頭の上から声が聞こえてくる。


「ルシィおば様!」


 シエラちゃんが階段を飛び出そうとするけど、シエルさんに止められる。


「シエラ。まだ、ダメよ。」

「シエル様。もう人払いは済んでおりますので。」

「そう?」


 シエルさんとシエラちゃんは階段を上って外に出る。

 私も後を追って外に出る。

 見渡してみると私達のいる場所は周りより少し高くなっている。

 正面には大きな扉があって、ずらっと長椅子が並んでいる。

 後ろを見ると綺麗なステンドガラスが正面から朝日を浴びて輝いている。

 光る杖を掲げる女神様とその足元で寝そべる竜王様。


 ……何だったかな?

 何の神話か頭を悩ませているとエルとサクラさんも出てきてみんな揃う。


「……皆さま。わたくしはハイゲン大聖堂の司祭をしております。ルシティアで御座います。この出会いに感謝を」


 ルシティアさんは目線を下げて胸と額の順に手を動かす。

 ……ちょっと、硬いかも。

 そんな事を思っていたらシエラちゃんがルシティアさんに抱きつく。


「お久しぶりです! ルシィおば様!」

「……シエラ様。お久しぶりです。」


 ルシティアさんはシエラちゃんをゆっくりと引き剥がすと膝をついてシエラちゃんと目を合わせる。

 でも、シエラちゃんは顔を膨らましてそっぽを向く。

 ……どうしたんだろう?


「ルシティア。“いつも”の様にして貰って構わないわ。」

「シエル様?」


 ルシティアさんは困惑した顔で私とエルとサクラさんの顔を順に見る。

 溜息を吐くと顔をシエルさんに戻す。


「……はぁー。分かった。シエルお義姉さま。シエラも元気だった?」


 ルシティアさんは雰囲気を崩すとシエラちゃんをぎゅっと抱きしめる。

 ……えっと。

 困惑して、シエルさんを見ると肩を竦める。


「これは私の夫の妹なんだけど、適当な“相手”が居なかったから教会に入ったのよ。」

「妹と言っても教会に入る時に名前は捨てちゃってるから、公ではシエラにこんな風にしてあげられないんだよね。」


 ルシティアさんはそう言いながらシエラちゃんの髪をわしゃわしゃとする。

 すると、シエラちゃんはくすぐったそうに身をよじる。


「ルシィおば様。くすぐったいです。」

「っと、ごめんね。シエラ。……それで、そちらの3人は?」

「姫様とその友達のエル様。そして、薬師ギルドのサクラね。」

「えっ、サクラ様?」


 ルシティアさんはサクラさんの名前を聞くと目を見開く。


「はい。ルシティア司祭様。薬師ギルドのサクラです。」

「……魔の森に行ってるって、聞いてたんだけど。」


 ルシティアさんに言われて、サクラさんは一瞬シエルさんに目をやる。


「あー、成る程ね。……で、貴女達は?」


 ルシティアさんはサクラさんに軽く頷くと私とエルの方を向く。


「アルフェです。」

「エルじゃ。」

「アルフェ、アルフェ、あー、神代の言葉で“大なる月”かぁ。その髪にぴったりだね。」


 ルシティアさんは私に微笑みかける。


 私は少し心が苦しくなった。


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