第20話 王女様と初めての街の朝
#1
目を覚ますとベッドの周りに白いカーテンが下されている。
横を見るとエルが私に抱きついて寝ている。
「……エル。」
私はエルの頰を指でツンツンする。
エルは顔を顰めるけど、むしろぎゅっと抱きしめてくる。
……どうしようかな?
枕元を見ると私の懐中時計があったので中を開く。
……日の出ちょっと前かな? 外はもうだいぶ明るいはず。
私はエルの頰を引っ張ったりして遊んでいるとやっと目を覚ましてくれる。
「……なにをしておる。」
「エルを起こしてたの。」
私がそう言うとエルは顔を顰めながら私から身体を離す。
「ふん。全くなんなんじゃ。…………そうじゃ。」
エルが何かブツブツ言ってたけど、グッと私を見る。
「何? エル?」
「気に入らん事があれば遠慮するなとシエルが言ってたぞ。アンジェとサリカにも伝えとるみたいじゃ。」
「……うん。」
私は軽く頷くとベッドを出て、扉に声を掛ける。
「誰か居る?」
「……アルフェお嬢様。サリカでございます。」
「サリカさん。この後どうしたら良い?」
「部屋に入る許可を頂けますか?」
「うん。」
「失礼します。」
そう言って、サリカさんが部屋に入って来る。
「アルフェお嬢様。エルお嬢様。おはようございます。」
扉の前で立っている私と天蓋に隠れてベッドでまだゴロゴロしているエルを順番に見ながらサリカさんが挨拶してくれる。
「おはようございます。」
「……おはようじゃ。」
「では、奥様より本日は早朝より街に降られるとの事でしたのでお召し替えをなされた後、食堂に案内いたします。」
……朝から? ミィルさんのところはお昼からだったはず。
首を傾げている私にエルがベッドから這い出て近付いてくる。
「ミィルのギルドに行く前にいくつか見てまわるそうじゃ。……サリカ。確か街の娘が好む服を用意しておると聞いたのじゃが?」
「はい。エルお嬢様。用意しております。」
「……私の分は?」
私が質問するとエルは私が着ている白いワンピースを指差す。
「お主にはそれがあるじゃろ。」
私はエルに言われて頰を膨らます。
シンプルだけど可愛いし、ずっと着ていても汚れも臭いも付かないけど、やっぱり他の服も着たい。
「アルフェお嬢様。申し訳ございません。奥様より街に降る際は出来る限りそちらのワンピースを着用頂きたいとの事です。……ただ、いずれにしましてもローブを着ていただく事になりますし、アルフェ様のお召し物も用意がございます。」
あっ、そっか。ローブ着ないといけないのだった。
流石に人が一杯居る街だと悪い人も居るよね。
エルは可愛いからちゃんと見ておかなくちゃ。
「エルお嬢様。ではお召し替えを。」
そう言って、サリカさんはエルの着替えを手伝い始める。
エルがパジャマがわりに着ていたワンピースを脱がすと、いつのまにか赤いエプロンドレスがサリカさんの手にある。
……魔法? どんな魔法だろう?
さりげなくて分からなかったけど多分魔法を使ったんだと思う。
そう言えば、昨日もさり気なく魔法使っていたよ。
例えば、お風呂の時も手元に物を出したりお湯の温度を調節したり。
「エルお嬢様。髪はいかがなされますか?」
「サリカの好きにせい。」
「かしこまりました。」
……エルってちょっと偉そうかも。
エルに意識を向けると、もう着替えは済んでいてサリカさんに髪を梳かされている。
……へー、やっぱりエルは可愛い。
サリカさんはエルの足元まである長い髪を一本に編み込んでゆく。
髪が出来上がるとエルは髪を振り回して遊び始める。
「……変な感じじゃ。」
わたしもそれを見ながらサリカさんに髪をセットしてもらう。
私の髪もエル程じゃないけど結構長い、腰ぐらいまである。
「サリカさん。私の髪も梳いて。」
「梳くだけでよろしいのですか?」
「うん。」
私とエルは身嗜みを整えるとサリカさんに連れられて食堂に向かう。
食堂にはシエルさんが既に待っていた。
「おはよう。姫様。エル様。」
「おはようございます。シエルさん。」
「うむ。」
私とエルは案内された椅子に座るとシエルさんに声を掛ける。
「ミィルさんは?」
「あぁ、彼女ならもう既にここを出たわよ。……サリカ?」
「はい奥様。」
「シエラは?」
「……、今お目覚めになられたとの事です。」
「そう。時間がかかりそうね。……姫様、エル様。申し訳ないのだけど少し待ってもらえるかしら?」
私とエルは目を交わして一緒に頷く。
「うん。」
「構わん。」
すると、シエルさんはサリカさんに目配せをする。
「では、お嬢様方。目覚めのミルクティーでございます。」
サリカさんはミルクを入れたカップに紅茶を注ぐと私とエルに配る。
それは、ほんのりと甘い優しい味だった。
私とエルはミルクティーを飲みながらゆったりとしているとシエラちゃんの声が聞こえてくる。
「お母様! 今日は一緒に……。」
シエラちゃんは顔一杯に笑顔が溢れていたけど私とエルの方を見ると少し影が差す。
……シエラちゃん。
昨日から薄々感じていたけど、多分私とエルにシエルさんを取られて寂しいんだと思う。
「シエラ。早く席に着きなさい。」
「……はい。」
シエラちゃんが席に着くと昨日のお夕飯と同じ様に私がお祈りをする。
ソーセージを切り分けて口に入れているとエルの声が聞こえてくる。
「シエル。今日はどこにいくのじゃ?」
「そうね。魔女教の大神殿と教会の大聖堂。あと、魔術砲塔に時計台かしらね。幾つかの職業ギルドも回る予定よ。」
魔女教と教会は何となく分かるし、魔術砲塔って多分昨日夜に光っていた塔の事だよね?
私はシエルさんの方を見る。
「シエルさん。魔術砲塔って何?」
「そうね。姫様。昨日光ってた塔もそうなのだけど、対空攻撃用……ワイバーンや飛竜と言った空を飛ぶ魔物に対する防御施設ね。魔術塔とも言うわ。今日はこの街では一番高い塔に行く予定よ。」
「ふーん。」
私は頷きながら野菜たっぷりのスープを飲む。
隣からエルの声が聞こえてくる。
「シエル。時計台とはなんじゃ?」
「大きな時計が付いた建物なのだけど、ここの時計台は他とは違って魔導具も使われてるのよね。色々珍しい機能が付いてるわ。」
へー。時計台って聞いてあまり興味が無かったけど面白そう。
ふと、会話に加わってないシエラちゃんの方を見ると少し目線を下げて黙々と口に料理を運んでいる。
私はシエラちゃんと仲良くしたいんだけど……。
#2
食事を終えると一旦部屋に戻る事になった。シエラちゃんのお出かけ準備がまだ出来てないのでそれが終わったら呼びに来てくれるらしい。
……何をしようかな?
私はベッドに座りながら自分のローブを被ると護符や杖の点検を始める。
「……別におかしなところ無いよね。」
私は杖を手に取って、振り回しながら伸ばしたり縮めたりしているとエルがギョッとした目で見てくる。
「……アルフェ。それは杖術と言うやつかの?」
……そんな、大それたものじゃ無いよ。
ただ振り回しながら伸縮させているだけだよ。
私は杖をローブの下に戻すと少し笑いながらエルの方を向く。
「……違うよ。遊んでただけ。」
「…………まぁ良い。」
エルはそう言って私の隣に座り込む。
「アルフェは全く戦えんと思っておったが一応は魔女じゃったな。」
「……何それ。」
「わしが言った通りじゃ。」
エルは何言っているの? 私は不思議に思うけど、これ以上は聞かない。
少しすると仮眠から復帰したアンジュさんに案内されて、玄関ホールに向かう。
玄関ホールではシエルさんとシエラちゃん、それにサクラさんも待っていた。
「サクラさん。おはようございます。」
「おはようございます。アルフェお嬢様。エルお嬢様。」
「おはようじゃ。サクラ。」
私とエルがサクラさんと挨拶するとシエルさんはシエラちゃんの手を握って声を出す。
「揃ったわね。……行くわよ。」
「はい。お母様。」
私とエルとサクラさんはシエルさんに続いて、メイドさんが扉を開けている玄関を出る。
シエルさんはローブのフードを下げながら私達を見回す。
「頭に覆いを掛けなさい。」
エルは少し嫌そうにしていたけど、サクラさん以外は顔を隠したローブ姿になる。
見れば完全に魔女とその弟子の集団みたい。
……私たちすごく怪しい気がするよ。




