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第18話 王女様とドラゴンの館 Ⅰ

#1


「シエラ。お客様がいらっしゃるわよ?」

「…………はい。」


 小さな女の子はシエルさんからゆっくりと離れる。

 そして、今度はメイド服を着た女の人が玄関から飛び出してくる。

 ……本物のメイドさんだ。

 じっと観察していると私達の方に駆けてくる。


「……シエラお嬢様!」

「ただいま。リフィア。」

「奥様、おかえりなさいませ。」


 メイドさんはシエルさんに礼……カーテシーかな? をすると、シエルさんと女の子の後ろに一歩下がる。

 それを見たシエルさんは女の子を自分の前に出して紹介を始める。


「シエラ、リフィア。……こちらは“姫様”とそのお友達のエル様。……そして、こっちがミィル。私の“古い”友人よ。シエラは初めてだったかしらね。」


 ……シエルさん。姫様で伝わるのかな?

 私はシエラちゃんとリフィアさんに声を掛ける。


「シエラちゃん。リフィアさん。私はアルフェって言います! よろしくお願いします。」

「わしはエルと言う。よろしくの。」


 私の隣でエルも一緒に自己紹介する。

 シエラちゃんは少し逃げ出しそうにしているけど、シエルさんにガッチリと肩を掴まれている。


「……シエラ、挨拶を。」

「はい。お母様。……私は母シエルと父ルファスの娘、シエラです。……シエラ・ハイゲン゠フィルシアです。」


 シエラちゃんは俯きながらも挨拶をしてくれる。

 ……でも、“ハイゲン゠フィルシア”ね。どう言う事なのかな?

 別に怒ってはない。

 多分、お母さんは知っていると思う。でも、少しだけ顔が歪む。

 そんな私の耳にシエラちゃんに続いて私とエルに挨拶するリフィアさんの声が聞こえてくる。


「初めまして。姫様。エル様。」


 リフィアさんはシエルさんの後ろでカーテシーをする。

 ……私もした方が良いのかな?

 そんな事を考えていたらミィルさんがリフィアさんに声を掛ける。


「久しぶりかしらね? リフィア。」

「はい。5年ぶりでございます。総長閣下。」

「……閣下はやめて頂戴。私は平民よ。」

「わかりました。では、ミィル様と。」


 それを聞いたミィルさんはシエラちゃんに顔を向ける。


「……で、貴女がシエルの娘ね。」


 ミィルさんの声を聞いてシエラちゃんの肩が飛び上がる。


「は、はい。初めまして。」

「……シエルとは大違いね。」


 ミィルさんは小さな声でそう呟いたけど、シエルさんが咳払いを被せる。


「んっん。そろそろ、中に入りましょう。……リフィア?」

「はい。皆様、案内します。」


 そう言って、リフィアさんは私達を先導して家の中に入る。

 ……えっと。

 私は家に入る前に馭者さんをしていた大剣のおじさんに挨拶をしたかったけど、どこにも見当たらない。

 しょうがないのでそのまま着いて行く。

 リフィアさんの後にはシエルさんとシエラちゃんが続いて、私とエルとミィルさんは最後。

 歩いている間、シエラちゃんはチラチラ私達の方を見てくる。

 ……うーん。お話がしたいのかな?

 玄関を入ると大きなホールになっていて、暖炉があって階段も見える。

 ……使用人の人達かな? メイド服を着た人が壁際で待機している。

 そして壁には肖像画みたいな絵とか、剣や杖なんかの武器とかも飾られている。

 ……ときどき使っているのかな? 少し草臥れてる。

 きょろきょろとエルと一緒にホールを観察していると前から声が聞こえてくる。


「奥様。皆様のお食事はいかがなさいますか?」

「食堂室で良いわ。……そうね。姫様?」


 リフィアさんと話していたシエルさんが後ろに振り向く。


「? なに?」

「先にお風呂にするかしら? それとも食事?」


 ……どうしよう。

 馬車でちょくちょくお菓子を食べていてお腹は減ってないし、今日は馬車だったから体はそこまで汚くない。

 私はエルとミィルさんを見る。


「私はどっちでも良いわよ。」

「わしもアルフェと一緒で構わんぞ。」


 ミィルさんもエルもどっちでもいいみたい。

 ……そう言うのが結構困るんだけど。適当でいいかな?

 私はシエルさんに答える。


「……じゃあ、お風呂で。」

「でしたら先に客室に案内します。“メイド”をお付けするので何なりと申し付けてください。」


 そう言って、リフィアさんは階段を上っていく。

 …………侍女って何? 不思議に思いながら、私も後に着いて二階に上っていく。

 二階に登ってすぐの部屋でリフィアさんは立ち止まる。


「……ミィル様の部屋はこちらです。」

「そう。なら、先に休ませて貰うわ。……アルフェ様。エル様。食事の際にまた会いましょう。」


 そう言ってミィルさんは自分で扉の取っ手に手を掛けようとするけど、壁際で待機していたメイドさんがギョッとして駆け寄る。


「……先にお声掛けする事をお許し下さい。お嬢様。」

「何かしら?」

「扉は私が開けますので、お下がりください。」

「…………あー、そう言うのね。私って、一応平民なんだけど。」

「ご容赦ください。」


 ミィルさんは深くため息を吐くと深く頭を下げているメイドさんを見る。


「好きになさい。」


 そんなやり取りが有ってミィルさんがそのメイドさんと一緒に部屋に消えていく。

 …………私は大変な所に来てしまったのかも。

 リフィアさんは当然って顔をしているし、シエラちゃんはキョトンとしている。

 そして、シエルさんは興味なさそうな顔をしている。

 ……うっ。


「では、姫様とエル様の部屋はこちらです。」


 そう言ってリフィアさんは奥に進み始める。

 何気なく横を見ると何も考えてなさそうなエルの顔を見てしまう。


「エル。」

「なんじゃ。」

「絶対大変だよ。これ。」

「? 何がじゃ? 扉まで開けてくれるんじゃ。むしろ楽できそうじゃ。」

「……そう。……好きにして。」


 私はエルから目を離す。

 ……私には合わないよ。こう言うの。

 悶々としながら歩いているとリフィアさんが大きな扉の前で立ち止まる。


「姫様とエル様の部屋はこちらです。……アンジェ。サリカ。」

「はい。リフィア様。」

「はい。リフィア様。」


 リフィアさんが名前を呼ぶと控えていたメイドさんが2人、側にやってくる。


「姫様。エル様。この2人がお付きのメイドとなります。……2人ともお嬢様方を案内して差し上げて。」

「はい。」

「はい。」


 そして、私とエルの前で部屋が開けられる。

 私はシエルさんの方を向くと声を掛ける。


「シエルさん。お夕飯楽しみにしてるね。」

「わしも期待しておるぞ。」


 エルは私に続ける。

 そして、シエルさんは微笑む。


「ええ、期待して頂戴。」


 そうして、私とエルは部屋に引っ込む。


 ……そんな私とシエルさんをシエラちゃんはじっと見ていたみたいだった。


#2


「あー疲れた!」


 私は大きなベッドの上で転げ回る。

 本当に疲れた!

 お風呂は案の定、メイドさん……アンジェさんに隅々まで洗われた。

 確かに楽と言えば楽だけど、自分で出来るのにさせて貰えないのは疲れる。

 ……エルはサリカさんに洗われて楽しそうだったけど。

 あっ、それにアンジェさん。呼び捨てにしないと居心地悪そうにするんだよね。それも嫌。

 ……お風呂の後ドレスを着させて貰ったのはちょっと嬉しかったけどね。

 食事もフォークとかナイフの使い方を気にしちゃってあまり美味しく感じなかった。……結局、シエラちゃんと話せなかったし。

 私はベッドの上でぷすーと突っ伏す。


「……アルフェ。気が済んだかの? そろそろ時間じゃ。」

「あー。うん。」


 今からミィルさんとシエルさんが部屋にやって来る。

 ミィルさんが機嫌悪そうにしている私を見て提案してくれた。

 私は髪を整えて、ベッドを降りる。

 ちなみに今はエルがくれたワンピースを着ているのでシワの心配は要らない。

 ドレスじゃ寝られないし、部屋着は慣れた格好が良いってエルと一緒にワンピースを着ている。

 ふー。よし!

 もう良いや。とりあえず気になっている事“全部”吐き出してしまおう!


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