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第16話 王女様と馬車の旅 Ⅰ

#1

 道の上にはちょっとした家ぐらいありそうな真っ白な馬車がある。

 そして、凄く大きなお馬さんが2頭繋がれている。

 ……もしかすると魔物化しているのかも。


「あっ! 皆さん! こっちです!」


 エルと一緒に馬車を見て驚いていたら、サクラさんの声が聞こえてくる。

 声のする方を見るとサクラさんはギルドの支部の入り口で手を振っている。

 ……よし!

 私は駆け寄って声を掛ける。


「サクラさん! ……それは何?」


 近くに行くとサクラさんは後ろに弓? みたいな物を背負っている。


「えっと。魔法弓ですよ。流石に手ぶらは危ないので。そうですね…………これなんかは面白いですよ。分かりますか?」


 サクラさんは背中から矢を引き抜くと私に見せてくる。

 ……?

 矢の先端には小さな魔法石が付いていて、何かの魔法が掛けられているとは思うけど何かは分からない。

 首を傾げてサクラさんの手にある矢を見ていると誰かが私の手を引く。


「アルフェ。何を見ておるのじゃ?」


 横を見るとエルは私が見ている矢を覗き込んでいる。


「……ほぉ。聖術が付されとるのじゃ。しかし、矢に付けるなど大胆な事をするのう。」


 ……エルに答えを言われてしまった。

 私は少しだけ頰を膨らませてエルを睨む。


「……なんじゃ。今のお主では掛けられておる魔法は読めぬであろう?」

「……そうだけど。」


 そんな会話をしているとサクラさんが慌てて、矢を引っ込める。


「ごめんなさい! 2人とも喧嘩しないで下さい! えっと、その……。」

「……サクラ落ち着きなさいよ。」


 サクラさんがあわあわしてるとミィルさんが声を掛けてくる。

 私も一緒に声を掛ける。


「サクラさんは謝らないで。……えっと、さっきの矢ってどう使うの?」

「はい。……そうですね。戦闘中に負傷してる仲間を先程の矢で射抜く事で聖術を発動させるんです。」

「痛くない?」

「大丈夫ですよ。一瞬ですから。」


 私がサクラさんに質問していると男の人の声が割り込んできてびっくりする。

 見ると例の大剣のおじさんだった。

 サクラさんもおじさんに目を向けると声を掛ける。


「ジグさん。こんな時間にどうしたんですか?」

「サクラこそと言いたいが、サクラもシエル様と一緒に街に戻るんだったな。」

「はい。でもなんでジグさんがそんな事を聞くんですか?」

「俺が護衛兼馭者をするからだ。いざという時には期待してるぞ。……お嬢様方馬車の中を見ても構いませんよ。シエル様もそろそろ来られるでしょう。」


 おじさんはそう言って馬車の方に向かう。

 ……馬車の中?

 私とエルは顔を見合わせてサクラさんとミィルさんを見る。


「サクラ。もう馬車に乗り込んでおきなさいよ。アルフェ様もエル様も気になるでしょ?」


 ミィルさんが少し笑みを浮かべてこっちを見てきたので私とエルは首を縦の振る。


「うん!」

「じゃな。」


 サクラさんはそんな私達を見て頷くとミィルさんに声を掛ける。


「……、ミィル様はどうするんですか?」

「私? 私はまだこっちで仕事が残ってるのよ。……あっ、そうだ。アルフェ様とエル様。」


 ミィルさんに名前を呼ばれたので顔を向ける。

 なんだろう?


「仕事が終わったらすぐに街に戻るから、街のギルドにも遊びに来て頂戴。“調べ物”にはいい場所よ? “プレゼント”も用意しておくわ。」


 ……!

 ミィルさんの言葉に私は嬉しくなる。

 昨日の夜の話、覚えていてくれていたんだ。

 私が顔を綻ばせているとエルの声が聞こえてくる。


「ミィル。プレゼントとはなんじゃ?」

「エル様。それは見てからのお楽しみよ。」

「……うむぅ。」


 ミィルさんの言葉にエルはすごく不満そう。

 でもミィルさんはそんな様子を無視して、私達に声を掛ける。


「……また街で会いましょう。貴女達の無事を祈ってるわ。」


 ミィルさんはそう言って庁舎の中に消えていく。

 私はまだ不満そうにしているエルの頰を人差し指でぷにっとする。


「……なんじゃ。」

「馬車の中入ろ?」


 私はそう言ってエルの手を繋ぐと馬車に引っ張る。

 馬車に寄せられている踏む台を登って馬車の扉に手を掛ける。

 ……何これ?

 扉を開くと私は目を丸くしてしまう。

 中は馬車と言うより少し小さめの家かな?

 真ん中にはテーブルがあって、いくつか戸棚が備え付けてある。後ろの方には扉もあって、他にも部屋があるみたい。

 ベッドがあれば普通に生活できそう。


「……貴女達何してるの?」


 扉を開けたままそんな事を考えていたらシーさんの声が聞こえてくる。

 振り向くとシーさんがバスケットを両手に取って訝しそうにしている。


「シエル様。この馬車ってまさか。」


 私とエルの後ろで一緒になってぽっかーんとしていたサクラさんが声を出す。


「? ……そんな事より早く乗って頂戴。」


 シーさんに急かされた私達は急いで馬車に乗り込む。

 みんなでテーブルに着くとエルが口を開く。


「馬車とは馬に引かせる小さな家だったんじゃな。」


「エル。違うよ。」

「違います。」


 私とサクラさんは一緒に首を横に振る。

 馬車は乗った事は無いけど知識としてはある。

 ……こんな馬車は聞いた事ないよ。

 エルは不思議そうな顔をしているけど、シーさんが補足してくれる。


「エル様。これは“一般的”な馬車じゃ無いわ。確か数年に一度辺境伯が魔の森に出向く際に使う物よ。」

「あーー。やっぱり。」


 シーさんの言葉を聞いてサクラさんはテーブルに蹲る。

 ……へー。辺境伯さんが使う馬車なんだね。

 もう一度観察してみると確かに高級そうな雰囲気がある。

 窓に目が止まる。景色が動き出していた。


「エル! 動いてる!」


 私はエルの手を引っ張って窓に顔を付ける。

 馬車は道に沿って広い空き地の間を進んでいるみたい。いくつか天幕が見えて、人が動いている。

 少しすると速度を落として門を出る。

 ……こっちは堀があるんだね。二つの橋を渡って森に入る。


「姫様。エル様。お昼は食べないのかしら?」


 私とエルは窓から顔を離すと急いでテーブルに戻る。


 私はサンドイッチを頬張るとエルに話し掛ける。


「エル。後で馬車の中を探検しよう?」

「……うむ。良いぞ。」


 馬車は森を進み始めた。


#2


「……アルフェ。チェックメイトじゃ。」

「あぁー。また負けた。」


 私はテーブルのチェス盤に伏せる。

 食事をした後、私とエルは馬車を探検したけど結構凄かった。

 仮眠用らしいけど寝室があってトイレや小さな台所もあった。

 後、馬車の上に出られる様になっていて、すごく面白かった。

 ……なんか、後ろの方に二台馬車が続いていてその護衛の人達に驚かれたけど。

 今は戸棚の中にあったボードやカードのゲームを引っ張り出して遊んでいる。


「アルフェお嬢様も初めてにしてはすごく上手だと思いますよ。」


 サクラさんが紅茶を置きながら慰めてくれる。

 サクラさんは最初の頃は大分ビクビクしていたけど、今じゃすっかり慣れて紅茶とクッキーを手に私達の対戦を眺めていた。

 そんな時、いきなり前の窓を思いっきり叩く音が聞こえたと思ったら大剣のおじさんが顔を覗かせる。


「サクラ! 戦闘準備だ! 上に登れ!」


 おじさんはそう言って、顔を引っ込める。

 ぽっかーんとしていた私達だったけど、サクラさんは急いで弓を背負うと私達に声を掛ける。


「アルフェお嬢様!エルお嬢様! シエル様を呼んでくるのでここで待っていて下さい。」


 サクラさんはそう言って奥の扉を開けて中に入る。

 私とエルは顔を見合わせる。


「……ふむ。囲まれとるな。アルフェ、人数はわかるかの?」


 私はエルに聞かれて周囲を探る。……馬車の周辺以外でもかなり濃い人の気配がする。


「100人は居ると思う。」

「本当。何かしらね?」


 私がエルに答えているとシーさんが扉を開けて入ってくる。


「シーさん! サクラさんとおじさんは大丈夫かな?」

「まぁ、彼等なら大抵の事は平気よ。」


 シーさんはそう言ってテーブルに着くとクッキーを口に放り込む。


「……それにもしもの時は私が出るわ。」

「シエルが出ると“人間”では歯が立たんじゃろうな。」


 エルもクッキーを食べ始める。

 ……良いのかな?

 私もクッキーを手に取る。

 ……美味しい。


 …………

 それからちょっと経つと何事も無かった様に馬車が動き出す。


「……ふぅ。シエル。隣良いかしら?」

「構わないわよ。好きにしなさい。ミィル。」


 何故か戦闘に参加したらしいミィルさんも乗せて。

 ……ミィルさん。どうやって馬車に追いついたの?


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