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第13話 王女様と村の人々 Ⅰ

 私とエルはミーさんに続いて外に出る。

 ……うっ。

 朝日が眩しいのでローブのフードを被る。

 …………あっ。エルのローブ!

 エルの方をさっと見るとワンピースのまま。

 私は急いで戻ろうとエルの手を引くけど、エルは動かない。


「アルフェ。どうしたんじゃ?」

「エルのローブ忘れてた。」


 エルに振り向いたけど、当のエルは首をぷるぷると横に振る。


「……わしはこのままでいいのじゃ。」

「でも。」

「大体、アルフェもさっき顔を晒しとったぞ。」

「……はぁ。分かった。」


 エルが全く動く気が無いみたいなので諦める。

 一応、辺りを見回す。遠くにポツポツ人影があるけどこっちを見ている人はいない。

 ……手をずっと繋いでおけば大丈夫かな?

 そんな事を考えていたら、先に出ていたミーさんに声を掛けられる。


「……エル様のそれは仮初めの姿よ。見られても平気だと思うけど。」

「シーさんに隠した方が良いって。」


 すると、ミ―さんはこくこくと頷く。


「まぁ、確かにそっちの方が“面倒”が無いわね。……でも、こんな所に人攫いなんて居ないわよ?」

「そうじゃ。大体、わしが攫われる訳がないのじゃ。」


 エルは何度も頷くと私をじっと見る。

 ……本当に大丈夫かな?

 私はとりあえず不安な気持ちを置いてミーさんに目を向ける。


「……ミーさん。分かった。最初はどこ案内してくれるの?」

「……姫様。多分だけど、私の“名”を避けて呼んでくれてるのよね?」


 突然、ミーさんがそんな事を聞いてくる。

 私はお母さんのお眷属さん達の名前を直接言わない様にしていて、シーさんと“同族”のミーさんも無意識の内に同じ様にしちゃっている。

 確かに言われた通りなので、私はミーさんに頷く。


「はい。」

「そう。なら、私の名前にそういう気遣いは不要よ。『私の事はミィルと呼んで頂戴。』」


 ミーさん……ミィルさんが名前を交わしてくれたので私もそれに返す。


「うん。ミィルさん。『私の事もアルフェって呼んでください!』」


 ……?

 名前を返すとミィルさんがすごく驚いた顔をしている。

 なんだろう?

 首を傾げるとミィルさんが軽く咳をして私に向き直る。


「姫様……いえ、名前を交わしてもらったのだからちゃんと言わないと失礼ね。アルフェ様。正直、殆ど初対面の私と名を交わすなんて驚いたわ。」

「アルフェじゃしのう。わしの時は突然、友達になりたいと言ってきたんじゃ。」


 ドラゴンの二人が顔を見合わせながらウンウンと頷いている。

 ……うーん。

 私はエルに少しバカにされた気がしたので、エルに抱きついて頭をうにゅうにゅする。


「やっ、やめるのじゃ! 髪が! 髪がぐちゃぐちゃになるのじゃ!」


 エルが騒いでいるのを無視してうにゅうにゅしていると、ミィルさんに声を掛けられる。


「……アルフェ様。もし、シエルとも名を交わす気があるのならお願いできるかしら?」


 私は手を止めて真剣な表情をしているミィルさんをじっと見る。


「何でなの?」

「シエルも本当はアルフェ様ともっと仲良くなりたいのよ。……それにシエルはもう眷属じゃ無いわ。もし、アルフェ様もシエルと仲良くなりたいのなら彼女自身と向き合って欲しいの。」


 私にミィルさんの言葉がゆっくりと染み込んでいく。

 ……もしかして、シーさん私の例の記憶について気付いている?

 私はミィルさんの方を見てゆっくりと頷く。


「はい。シーさんが応えてくれるなら。」

「……話は終わったのか? ミィル。そろそろ案内を始めるのじゃ。」


 いつのまにか私の手から離れていたエルが私とミィルさんに声を掛ける。

 それを聞いてミィルさんは手をパンと叩く。


「! 確かに結構長い間、支部の前で喋ってたわね。さぁ、ついてきて頂戴! まずは裏手にある領軍の施設を説明するわ。」


 ミィルさんはそう言いながら、建物の裏手に進んでいく。


「……うるさいのう。」


 エルは手の音で機嫌が悪くなっているけど、私はエルの手を引っ張ってミィルさんの後をついて行く。

 少し歩いて建物の裏手に着くと、広い空き地が広がっている。

 奥の方には何棟か横に長い建物が見えて、手前では何人かの兵隊さん達が走ったり、大剣を振り回したり、魔法を使ったりしている。

 ちなみに、大剣を振り回しているのは昨日の門番のおじさんだね。

 ミィルさんは私達が付いてきたのを確認すると説明を始める。


「……ここは領軍の施設よ。村の西半分の殆どを占めるわ。普段は10人にも満たない人数しか居ないけど、演習なんかだと100人近い兵の天幕でこの空き地全体が埋まるわ。……シエルが居ればあの向こうに見えてる領軍の宿舎にも入れるけど、今日はここから眺めるだけね。」


 ?

 そう言えば、なんかおかしい気がする。昨日のおじさんってここで剣を振り回しているって事は領軍の兵隊さんだよね。

 ……やっぱり、おかしい。

 私は何か知ってそうなミィルさんに聞いてみる。


「ミィルさん。シーさんって人間の街で何をしてるの?」

「えっ、シエルはここの領主の息子と結婚してるのよ。聞いてなかったの?」


 ……えっ? 聞いてないよ!

 私がぽっかーんとしているのを見てミィルさんは苦笑いしながら付け加える。


「……聞いてなかったのね。ついでに言うと、ハイゲン家では誰もシエルには頭が上がらないそうよ。大抵の事は押し通せるわ。多分あなた達の事も大分無理を言ってるんじゃ無いかしら?」


 私はゆっくりとミィルさんから視線を逸らす。


 エルが座り込んで魔法の訓練を眺めていたので、私も横に座って一緒に見る。

 魔法で遠くの的を射抜いたり、ゴーレムを相手に戦っている人もいる。

 ……本物の魔物さん相手じゃなくて良かった。

 ミィルさんも隣に座ってきたので顔を向けて話しかける。


「ミィルさん。シーさんの娘さんに会うけど挨拶とかどうしよう? お姫様だよね?」

「そうね。……いつも通りで良いわよ。シエルも自分の娘にそこまで気を使われたく無いはずよ。」

「そっか。なら、お友達になれば良いのかな?」


 私はそう呟くともう一度兵隊さん達を眺める。

 ……私は少し気になった事を聞いてみる。


「ミィルさん。兵隊さん達って固定詠唱しか使って無いけどどうして?」


 そう。兵隊さん達はみんな古い言葉で同じ文言の詠唱しか使ってない。

 私達、魔女は余程の事が無いと口語で詠唱するか、お祈りみたいな簡易的な儀式をするか、そもそも無詠唱で魔法は使う。


「そんなのは分かりきった事じゃ。単に魔力を節約しとるだけじゃな。」


 エルが話に割り込んでくる。

 ……ああ、なるほどね。

 エルの言う通り、“同じ事”を起こすなら無詠唱より詠唱、詠唱より儀式をする方が魔力を少なく済ませられる。

 同じ様に、口語で個人差がある詠唱よりも古い言葉でみんなが使っている詠唱の方が少ない魔力量で同じ事が出来るし、供物や魔法陣とか色々組み合わせた儀式の方が更に節約出来る。

 ただし、魔女が使う場合は真逆で、きっちりと古代語の長い詠唱に供物、魔法陣、本格的な祈りを組み合わせた儀式魔法と無詠唱による魔法は、それこそ起こしたい事の規模が全く違う。

 結局、正式な儀式魔法に近付く程、必要な魔力量がどんどん増えるのが魔女なんだよね。

 ちなみに、ベテランの魔女さんが行使する本格的な儀式魔法は“神々の奇跡”に匹敵する……らしい。

 ……ちょっと、怖い。

 ぶるっと背筋に悪寒が走った私は立ち上がって、ミィルさんとエルに声を掛ける。


「そろそろ、次の所へ行こ?」

「じゃな。……ミィル、次は何処じゃ?」

「……ここから北の方にある魔術や錬金術とかのギルドの出張所ね。一応ここからでも見えるわ。」


 ミィルさんが指差す方向を見ると2階建の建物が二つ並んで見える。

 私たちが泊まった支部ほど大きく無いけど、そこそこ大きい。

 私達はその建物に向かいながらミィルの話を聞く事にする。


「……確か、魔術ギルド、錬金術ギルド、に薬師ギルドの出張所と“魔女”教の祭壇があるわ。」

「……魔女教って?」


 聞きなれない言葉があったので聞いてみる。


「この地方って昔から“魔の森の魔女様”に怯えつつも森の恵を受けて暮らしてきたのよ。要するに魔女と森その物が信仰対象って事ね。」

「くっくっく。なるほどの。その祭壇には“アルフェ”が祀られとるのじゃな。わしも拝ませてもらうぞ。」

「エル。やめて。」


 私は少し顔を赤くしてしまう。

 けど、例の記憶と一致しない事が気になる。

 アーヴェンを始めとした大陸南西部一帯では教皇領にある“聖域”を総本山とする“教会”が唯一の宗教だったはず。

 ハイゲン自体の直接描写なかったけど、「西の辺境の教会より」みたいな表現があったから多分ハイゲンにも教会はあると思う。

 それに今日の朝、アンお姉さんも普通に女神様にお祈りしていたもんね。


「ミィルさん。女神様は?」

「……ここには無いけど街には教会があるわよ。確か、ハイゲンがアーヴェンに降った時にハイゲン家は表向き、教会に改宗したのだけど今でも魔女教の祭祀は続けてるらしいわ。詳しいことはシエルに聞いて欲しいけど。」


 えっ!

 私はミィルさんを見る。


「……それって大丈夫なの?」

「平気じゃない? 魔女の神さまは教会のそれと基本的には一致してるでしょ? そもそも、この魔の森って教会が不干渉を宣言してる場所よ。教皇と直接話せる私が言うんだから間違いないわ。」


 ミィルさんはそんな事を言うけど、どうなんだろう?

 でもそう言えば、例のゲームでも教会は結構謎が多いまま終わっていた。

 まぁ、深く関わるのは“私”じゃなくてもう一人のヒロインだけど。

 そんな感じの事を考えていたらいつの間にか建物がすぐ近くまで迫っている。

 ミィルさんは後ろを歩いている私とエルに振り向く。


「……さてと、何処から行きたいのかしら?」

「わしはアルフェの行きたい順で良いぞ。」


 エルがそう言って私の方をみる。私は2人を見ながら答える。


「私はやっぱり魔術ギルドかな。」


 錬金術も薬師も気になるけど、初めはやっぱり魔術!


「なら、手前の建物ね。付いてきて。」


 ミィルさんは玄関に着くと扉を開け放つ。


「邪魔するわ。」


 私とエルもミィルさんの後を追って中に入る。


 ……ゾワ。


 えっ。

 なんで“あの子”の気配がするの?

 私は弾かれたように駆け出す。

 受付を飛び越えて奥に進む。後ろが騒がしいけど、知らない。

 階段があったので駆け上る。

 廊下を走って、ある部屋の前に着く。


 “標本室”


 私は鍵を“吹き飛ばす”と扉を開ける。

 沢山の魔物さん達の剥製や素材がある中で一つの剥製に目が止まる。

 真っ白で賢そうなフクロウさんの剥製。


 ……あぁ、フクロウちゃんのお母さんだ。


 私はフクロウちゃんのお母さんを抱き寄せる。

 涙が止まらなくなる。

 私の家にも剥製や素材は沢山ある。

 でも、ここまで“魂”が囚われている事は無いと思う。

 無理に殺された事は“ほとんど”無いから魂は女神様の所に帰っている。

 でも、この子は人間に追われる中でも、殺されそうになっても、そして死んでしまっても自分が残してしまった雛たちをすごく心配している。

 ちゃんとあの子達は元気に巣立ったよって伝えたいけど涙が止まらない。


 ずっとフクロウちゃんのお母さんを抱きしめて泣いていたら、誰かにぎゅっと抱きしめられる。


「アルフェ。」


 私はエルに抱きしめられながら、涙が枯れるまで泣き続けた。


 そして、私が泣き止むと何故かシーさんが居て私の頭を撫でてくれていたんだ。


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