第10話 王女様と初めての村 Ⅱ
§1#1
私は遂に目的地、ギルドで大陸最西端の“魔の森”支部にやってきた。
自分で自分を褒めたいわね。
ほぼ大陸横断に近い距離を丸2日に満たない時間で移動できたのだから。
多分“人間の中”では前人未到じゃないかしら?
私は少し高くなった太陽を浴びるギルドの建物を見る。
確か、総局付きの人員が一人派遣されているはず。
私は扉を開け受付にいる女性に顔を向ける。
「すみません。ここでは依頼の受付はしておりません。」
彼女は書類に目を落としながら答える。
まぁ、愛想がないのは仕方がないわ。
彼女の本来の仕事は総局と現場の橋渡しですもの。
普通のギルド員には確か酒場と一緒になった受付所が他にある。
それだとこの建物は何かと言うと、端的に言えば“お偉方”の方々用の建物。
定期演習だと総大将として出る辺境伯様が滞在する“砦”になるし、私みたいな本部の人間も使う事がある。後、非常時だと前線基地として司令部が置かれる事も想定しているわね。
私は受付のテーブルまで来ると彼女が見ている書類の上に“自分”の鱗で作ったギルド証を差し入れる。
「……グランドマスター。“今日”来られるとの報告は受けておりません。」
「かなり急いだのよ。褒めて頂戴。」
彼女が顔を上げる。
それを見て私は彼女の前にある椅子を引きゆっくりと腰掛ける。
「久し振りね、アン。ごめんなさい。貴女の様な総局付きの人間に受付をさせるなんて。」
「構いませんよ。ここの人員では私以外に貴族連中の対応をさせるのは酷でしょう。……数年振りでしょうか?」
「そうね。…………ちょうど5年振りね。確かあの時も森がおかしいと連絡を受けたのよ。」
「……グランドマスター。今回はどう言う内容なのでしょうか? 私が扱う森の“現場”の情報からはこれと言っておかしい所はありません。」
「でも、3日前の月が重なった夜に森が“ざわめいた”と聞いたわよ。」
「……確かにそうですが数字には出てきていません。」
「それはそうね。……今回の内容だったわね。“誰かは言えない”けど、連絡によると魔女の交代があったそうよ。」
「シエル様でしょうか?」
「“誰かは言えない”って言ってるでしょう? 」
私はここで大きな欠伸をしてしまう。
「……失礼。仮眠を取らせてもらうわ。数日寝てないのよ。」
「部屋は分かりますか?」
「ええ。大丈夫よ。」
私は立ち上がると受付の後ろにある階段を上り、適当な部屋を開ける。
受付の彼女が使っていない部屋と貴賓室以外なら何処でも良い。
まぁ、貴賓室も使って良いのは良いのだけど、使った後の処理でアンに迷惑を掛ける。
「……寝ましょうか。」
ベッドに潜り目を閉じる。私はすぐに眠りに落ちた。
#2
…………
『ミィル! 出てきなさい!』
……本当何かしら?
私は、ばっと起き上がると欠伸をしながら部屋を出る。
うるさいなぁと思い階段を下りる。
「……誰かしら? “煩くて”起きてしまったわ…………ヒィ!」
私は目を擦りながら部屋を見回すと“あり得ない”存在を見つけてしまう。
銀髪と白髪の女の子。
見目が良く、人攫いを幾らでも引きつけそうな子達。
でも、彼女達はこんな所に居てはいけない存在。
銀髪の子は神木の杖といくつもの護符を持っている。
特に胸元に隠しているそれは恐ろしい気配を感じる。その上、彼女はローブの下に何を着ているのかしら?
……本当にあり得ない。
更に何気無く、常時いくつもの魔法を発動させているのを見れば“竜域の魔女様”以外に考えられないわね。
……制御が甘いのは少し気にはなるけど。
まぁ、良いわ。それでも、あの白い髪の子に比べればどうでも良いわね。
竜王様。
……竜王様自体は過去に2回会ったことあるのよ。
1回目は私がまだ世間知らずのバカだった頃、小さなドラゴン姿の竜王様に喧嘩を売って半殺しにされたわ。
そして2回目は、竜王様が破壊竜様と一緒に人化した姿で街に侵入しようとして門番の兵に止められていた所に居合わせたの。
……その時の私は関わりたくなかったのだけど、結局捕まってしまったわ。
その時の竜王様と破壊竜様は何処の王子様? と言う感じの美男子で色々と面倒だったわ。
“今”の私なら惚れていたかも知れない程の美男子だったけどね。
で、今の竜王様はなんで幼女の姿なのかしら?
……竜王様には性別は無いけど、白髪金眼の美幼女って何かしら?
竜王様は唐突に街に現れたりする方ですし、“私が”性別をとやかく言うのは止しましょう。
しかも私と違って本来性別が無い方よ。
でも、何でこのタイミングでそんな姿でここに現れるのかしら?
本当にあり得ないわ。
「なんじゃあれは?」
「さあ?」
…………なんか、あり得ない2人がなんか言っているわ!
それは私のセリフよ!!!!
§2
「……シエル。貴女が“あの方達”を連れて来たの?」
「ええ。今日、宿を借りようと思ったのよ。」
「……分かったわ。とりあえず、奥で話しましょう。」
「そうね。……姫様、エル様。こちらへ。」
シーさんは女の子と少し話すと私とエルを呼ぶ。
……やっと、話が付いたのかな?
私達は席を立つとシーさんのいる受付に向かう。
「……姫様?エル様?」
近くまで行くと女の子は頭に?を浮かべている。
そして、隣を見ると受付の女の人は心配そうな顔をしている。
「グランドマスター。」
「……ごめんなさい。でも、貴女はここで待っていなさい。他言無用よ。」
「……了解しました。」
「もう良いかしら?さっさとして頂戴。」
「……分かったわ。皆さん。私に付いて来てください。」
女の子はすごく疲れた顔をして私達の方を向くと階段を先導して上って行く。
私は後を付いて階段を上りながらエルに話しかける。
「あの女の子ってどんな子なんだろう?」
「……」
「エル?」
「……!すまん。考え事をしておった。」
私は首を横に振る。
「平気。何考えたの?」
「いや。あのおなご、何処かであった気がするのじゃ。」
「ふーん。」
私は女の子の後ろ姿を見る。
本当にどんな子なんだろう?
私達は3階まで上がると女の子は奥にある立派な扉を開く。
みんなで中に入ると真ん中にテーブルとソファー、奥には執務机が置かれている。
「適当に座って頂戴。」
私達は女の子に言われてソファーに座る。
扉から見て右に私とエル、向かい合ってシーさんと女の子が座る。
「さてと、姫様、エル様。紹介するわ。こちらはミィル。“私”と同族の金竜で300年程人の姿で暮らしてるらしいわ。」
「シーさんと同族?」
「……姫様は知らなかったのかしら? フィル様からきいてないの?」
「聞いてない。シーさんはドラゴンさん?」
「そうよ。……ごめんなさい。私からも言っておくべきだったわ。」
シーさん。
ドラゴンさんだったんだ。
そして、ミーさんもドラゴン。
金竜は中位竜種の中でも上位よりだったはず。
……今の私だと絶対に眷属には出来ないよ。
やっぱりお母さんはすごい!
「大丈夫。でも、だからシーさん、お母さんの眷属じゃ無くなったんだ。」
「そうね。100年程前かしらね。……ミィル。紹介するわ。森の魔女の娘、姫様とその“お友達”のエル様よ。」
「“エル様”?」
「そう。“エル様”よ。」
ミーさんはシーさんにエルの事を確認している。やっぱり、知り合いなのかも。
「……ふぅ、初めまして、魔女のお姫様。……そして、お久しぶりです。エル様。私の名前はミィル。人間の世界では武力ギルドのグランドマスターをしてるわ。」
「初めまして。ミーさん。」
「……ふむ。分からん。」
エルはまだ思い出せないみたい。
首を捻って唸っている。
シーさんは私達を見ながら口を開く。
「ミィル、さっきも言ったけど姫様方をここで泊めたいのよ。」
「……シエル。貴女、本当“良い”性格してるわ。……好きにしなさい。」
「ふふ。分かったわ。炊事場、借りるわよ。」
「場所分かるかしら?」
「ええ。……姫様とエル様。今から食事を作って来るので待っていて頂戴。」
「えっ。」
「シーさん! ありがとう!」
「シエルの料理はアルフェとはまた違うからの。楽しみじゃな。」
シーさんが部屋を出て行くと私とエル、ミーさんの3人だけになる。
ミーさんは目を彷徨わせている。
「……お茶でも用意するわ。」
「待て。ミィルとやらよ。金竜ならばわしが知らない訳ないのじゃ。“鱗”を見せてもらえぬかの?」
エルは立ち上がろうとしたミーさんを呼び止める。
エルの言う通りなら、金竜さんはみんな知っているのかな?
今思うとシーさんとも初対面って感じじゃなかった気がする。
ミーさんはため息をつくとエルに金に光る何かを差し出す。
……カード?
エルはそれを受け取るとじっくりと眺める。
「……ふむ。………………!! おー、そうじゃ、そうじゃ、確か“あの”バカが突然やって来たと思うたらのう。人の街に連れ出されての。その時、人の姿をしておったお主に助けられたのじゃったな。久しいのう。…………しかし、お主“男”でなかったか?」
「……そうね。私はドラゴンとしてはオスよ。でも、人の姿を取る時は男と女大体交互に取る様にしてるわ。」
「ふーん。人化に性別関係ないんだ。」
ウーちゃんさんもベルさんも人化する時の性別は同じだったから、ちょっとだけ驚く。
何となくエルが持っているミーさんの“鱗”を見ると、何かが書いてあった。
“武力ギルド“白銀竜”総長 ミィル
上記の者の地位は武力ギルド“白銀竜”と女神の名において保障される。
教会は是を認める。 教皇 アルリエ”
……総長?
そう言えばさっきもグランドマスターって言っていた気がする。
偉い人なのかな?
私が首を捻っているとエルも私が見ている文字に目を向ける。
「アルフェ。“武力ギルド”とはなんじゃ?」
「……魔物さん達を狩る人達かな?」
実を言うと私もほんわかしか知らない。
私は顔を上げてミーさんを見る。
「ミーさん。“武力ギルドって何?」
「……そうね。簡単に言えば、何でも屋かしら? そもそも、私の“旅”に勝手について来た連中がやり始めた事なのよ。危険な魔物の討伐や傭兵としての従軍、そして子供が出来るようなお手伝いまで色々ね。」
「ミィル。それならばお主は人の世の動きに詳しいのでは無いかの?」
「ええ。大抵の事は。」
それを聞くとエルは私の耳に口を寄せる。
「……アルフェ。此奴に“例の先見”について話してみてはどうかの?」
私も同じ様にエルの耳に口を寄せる。
「大丈夫かな?」
私が体を離すとエルは私の手を握る。。
「平気じゃ。わしに話した時みたいに勇気を出すのじゃ。」
「うん。……ミーさん。聞きたいことがあります!」
私が正面を向くと、ミーさんはすごく渋い顔をしている。
「……?」
「…………いえ、なんでも無いわ。何を聞きたいのかしら?」
「オーベリィについて。」
「……オーベリィ公国の事ね。」
「公国?」
「そう。……少し昔の話だけど、南の方に火山があるでしょう? その周辺にローベルツと言う王国があったのよ。その国の姫君はここアーヴェンの王に嫁ぐ事になってたのだけど、その前にローベルツで革命が起こってしまったの。……姫君は王党派の貴族達を引き連れて何とかアーヴェンに逃れたのだけど、この国の態度は冷たい物だったわ。当時の王も“最初は”切り捨てる気だったようね。まぁ、結果を言えば姫に惚れた王が王冠を捨てて臣籍に降り新たに立ち上げた世襲公爵家がオーベリィ゠ローベルツ。でも、対外的にはローベルツの正当な君主一族でオーベリィ自体も準独立国だから公国の方が一般的なの。」
……なるほどね。
だから、弟だったひいひいおじいちゃんが王様になったんだね。
“例のゲーム”では説明されてなかった。
でも、ゲームの中でマーシェリーが私に激しい嫉妬心をみせるんだ。
「穢れた“姫”である私と魔女の娘の癖に清らかな姫である貴女」って。
…………よそう。
“あの”シーンがフラッシュバックする。
こんな未来必要ない。
顔を顰めているとエルが顔を覗いてくる。
「アルフェ?」
「エル、平気。……ミーさん。そのオーベリィに“出来るだけ”早く行く方法知らない?」
私は首を振るとミーさんに聞いてみる。
すると、ミーさんが口を開く前に隣から声が聞こえる。
「待て、アルフェ。暴動に間に合う、行く方法を探しておったのか?」
「うん。」
「なら、わしの背に乗れば良い。あの辺りなら休憩を挟んでも数日で着くのじゃ。」
「エル、ちっちゃいけど大丈夫なの?」
「…………そう言えば、背に誰か乗せた事無かったのう。まぁ、多分平気じゃ。」
やっぱり。
エルは小さなドラゴンさんだし、無理はさせたくないよ。
「うーん。もし、どうしても他に方法が無かったらお願いするかも。」
「アルフェ。そんなに疑うなら後で、乗ってみるかの? 絶対に平気じゃ。」
エルがそっぽを向く。
少し怒っちゃった。
うーん。確かにドラゴンさんに乗ってみるのは夢の1つなんだけどね。
そんな事を考えていたらミーさんが咳払いをする。
「んっん。エル様、あなた様は“白銀竜”ですわ。こんな所で姿を晒すのはお控えください。」
「ん?……!そうじゃな。うん。」
……?
白銀竜だと何が……そう言えば上位竜種だったね。白銀竜。
でも、エルちっちゃいよ?
……うーん、子供だから危ないとかかな?
「それと、暴動が起こるとはどう言う事かしら?」
「アルフェが星読みの力を持っておる。」
「……それは。確かに炎龍様が暴れたから南部で治安が悪化してるわね。」
「……なんじゃと。」
「えっ。」
……炎龍さん?
私とエルは顔を見合わせる。
ミーさんはそんな私達を見ながら続ける。
「……大体1年前ね。旧ローベルツ王国。現ベルム共和国の第2都市、経済では総生産の過半を担っていた旧王都が炎龍様に焼き払われたのよ。今やベルムの人口の三分の一が流民ね。で、当然アーヴェンにも万単位で雪崩れ込んでるわ。」
炎龍さん……。
でも、どうして南の火山を出なくてはいけなくなったか聞いている私は、炎龍さんを責められないよ。
「……あやつ、街を1つと言っておったのに。人の国を潰すなど邪龍と呼ばれても仕方ないのじゃ。」
「……エル様。炎龍様と話したのかしら? 確かに潰された街は一つよ。ただ、その街が国の中枢を担っていただけ。それに、あれは自業自得よ。大体もう10年以上前から炎の魔力の供給が減っていて魔物達が減ってたのよ。それを無理やり狩尽くそうとしたのだから当然の報いだわ。私のギルドはとうの昔に禁猟指定して、あのバカ達にも働き掛けてたのに無視されたの。」
「人は強欲じゃな。」
「ええ。……そうね。後、もし炎龍様に会う機会があったら伝えて欲しい事があるのよ。」
「なんじゃ。」
「“破竜剣”に追われてるかもしれないわ。」
「……あれか? しかし、誰が使っておる?」
「まだ、調査中なの。ごめんなさい。数日前まで、その連中の出身国で色々調べていたのだけど、全然ね。」
「ふむ。今更ながらじゃが、お主は何故ここに来たのじゃ?」
エルとミーさんが“破竜剣”なんてよく分からない事を話し出す。
話に入れずにちょっとウトウトしていると突然ミーさんに声を掛けられる。
「魔女のお姫様。貴女は“竜域の魔女様”なのかしら?」
「……?」
「ミィル。アルフェはまだまだ見習いじゃな。……お主がここに来た理由が分かったのう。恐らく、お主が知りたいことはシエルが全て知っておろう。」
「……はぁやっぱりね。あいつ、自分の主人の事一言も教えてくれなかったのよ。」
ミーさんがテーブルに突っ伏す。
私もすごく眠い。欠伸が出ちゃう。
「アルフェ。わしの膝でも使え。シエルが呼びに来たら起こすからの。」
「うん。ありがとう。エル。」
私は頭をエルの膝に乗せて目を瞑る。
半日歩いたからかな?
私はすぐに眠りに落ちた。




