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第8話 王女様と炎龍様

#1

 …………

 目を開けると、私は自分のベッドの上で寝ていた。窓から見える空は朝日に染まり始めている。

 少し息苦しいなって思ったら、エルが私に抱き着いて寝ているみたい。

 エルは私のワンピースを着ている。で、私はエルが着ていたワンピースを着ている。


「……どういう事?」


 ……あっ、そう言えば、お風呂で寝ちゃったね。

 多分、エルが色々してくれたんだ。

 私は、そっとエルを振りほどくとトイレに行く。


 ……

 …………

 ………………


 パンツ、履いてない。


 ……

 !!!!!!!!!!!!


 私は一気に目がさめる。

 私は急いでトイレを済ませて、すぐに部屋に戻るとベッドで寝ているエルの毛布を剥ぎ取る。

 見るとエルのワンピースが捲れ上がっている。

 ……エルも履いてなかった。


「……なんじゃ。アルフェ。」

「ねぇ、エル。“パンツ”は?」

「“パンツ”とはなんじゃ?」

「はぁー。エル。今から教えるからこっち来て。」


 私はチェストから適当に取り出して履いてみせる。


「これがパンツだよ。」

「……なるほどの。着替えにあった布切れはそう使うのじゃな。」

「そう言えば、お風呂に持っていったワンピース以外の着替えは?」

「……そのままじゃ。」

「……後で洗濯物と一緒に回収しておくから、とりあえずこれ履いて。……こっちが前だよ。」

「すまん。」


 エルはしゅんとなりながらパンツを履く。

 ちょっと可哀想になったので私の着ているワンピースについて聞いてみる。


「私の着てるワンピースってエルの?」

「そうじゃの。わしがその場で作ったんじゃ。」

「返すべきかな?」

「いや。アルフェに着てもらいたいの。そこら辺の服より“頑丈”じゃから重宝するぞ。」

「うん。ありがとう。エル。」


 私はエルに朝日が昇ってベルさんが来るまで“色々”お話をした。

 私だって街に行くのは始めてだけど、パンツ知らないとか不安すぎたからね。


#2


「……だから、あの狼としばらく顔を合わせないで済むよ。」

「ベルさん。余り嬉しそうに言わないで。」


 私達は昨日と同じ様に炎龍さんのいる温泉に向かっている。

 ベルさんが言うにはウーちゃんさんはこの森じゃなくてもう1つの森、王都の森の担当らしい。

 そして、ウーちゃんさんは昨日の内に王都の森に帰っていったそうで、ベルさんは暫く顔を合わせずに済むと“嬉しそう”に話している。

 私はベルさんに少し怒る。

 ウーちゃんさんとベルさんが仲悪いのはしょうがないけど、ちょっと言いすぎだと思う。


 そして、私とベルさん以外のメンバーはエルとサラマンダーくん。

 ちなみに、ベルさんは人化している。

 サラマンダーくんは昨日と違っておしゃべりをしないで私達を先導している。

 ただ、動物小屋のみんなと一晩中おしゃべりしていたらしく、私とベルさんで迎えに行った時にはみんな迷惑そうにしていた。


 実はフクロウちゃんは私とエルが街に行っている間に森に帰る事になったので今日で会えるのが最後だったりする。

 エルはベルさんと一緒に金剛石を探すために入った保管庫が気に入って動物小屋には来なかった。

 今も私の隣を歩きながらその金剛石をずっと眺めている。

 何が気になっているのか気になるけど雰囲気的に聞きづらい。

 私とベルさんと時々話しながら歩いていると昨日と同じ木の根元で例の亀さんが待っている。

 私達が近付くと声を掛けてくる。


「昨日ぶりです。皆さん。さあ、炎龍様の所まで行きましょう。」


 私達は森から抜けたけど、山みたいに大きい炎龍さんが見当たらない。

 キョロキョロと見回しているとシュルシュルと黒いちょっと大きめの蛇さんが近付いてくる。

 ……結構可愛い。


「ふむ。ほれ、炎龍。ちょっと、弄ってみたがどうかの?」

「……ああ、成る程。原石よりこちらの方が扱い易い。では、今から封印しよう。」


 エルが蛇さん……炎龍さんに“ダイヤモンド”を投げると、炎龍さんの目の前で宙に静止する。

 金剛石の原石はいつのまにか綺麗にカットされた上に白銀色のチェーンまで付いている。

 ……エル、ちょっと弄った所じゃないよ。

 しかも、少し前に見た時はまだ原石だった気がする。


 私は色々聞きたかったけど、封印の儀式が始まったみたいなので後にする。

 ダイヤの中に炎の魔力が煌めき、外に漏れ出る。でも、徐々に暴れていた魔力がダイヤの中に押し込められていく。最後には、ダイヤの中心に仄かに赤い色が灯る程度に静かになる。


「……ふむ、こんなものか。姫よ、受け取られよ。」


 宙をふわふわと浮かんできて、私の手に落ちる。すると、私の周りの空気がふんわりと熱を帯びる。


「それには、守護の護符も付している。“常に”身につけると良い。」

「…………炎龍さん。ありがとうございます。」


 うーん、どうしよう。こんな危ない物早く保管庫に置いておきたかったんだけど。

 しかも、今はまだ夏だから結構暑い。

 私は魔法で周りに冷気を張って、ダイヤから漏れる熱を相殺する。

 ……やっぱり、炎龍さんには悪いけど保管庫に入れよう。


「……姫さま。丁度良いんじゃないかい。魔法の訓練にもなるし、護符としては一級品だよ。」


 でも、ベルさんにそう言われて、私はダイヤを首から下げる事になってしまった。

 ……さてと、私達の用事はこれで済んだのでサラマンダーくん達とはお別れの時間。


「サラマンダーくん。元気でね。もう魔力が枯渇する様な無茶はダメだよ。」

「はい。姫さん。ベル様。機会があれば、また会いましょう。」

「うん。……亀さんもこんな立派なダイヤありがとうね。」

「いえいえ。」

「……炎龍さんも貴重な魔力ありがとう。でも、火山に着くまで気をつけてね。」

「そうだな。……そう言えば、姫はこの後街に出るのだったな。」

「はい。」

「ならば、今ここで再度“皆”から礼を。『皆!集まれ!』」


 炎龍さんがそう言うと、地面が揺れて、温泉の湖が泡立ち、空が陰る。

 次の瞬間には、視界一杯に南の火山からやってきたみんなが勢揃いしている。

 温泉から顔を出している火魚さんや空を舞っている火竜さん、地面から顔を覗かせている火鼠さん。他にも、沢山の魔物さん達が居る。


「……さて、我等は数日中には西の火山帯へと出発する。会えるのは今日で最後であろう。魔女の姫と魔女の眷属よ。『また会える時を楽しみにしている。』」

「はい。『また会いましょう。』炎龍さん。」


 私は手を振りながら、ベルさんとエルを連れて温泉を去る。

 温泉を離れて森に入る。少し時間が経った所でベルさんに声を掛けられる。


「姫さま。私はここで失礼するよ。主人様の家に行く前に森で野暮用があってね。……シエルによろしく頼むよ。」

「分かった。ベルさん。またね。」

「はいよ。」


 そして、私達はベルさんと別れる。

 ベルさんは人化を解いて魔鷲姿に戻ると羽を広げて木の間に消えていく。

 私はエルと二人きりになったので、色々と聞いてみる事にする。

 首から下げたダイヤを手に取る。


「ねぇ。このダイヤどうやったの?」

「? 普通に切断しただけじゃ。」

「……分かった。それじゃあ、保管庫で何かあったの?」


 とりあえず、詳しく聞けそうにないので保管庫で何が気になったのか聞いてみる。


「古い馴染みの気配を感じての。」

「……ごめんなさい。」


 保管庫で気配を感じたって事はエルの知り合いさんはもう亡くなっていると思う。私はエルに謝る。


「いや、構わん。あやつが死んどるのは知っておる。まぁ“世界”に迷惑を掛け過ぎたからの。しかし探してみたんじゃが、それらしき物は見当たらなかったのじゃ。」

「あー、それなら奥の方かも。その知り合いさんってどんな人?」

「人と言うか竜じゃな。暗黒竜じゃ。」

「暗黒竜って上位竜種の?」

「まぁ、そうじゃの。」

「なら、やっぱり奥だと思う。後で見てみる?」

「ふむ。時間があればじゃな。……アルフェ。昨日の風呂場での事は覚えておるかの?」

「…………うん。」

「連れて行ってはくれぬかの?」


 私は無言になる。実は家の周りでお仕事する時も避けている。本当はちゃんとしないとダメなんだろうけど。まだ許して欲しい。

 私はその後、家に着くまでずっと無言だった。エルも静かに隣を歩いている。


「……アルフェ。お主が心の整理が出来てからで良い。」

「分かった。」


 今の私ではこれが精一杯。

 私は家に入ると、杖を取りに自分の部屋に向かう。森の外に出るなら持っていかないと。


「どこに行くんじゃ?」

「私の部屋にある杖を取りに行く。」

「ほう。わしもアルフェの杖は見てみたいのう。」


 結局、エルと一緒に部屋に入る。私は屈んでベッドの下を覗く。


「えーと、……あった。」


 私はベッドの下から杖を取り出す。杖は私の背の2倍近くある。持ちづらいのですぐに短くする。あまり短くすると“武器”として頼りなくなるから程々にするけど。


「なるほどの。使ってるのは木だけのようじゃな。」

「そうそう。“ここ”の木を使ってるんだよ。……あっ、シーさんが来たみたい。」


 私は“杖”からシーさんが木に触れた事を“感じた”ので、エルと一緒にすぐに玄関へと向かう。

 いつもの私だと気付かないのでシーさんは驚くと思う。

 やった!

 玄関では食材を抱えたシーさんが私達を見て少し驚いていた。


#3


「……姫様。あれが私の住んでいる街よ。」


 シーさんの指差す方を見ると森の先に夕日に照らされた高い塀で囲まれた大きな街が見える。


 ……マーシェリー。


 私はやっとオーベリィへの“道”を歩き始めた。


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