マッチ売りの――少女?
お久しぶりです。星野紗奈です( *´艸`)
昨年は冬童話の公式企画に参加し、たくさんの意見や評価を頂けたので今年も参加しようと考えていたのですが……参加表明を期間中に出せませんでした(´;ω;`)
ここ最近、顔を出せていなかったもので。
でもテーマに沿って書くのもやりたい!ということで、「ifマッチ売りの少女」を通常の投稿作品としてここに載せたいと思います。
(先延ばしにすると書ききれなさそうだったので)あまり時間をかけられなかったので、構成が結構ぐちゃぐちゃかもしれません。
それでも大丈夫!読んでみたい!と言う方はこのままお進みください。
それでは、どうぞ↓
それはひどく寒い日のことでした。雪が降り始め、辺りはもう真っ暗な夜――今年最後の夜でした。この寒さの中、一人の可愛らしい少女は、街灯に照らされた賑やかな街を、美しい金髪を揺らしながら歩いていました。
「ま、マッチはいりませんか……?」
少女は小さな声を振り絞って、すれ違う人々に言います。しかし、誰も彼女のマッチを買おうとはしません。それどころか、少女にわざとぶつかってクスクスと笑うようなひどい奴までいたのです。
「だからこんな事したくなかったのに……」
少女がつぶやいたその言葉は、人混みに紛れてどこかへ消えて行きました。彼女がついたため息は、白いもやとなり夜空へ溶けて行きました。誰も、彼女のことを気に留めようとはしません。少女はコートも手袋も身に着けていませんから、スカートからはみ出た膝小僧や細やかな指先は、リンゴのように真っ赤になってしまいました。かじかんだ少女の手は、いくらすり合わせてもあたたかくなりません。マッチに火をつけて少し暖を取ろうかとも考えましたが、売り物ですからそんなことはできません。しかし、この寒い中ただ呆然と立ち尽くしていたら、自分はきっと凍えて――運が悪ければ死んでしまうでしょう。彼女はそう思い、あたたまることのない指先を一生懸命さすりながら、再び夜の街を歩き始めました。
しかし、一向にマッチが売れる気配はしません。少女は大変困りました。このままでは家に帰ることができません。父親に何をされるかわからないからです。今まで父にされてきたことを思い出すと、少女の顔は見る見るうちに青ざめていきました。かわいらしい笑顔を作ろうにも、顔が引きつってうまくいきません。すると突然、後ろから肩を叩かれました。
少女が振り返ると、そこには三人の男性がいました。太った男と、でぶでぶとした男と、脂っこい男でした。例えるならば、醜い三匹の子豚、でしょうか。
「ねえ君、今暇?」
脂っこい男は少女に言いました。少女はめんどくさそうなやつだなと思いましたが、控えめなかわいい女の子を演じてみせました。
「え、いや、あの……マッチが売れなくって」
「ああ、そうなの?お兄さんがぜーんぶ、買ってあげようか?」
今度は太った男がにやにやしながら言いました。裏の事情を隠しきれていない、とても気持ちの悪い笑みでした。少女は一刻も早くこの場から逃げなければならない、と感じました。なぜなら、この醜い三匹の子豚に捕まってしまったら、マッチを売るどころか家に帰ることすらできなくなるような気がしたからです。
「マッチを買ってくださるのはうれしいわ。でもね、私はこのマッチを必要としているなるべくたくさんの人に売ってあげたいの」
「じゃあ俺たちが手伝ってやるよ。だから、ちょっと相手してよ」
でぶでぶとした男も気持ちの悪い笑みを浮かべました。あまりにも気持ちが悪いものですから、少女はうまく笑顔をつくることができませんでした。醜い三匹の子豚は、少女の手を引いて暗い路地裏へ連れて行きました。かよわい少女を演じていた彼女は、抵抗することができません――いや、抵抗するわけにはいきませんでした。
「なあ、マッチ売りの少女ちゃん。俺らとイイコトしようぜ?」
醜い三匹の子豚は、そろってにたにたと笑みを浮かべています。少女は気持ち悪い以外の何物にも表現のしようがない笑みだ、と思いました。彼女は彼らがしようとしていることを、聞くまでもないと考えながらも、戸惑っている雰囲気を醸し出しつつ聞きました。
「あ、あのっ……イイコト、ってなんですか?」
「オトナの遊びだよ。君は言うことに従っていれば大丈夫だよ。」
「そうそう。ほーら、何にも怖くない」
脂っこい男はそう言って両手をひらひらと振って見せました。なんてありきたりで、いかにもで、つまらない返答だと少女は思いました。
「えっと、あの」
「大丈夫、大丈夫」
「だから、えっと」
「まあまあ、楽しいことしようよ」
でぶでぶとした男は少女を壁に押し付け――いわゆる壁ドン――彼女の唇に自分の唇を近づけていきます。少女はいよいよ、その気持ちの悪さに耐えられなくなりました。
「……そ……き……つ……さっさ……せ」
「なんか言ったかい、嬢ちゃん?」
その声は確かに少女の口から聞こえたのはずなのですが、男たちはそれを信じられませんでした。その声があまりにも男らしい声だったからです。
「――その汚い面を、さっさとどかせ!」
そう言った少女と思われる人物は、突然太った男を殴り倒しました。
「な、なんだこいつ!?」
「本当にマッチ売りの少女なのかよ!?」
残りの二人の豚は驚きました。少女が男を殴り倒すなんて、できると思っていなかったからです。混乱している男たちを目の前に、いかにも男らしい雰囲気をまとった少女――そう呼んで良いのかわかりませんが――は言いました。
「確かにマッチは売ってたけど、俺は少女じゃねえ。だいたい、いつ俺が少女だって言ったよ。勝手に勘違いしやがって。」
少女に見える男の子――世間でいう男の娘は、その容姿にはとても似合わない舌打ちをして、こう続けました。
「俺だってこんな事したくてしてるわけじゃねえんだよ。ただ――親父にポーカーで負けただけだ。だから、罰ゲームだよ。この格好でマッチ全部売って来いとか鬼畜過ぎるだろ、あのロリコンキモクソ親父め。てか、なんで俺が好きでこんな豚どもにべたべたと触られなきゃならねえんだよ」
男の娘はそう言って男たちを睨み付けました。すると醜い三匹の子豚はヒイヒイとおびえ、ガタガタと震え始めました。
男の娘は最後に、
「二度と、俺に近づくんじゃねえ」
と言い残して、美しい金髪を揺らしながら、賑やかな街の人混みの中へ消えて行きましたとさ。
結局少女は、マッチを売ることはできずに、家に帰りました。少女の表情は、まさにあきらめそのものでした。
重たい家の扉を押して中へ入ると、そこにはにんまりと笑う父親がいました。先ほど出会った醜い三匹の子豚とさして変わらない――いや、もっと気持ちの悪い笑みでした。
「お疲れさま。どうだった、今回の罰ゲームは」
「最悪だよ。マッチは売れねえし、寒いし、変な豚どもには絡まれるし」
それを聞いた父親はははっ、と笑い言いました。
「それは大変だったな。しかし、よくもまあ、こんなにも女装が似合うもんだ。可愛すぎて、憎らしいくらいだな」
「何かのゲームに勝つたびに息子に女装をさせるキモイ親父がいったいどこにいるんだか」
「ここにいるじゃあないか」
父親はそう言ってまた笑いました。
「そういえば、まだマッチをすべて売り切っていないじゃあないか。こりゃあ明日も罰ゲーム続行だな」
「ええ!?うそだろ……」
父親の言葉にがっくりと肩を落としている息子の耳に、美しいソプラノの声が入ってきました。男の子は嫌な予感に、思わず頬の筋肉がピクピクとが引きつります。
「なら、明日はこのチョコレートみたいなかわいいブラウンのウィッグをつけてちょうだいよ」
「母さんまで……」
嫌な予感は見事に的中し、女装のメイク担当である母親がニコニコしながらやってきました。父親と母親、この二人がそろってしまっては、たとえ息子であろうとも止めることはできません。だからこうやって、しかたなく毎回罰ゲームの女装をするほか道はないのです。
「明日はどんな衣装にしようかなあ、母さん」
「そうねえ、このフリルがたくさんついたやつなんて可愛いんじゃないかしら?」
「そうだね、そうしよう」
話を弾ませている彼らを横目に、男の子は頭を抱えました。
「もう勘弁してくれよ……」
男の娘として両親に振り回される男の子の言葉は、誰にも届くことなく、真っ暗な夜空に消えて行きましたとさ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました(*'▽')