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第9話 フワフワの訪問者とドングリ

時の空間から戻り、会社に着いた七海。仕事が終わって早くルビーに会いたいと思っている頃、ルビーはアパートの窓際に座り、どんよりした空を見ながら、窓の外を見ていました。


ふわふわの白い毛をした小さなウサギのような生き物が窓の外からベランダを見ています。顔を出したかと思えば引っ込んだり、また顔を出したり。

ルビーは気がつかないふりをして、じっとしていました。すると、その白いふわふわの毛をした生き物が、ベランダの鉢植えのそばに来ました。


ルビーはベランダに出る自分専用の扉を開けて「君は何をしているの?」と尋ねました。ふわふわのウサギのようなものは、驚いて跳びあがり、また姿を消してしまいました。

「だいじょうぶ、何もしないから出ておいでよ」


するとピョンと鉢植えのそばに来て「すみません。実は私の管理しているドングリは、ぴったり百の百倍あるはずなのです。でも、数えてみるとどうしても二個足りなかったのです。それで、私のご主人様がなくなったドングリを探してきなさいというので、あちこち探していたのですが、ようやく見つけました。この鉢植えのドングリが、私の管理しているドングリです。でも、不思議なこともあるものです。私がドングリに芽を出してもいいと合図をしないかぎり、ドングリたちは芽を出さないはずなのです。失礼ですが、そのドングリはあなたが拾って植えたのですか?」 と言いました。


「ああ、それはね、七海がドングリを拾ったとうれしそうに目を輝かせて持ってきたものだよ。七海は毎日水をやって芽が出たと喜んでいたけど」

「七海って誰ですか?」とふわふわした生き物が言いました。

「ここで一緒に住んでいる。まあ、人間的にいえば私の飼い主かな」

「七海っていう人にお会いしたいです。私のドングリたちに芽を出させる不思議な力を持っているのですから。月が出た夜にあなたの飼い主の七海さんに私が会いたいと言っていたと伝えていただけませんか?」


ふわふわした生き物はそう言うと、あっというまにいなくなってしまいました。

今夜は月が出るかなあと、ルビーは曇った空を見ながら、軽くあくびをしました。


ルビーの前足と耳がピクリと動きました。七海が帰ってくるようです。見えなくても、七海が帰ってくるのがわかります。案外そんなネコは多いのです。ただそれを知っている人間は少ないだけのようですが。

ルビーは玄関に行き、ちょこんと座って七海を待ちます。


いつものように、「ルビー、ただいま!」 と七海が元気よく帰ってきました。

「おかえり、七海。雨に降られなかった?」

「だいじょうぶ、サアーッと雨が降ってから止んで明るくなったから。それどころか夕焼けがとてもきれいなのよ。ほら、見て。見える?空の雲がオレンジ色にそまってとってもきれいよ」と七海はルビーを抱いて、窓際にいきました。


「不思議だな、今日はずっと曇り空だったのに。あっ、それより七海に伝えなければいけないことがあるんだ。七海が拾ってきたドングリなんだけど、その持ち主が訪ねてきて、月が出た夜に七海を訪ねてくるって言っていたよ」

「あのドングリに持ち主がいたなんて知らなかったわ。たくさん落ちていたから、いただいてもよいかと思って拾ってきたんだけど、どうしましょう」

「たぶん、そんなに心配しなくてだいじょうぶ。持ち主は、白くてふわふわした小さなウサギのようなんだ。ただ、自分が芽を出してもいいと合図をしないとドングリが芽を出さないのに、芽を出したことが不思議だと言っていた。だから七海に会ってみたいと」


ルビーの話しを聞いた七海は、ドングリの持ち主がいたのなら謝らなくてはいけないと思いながら、今夜は月が出るかしらと空を見上げるのでした。


今夜は月が出るのかしら?

では、夜を待ってまたお話しすることにしましょうね。

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