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第8話 時の流れの中で

七海は扉を開けていつものようにバス停に向かって走りました。

すると、景色だけが七海の先へと流れていきます。走っているのに前に進めません。時計が逆に回っているような感じです。


気がつくと、暗い道の入り口に立っていました。振り返ってみましたが、何も見えません。暗い道を進むしかなさそうです。歩く七海の目から涙が落ちました。

すると、「冷たいなあ、何だ?」という声が聞こえました。声がした足元を見ると、小さなねずみがぶるぶると震えています。「泣いていたのかい?私はね、ここでは石を投げられたり邪魔者扱いさ。その度に泣いていたらきりがない」とかわいい丸い目をくるくるさせながら言いました。石を投げるなんてなんということをするのかしらと七海はネズミがかわいそうでたまりませんでした。すると「君の考えていることはわかっているよ。だけど同情なんていらない。私がほしいものは本当のうそと本当の真実だけさ。」

本当のうそと本当の真実?嘘と真実に本物なんてあるの?ようやく言葉がわかるネズミに会えてもこれでは会話が続きません。何も言わない七海に「今に君にもわかるようになるさ、きっとね。その時にまた会うとしよう。では、これで失礼するよ」と七海の心を見透かしたようにねずみが言うと、スタスタ歩いて行ってしまいました。


暗い道の向こうにキツネがいるのかしらと七海は足を速めます。キツネが見えた草原に出ると、やはりキツネの穴がありました。七海は思いきって穴に飛び込みました。

「キツネさんはいらっしゃいますか?」返事がありません。留守かしらと不安になると、「こんにちは、いらっしゃい」と声がしました。キツネは今まで忙しく何かをしていたようでした。

「キツネさんは忙しそうですね、今だいじょうぶですか?」

「まあね、今仕事が終わったから」

七海はキツネの名前を聞くのを忘れていたことに気がつき「お名前を教えていただけますか?」と言いました。キツネは面倒くさそうに「私にはたくさん名前があるんだが」と教えてくれそうにありません。

「私の名前は七海です。ある人を知るということは、まず名前を知ることがとても大切なことではありませんか?」と言うと、キツネは納得したのか「私の名前はベクトルさ」と緊張した口調で短く答えました。

「名前を教えてくださってありがとう。私はもっと貴方の事が知りたいの。そうだわ!簡単なゲームをしましょう。相手が好きだと思う色を同時に言って、当たっていたら勝ちになるの」好きな色は?キツネは紫色、七海は緑色と言いました。「それでは正解を私から言うわね。私の好きな色は桃色。ベクトルさんの好きな色は?」

「私の好きな色かい?紫色」とキツネが言いました。

どうやら、キツネはゲームの意味をわかっていなかったようです。だって相手の好きなものを当てるゲームなのに、最初から自分の好きなものを答えていたのですから。

ゲームにはならなかったけれど、キツネの好きな色がわかったので七海はうれしく思いました。

キツネは面倒くさそうに「私はそろそろ眠る時間だ」と言いました。キツネの穴にある時計の針はお昼の1時を回っていました。「まあ、ごめんなさい、知らなかったのものですから。眠る邪魔をしてしまいましたね」七海は縄ばしごを上って地上へ出てました。歩き出すと今度は周りの景色が風のように後ろへ流れていきます。時計の針がどんどん進んでいくようです。キツネの住んでいる世界は未来それとも過去なのでしょうか?


七海は朝走り出したアパートの近くの道を歩いていました。時計を見ると、アパートを出てバス停に向かっていた時の時間です。キツネの名前と好きな色をもう一度つぶやきながらバス停へと走り出しました。走る七海の姿を見て微笑んでいるおじさんと愛犬テツにも気づかずに。

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