第51話 天使がくれた贈り物
正午12時を知らせる時計台の鐘が鳴りました。
七海はいつも会社にいる時に12時になるとキツネの王子と懐中時計で話したランチタイムを思い出していました。シンデラの物語では昼ではなく、12時間後の鐘が魔法が解ける合図なのですが、七海にとってランチタイムは唯一仕事から解放されるシンデラタイムの始まりだったのです。
時計台の正午の鐘が鳴り終わりました。すると七海は自分の過去の事を思い出しました。そうです、アパートで目を覚ました時に失くなってしまった記憶が戻ったのです。女手ひとつで育ててくれた母と暮らした母子寮での生活を思い出しました。そして母が亡くなった日の記憶も蘇りました。
七海は「私は今ルビーと暮らす前にいた所や母の事も思い出しました」と言いました。そして自分の母が苦労して育ててくれた事や母が疲労が原因で亡くなった直後に記憶が無くなり目が覚めるとアパートにいたことを話しました。
七海が生まれてからの事をよく知っていたふわさんは七海の話しを感慨深く聞いていました。なぜ七海にもルビーにもショージ博士にも黙っていたのでしょうか?
ふわさんは地球の管理を命じた方、つまり全てのものを造られた方に七海自身が思い出すまでは黙っているように必ず思い出す時が来ると言われたこと、誰かが七海の過去を話した所で七海の記憶が戻るわけではないという事をよく知っていたからです。
ふわさんは「その母子寮は今でもありますか?」と七海に尋ねました。母子寮はアパートで暮らした1年前まで住んでいたので、まだあると思いますと七海は答えました。ふわさんは「オッティ七海さんが暮らしていた母子寮について調べてくれ」と言いました。オッティにとって母子寮を探すのは簡単な事でした。地球の全てのドングリを管理しているのですからね。ふわさんはオッティから電話を受け取ると、母子寮の寮長さんに電話をして七海とその母親の事を聞くようにと促しました。ショージ博士は、自分の妻が事情があってそちらで暮らしていたと聞いて電話をしたという事、また何でも知っていることがあれば教えてほしいと言いました。しばらく話した後、電話を切ったショージ博士の目から涙がこぼれていました。そして涙を拭くと寮長さんから聞いた事を話しました。
ショージ博士の妻は、事情があり自分の名前と娘の名前を明かさないために偽名を使ってほしいと寮長さんに頼んだそうです。木村綾と七海と呼んでほしい。そして本当の名前は小路千代、娘の名前は詩音が本当の名前だと寮長にだけメモを渡していました。寮長さんは、そのメモを金庫の中に入れて大切に保管しました。
「私の娘の名前は詩音です。このお嬢さんがいなくなった娘だったなんて」と言うショージ博士にテツは七海のもとに駆け寄ると尻尾を大きく振って喜びをあらわしました。
七海は「私にお父さんがいたの?そしてショージ博士がお父さんなの?」そして「私はずっとお母さんが働いて苦労している姿を見てきましたし、母が亡くなった時一人ぼっちになったと思いました」とテツの首を抱くとテツに顔をうずめました。
天使の贈り物は、ショージ博士という父親だったのです。七海はルビーという大切な贈り物の他にこんなに素晴らしい贈り物を下さった神さまに感謝しました。
「さて、ルビーはこれで安心してネコの国へ帰れるのではないかね?」とふわさんが聞きました。
ルビーはネコの国へ帰るのでしょうか?
そして、ネズミのスカラーとキツネの王子はどうなるのでしょうか?




