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第30話 ショージ博士が科学者をやめた訳

「あら、もうこんな時間だわ。お腹すきませんか?」と七海が言いました。

「そうだね、まあ、いくら時間を昨日に戻してもらってもお腹がすくのは同じだからね」と明るく笑うとバード教授は台所へ向かいました。七海も後ろについて行き、バード教授が冷蔵庫の扉を開けると一緒に中をのぞき込みました。「バード教授、ベーコンがあるわ!パスタはないかしら?」バード教授は棚の戸を開けてパスタの袋を出しました。七海が「お料理はあまり上手ではないけど、昼食作りますね」と言うと「それは楽しみだな。何か手伝うことは…」と途中まで言いかけたバード教授の背中を押して「大丈夫!任せておいて。バード教授たちは待っていて下さいね」と鼻唄を歌いながら料理に取りかかりました。ルビーは棚の上から、そしてテツは七海の足もとに座り料理をする七海を見ています。

バード教授は「少し聞いてもいいかな?嫌だったら話さなくてもいいんだ。なぜ科学者をやめたのかを」とショージ博士に聞きました。二人は台所から離れたテーブルに座ると、ショージ博士が「君は私の親友だからね」と遠くを見つめて語り始めました。ショージ博士の話しはこのようなものでした。


ショージ博士はイギリスの大学を卒業すると、そのまま大学の研究室で働くことになりました。この大学には何百年も前ですが、光の研究で有名な科学者がいたので、大学では光の研究に力を入れていました。ショージ博士は研究室で朝早くから夜遅くまで熱心に研究に明け暮れていました。そんなある日、疲れをとるために大学内の庭のベンチに腰かけていると、隣のベンチに本を読んでいる女性がいました。その女性は清楚な服装をし、本を読みながら時折微笑んでいます。その日から隣のベンチで本を読んでいる女性を見かけるようになりました。しかし、お互いに言葉をかわすことはありませんでした。

そんな夏の日のこと、天気が良かった空が急に暗くなり強い雨が降ってきました。ショージ博士はあわてて校舎の軒下へと走り込むと、本を読んでいた女性も走って来て横に並び雨がやむのを待つことになりました。女性はショージ博士を見ると「こんにちは」と微笑みながら挨拶をしました。「こんにちは。先程まで晴れていたのに雨になりましたね」とやや緊張して答えると「ここの大学の方ですか?私はここの大学の学生です」という女性の声はまるで鈴がなるような美しい響きがありました。その日以後、庭で会うと挨拶をし、少しずつ話しをするようになり二人は互いに愛するようになりました。

やがて彼女が卒業すると結婚をして一緒に暮らし始めました。何年かが過ぎ、ショージ博士は研究でも成果を上げ、有名な賞をもらい、奥さまのお腹の中には赤ちゃんが宿り、幸せの絶頂にありました。産まれてきたのは、かわいい女の子でした。ショージ博士は忙しい研究の日々であまり家にいる時間がありませんでしたが、妻と可愛い女の子を深く愛していました。休みの日は女の子を自分の膝に座らせると、まだ話しもできない我が子に語りかけたりあやしたりして親になった幸せを感じていました。

そんなある日のこと、大学の研究室から帰ると妻と娘の姿が見えません。飼っていた犬のテツに「お前は知らないのか?二人はどこへ行ったのだ?」と言いましたが、テツは「くうーん」と悲しそうに鳴きました。ショージ博士は気が狂ったように妻と娘を捜しました。大学も休み、何ヵ月も捜しましたが何の手がかりもありませんでした。研究に打ち込み、家に帰える事が少なかったからだと自分を責めました。そして大学をやめて、ひっそりとした町へ移り住み、学校の先生として働くようになりました。


ショージ博士は天井を見上げながら「ふっー」とため息をつくと、バード教授は何も言わずにショージ博士の肩に手を置きました。

「スパゲッティーができたわ、食べましょう」と七海がうれしそうにお皿に大盛りのスパゲッティーを運んできました。

「どう?おいしくできているかしら?」と七海が心配そうに言うと「おいしいよ」とバード教授とショージ博士は同時に言いました。「やっぱりお二人は親友ね」と七海が笑いました。「ルビーとテツはこれよ」とベーコンを細かくしたお皿を置きました。ルビーとテツは同じお皿で仲良く食べています。にぎやかで楽しい楽しい昼食の時間でした。


さて、ショージ博士がどのようにして暮らしてきたのかが、少しわかりました。楽しい昼食の時間ですが、お話しを先に進めることにしましょう。

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