第29話 光のスペクトル
研究室を出た七海はブドウの木やラズベリー、虫たちに「こんにちは」と挨拶をしながら芳しい花に鼻を近づけて香りを楽しんでいます。庭を出ると、海岸のほうへと歩いて行きました。エメラルドブルーの海と白い砂浜。貝殻を見つけて大切にポケットの中へ入れました。ルビーとテツも七海の後を付いてきます。
七海たちが島を散歩している間、研究室ではバード教授とショージ博士が光の性質について話しあっていました。
「太陽の光は3つの原則がある。そしてプリズムによって色は約7種類に区分される。そこまでは良いのだが、そこからがよくわからないのだよ」とバード教授の言葉に「バード君は何を見て光が変化していると気がついたのかね?」とショージ博士が聞きました。「セスナ機で飛んでいるとよく円形の虹を見ることがある。その虹の色のバランスがどうも気になってね」ショージ博士は「虹か。よし分光器を作ってみよう。そういえば、昔一緒に作ったこともあったな」と二人は楽しそうにダンボールで出来る簡単な分光器を作り始めました。
さて、分光器が出来上がるとショージ博士は分かれた光を見て驚き「ちょっとこれを見てくれ。紫色だけがやけに太く濃いのだが」と眉をしかめました。
虹は赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の順番で並んでいます。1番端の紫色が太くて濃いために他の色が霞んで見えます。続けて「バード君、やはり君の言うことは本当だよ。このままでは太陽の光のもともとの色である白色と色のない黒だけが残ることになるかもしれないな」と呟きました。
バード教授は「セスナ機から見える虹はゆっくり観察することが出来ないからね。ありがとう、分光器のおかげで何が原因なのかがわかったよ。紫色、紫色。もしかするとキツネの王子だ!」と時計台の鍵を開けたときにキツネの王子の鍵が鋭い紫色の光を放ったことを思い出しました。
「何だね、そのキツネの王子とやらは」とショージ博士が尋ねました。バード教授は時計台での事をショージ博士に話しました。「なるほど。科学的には考えられない現象だが、地球にあるものはすべてが奇跡のように造られている事を考えれば、あり得ない話しではないな」と少し微笑みながら言いました。
奇跡を信じる友人同士によって原因が少しずつわかり始めました。丁度そこへ七海たちも散歩を終えて帰ってきました。
「見て!こんなにきれいな貝殻を拾ったのよ」とうれしそうにバード教授とショージ博士に見せました。「私たちもよくきれいな石を拾ったが、大人になると忘れてしまうらしい。まったく素敵なお嬢さんではないかね?」とバード教授が明るく笑いました。ショージ博士も「どれ、どれ。たくさん拾ったね、本当にきれいだ」と七海の手に乗せられた貝殻を見ながらうれしそうに笑いました。テツはそんな二人の回りを尻尾を振りながらぐるぐると回っているのでした。ルビーはテーブルの上に座って何かを思い出すようにあたりを見回していました。
さて、キツネの王子にまた会うことになりそうですが、急がなければ本格的な冬がもうそこまで来ています。




