第12話 ランチタイムはシンデレラタイム
布団に入りましたが、七海はなかなか寝つけないでいました。不思議なふわふわの生き物オッティ、そして空を飛ぶ初めての経験をしたのですから、仕方ありません。
朝目が覚めると遅刻しそうな時刻です。「きゃー!遅刻する。ルビー行ってくるからお利口さんにしててね」と扉を開けて飛び出しました。
あまり急いでいたので、歩いて来るおじさんと犬にもう少しでぶつかるところでした。
「あっ、ごめんなさい。だいじょうぶですか?まあ!かわいいワンちゃん」七海は座って犬の頭を撫でました。
「おはよう、お嬢さん。それにしても珍しいな、テツがすぐ人に慣れるなんて。どこかでテツと会ったことがあるのかい?」とおじさんが言いました。
「私は犬が大好きなんです。だからかしら?」
「それより急いでいるんだろう。私もテツも何ともないから行きなさい」とおじさんは優しく微笑みながら言いました。
「そうだわ。本当にすみません」とおじぎをしてから走り出しました「きゃー遅刻する!」
「わはは。本当ににぎやかなお嬢さんだ、なあテツ」テツはご主人さまが声を出して笑っているのを見てうれしくなり、尻尾を勢いよく振りました。
いつものようにランチタイムの鐘が鳴りました。七海は急いで昼食を食べると、「コンコン、きつねさんはいらっしゃいますか?」と、昨夜もらった懐中時計に話しかけました。
すると 「うん、いるよ。君は何かもらったようですね」とキツネの声が懐中時計から聞こえました。
「こんにちは。起きていたのですか?昨日ドングリのお礼にいただいたのです」
「そうか。君の話しはよくわからないが、まあいいでしょう」
それから毎日ランチタイムになると七海は懐中時計でキツネと話しをするようになりました。時々は寝ているのか留守のこともありましたが。
特別にこれといった話しをするわけではありませんが、少し前にあったことを話すと、いつも「そうでしたね」とキツネは言うのでした。まるで七海のことを全て知っているのではないかという考えを七海に抱かせました。七海はキツネの名前であるベクトルさんとは言わずにいつもキツネさんと呼んでいました。
毎日のようにランチタイムになると、夢中でキツネと話しました。時には年配の男性であったり、若者のようであったり、同じ年代の女性のようであったりしました。そして話しをしている間に目に浮かぶのは、金色の毛並みをして王冠をつけて、草原で眠っているキツネの姿でした。
ランチタイムの終わりを告げる鐘がなると、もうキツネと話す楽しい時間が終わってしまいます。12時のランチタイムは七海にとって、ひとときの楽しいシンデレラタイムのようでした。
もうすぐ七海にとって大変なことが起きることをこの時は知るよしもありませんでした。




