第11話 オッティと懐中時計
小さな白いふわふわの生き物オッティと夢のような空の散歩を終えてベランダに帰ってきた七海とルビーです。
オッティはドングリに「なぜ君たちは私の合図を待たずに芽を出したのですか?」とドングリの木の赤ちゃんに話しかけました。
ドングリの声は七海とルビーには聞こえませんでしたが、オッティには聞こえているのか「やはり、そうですか。七海さんを喜ばせてあげたかったのですね。それは私にもわかりますよ。でもこのプランターでは大きくなれませんよ」と何やら話しています。
「すみませんが、このドングリたちを大きくするために、私がお預かりしてもよろしいですか?」と七海を見て尋ねました。
「もちろんです。もともとオッティさんのものですもの、仕方ありませんわ。それに私もドングリさんたちが大きくなれないのではないかと心配になっていたところだったのですから」
「本当にすみません。私はご主人さまからドングリを育てる責任を任されているものですから」と言うと、袋を取り出してドングリの赤ちゃんを大事そうに入れました。
「では、七海さんのお話しを少し聞かせていただいてもよろしいですか?」
七海は目が覚めると、このアパートにいて、それまでの記憶がなくなっていたこと、ルビーと出会って暮らし始めるようになったこと、言葉のわからない暗い道に迷い込み草原でキツネと出会ったこと、ルビーが以前の飼い主であるセスナ機に乗ったおじさんに会ってから人間の言葉を話せるようになったことなどをオッティに話しました。
七海の話しを楽しそうに聞いていたオッティが「七海さんが出会ったキツネや、ルビーさんの飼い主のセスナ機のおじさんのことは、私の友人と言えるかはわかりませんが、知っていますよ。私のご主人さまはもっとよく知っているはずです」と言いました。
「知っているんですか?私はそのキツネに会いたいのですが、どうしたら会えるかご存知ですか?」と七海は興奮で頬を赤らめながら言いました。
オッティは「キツネに会いたいのですね。でも彼はたいてい夜中は出かけていますし、朝帰ってくるので人間の生活とは反対の時間にいるのですから、会うのはたいへんかもしれませんね。七海さんのために、これを差し上げましょう。私のドングリを育ててくれたお礼です」と、小さな懐中時計を七海に渡しました。
「この時計が、お昼の十二時になったら、キツネと話しができますよ。もちろん彼が、その時間まで起きていればのことですが。あっ、そろそろ夜十二時の鐘がなりそうですので、私は帰ります。七海さんにお会いできてうれしかったです。ドングリたちが、お世話になりました。では失礼します」と言うと、小さな傘を開いてふわふわと空へと消えていきました。
「オッティさん、ありがとう。夜の十二時と昼の十二時…まるでシンデレラタイムのようだわ」七海はオッティからもらった懐中時計を大切そうに胸にあててつぶやきました。
さて、オッティの登場でルビーとセスナ機のおじさん、そしてキツネが少し結びついてきましたね。どんな関係があるのでしょうか?
では、お昼の12時にまたお話しすることにします。




