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聖戦学院  作者: 雪兎折太
8/56

聖戦学院 8話 思惑巡る寮の夜

今回はバトル一切なしの日常詐欺回となってます

なので・・・あらすじ、どう書けばいいかわかりませんでしたorz



夜の学生寮で様々な人物が

偶然に、意図的に、さらには突発的に遭遇する!

さてさて皆さん何を話しているんでせうかね・・・?


聖戦学院 8話、思惑巡る寮の夜

なのです!


「つ、疲れた・・・」

結局、あの光球による激闘が終わったのは全ての授業が終わった後だった。

早めに終わらせて授業へと戻る算段だったのだが、次々と現れるモータルの幻が否応なしに襲いかかって来たので相手せざるを得ず、結果、スケアクロウを除くと15連戦する羽目になってしまった。

奇跡的に8階体育室が使われることはなく、誰にもこのことを知られずに済んだのは不幸中の幸いと言えるだろう。

外を見ると、とっくに二度目の日は沈んでおり、時計を見ると38時を回っていた。

明日こそはちゃんと授業に出よう、そう思いながら僕は学生寮の自分の部屋へと帰ることにした。


学生寮は学院の敷地内にあるが、校舎とは別の建物であり、その大きさは校舎と同じぐらい大きい。

それもそのはず、この学生寮は全校生徒、教職員全員の個室と、学年ごとの風呂、食堂、武器庫、トレーニングルーム、さらには避難用の地下室までもが備えてあり、まさに至れり尽くせりな施設である。

ちなみにトレーニングルームの利用は2年生からしか許可されていないので、必然的に僕の自主練は体育室などで行うことになる。

そしてなにより特筆すべきは個室の豪華さだろう。

シングルベッド、ミストクローゼット式洗濯機、学院の特別パソコン、その他諸々の設備が用意されており、基本生活で困ることはない。

高級ホテルにも引けを取らないその設備は、全学生が手放しで称賛し、思う存分その疲れを癒すことができる優れものである。


早く帰って風呂に入ろう、そして寝よう。

疲れ切っていた僕にはもう予習する気力も残っておらず、ただ休息を取ることを最優先として行動していた。

この学院は8階建てだが、何を思ったかエレベーターの類が取り付けられていない。

そのため学院から出るには律儀に1階まで降りなければいけないーーーということはない。

これはあまり知られていないことなのだが、五階より上の各階には非常用のグラインドレールが設置されており、それぞれの階に一つは学生寮行きのレールが敷かれている。

まあこの学院の魔境ぶりを鑑みれば、こういったギミックがあるのも当然といえよう。これが無ければ今頃全校生徒からクレームが来ているところだ。

8階の寮へのレールは、ちょうど体育室の窓のところにある。

レールの出立地点には、ただ白色のボールのようなものがふわふわと浮いているだけだ。そこへ手を触れさせ、少し魔粒子を送るイメージで力を込める。

すると突然勢い良く白い三本のワイヤーのようなものが飛び出し、あっという間にここと学生寮との簡易ショートカットを作ってしまった。

当然魔粒子で強化されていても、8階から落ちれば死ぬことはないが相当のダメージは免れない。

その為このグラインダーに乗るのはかなり勇気がいるのだが、今の僕は早く帰りたい一心のためそのことは頭になかった。

摩擦を防ぐために修行で使っていた手袋をはめ、剣が鞘に収まっていることを確認してから、レールの一本に両足を乗せ、それより上の位置にある二本にそれぞれ手を乗せ、バランスをとる。

力強く背後の窓を蹴り、レールの上を勢い良く滑り出す。強烈な風が僕の身体を襲い、髪の毛が猛烈になびくのを感じる。

とても目を開けておられず、つい目を瞑ってしまいそうになるがなんとか半目の状態でそれを堪える。

気分はまさに安全装置のないジェットコースター。

コースは平和的とはいえ、それを生身の人間が滑っているなら話は別だ。

遅れながらわが身にやってきた猛烈な恐怖心を必死に抑えながら、白線の上を猛スピードで滑っていく。

文字通りの臆病風に二重の意味で耐えていると、終着点である学生寮前の周囲が見えてきた。それに伴い、僕のスピードもだんだんと減速していくのがわかる。

次第に走る速度とそれほど変わらなくなり、徐々に余裕を取り戻す僕。

程よい高さに来たのを確認すると、レールから飛び降りてすぐさま寮の中へと駆け込む。

なぜかこちらには取り付けられているエレベーターーーーー魔粒子学で動いてるものだーーーに飛び乗り、自分の個室のある7階のボタンを押す。

1階1階登っていくその間さえもどかしく、扉が開いた瞬間に僕は飛び出していた。

目の前の、それもとびきり会いたくないやつがいることも気づかずに。

「おっと、危ないですねぇ、何やってるんですか天道寺君」

「あっ、すみません・・・一ノ瀬先生」

穏やかに僕を叱ったのは、一ノ瀬潤。あの日、僕たちを「政府」の道具だと言い放ち、あまつさえ死んでいった僕の先輩たちを使えないと嘲笑していた、最低の教師だ。

正直天野さんの言った通り先生と呼ぶのも嫌になるような人だが、一応教師と生徒の関係があるので、思いっきり敵意を込めながらも敬語を使う。

一ノ瀬先生はそんな僕を一瞥すると、一瞬何処か悲しそうな表情をしたような気がした。が、すぐにいつもの薄ら笑いに戻り、口調も変えて僕に接してくる。

「こんな夜更けまで何をやってたか知らんが、あの時お荷物だったお前に何ができるというんだ?さっさと後方支援にでも志願して、逃げ出しちまった方が楽になれるぞー」

ハハハハ、と侮蔑してくる一ノ瀬先生に対して、僕ははらわたが煮えくりかえるほどムカついたが、それをぶつけることはせず、ただ冷静に対処した。

「忠告、ありがとうございます先生。ですが僕はもう剣術科に志願しましたので」

「何だと!?!?」

あからさまに驚く一ノ瀬先生に、少し気圧されたがとにかく早く休みたいので、話をすぐに終わらせようと切り出す。

「進藤先生から推薦をいただきました。明日も剣術科の個人授業がありますので、お先に失礼させていただきます。」

一礼し、先生の側を通り抜けて一目散に自室を目指す。

「待て」

呼び止められたので渋々振り向くと、そこには先ほどまでとは一転し顔を青ざめた一ノ瀬先生がいた。

「剣術科、剣術科だと!?何故だ、何故お前たちは皆前線に出ようとする!?」

早歩きでこちらに近づきながら僕に怒鳴ってくるその姿に、得体の知れない怖さを感じつつ何とか抜け出そうと考えていると、途端に両肩を掴まれ叫ばれる。

「答えろ!!!」

しつこく聞いてくる先生に周りは気づいていないのか、視線を動かして時計を見ると38:50と表示されていた。まだ皆寮の食堂にいる時間なのだ。

どう答えようか迷っていると、何かを諦めたのか、舌打ちしてそのいらだちを隠さず乱暴に怒鳴った。

「っ、まあいい。もうどうなっても知らんからな!」

それだけ言うと、一ノ瀬先生は僕の肩から手を離し、早足に去って行った。

何をしたかったのか、何が言いたかったのかさっぱりわからなかった。

だがこれで漸く休める。今の僕にあったのは、その安堵感だけだった。


部屋に入り、すぐさま風呂の用意を整える。風呂場では他の思春期な生徒が絡んでくることが多いので、誰もいない今がチャンス。

ぱぱぱっと風呂を済ませてしまい、すぐに自室に戻る。

布団の中で、今日1日のことを振り返る。

先生との特訓のこと、習ったモータルの情報のこと、なにより、今日出会った謎の女子、天野美月のこと。

あの子は何故、永江先輩のフリをしてまで僕に近づいてきたのだろうか。

気がある、といった風には見えなかった。むしろ何か他に目的があるような・・・

「明日も・・・会えないかな・・・」

それが寝言だったのかそうでなかったのか、判別する間も無く僕は夢の世界へと意識を飛ばしていた。





「桜木、食べないのか?」

「ん、さっきから食ってるぞ?これは3杯目だ」

ルクスが眠りについたのとほぼ同時刻、学生寮の大食堂にて晩食を取っていた生徒のうちの二人、桜木悠と里村輝は、何時ものように談笑を交えつつ食事を楽しんでいた。

「3杯目・・・馬鹿な、貴様そこまで食べて何故太らない!?」

「お前は女子か」

パクパクと目の前の料理を次々と平らげる桜木に対し、信じられないと里村はこぼす。

その言葉に、周りの女子の目線が一斉に桜木に向くが、本人は全く気にするそぶりを見せない。

「体重とかそんなもん、ひたすら動いてりゃ嫌でも落ちるだろ。お前は動かないから太るんだよ」

そう言いながら、食事を進める彼の皿には、もう5杯目の白米が注がれていた。

「別に太ってはいない!ただお前の食べっぷりと体重が比例していないことに納得がいかんだけだ」

周りから、全くだ、と同意する気配。そんなもん知らんと肩をすくめる桜木に、一部女子からの羨望と妬みの視線が飛ぶ。

「だからさ、動けっての。食った分動けば嫌でも体重下がるからさ、いやマジで」

密かに体重が増え機動力が落ちていることを気にしている里村は、同学年の中でもかなり弓術に長けてはいるが、その分激しい運動があまり得意ではないので、動けと言われても困るのである。

そしてこの日以降、前線志願の女子達の士気が大幅に上がった。

などと他愛もない話を駄弁りながら、周りの人数も少なくなってきたところで、本題とばかりに里村が切り出す。

「そう言えばお前は聞いたか?例の「死神」の話」

打って変わって真剣な表情で尋ねる里村だが、桜木はあまり真面目に聞かずに目の前の食事を平らげることに意識を向けていた。

7杯目が終わり腹八分目といったところか、漸くそのスプーンを置いたところを見計らって、同じようにもう一度尋ねると、今度は目を丸くしながら答えた。

「「死神」?いや聞いてねえな、なんだそいつは?」

初耳だと言う桜木に情報収集を怠らないよう叱った後、里村は説明を始める。

曰く、「死神」とはここ最近日本全土に出没する謎のモータル狩りであり、今「政府」が発表している指定危険人物の一人。

モータル狩りとは言うが、目についたモータルはおろか、その場にいた人間にさえ攻撃するなど、その危険性は並みのモータルの比ではない。戦闘力もかなり高いらしく、2年や3年が撃退するのが精一杯なモータルでさえ一撃で葬るほどの実力を持っているらしい。

誇張的な表現はあるやもしれんが、警戒するに越したことはないと里村は言う。

「で、なんで今更その死神とやらが出てくるわけよ?基本モータルしか襲わねえんなら少なくともここには害はないんじゃねえの」

興味なさそうな桜木に対し、里村はいまだその表情を崩さない。怪訝そうに顔を見てくる桜木に、里村はもう一つの噂を伝える。

「「死神」が、この学院の近くに出没したとの情報があった」

ガタッ、と桜木が驚嘆とともに勢いよく立ち上がる。

「おい・・・この辺りにはモータルはあんまし出ないはずだよな。なんでこの近くにいるんだよ」

「分からない。だが用心するに越したことはない。あの一ノ瀬潤までもが対策に協力的なのだ。万が一ここを襲われるなんてことになれば、被害は想像を遥かに超える」

唐突に告げられる災害予報に、立ち上がった姿勢のまま唖然とする桜木と、椅子に腰掛けながら不安を抱える里村。

まだまだ賑やかな食堂ホールの中でも異彩を放っていることに気がついていない二人は、はたから見れば結構シュールな光景だったが、その自体の重さは二人にしか分からない。

あのドラゴンの襲撃は完全にお遊びだった。あれが全力を出していれば討伐隊の自分たちもこんな五体満足では済まなかっただろう。

そんなレベルよりもさらに上の相手が、あろうことか自分達の命を狙っているかもしれないのだ。腕に自信がある二人でさえも恐怖をぬぐいきれないのは当然とも言える。

「まあ、ここで不安になっていても仕方ない、とりあえず今日はゆっくり休んで、明日進藤先生や他の実力者も交えて、改めて相談するとしよう」

「そうだな」

里村が締め、二人は食器を片付けーーー勿論学生カードでだがーーー、そのまま各々の自室へと向かうため、寮のエレベーターへと向かった。




学祭寮の教員専用個室にて一人、真剣に悩んでいる男性がいた。

机の上にはいくつかひよこ菓子が並べられ、男性はそれをじっと見つめている。

「・・・・・・」

男は困惑しているのか、それとも警戒しているのか、なんとも言えない表情でそれらを見つめ、指でつっつき、手のひらの上で転がし、しかし決して食べようとはしなかった。

「怪しい。の、だが・・・ひよこ菓子・・・どうする・・・」

かれこれ1時間ほど唸りながら考えているのは、進藤一だった。

教員室で一ノ瀬潤から渡されたひよこ菓子を、どう処理するかで悩んでいるのだ。

あの人のことだ、罠かもしれない。しかしひよこ菓子を調べた結果何も異常は感じられなかった。だが用心に越したことはない。ああでも本当に何もなかったら私はどうすれば。

などとぶつぶつ言いながら武士のようなその顔を歪めて一人腕を組みため息をつく進藤。

「あれ、進藤先生。扉開けっ放しで何してるんですか?」

と、そこは現れたのはポニーテールの1年生だった。

しかし進藤が担当している生徒ではないので、彼はこの少女の名前を知らない。

「いや、このひよこ菓子をだな・・・」

そう言いながら机の上に置いてある、悩みの種そのものを指差すと、それを見た少女が顔を輝かせて物欲しそうに進藤を見上げる。

「先生これ要らないんですか?要らないんなら下さいよー」

「いや、一ノ瀬先生から貰ったものなのだが・・・」

そう言いつつちらっとひよこ菓子をみる進藤。心なしか不服そうな顔立ちのひよこに思わず申し訳なさそうな顔をしてしまう。

「関係ないですよそんなの。本当に貰っちゃいますからね!」

そう言いながらそろりそろりと手を伸ばす少女。進藤はやれやれと首を振りながら、このひよこ菓子をこの快活そうな生徒に譲ることにした。

元々入っていたパッケージの中に、12個のひよこ菓子を全て詰め込み、少女に差し出す。

喜んでひよこ菓子を貰い受けた少女は、帰りかけた所で何かに気づいたように急に動きを止め、再び進藤の方を見る。

・・・やはり何か入っていたのか?

そう考えながら身構えつつ少女を見ると、その手には一つのひよこ菓子が握られていた。

「そういや先生、これ貰い物なんでしたよね?ひとつぐらい食べないと失礼ですよ」

思いっきり狼狽える進藤。正直あの一ノ瀬潤という人物から貰い受けたものなどあまり口にはしたくないのだが、体裁というものがあるので、仕方なくひとつ口にすることにした。

その旨を方にすると小さく笑って駆け寄ってきた少女の手からひょいと一つだけつまみ上げ、口にする。

ーーーふむ、美味い。

意外に思ってもう一つ取ろうと手を伸ばそうとしたが、既に少女は部屋から去った後だった。


ちなみに後日、一ノ瀬潤(の態度)によると、ひよこ菓子に一切の毒は入っていなかったことがわかった。

あとがきとなります、オルタです。

日常って・・・なんだっけ・・・

なんだかルクスくんが戦いっぱなしなのでそろそろ休ませてあげたいなーなんて思っているのですが、そこに死神登場の気配。

未だに次の回で休ませてあげるかどうか悩んでます・・・


ちなみに一ノ瀬先生が渡したひよこ菓子ですが、彼の好物ということになっております。各キャラの出身地などは考えていませんが、一ノ瀬先生だけ特定できそう・・・?

そろそろ何らかの絡みをもたせたい。


と、今回はここまでとなります

出来れば次回もお楽しみに!

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