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聖戦学院  作者: 雪兎折太
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聖戦学院7話 その名は天野美月

永江菖蒲の名と姿を騙り、ルクスの前に現れたのはポニーテールの童顔少女?

彼女から渡された謎の光球を手に、ルクスは再び修行を開始するが・・・?

「あたし、永江さんじゃないんだ・・・ゴメンね」


ーーーはい!?

訳がわからない、目の前の人が永江先輩ではない?

ドユコト?ホワイ?なぜ?

「じ、じゃああなたは誰なんですか!?どう見ても永江先輩にしか見えないんですけど」

外見は完全に先輩のものだ。パッツン頭に丸メガネ、そしてその独特な喋り方も先輩のもの・・・だった。

僕が当然の疑問を呈すると、混乱の元凶である当事者は仕方がないといった風に口を開く。

「この姿は本当のあたしの姿じゃないの、私の魔法でちょちょいっと変装してるだけ」

今解くね、と彼女は戦いの前に脱ぎ捨てたローブを拾い上げ、再び全身を覆う。

すると、ローブの中から光が溢れ出し、少女の姿を覆い尽くす。眩しさに思わず目を背けてしまうが、かろうじて中身を見えるように目線を動かすも、全く見えない。

光が収まると、少女はフードをまたしても脱ぎ捨て僕の前にその真の姿をあらわした。

そこにいたのは、確かに永江先輩ではなかった。

年齢は僕と同じくらいだろうか、身長は僕より少し高いものの、その顔立ちはどこか幼さを感じさせるものがある。

髪はいわゆるポニーテールというやつで、色は茶色。

胸はそこまで大きくはないものの、腕を組み体を反らしているその姿勢で少なからず強調されている。

一言で言うならば、年上ぶってる少女、と言ったところだろう。

胸のことについては出来る限り視線を移さないようにしながら、僕は言葉を選んだ。

「え、えっと・・・あなたは?」

「同級生なんだし敬語はいいよ、天道寺ルクスくん。あたしは天野美月。美しい月で、美月よ」

自己紹介を終えると、天野美月と名乗った目の前の少女は、マジマジとこちらを見つめた後、にっこりと一言。

「・・・君、ひょっとして女の子、慣れてない?」

「んなっ!?」

いきなり爆弾投下。初対面の女の子にこんなことを言われて、平静を保てるほど確かに僕は慣れてはいないが。

「だってさっき、あからさまにあたしの胸避けてたでしょー?」

などとケラケラ笑いながら挑発してくる天野さんに、思わず言い返す僕。

「み、見てない、見てない!ていうか初対面でいきなり何言ってるんですか!?」

冷静に対処しようとしたものの、当然のごとく失敗し動揺を隠しきれていない僕に、天野さんはごめんごめんと軽く謝罪する。

「まあそんなことはどうでもいいとして、ルクスくん、さっき君が使ったのって、光の魔粒子だよね?」

と、表情はそのままで急に真面目な話に戻してくる。

天野さんが言う光の魔粒子には、強力な反面結構宿主を選り好みする傾向があるーーーー要するにレアだということだーーーーので、天野さんが珍しがるのも不思議ではない。

僕も、僕以外で光の魔粒子を使っている、なんてのは聞いたことがないし、見たこともない。

悠や里村先輩、さらには進藤先生にも、使えるということはは話してはいるが、見せるまでは半信半疑だった。

それもそのはず、光の魔粒子には、ただ一つとんでもないデメリットがあるからだ。

「そうだけど・・・内緒にしていてくれるとありがたいな」

「いいよっ」

僕が頼むと、天野さんはあっさりと承諾し、

「でも、あたしのこれも秘密にしといてね?」

と、自分が投げ捨てたフーデッドローブを親指で指し示す。

「了解。で、何で永江先輩のフリしてまで僕の修行に付き合ってくれたの?」

ここで、ずっと疑問だったことを投げかける。僕と目の前の少女は初対面だ。

僕の当然とも言える疑問に対し、その原因である少女は少し考えた後、口を開く。

「えっと、さ。光の魔粒子を持つ人は、モータルに狙われやすいって・・・知ってる?」

知っているとも。何故ならそれが光の魔粒子の最大のデメリットであるからだ。

この前の戦場で真っ先に僕が氷鳥に襲われたのも、おそらくはそれが原因だろう。悠たちは気づいていなかったが、僕がいなかったら、あるいは別な魔粒子を持っていれば、氷鳥の数羽は別のところに行っていただろう。

「それってさ、同じ光の魔粒子を使う人にも言えるんだ。つまり、同じ光の魔粒子を持っている人は、お互いの存在が感覚レベルだけどわかるってこと」

それは初耳だった。それもそのはず、この学院に入る前も後も僕と同じ光使いなんて知らなかったからだ。

でもーーーそれだと。

「つまり、僕以外にも光の魔粒子を使える人が?」

それを知っている彼女は、少なくとも僕以外の光使いを最低二人は知っているということだ。

僕は少し興味をそそられた。今までこの話題を持ち出せる人がいなくて少し残念に思っていたのだ。理解者が増えるのは、素直に嬉しい。

「うん、いるよ」

その答えに僕は顔を輝かせる。

「ど、どんな人?」

「それは」

くるくると回りながらステップを踏み、僕の後ろに回り込み、振り向くと、一言。

「内緒」

悪戯っぽく、そう言い返したのだった。



結局、その後すぐに天野さんはどこかへ行ってしまった。

サボる云々はどうやら本気だったのだろう、去り際にジュース買おう、とか、焼きそばもいいかも、などとこぼしていた。

食堂が空いているのだろうかという疑問を頭の隅に置き、折角なのでこの1時間30分を利用させてもらおうと考え、体育室の隅に置いていた木刀を再び手にとる。


滝宮学院の授業は1日10時限、1時限につき90分だ。最低10時起床で14時から授業が始まり、休み時間は30分。

移動教室も当然あるので、30分というのは中々丁度いい長さだ。体育館も馬鹿みたいに広く、ここの学院の外観を知る前は、本当に空間を捻じ曲げてるんじゃないかと本気で考えていたほどだ。

そして5時限目を終えると昼休みに入り、その長さはなんと驚きの2時間。

昼休みの後は残りの5限を済ませ、自由時間となる。

部活や自主練、自分の得物の調整、友人や恋人との団欒など、皆各々のやりたいように仮初めの青春を過ごしている。

僕はというと、今までは特にすることもないので、寮に戻ってこの光の使い方の練習ーーーーーかなり適当になので鍛錬の回数に数えられるかも怪しいーーーーをするなど、割と雑に過ごしていた。



「けど、今のままじゃダメだ」

自分に言い聞かせるように呟き、無心で剣を振るう。

かつての行いを恥じるように、その力がだんだんと強くなり、気がつけば素振りの音がはっきりと聞こえるほど速く振っていた。

でたらめになりかけていた自分を上手く調整し、あくまでも平静を保ったまま、最大限の力でひたすら空気を斬り裂く。


と、そこで部屋の片隅にある謎の光球に気がついた。

気になり、素振りをやめて近づいてみると、そこには「邪魔しちゃったお詫びとして、これを置いておきます。役に立つと嬉しいな」

という可愛らしい字で書かれた書き置きとともに、説明書ーーーこちらも手書きだーーーのようなメモ用紙が貼り付けられた光球が一つ。

藍色に光るそれは、メモによると「修練用仮想敵・easy」というものらしい。

どうやら、これを使うと幻で出来たモータルが投影され、使用者に襲いかかってくるようだ。

実戦形式の修行を安全に行うためのものだろう、こんなものがあったのならもっと早くに使えばよかったかも知れない。

善は急げだ。僕は早速この光球から仮想敵を呼び出してみた。


すると、現れたのは一匹の、いや一本の案山子。

意外なものの登場に、思わず目を丸くしてしまう。

が、脳内メモリーにあるこいつの情報を思い出し、なるほどと思い木刀を構え、気を引き締める。


こいつの名前は、「スケアクロウ」。

英語名なのは初発見場所がアメリカ大陸だったからであり、現地の人が名付けたのでこの名前になったと言われている。

見た目は一見、ボロボロの長袖の布の服を着たただの木製の案山子だが、その正体は狡猾な悪魔であり、人が近づくとその本性を表し、隠していたその爪で容易に人を八つ裂きにする。

このモータルのせいで、多くの農家の人々が犠牲になった。

そのためつけられた名前が、スケアクロウ。案山子という意味と、恐怖の爪という意味の、スケアリー、クロウ、のダブルミーニングだ。

機動力は皆無だが、近づくと放たれるその爪の速さはかなりのものであり、油断すれば一瞬で命を狩られると言われている。


「つまり、近づかなければ問題ないんだよな」

思い出すようにそう口に出し、一定の距離を保ったままに木刀を構え、すり足で歩く。

スケアクロウの方も、僕の方をじっと見据えてその偽物の瞳を見開きながら体を回す。獲物を視界から外してたまるかという、狩人の意地。

ある程度こいつの動きを見ようと思ったが、いかんせん結局は案山子なので、自分から動くことが全くない。上半身も回っているだけで、腕はピクリとも動きはしない。

動くしかない、そう思わせるのがこいつのやり口。

こいつの罠を知っている僕は、どうしたもんかと考えを巡らせる。

そして、ある結論に至り、即座に実行に移す。

腰を落とし、足に出来る限り力を込め、急加速。

一気に敵の射程に入り、その瞬間。

作り物のはずの顔が、不気味な笑いを浮かべ。

バキバキッという木を無理やり動かす音が聞こえた時には、既にその鉄爪は大きく振りかぶられていた。

しかしーーー遅い。

「ふっ!」

急停止からの大ジャンプ。いきなりの方向転換に計算を狂わされた案山子は、体制を立て直そうとその体を元に戻そうとする。

だが遅い、本来曲がるはずのないものを無理やり曲げたため、腕の役割を果たす木材が言うことを聞かない。

スケアクロウの弱点は、攻撃後の僅かな硬直。

授業で教えられたモータルの情報は、全て暗記している!

「せぇやっ!」

全体重をかけての振り下ろし。本物なら木刀が折れただろうが、これは練習用の幻だ。文字通り、作り物の案山子はあっさりとその役目を終え、幻で出来たその体を霧散させた。


幻の敵を倒した僕は、勝利の余韻に浸るわけでもなく、ただ自分がさっき感じた感触を確かめていた。


軽い。


殺意も、動きも、本物のモータルの殺意とは比べるまでもなく軽い。

授業の映像資料で見た本物の「スケアクロウ」の鉄爪は、それこそ視認不可の速度で振るわれていた。

にもかかわらず、僕は先ほどの爪撃の軌跡をほぼ完全に視認出来た。

それだけではない。表情こそ再現されていたものの、本来敵対したものからは必ず感じるはずの恐怖に似た感覚、つまりは殺気が殆ど感じられなかった。

幻ということを事前に知っていたとはいえ、人間は強大なものを相手にする際、大抵は否応無しに恐怖を抱くものだ。

なのに、僕は最初から全く恐怖を感じていない。

幻のスケアクロウを倒した今でさえ、安堵も達成感もなく、ただ倒せて当然と言ったような、まるで簡単な仕事を一つ終えたかのような感覚に陥っている。

もし今のが本物のスケアクロウだったとしたら。

僕は確実に死んでいたであろう。

あの爪の速度に対応する暇もなく、一瞬でその首を跳ね飛ばされていたはずだ。

映像で見ただけでもわかるその強大さであるが、こんなスケアクロウでさえ数多くいるモータルの中では最低クラスの種であるらしい。

「やっぱり幻か。こんなんじゃあんまり修行にはならないかな」

と、僕が期待外れとばかりに呟いた、そのとき。

「レベル0、クリア レベル1、スタートシマス」

へ?と僕が驚く暇もなく、またしても光が何者かを形作る。

現れた炎の魔狼を視野に入れると、途端に僕の体は猛烈に震え上がり、全身に脳が警鐘を鳴らす。

今度は、先ほどとは比べ物にならない殺意を感じた。






あの子は喜んでくれただろうか。

体育室を去り一人食堂に向かう少女、天野美月は先ほどまで会話していた少年のことを思い浮かべる。

彼女が渡した自作のシミュレーターは、敵を倒すとだんだんと難易度が上がっていく仕組みになっている。

はじめはスケアクロウの「幼体」。続いて炎狼、砂漠トカゲ、果てはナインテイルなど、強さもタイプも様々なモータルの幻が次々と現れ、使用者が続行不能と判断されるまで続く。

ちなみに全て美月の知識から作られているので、知らないモータルを出すことは当然不可能だ。

例えば、先日学院に襲撃をかけたという、ドラゴン。

美月はその現場に居合わせられなかったので、実物も、そして何故か資料も見ることはできていない。

どうして隠匿する必要があるのか、それはひとえに美月が一年生であるからだろう。

「あの子はどこまでいけるのかな?あたしは殺人ウサギが限界だったけど、あの子にはせめてリビングブックまで行って欲しいな」

それからそれから、などと妄想を膨らましている彼女はすっかり破顔しており、しかしそれは恋に浮かれる少女のものではなく、戦友となる相手を見つけた戦士のような表情だった。

「早く一緒に戦いたいな。同い年で仲良くできると思うんだけど」

そう言いながら踊るように階段を降り、笑顔のまま最後の一言を虚空へ投げる。

「ーーーーを潰そう?天道寺くん」

その一言を知るものは、誰もいない。





教員室、それは生徒が少なからず距離を置く魔境である。

キーボードを打つ音、書類が作られる音、飛び交う授業への提案、あるいは生徒を叱る教師の声。

この学院も例外ではない、少なくとも1年にとってはまだただの士官学校なのだから。

「朝比奈先生、次の授業に使うプリント、ここに置いておきますね」

今時珍しい電化製品のファクシミリからプリントを取り出し、ある女性教師のデスクに置いた凛々しい顔立ちと整った髪型が印象的な男性は、音楽科教師の一ノ瀬翔だ。

研究科の一ノ瀬潤の弟であり、兄とは違い教員試験を受けてここに来たという、今の時代ではかなり特異な経歴の持ち主だ。

「あら、ありがとうございます翔先生。ついでにコーヒーのおかわりもらえますか?」

「ダメですよ、今は休み時間じゃないんですから」

デスクに置かれたプリントを取り、コーヒーのオーダーを却下された、ふんわりとした何処か自由人っぽい雰囲気の女性教師は、朝比奈先生こと朝比奈凛だ。

担当科目は生物学ーーーモータルの生態などを教える教科だーーーで、外見に似合わずその豊富な知識から容赦なく発せられるその毒舌によって、生徒にも、あるいは教員にさえ恐れられている彼女は、手にした紙を一目見ると直ぐにファイルに直し、ぶつぶつと恨みの言葉を口にしながらデスクワークに戻る。

「そんな不機嫌そうな顔しないでくださいよ、飴あげますから」

「私は小学生じゃないんですよ!」

ダンダン、と両手で抗議するようにデスクを叩き、ぷくーと頬を膨らませる朝比奈。対してまるで手のかかる子供を相手にして困っているという感じの一ノ瀬翔。

「二人とも、ここは教員室です。子供じゃないんですから静かにお願いします」

「ちったぁ黙れよ翔、ブス女。うぜえったらありゃしねえ」

ほぼ同時に声をかけたのは、剣術化教師の進藤と、謹慎中のはずの一ノ瀬潤だ。

「・・・一ノ瀬先生、どうしてあなたがここに?」

「決まってるでしょう、無礼を働いたら其れ相応の詫びを入れないといけませんからねぇ」

あからさまに警戒する進藤と、嘲笑うかのような笑みを浮かべゆっくりと近づく一ノ瀬潤。あわや衝突、といった雰囲気に耐えかねて一ノ瀬翔と朝比奈は何処かへ行ってしまった。

両手をズボンのポケットに入れたまま、威圧するように目の前まで来ると、何かをポケットから取り出して進藤に差し出す。

「どうぞ、お詫びの品です」

唖然としている進藤に向けて、別にやましいことはないです、と付け加える潤。

「どうしてあなたが、こんなものを、私に?」

「だからさっきも言ったでしょう、無礼には詫びが必要だと。この間のお詫びですよ」

理解しかねる、と一ノ瀬潤に疑問を呈すると、肩をすくめながら答える。

正直自分の知っている一ノ瀬潤はこのようなことはしないと、直感的に思いながら渋々それを受け取った。

「それでは、これからは良い関係を築いていきましょう。進藤先生?」

「あ、ああ、そうしましょう一ノ瀬先生」

それでは、と目の前から立ち去っていく一ノ瀬潤を見送りながら、進藤一は釈然としないまま渡されたそれを見た。


差し出されたそれは、12個入りのひよこ菓子だった。

あとがきとなります、オルタです。

さてさてそろそろマンネリ化が起こって来たところでしょうか・・・やはり日常回は難しい(えっ、こんなの日常回じゃない?ウボァー)

ようやくヒロインっぽいキャラを出せました。というか今時のヒロインって大抵即主人公スキーになってしまう傾向があるので、そこは気をつけようと思います。

ただ、この時点で既に彼女にはルクスになんらかの興味がある様子。何でしょうかね?

次回、急展開の予定!お楽しみにしてくれたら嬉しいです!

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