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聖戦学院  作者: 雪兎折太
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聖戦学院 45話 韋駄天と電光石火

侵攻する巨竜。

それを是とする崇拝者。

三人の少年は各々の意思を持ってそれらとの戦いに挑む。


「はああっ!」

「ふんっ!」

激情を込めて振るわれた光剣が、薙ぎ払われた影鞭を相殺する。

白と黒のフラッシュの嵐に包まれた二人の学生が、戦意を込めた眼差しをぶつけ合う。

「美月を・・・返せ!!」

強い一言とともに、光剣の担い手であるルクスが白い斬撃を放つ。

右に、左に、斜めに縦に。

しかし相対する影使い、安村は労せず全てを避けながらも、底意地の悪い笑みを浮かべてルクスに言い放つ。

「そうはいかない。彼女は大切なパーツだからね」

そのまま壁際に飛び退くと、身を屈めて両手を手を地面につけた。

そこを起点として影が円状に広がり、まるで黒い底なし沼のような影溜まりが出来上がった。

「っ!」

脳裏に響く警鐘に従い、すぐに身を翻したルクスの判断は正しかった。

黒い沼からは影杭が次々と飛び出し、空中であり得ないほどに捻じ曲がってルクスのいた場所を刺し貫いていく。

一度の波が終わればすぐまた次の影杭が現れて、少年の足を休ませない。

「くっ、そおおっ!!」

苛立つ少年の声が鳴り響いても、むしろ影杭はその勢いを増して行く。

二本が四本、四本は八本。

累乗形式の如くその数を増やし、いつしか地面だけでなく、天井や壁からもその身を突き出すようになっていた。


まさに針のむしろのような状況だが、それでもルクスは自分でも意外な程に冷静だった。


ーーーこのままだとジリ貧になる。どうにか美月を救い出す方法はないか。


彼の目的はあくまでも「天野美月の救出」であり、安村を倒すことではない。

全身から発する怒りの波動は偽りではないが、それよりも彼にとって気がかりなのは、友人である美月の安否だった。


ーーー影の檻。あれを維持するのにも魔粒子を使っているはず。

ーーーーけど、何処から送り込んでいる?


少年のいる場所から少し離れたデスクの側で、ドーム状の影の檻はあった。

しかしその根元に供給口のようなものは無く、安村がそこへ影を送っているような様子も無い。


ーーともあれ、奴が一歩も動いていない所を見ると、影杭を操っている間は動かないみたいだ。

ーーーーこのまま持久戦を続けて檻が自然消滅するのを待つか、それより早く影の檻を叩き斬るか・・・


普通の人間ならば破壊しようにも影故に強度が読めず、下手に強力な一撃を放てば、美月で斬ってしまいかねないと逡巡するだろう。

だが少年は、生半可な一撃があの檻に通用しないことを直感的に理解していた。


ーーー美月がこれ以上苦しむのを、黙って見ていられない。


四方八方から伸びる影杭を避けながら決心し、回避先を徐々に檻へと近づける。

安村に悟られるよりも早く、ある程度の手加減を加えて光の斬撃を放つ。

「はああっ!」

眩い光を放って振るわれた一撃は、しかし影の檻の前でピタリと止まる。

「!?」

普通のものとは違う、衝撃や反動といったもの全てを飲み込むような、異常とも言える手応えに戸惑いつつも少年は檻から飛び離れる。

その間にも安村は攻撃の手を休めることなく、ひたすらに杭を打ち放つ。

「諦めろ。それはお前如きが破れるようなものではない」


ーーー確かに、あの衝撃は普通のものじゃない。魔法で作られたものではないのかも。

ーーとなると、まさか・・・バルトアンデルスか?


精霊の作った檻となれば、確かにまだ未熟な自分が破れるようなものではない。

経験の浅い脳が導き出した答えを一先ず仮の解として、次の一手を模索するルクス。

しかしその時間すら与えないとばかりに、安村が行動を起こした。


「・・・ッ!!?」


その声はルクスの口から零れたものだ。


いつの間にか影の沼から姿を消していた安村の脚が深くみぞおちを抉り、それ故に起こる激痛に耐えかねて零れた、苦悶の声。

そのまま勢いよく伸ばされた脚は少年の身体を吹き飛ばし、壁へと叩きつける。

肺の空気を無理やり吐き出され、苦しみに喘ぐ少年に向けて嘲笑うように安村が言い放つ。

「私が動けないとでも思ったのか?だとしたら先入観に囚われすぎだな」

「ぐっ・・・痛っ・・・」

立ち上がろうとしても、力がまともに入らない。

たったの一撃。それも魔法を使わない肉体による物理攻撃。


それだけで、少年は立つことすらままならないほどのダメージを受けた。


その要因はただ一つ。

安村の、自身の身体に宿る魔粒子の扱いが、ルクスよりも段違いに上手かっただけだ。


「君はまだ一年生。私は三年生。それだけで天と地ほどの差があることが分からなかったのか?」

嘲笑を濃くした表情を浮かべながら、わざとコツコツと靴の音を鳴らして横たわるルクスの元へと近づく。

「それにしても薄情な奴だ。かつての仲間にここまで殺意を向けられるとは。ああ恐ろしい。なんと恐ろしい人間だ」

煽るようにわざとらしく言う生徒会長に、倒れ、痛みを必死に堪えながらも真っ直ぐに睨みつける少年。

その敵意すら心地いいとばかりに表情を歪ませて、仰々しく手を振りながら叫び出す。


「天野美月を炉心として!「暁」は完全なる姿へと新生するのだ!人もモータルもその威光に平伏し、「暁」の支配する完全なる世界が訪れる!」


狂気の眼光を迸らせ、黒髪の生徒会長は甲高い笑いを響かせる。

「残念だったなあ、天道寺ルクス君。君のお友達はもう助けられない。ああ、そうだ。せっかくだから君も炉心の一部となるといい」


「あれが君をどう扱うかは知らないが、神の糧になれるという名誉を受け入れてその時を待つといいさ。お友達と一緒にな!ハハッ、ヒャーーーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」


「安・・・村・・・ッ」

「バルトアンデルス。こいつも閉まっておけ。直ぐに我々も移動する」

高笑いを直ぐに収め、冷静さを取り戻した安村が自身の精霊に命令する。

影の檻と化していたバルトアンデルスが、ゆっくりと少年の身を影で包み・・・



そこで、ルクスの意識は途切れた。

















その頃。

荒野と森林の境目の手前を走る、「暁」の侵攻を食い止めるべく派遣された二人の少年達は、遠くの木々の中で身を揺らす、マグマのような皮を纏った魔狼を視認していた。

高速で移動しながらも初見の敵への警戒を緩めない刀夜が、腰に携えた二刀の柄を掴みながら隣を走る少年に言う。

「アレはなんだ?仕事が増えるとはどういう意味だ?」


するとリヒトは答える代わりに、にっ、と刀夜に笑いかけ。


すぐさま手から鎖を放ち、遠くの魔狼の側にある木々の中の一本へと穿つ。

そこを起点として我が身を引き寄せ、走る刀夜をみるみる引き離して飛んで行く。

その音に反応して、魔狼もまたリヒトを、そして遠くの刀夜を認識した。

「彼奴め、我等を置き去りにするつもりか!?」

憤慨の声を上げたのは、彼の携える刀が一本、炎雷だ。

名前通り燃え盛るような語調で不満を言い放つが、既に大きく距離を離し小さくなったリヒトには届いていない。


ーーーーだったらヤツガレ達もついて行くまでだ。


「若雷!」

「あいよっ」

呼びかけられた刀が激しいスパークを放ち、刀夜の身体を蒼白の雷が覆う。

この場に野次馬がいれば、少年が感電死したのではないかと騒ぎ立てるような光景だが、どのような原理か、彼自身は全くそのような素振りを見せていない。

むしろこの状態を心地良いとすら感じているのか、顔には自然と笑みが浮かぶ。


そして、彼が強く足を踏み出すと。


「!」


蒼電一閃。


まさに蒼き稲妻となった刀夜が、凄まじい速度でリヒトに追いついた。

その間、僅か一秒。

尋常ではない初速からゆっくりと減速するその様は、まるでペットボトルロケットだ。

隣へ現れた共闘者を見やり、流石に驚いたのか目を丸くしてリヒトは言う。

「へぇ、結構速いんだねぇ」

狼までの距離はかなりあったようで、まだその手から鎖は伸びている。

慣性を利用して高速で飛びながら、近くまで迫る狼を斬るべく刀に手を添えたのだが。

「僕が殺しておくよ」

早口でそう言うと、木に打ち付けていた鎖を引き戻し。


そこで、リヒトの姿が掻き消えた。

あたりの草木を薙ぎ打つ烈風を残して。


「っ!?」

突然の逆風に勢いを殺され速さを失う刀夜を尻目に、リヒトが残像を残して魔狼の元へと迫る。

そう感じた時、魔狼の身体はバラバラに引き裂かれ、肉片の山が四散した。

降り注ぐ血は全て霧散し、リヒトも、ついでに刀夜も、身体に赤を付けることはなかった。

立ち止まって息を吐く少年の周りに、小さなつむじ風が巻き起こった。

先の突進の時とは反対に、その風は全てリヒトの元へと還り行く。


「・・・風の魔粒子」


数ある魔粒子の中でも一際扱いの難しい種の名前を呟き、感嘆のため息を吐く。

それに気付き振り返ったリヒトが、苦笑しながら刀夜に告げた。


「気をつけなよ?君も相当な()()()()()なのは分かるけど、油断してたら噛み殺されちゃうよ?今ので、最弱クラスだからね」


「どういうことだ?」

意味深に言うリヒトに懐疑の言葉を投げかけるが、それは再び鳴り響いた咆哮に掻き消される。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!ーーーーー!!!!!


「ああ、ほら、丁度色々と()()()()みたいだよ?」

咆哮が鳴り止むのを待って、リヒトが竜の方を指差す。

その方を見やり、刀夜は・・・絶句した。


煌々と輝く業火を纏った獣や魔物が、軍勢となって現れていたのだから。


「「暁」は子を産むんだよ」

まるで知識をひけらかすように、嬉々としてリヒトは語る。

「だから強大な一じゃなくて、それを筆頭とした軍との戦いを考えなきゃダメなんだ。過去、あの軍勢に何人の人が殺されたと思う?」

想像するまでも無いと肩を竦めるが、話す間にもその数を増やす魔獣の群れに、刀夜は戦慄を覚えながらも刀を構える。

「だとしても、止まるわけにはいかないだろう。邪魔をすると言うのならば、斬り捨てるのみだ」

「おっしゃる通り」

くすりと笑って、再び鎖を召喚して身構える。

「とりあえず背中は任せるけど。危なくなったらすぐ呼びなよ?僕は周りを気遣いながらなんて戦えないからね」

「分かった」

頷き返して、二人が各々の力を纏って疾駆する。

刀夜は刀を抜き放ち、リヒトはその獣のような爪に風を纏わせ。


次の瞬間、轟音とともに雷撃と旋風が巻き起こり、辺りの魔獣を殲滅し始めた。




















そして、その遥か後方。

「嘘だろあいつら・・・本当に始めやがった」

息を切らせて走るレインが森林の中から迸るエネルギーを感じ取り、信じられないとばかりに声をあげる。

クレアもまたその豊かな胸を揺らして走ってはいるが、双丘の重さ故か、それとも何か別の要因か、速度はレインよりも大きく劣る。

「あの、お姉、様。ちょっ、と、待って、ください、まし!」

苦しそうに途切れ途切れに言うゴスロリ調の服の女の声を、レインはさも聞こえてないかのように流して進むが、それを制止する声が響く。

「・・・おい嬢ちゃん。ここは一先ず退いた方がいいぜ」

その声でようやく足を止めた少女は、焦燥の視線を左手の精霊へと向けて言う。

「ヨルムンガンド、本当にあいつら二人だけでなんとかなると思ってるのか?クレアも不味いって言っただろ」

「テメェの弟は自分から死にに行くような馬鹿なのか?」

逆に尋ねられて、答えに迷うレイン。

代わりに、息を切らし、汗を大量に流すクレアがその問いに答えた。


「そん、な、見境のない、子じゃ、ないはずですわ。何、せ、()()の中ではずば抜けて、センスのある子でしたから」


ひいひいと咳をするような呼吸の合間に言葉を挟むクレア。

だが表情は、自らの言葉を肯定し、だからこそリヒトがあのような行動を取る理由が分からないと言外に告げていた。

その様子に苦笑を浮かべて、ヨルムンガンドは言う。


「俺は狙いが分からなかったから、降りるのに反対はしなかったが・・・降りてから分かったことがある。二人とも、校舎の空気が変わってたことに気付いたか?」


鉄鎖の声に、無言で首を横に振る二人。

「俺もさっき気付いたばかりなんだけどな」

そう前置きして、ヨルムンガンドはその口を開いた。


「あの校舎、とんでもねえレベルの魔粒子が集まってるぜ?それこそあんたら三人を軽く超える程の、馬鹿みたいな量がな」


「それだけじゃねえ。殆どが活性化して、少しの刺激を加えれば爆発しちまいそうだ」
















韋駄天と電光石火。

どちらも速さの代名詞としてよく使われる言葉だ。

韋駄天はスカンダという足の速いヒンドゥー教の神の名であり、転じて足の速い人間という意味。

電光石火は稲光と火打石の火花の様子から、こちらも動作などが極めて素早いという意味だ。


丁度、この戦場を駆ける二人のように。


「ルオオオオオッ!!」

魔狼を思わせる遠吠えと共に、立ち並ぶ木々を蹴りながら連続で跳躍する白い影。

竜から産み落とされた魔物を次々と躱しながらも、すれ違いざまに烈風を纏った爪が敵の身体を引き裂き、肉片を飛び散らせる。


白き韋駄天の正体は・・・リヒトだ。


風の魔粒子を用いた魔法と、鎖型の擬似精霊:グレイプニールを操り、その身を踊らせるように宙を駆ける。

「はあっ!」

地面から虎視眈々と空を行く少年を睨む獣を、手出しをさせまいとばかりに黒い少年が斬り伏せる。

そのまま蒼き雷光となって森を駆け、雷を纏った二刀が振るわれるたびに地を這う魔獣達の身体から血が噴き出す。


黒き電光石火は黒神刀夜。


リヒトに負けず劣らずの速さで、少年の行く手を阻む者の一切合切を刀の錆へと変えていく。

二人はゆっくりではあるが、確実に竜との距離を詰めながらも産み出される魔物を次々と屠っていく。

「本当に・・・キリがないな、これは」

何十体目かの怪物を屠った所で、ぼやくように刀夜が言った。

「そりゃあほぼ無限に産まれるみたいだからね、歩くモータル工場だよ」

相手していた怪物全てを倒したリヒトもまた同調し、気怠げにそう言い放つ。


二人は決して無傷ではない。

「暁」の子の中には遠距離攻撃の使い手もおり、それを含めた怪物達のデタラメな攻撃が重なって、意図せず生まれた連携の前にダメージを負うことも多々あったからだ。


互いに周りの魔獣を殲滅し終えて一息吐いた所で、リヒトが思い出したように刀夜に尋ねた。

「そういや聞き忘れてたんだけど、あの砲台で何分持ちそう?」

大して期待していなかった問いだったが、刀夜は予測していたかのように即答した。

「大体一分程度だろう。弧を描くホーミング弾らしいから、ある程度近くまで来てから撃てばいい」

外の事情を知らない割には妙に詳しく話す刀夜を怪しんだのか、若干皮肉っぽくリヒトが尋ねる。

「よく知ってるんだねぇ、そんなのどこで聞いたの?」

「見ればわかる」

疑問を一言で両断しながら、背後から迫る獣を振り向きざまに斬り捨てる。

白狼を彷彿とさせる少年は、朽ちる魔獣を見ながら言う。


「ふーん、まあ君が分かるのなら僕も()()()()()んだろうけど・・・てことは、あれを一分間止めたらいいの?二分じゃなく?」

「合計で二分止めれば良いのだろう。それに学院を壊すなとは言われていない」

「・・・それ、もうちょっと早めに聞いときゃ良かったよ」

ため息と共に吐き捨てて、リヒトは顔を上げる。

「あのさ、一分、止められると思う?」

「無理だろうな」

淡々と告げたが、刀夜は本気でそう思っていた。

だが、何の成果も出さずに撤退するのはごめんだと。

身体からスパークを迸らせて、全長十数メートルはあろうかと言う巨竜を見上げ、刀夜は刀を抜き放つ。


「それでも、ヤツガレは恩義に報いたい」


蒼雷を纏った二刀を構えながら、静かに自らの意思を告げる。

「ヤツガレを拾い、教育し、解き放ってくれたあの人に、少しでも恩を返したい」

その言葉を聞いて僅かに表情を乱したリヒトは、すぐに道化のような笑みを顔に貼り付けてからかうように言う。

「はいはいそーですか。僕には知ったこっちゃないんだけどさ。せいぜいそのやる気が途切れないように気を付けてよね」

その爪に烈風を纏わせ、四つん這いにも似た獣のような構えを取って、リヒトもまた竜の姿を睨みつける。


辺りの邪魔者は排除した。

新しい雑魚が出てこない間に、少しでも「暁」の動きを止める。


二人が心中で呟いた言葉は奇しくも同意。

韋駄天と電光石火は、その名の由来を惜しげもなく再び炸裂させる。

あとがきとなります。オルタです。

聖戦学院45話 韋駄天と電光石火。如何でしたか?

というか韋駄天って神様由来の言葉だったんですね、知らなかったです()

本編に書いてある通り、ヒンドゥー教の神様らしいので、さk…パールヴァティーや、カルナやアルジュナ達と同じ出身の神様ということですね。

とあるダンジョンに出会いを求める小説に出てくるソーマ様も、その一人だったり。

…ソーマって神様ですよね?


とまあどうでもいいことはさておき、ルクス君呆気なくやられてます。

まあ新宿編時点でも相当な強さでしたからね、安村さん。

ルクス君も主人公だからって格上殺しな訳じゃ無いのです。

囚われてしまったルクス君の運命やいかに。そしてリヒトと刀夜の戦いはいつ終わるのか。


それではこの辺で、オルタでした。

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