表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖戦学院  作者: 雪兎折太
46/56

聖戦学院 another side 海上、ある二人の見た景色 前編

(この話は番外編になります)

東京湾近海、ルクスとグールが交戦を開始する、その少し前の話。

ルクス達に語られることのなかった、「あまつかぜ」の護衛艦たる駆逐艦三隻の存在。

度重なるモータルの襲撃によって多大な被害を被り、グールの襲撃をきっかけに、二隻が乗組員達の命を乗せたまま沈められた。


・・・その中の一隻に乗っていた、二人の乗組員がいた。


これは、鯨井繁光が、敢えて少年達に語ることのなかった、小さな悲劇。

天道字ルクスと天野美月、その二人の命を陰ながら支え、海の底へと沈んでしまった者達の。


若き未来の戦士の命を繋いだ、英雄の物語である。





聖戦学院:外伝


episode of MSDF


海上、ある二人の見た景色
















襲撃、三時間前。

「・・・」

欠伸をしながら目を覚ましたのは、一人の男性。

まだ歳は若く、背は平均よりもやや高めだろうか。

髭もなく、清潔さを感じさせるような整った顔立ちに、数々の訓練で鍛え抜かれた肉体。

男の名は、不知火と言った。

ゆらゆらと揺れる駆逐艦の上で、細目を擦りながらもその身を起こし、壁にかけられた時計を見る。

「まだ・・・起きる時間じゃない、か」

残念そうに呟いたが、覚めた身体は再び寝床に入るのを良しとせず。

仕方なしに簡易ベッドから降りて、辺りを見回して、ふと思う。


「・・・あの牙鮫の襲撃から、もう二時間か」


今から二時間前。

牙鮫、と呼ばれる海棲モータルの大群が、イージスシステム搭載戦艦、「あまつかぜ」を奇襲した。

情報を受け取った護衛艦がその駆除に当たったが、百を超える牙鮫に苦戦を強いられ、少なからず被害が出てしまった。

様々な修理をしたが、最後の作業である船の壁の張り替えを終えたのは、つい一時間前のことだ。

「おっ、起きたか。不知火砲雷長」

背後から呼ばれた不知火は、若干虚ろな瞼を開けて、声の主へと言葉を返す。

呼びかけたのもまた同い年の男であり、しかし彼とは違って無精髭を生やし、どこか荒々しさを感じさせる。

「なんだ、谷田貝か」

「なんだ、とはなんだ。せっかく起こしに来て、やったのにーーーー」

微苦笑を浮かべて言いながら、言葉尻を強くし、不意に腰に携えた拳銃を突きつける。

「・・・くっくく、寝ボケてはいないか」

「当然だ馬鹿野郎」

今度はお互い笑い出す。しかし「二人」の手から伸びた拳銃は、互いの頭蓋を捉えて微動だにもしない。

谷田貝の軽い挑発に、不知火が乗ったのだ。

もっとも谷田貝も、反応し切れなかったからと言って本当に撃つつもりは微塵もないのだが。

「それで?わざわざお前が起こしに来るということは。艦長からの招集でもかかったか」

冗談めかして言う不知火だが、指を鳴らして頷く男を見て、それが事実なのだと悟る。

「参ったな。招集から何時間経った?」

しまった、という表情で尋ねるが、帰ってきた答えは不知火にとって嬉しいものだった。

「何、さっき呼ばれたばかりだ。艦長もお前の寝癖の悪さは知っている」

肩をすくめて笑う谷田貝に、何を言い返そうかと迷って、やめた。

「仕方ない。行くとするか」

「おう来い来い。俺共々面倒ごとに巻き込まれるよう祈っておくぜ」

友人の軽口を背に受けて、不知火は軽く身なりを整えて、その友人とともに艦内の個室から出た。
















「およびですか、艦長」

不知火が艦長室に着くと、そこには既に数十名の幹部乗員が来ていた。

「・・・随分といい寝覚めだったようですね、不知火砲雷長」

「鮫を殴る夢がいい夢とは言えそうもないですけどね、朝比奈航海長」

じとーっ、と横目で睨むのは、不知火の友人である朝比奈櫻だ。

滝宮学院の教師をやっている朝比奈凛の姉で、妹とは違い些かスレンダーと言える体型の若い女性だ。

一つ年下の女性に皮肉を言われ、不知火はバツが悪そうに小さく笑うが、そこへ壮年の男性が口を挟んだ。

「まあまあ、喧嘩はそこまでにしておけ。今は俺が全員を呼んだ理由を説明させてくれ」

やれやれといった風に二人へ言葉をかけるのは、艦長と呼ばれた男。

名を、西嶋と言う。

「本艦からの連絡があってな。俺達は皆、東京湾へ向かうそうだ」

「東京湾ですか?」

喧嘩、という言葉に真っ先に食ってかかろうとした櫻を抑えて、不知火が聞き返す。

「ああ、そうだ。既に谷田貝機関長には話してある」

そう言って顎で扉の近くの、不知火の隣にいる男を指す。

自衛隊入隊より前から仲の良い、親友とも言える男の方をちらりと見てから、不知火は口を開いた。

「わざわざ行き先を伝えるためだけに、我々を招集したのですか?」

「そうではない。ジハードスクールプロジェクト、というのを聞いたことはないか?」

後半は集められた幹部全員に向けられたものだ。

聞き慣れない単語に、全員ただ無言で首を横に振るばかりだった。不知火も、朝比奈も、だ。

それを見た西嶋が、微笑を浮かべたまま話を続ける。

「言わば「政府」の為の私兵の育成だ。ひいては幹部職の立場にまで、手駒を据え置くことも考えているのか、士官学校という名目になっている」

そう言う西嶋の目にははっきりとした嫌悪感が宿っていた。

それは教師の姉を持つ、櫻もまた同じだった。

血が滲むほどきつく拳を握りしめ、何も言わずに僅かに俯く。

それだけで、不知火には彼女が激しく、静かに怒っているということが理解できた。

「聖戦だの努力だの、そんな綺麗事とは程遠い所だが・・・そこのある生徒、いや、ある集団が危険種を打倒したという情報が入った」

「危険種を?」

今度は櫻が聞き返す。

その口調や語調からは、にわかには信じがたいという彼女の思考がすぐに分かる。

「ああ。それも五十人程度だそうだ」

「あり得ません。危険種と言えば最低でも百人以上の部隊を結成し、それでも多大な犠牲を覚悟して討伐に臨むもの。学生が魔粒子の恩恵を受けやすいとはいえ、五十人程度では勝ち目は無いはず」

と、そこまで櫻が言ったのを聞いて、西嶋が表情を消した。

「ああそうだ。討伐に参加した学生達にこそ死者は出なかったが、どうやら危険種ジャック・ザ・リッパーは、彼らより前に来た学生達や、新宿の自警団の連中も次々と殺されている」

沈痛な表情を浮かべながらも、冷静さを崩さぬように続けていたが、不意に西嶋はニタリと笑う。

「だが、生徒会長の安村久遠率いるチームがとある少女と手を組んで、見事に殺人鬼を打ち倒したそうだ」

「少女・・・ああ、「死神もどき」のことですか」

ふう、と一息ついた櫻が、西嶋に再び尋ねる。

「状況は分かりました。しかしそれと私達の東京湾・・・滝宮学院へ向かうことにどのようなつながりが?」

西嶋の顔から、今度こそ表情が消えた。

代わりに重たい雰囲気を漂わせ、それが今から話すことが重大なことだという証を示す。


「討伐戦の中心核になった一年、天道寺ルクスが「ファランクス」の連中に狙われているという情報が入った」


「ファランクス」。

「政府」の庇護下にある秘密組織、「ギア」によって設立された、「世界人理保全機構軍」、通称「人理軍」に所属する陸上部隊だ。

日本の自衛隊を含む、世界各国の武力を有する団体・軍隊を束ねて結成されたそれは、今の世界における盾のような役割を担っている。

滝宮学院生が討伐のために戦うのだとすれば、人理軍は守る為に戦うのだ。

人々を、文明を、歴史を、遺産を、そして・・・「政府」を。


尤もこの事実は、学院生含む一般の人々には知らされておらず、日本人は今も、「自衛隊の方々が守ってくださっている」と信じている。

それは決して間違いではない。組織を解体し人員を混ぜたのではなく、組織をそのままに上位の枠組みが生まれただけなのだから。


「ファランクスの連中・・・なるほど、「あの子」と深く接触し過ぎたからでしょうね」

別の幹部乗員が憶測を口に出すと、その通りだとばかりに西嶋が頷く。

「彼らが人類に牙を剥くならいざ知らず、言わば民を守りし英雄を害するなど以ての外だ。そこで我々「ネイビール」が、中心核となる、天道寺ルクス、天野美月の両名を保護しようという訳だ」


ネイビールというのも、海上自衛隊や海軍などを結合して作られた、人理軍の海上部隊である。

ファランクスに比べて「政府」に批判的な者が多く、故に「政府」や人理軍本部から離れた海上に拠点を構える所が多い。


「なるほど・・・ですがわざわざ海上幕僚長が前線に赴くというのは些か不自然では?」

「些かどころじゃない。あの方はデスクワークが主な仕事のはずです。それに艦長を兼ねているというのにも、私は納得出来ません」

苦言を呈する二人の幹部を、艦長は髭を弄りながらどう説明したものかと見やる。

ネイビールの中でも上位の幹部である鯨井だが、彼の行動はかなり奇抜で、ネイビールを除いた人理軍の中では異端と言われ疎まれている。

その為、海上巡回や海棲モータル討伐に駆り出されることも少なくない。

遠くに押しやり、関われないようにしてから面倒ごとを片付けようというのだ。

不知火達は知らぬことだが、鯨井本人はそれを知っている。知っていてなお外に出るのは、彼もまた必要以上に軍の連中と関わりたくない為だろう。


「まあ、あの方にも色々あるのだろう。察してやれ」

難しいことはごめんだとばかりにため息をついて、西嶋はそう言った。

「当面の目的は分かりました。ですが、我々の仕事はあまり変更はありませんよね?」

「ああ、やること自体はな」

含みを持たせた言い方に、尋ねた不知火はその顔に疑念の表情を浮かべる。

それを見た西嶋が、櫻が何か言うより早く口を開いた。

「天道寺ルクス、天野美月。忌み子だのなんだの噂のある二人だが、俺達にとってはもっと大きな一つの事実がある」


「光持ちなんだよ。その二人は」




















護衛艦の某所

ブリーフィングを終えて、それぞれが休憩時間を過ごす中、不知火、谷田貝、朝比奈の三人は一箇所に集まり言葉を交わす。

「面倒ごとに巻き込まれなかったようで残念だ」

子どものように冗談っぽく言う谷田貝に、不知火は真剣な表情で言い返す。

「何が巻き込まれないだ。とんでもない仕事が降ってきた」

若干の苛立ちを含んだ声から、彼が何を言わんとしているのか察した谷田貝が、それでも笑みを崩さず言う。

「なんだよ、俺達がやることは変わらねえだろ?魔粒子のたっぷりと詰まった弾を砲台に詰めて、ぶっ放す。機雷も魚雷もなんでも使って、奴らを海の藻屑に変えてやる。そうだろう?」

肩を軽く叩いて、どこか励ますように言う谷田貝に、若き海上自衛官は小さく笑みをこぼす。

「魚雷はコストが高いから無理だろう」

「こんな時にまで費用の心配とは、お前らしい」

二人で笑い合っている所に、静かに流れるそよ風を思わせる声が、二人の耳をそっと撫でた。

「砲撃や機雷を担当するのは不知火さんだけです。貴方は機関長でしょう。心臓を動かさずに腕を動かす気ですか、貴方は」

かけられた言葉は少し鋭く、けれど彼女を知る二人にとってはただの軽口だった。

「なんだよ朝比奈。一々苦言を言わないとお前は満足しないのか」

返す谷田貝の言葉にも、悪意や怒りは見られない。

「俺達は竹馬の友なんだ。どんな時でも一緒さ!なあ?不知火」

「その通りだ谷田貝!」

バシバシと肩を叩き合い、大笑いする男二人を、呆れたように見つめる櫻がふと思い出したように口を開いた。

「先ほどの艦長の言っていた二人・・・天道寺君と天野さんのこと、谷田貝さんは知っていたのですか?」

初めて声に不穏な色を乗せる櫻に、不知火が何かを言おうとするのを手で遮り、谷田貝が答える。

「俺もさっきの会議で聞かされたばかりだよ。まさか光持ちに会えるとは、ついてるんだかついてないんだか」

肩をすくめる谷田貝の言葉に嘘はない。

そう判断した櫻だが、しかしさらに問いを投げかける。

「その割には大して驚いた様子を見せてませんでしたが。何か隠しているのですか?」

「おい櫻、やめておけ」

半ば咎めるような彼女の物言いに、不知火が思わず制止をかけた。

しかしそれは彼が何も隠していないと信じてのことではない。むしろ逆だ。

「谷田貝、ここで驚かせようとするのは間違ってるぞ。サプライズはもう失敗してる」

彼は時折友人を驚かせようと、知っていることも敢えて知らないふりをしたりすることが多々ある。

それを人一倍よく知る不知火は、別に怒るでもなく、ただ普通に本心を言った。

「なんだよなんだよ、やっぱりバレてたのか」

ばつが悪そうに頭を掻いて、不知火の親友は語り始めた。


天道寺ルクスと天野美月、二人の持つ魔粒子についてを。


そして、その知られざる禁忌の歴史についても。















襲撃、二時間前

「・・・おい、谷田貝」

「なんだよ、不知火」

水平線の彼方を見つめる二人が、肌を撫でる潮風に声を乗せて会話をする。

「怖くないのか」

「何が」

「今から光持ちを二人も乗せるんだぞ?お前は怖くないのか」

不知火が危惧しているのは、光持ちと呼ばれる、光の魔粒子の宿主についてだ。

全国的に見ても希少な部類である「光」の魔粒子には、程度の差はあれど、モータルを引きつけやすいという最悪の欠点がある。

それが何故なのかは未だに解明されていない。解析すべき魔粒子自体が手に入らないからだ。

「だから言ったろ?奴らをただ撃って殺せばいい。戦争と変わらない」

むしろ相手が人でない分気が楽だ、と、谷田貝は言う。

その顔にいつもの笑顔はない。

代わりに海に向けていたのは、険しい、睨みつけるような目線だった。

「俺達は死なない。死んでたまるか。お前も田井中との結婚が近いだろうが」

恋人の名前を出され、思わず身を揺らす不知火に、からかうように声をかける。

「生きて帰って、笑ってやれ。そしたら無愛想なあいつも少しはらしい顔をする」

そう言い残し、休憩時間の終了を告げる乗組員の声とともに、谷田貝は自らの職場へと戻っていった。














「本艦から連絡が入った。二人が乗船したそうだ」

重く、ゆっくりとその事実を告げる西嶋に、冷静と声を返す女がいる。

「知ってます。見ましたから」

驚きも、身構えも、ましてや緊張すら微塵もない副長の態度に、呆れ混じりのため息を吐く艦長。

だがそのため息は、自身の上司でもある鯨井に向けられたものだということを、櫻もすぐに理解できた。

「まったく、精霊を曲芸道具か何かだと勘違いしているのか、あの方は・・・」

「昔からああなのですか?歳の割には少々子どもっぽい気もしますが」

尋ねる櫻に、懐かしむような表情を浮かべ、西嶋が頷く。

「ああ、昔から面白いお方でな。誰かを驚かせたり、笑顔にさせないと気が済まないのだ」

その言葉を聞いて、女は一人の男の顔を脳裏に浮かべる。

谷田貝慎吾。彼女の部下であり、不知火の親友とも言える人物。

彼もまた他人の笑顔を好み、それを引き出すために影ながら努力している、彼女から見れば変わった人間である。

「谷田貝もあの方に感化されたのだとさ。まあそれは置いておこう」

心を読んだかのようにそう言って、西嶋は一度息を大きく吸って、吐いた。

吐息とともに表情を消し、真剣な表情で櫻に向き直る。

「良いか、決して勝とうなどと思うな。これから押し寄せる悲劇の歌い手を、一匹残らず駆逐しようなどとは考えるな」

既に不知火と谷田貝を含めた全員に伝えた言葉を、目の前の女性副長に、忘れさせないように重みを込めて語る。


「力は本艦の方が上だ。もし何か言われても、全て俺が責任を持つ。だから」




生きろ。




それが、西嶋から聞かされる、最後の言葉になるとは知らずに。


僅かな逡巡の末に、女性、立花楓は小さく頷いた。

あとがきとなります、オルタです。

うわあああ自衛隊って難しい!

仕入れた情報から何度も文を変え、この形に落ち着きましたが・・・少し不安です。


今回はこの辺で。

後編は予告よりも2〜3時間程遅れる可能性がありますので、ご了承くださいorz


オルタでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ