聖戦学院4話 戦場
遅ればせながら聖戦学院4話となります!
突如草原に降り立つ人類の敵、モータル。
咆哮するドラゴンを筆頭とし、軍勢となって滝宮学院に迫る魔獣。
抗う学徒たちの鬨の声は、何度めともわからない人類とモータルとの死闘開戦の合図となった。
誰が死に、誰が生き残るのか。
果たしてルクスは耐えられるのか?
そして悠の実力は?
ハードな展開になってるといいな聖戦学院4話、
始まります!
不味い。
苦虫をかみしめたように顔を歪め、魔術科2年生、桜木悠は必死に思考していた。
(まさかよりにもよってドラゴンが来るとは、里村の言う通り、ルクスを前線に連れ出すのは時期尚早だったか・・・!?)
ルクスは両親の死と、自分たちが「政府」によってデコイとして使われている事実に打ちのめされ、さらにはあのドラゴンの咆哮を聞いて完全に茫然自失となっている。
自分たちより少し離れたところに座り込んでいるルクスは、今にも狩られそうな獲物のように小さく震え、とても動けるとは思えない。
今のルクスをあのままにしては危険だ。すぐに「氷鳥」の餌食にされる。
氷鳥の飛行速度は並の人間には捉えきれないほど速く、そのサイズは平均1m。
双翼は氷の煙をまとっており、その冷気は死ぬまで止むことはない。
そして何より、こいつらは無茶苦茶速い。
今俺達とモータルの軍勢との間の距離は、凡そ2km。俺たちのところに着くのは、経験と記憶から推測するに、約4秒後。当然真っ直ぐ飛んでくるような馬鹿ではないので、軌道の変化も計算に入れなくてはならない。
まさに氷の砲弾。空を貫き人を殺めるためだけのカタパルト。
どうする、どうする、どうする。
あと3秒、思考回路が乱れ、冷静さを失う。
脳裏に蘇るのは、入学前の忌々しいあの記憶。
あの日、俺はーーーーーーーーー
「桜木!!」
里村の声で、一瞬で思考がクリアになる。そうだ、余計なことを考えている暇などない。今はただルクス目がけて一直線に、最大速度で走り出す。
「よし、今だ!桜木に続け!!」
剣術科の3年生が発する号令を背に受けつつ、左手で氷の盾を作り出し、氷鳥の特攻に備えつつ、
全力疾走。
前方を見やると、やはり氷鳥はこちらを葬らんと銃弾並みの勢いでこちらに急接近していた。
激突まであと2秒。一足先にルクスのところ着き、
そのままわずかに追い越す。
はっ、と我を取り戻したルクスの視線を背に感じながら、ぐっと右手に力を込める。
そうだ、どのみち回避は不可能。
ならば、と 力を込めた右手に煌々と炎を宿し、
「全部、叩き落とせばいいだけだ!!!」
その手より放たれた爆炎をもって、群がる氷の砲弾を文字通り薙ぎはらった。
「今だ!桜木に続け!!」
3年生であろう人物の号令が強く耳を打つ。
続いて弓を構えた学生たちが、一斉に矢を放ち。
剣や槍を持った学生たちが、鬨の声を上げあの怪物たちに進撃していく。
それを屠らんと魔獣の軍勢が速度を上げてこちらに迫る。
その総数、目視で確認できるだけでおよそ数百。
離れなくては、そう思っても足がすくんで動かない。
それを好機と見たのか、青色の巨大な鳥の群れが急加速、こちらに向かって砲弾のように突撃してくる。
その様子はまるで獲物を見つけた鷹のようだ。
速いと感じる暇さえなく、僕の前にあっという間に近づいてーーーーーーーー
そして、炎にかき消された。
「大丈夫か!?」
顔を上げると、そこには悠がいた。
左手に自身の体と同党のサイズの氷の盾を構え、あの鳥の突撃に備えている。
そして右手には、先ほど僕の周囲を薙ぎ払った炎。
あれも、悠がやったのか・・・
周囲には焼き殺され、無残にその死骸を晒す怪鳥の姿。流石は学年上位の火力だ、などと感動している暇などない。
なんとか僕が立ち上がると、逃すまいと遠方から再び氷の鳥が飛翔し急降下の構え、加速体制に入った。
「一旦引くぞ、話は後だ!」
こくこくと頷き返し、震える足を奮いたたせて、校舎に向かって走り出す。
再び爆炎。怪鳥を食い止めてくれている悠に心の中で礼を言う暇もなく、ただがむしゃらにひた走る。
校舎の中まで、あと5m
4mーーーーーー
3mーーーーーーーーー
2mーーーーーーーーーーーーー
1mーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
「1年、こっちだ!!」
僕に気づいた里村先輩が手を差し出す。瞬間、僕は力の限り右手を伸ばし、先輩の手を握る。
思いっきり校舎の中へと引っ張られ、ひとまず落ち着く僕。
「あ、ありがとうございます」
「礼はいい、それよりあとで桜木のバカを思いっきり怒ってやれ」
礼も忘れるなよ、と里村先輩は戦場の中でも一切不安を感じさせない笑顔を浮かべ、
「生きて帰ってきたらな」
と、その笑顔を不意に止め、再びその双眸を戦場に向ける。
そして僕もその方を見るとーーーーー
まさに戦場。
剣を持つ人が魔狼と死闘を繰り広げ、その横では槍を構えた学徒が氷鳥に左腕を 持ってかれて いた。
仇討ちのために前に出た弓兵が、その氷鳥を射落とす。
それを逃さんと、細剣を構えて突進する女子学生。
その後、 頭 を 喰らわれた。
肉をかっさらっていった狼が、次なる獲物を求めて死地を駆ける。
怒り狂った男子が、怒号と共に敵を取らんと刀を構え、走り出し、一閃。
両断された炎狼を、憎しみのままに切り続け、切り続け、切り続け、
そしてその男子も、間も無く愛する人の後を追うこととなった。
魔術科の学生と思しき男子が、真空の刃を放つ。
空気を切る、キーンという音が戦場に小さく響き、群れから外れ、別の学生を狙っていた氷鳥に命中。
双翼を跳ね飛ばされ、何が起こったかわからないといった風に堕ちていく氷鳥。
二発目を放ち、狼、鳥、ひたすら堕とす。
それをかいくぐり、喉元をひたすら狙う影が一つ。
刹那、対応する間も無くあっけなくその命を散らす男子。
絶叫、怨嗟、怒号、
嗚呼、これが地獄。
これこそが地獄なのか。
それでもこの戦場のなかで一際異彩を放っていたのは
他でもない、魔術科2年の我が友、桜木悠だった。
焼き尽くす、凍てつかせる。
左右から氷鳥、正面から炎狼。
両手を真横に突き出し、放つは炎と氷。
槍に形状を変化させ、二対の氷鳥を貫き仕留める。
残る一匹、正面の炎狼。
すぐさま両手を引き戻し、正拳突きの構えをとる。
殴る手は 左手。
「ーーーーーはあっ!!」
気合の一声とともに、左手を出す。
冷気を練り、槍のように変形させた氷をまとわせ、頭を抉り穿つ。
そして、一気に冷気を爆発させる。
炎狼の頭から8本の氷の槍が嵐のように、或いはそれこそ獣のように、残った体を貫き、喰らう。
完全に生命活動を停止したのを直感で確認し、次の標的を見定める。
しかし大体の数を数えたところで、見定めるのをやめた。
その代わり右手を地面に殴りつけ、炎を纏わせた衝撃波のようなものを放つ。
唐突に眼前に広がる業火に対処できずに、周りにいた炎狼はあっけなくその身を炭へと変えた。
その数は恐らく十にも満たないが、一人での戦果と考えれば妥当だ。
ーーーーこれで、周りの雑魚は片付けた。
あとは、あの親玉さえなんとかすれば。
視線を向けるのはただ一つ、軍勢の首魁として堂々と戦場を闊歩するーーードラゴン。
あれをせめて、撃退せねば。
3年生の何人かは2年の補佐に回っているが、どうやら殆どは自分と同じ考えのようで、余分な意識をチラチラと向けているのが視線から分かる。
ならば、今こそ好機。
体内の魔粒子を活性化させ、右手から爆炎を、左手から氷嵐を生み出す。
左手を地面に、右手を後ろに。
ーーもう、誰も死なせない為に。
黒龍までの道を凍らせ、右手の炎をブースターのように吹き出す。
「殺してやる」
ただ一言そう呟き、疾走する。
炎の促進機で加速し、氷の道を滑走する。
せめて、この戦場での悲劇を、
ここで終わらせる。
「む、無茶だ!?あんなやつに人間が敵うわけない!!」
僕は悠の無謀な行動に、叫ばずにはいられなかった。
敵は10mをゆうに超える化け物だ。
英雄の真似事なんて、いくら悠にも出来るわけがない!
「正直、厳しいだろうな。あそこまでの大物が現れた例など、今までなかったからな」
「だったら!」
だがな、と先輩は僕の言葉を遮り、堂々と告げる。
「我々は勝つ、勝たねばならない。あの化物共をここで仕留め、一人でも多くの命を救う」
それが我々のなすべき事なのだと、里村先輩は矢を番え、弓を引き絞り、
「だからこそ私も」
そしてその目を蒼く光らせ叫ぶ。
「死んでいった友のためにも、一矢報いねばなるまい!」
その声と共に、遥か大空に向けて矢を放つ。
矢はみるみるうちに小さくなり、太陽を穿つ勢いで飛んで行きーーーー光った。
何が起きたのかと眩しいのをこらえて矢を凝視する。
すると、垂直に落下するはずの矢は、5発の魔砲となってドラゴンへ向かい放たれる。
多くの魔獣を巻き込んで竜に衝突したその一撃一撃が、ドラゴンの鱗を砕き皮膚をえぐり、確実にダメージを与えている。
そしてその矢は軌道を大きく変え、あろうことか空中でぐるりと曲がって再びドラゴンの方へ突撃し、その双翼を貫いた。
「グォァアアアアアルルルルルアアアアアアアア!!!!」
痛みに悶え叫び声を上げるドラゴンの元へ、3年生達と悠が特攻する。里村先輩の放った矢は未だに竜の周りを飛び回り、仲間に当たらないよう正確に敵の身体のみを破壊している。
ひたすら両の拳をぶつける悠と、各々の得物を叩きつける3年生たちの猛攻に、なんとあのドラゴンが押されているように見える。
しかし当然タダでやられているはずもなく、その強靭な尾や鋭い爪で数人の3年生を吹き飛ばしている。
破れた双翼を広げ、天に咆哮するその姿には、まさに怪物の王という言葉がふさわしい。
未だドラゴンによる死者は出ていないものの、いくれ今は押せていてもこのまま続いてはいずれジリ貧で押し負けてしまう。
そう分かってはいたが、僕には何もできなかった。
「ーーーーッ!!」
里村先輩が叫び、再び弓を構える。何もつがえていないその手に、魔粒子が集まり一本の矢を形作る。
竜に向かって再度放たれた魔矢は、再び5本の光線に変化し竜を貫き穿つ。
「もう少し・・・もう少しだ!」
確かに竜は、先輩たちの怒涛の攻撃によって大分ダメージを負ってはいるが、こちらの被害も相当なものだ。疲労によって動きが鈍れば、すぐさま爪の餌食となり、一瞬でも後ろの仲間に気をやると、腕を喰らわれ散っていく。
これはゲームやファンタジーの「戦闘」ではない。
人間という種の命を賭けた「死闘」だ。
負ければ死ぬ、勝てば生き残る。
ただ、それだけなのだ。
「なんだよ・・・」
思わず胸中が声に出る。
「なんなんだよ・・・これ・・・」
それは段々大きくなり。
「こんなのをやらなくちゃいけないのか・・・僕は・・・!」
涙とともに、嗚咽に変わる。
ドラゴンは、悠と先輩達の死闘の果て、その巨体を退かせた。
それに伴い、生き残っていた他の魔獣たちも次々と戦場から姿を消していく。死体となった彼らの身体は残るが、魔粒子は死体から抜け出し光粒の群れとなって虚空に消えて行く。
まるで魂が光に包まれて天に召されるように。
しかし、人間は違った。
ヒトのカタチをしていたモノは、体内に残っていた魔粒子が全て空に霧散したのち、元の脆弱な人間の体となり、大地に横たわっている。
モータルの身体と違い死後その身体に一気に負荷が訪れる為、死体は一瞬で原型を留める事が出来なくなり、「壊れ」る。
死屍累々。地獄絵図。どのような言葉でも表現できないような、地獄。
生き残った人たちも、腕を喰われ、痛みに呻き、生きているのが不思議な重症の人もいた。
ドラゴン討伐に赴いた彼らも、決して無事とは言えない傷を所々に負っていたが、それも2年生たちの犠牲に比べれば微々たるものなのだろう。
「愛花・・・ちくしょうっ・・・」
「すまねえ、すまねえっ・・・!」
「嘘よ、嘘よ!いやああああああああっっ!!」
「いっそ俺が死ねば、死んでいればあいつは・・・」
「やめてよ!あなたが死んでも、ニナは戻ってこないのよ・・・」
耳を塞ぎたくなるほどの嘆き、嘆き、嘆き。
その悲痛な光景に耐えられなくなり、目を背ける。
これが、僕たちの今いる現実。
これが、僕たちに突きつけられた、真実なのだ。
僕は、ただ立ち尽くすことしか、できなかった。
お読みいただきありがとうございました。
あとがきとなります、オルタです。
ようやく敵モブを出すことができました。
モータルと人間との戦闘は、
「ジャOo装備やフoOゴ装備で固めたハOター数十人が、数百匹の中型モンスターと数匹の超大型とガチバトルしている」ようなものです。(分かりづらい!)
ちなみにまだ滝宮学院の場所が出ておりませんが、これは基本ルクスの主観で物語を進めているためで、ルクスが知らないことは書かないつもりだからです。ルクスはまだ本当の滝宮の場所知らないので。
それでは、今回はこの辺で。
次回もお読みいただければ嬉しいです!