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聖戦学院  作者: 雪兎折太
38/56

聖戦学院 32話 船旅は突然に

突如誘われたクルーズに驚くルクス。

しかし美月はかなり乗り気のようで・・・

「クルーズ・・・ですか?」

「ああそうだとも!船の上だ!しかもただの船じゃあない・・・まあそれは見てのお楽しみとしよう」

船上。

それ即ち、陸上とは正反対の世界。

青き星たる地球の大半を占める、海の上。

人生で初めての船旅に、しかも軍人のお偉方から誘われるとは、僕は夢にも思わなかった。

「どうする、美・・・」

月、と呼びかけようとして、僕は今の問いに意味が無いと分かった。

彼女の眼は綺羅星のように輝き、真っ直ぐに鯨井さんを見つめていたからだ。僕の声に反応して顔を向けても、その光は消えない。

「行こう・・・!行こう!行こう行こう!船だよ船!サンタマリアよ、タイタニックよ、クイーンアンズリベンジよ!!」

歴史に名を残す高名なーーーー海賊船の名前もあるがーーー船の名を謳い、彼女はピョンピョンとその身で興奮を露わにする。

船が好きなのだろうか。

だが僕もまた断る理由がない。

むしろ普段見られない陸の外の世界を見られる大きなチャンスだ。

「じゃあ、是非!」

「ふっふっふ・・・やはり若者はそうこなくてはな!」

これまで以上に上機嫌な笑顔で、何度も頷く鯨井さん。

その感じは、まさに気のいいおじさんだ。

どこか父親にも似た雰囲気を醸し出しながら、紳士は子どものように笑いながら口を開いた。

「ようし、そうと決まれば早速出立しよう!何、大して時間は取らせんよ。ただそこら辺をぐるっと回るだけだからな」

そう言いながら急かす男の眼には、純粋な喜びが映っていた。

だが、地獄のような征伐から帰ってきてすぐにまた、というのは流石に骨が折れる。

あの、僕達今日は一旦休んで、また明日にでも・・・

その言葉が口から出るより早く、美月が頷いた。

「分かりました!!ほらルクス君用意して用意して!あ、船に乗るんだから酔い止めも持っといてね!」

・・・これは。

観念するしかない。心の中で呟くも、やはり一言だけ言わせてもらいたくなった僕を、誰が責められようか。

「・・・酔い止めがいるのは美月の方でしょ」


一瞬で赤面した少女の手から、僕の頭目がけて閃光が走った。

















「・・・は?」

学院に帰って来たばかりの俺は、早速ルクスの元へ赴いた。

労いの言葉の一つや二つを改めてかけてやろう、と思った俺は。

友の部屋の前にかけられた張り紙に目を奪われていた。

ーーー海の上に行ってきます!ーーー

「海の上・・・だと・・・!?」

愕然とし、そして頭を抱えて俺はため息をつく。

「なんだ、桜木じゃないか」

声のした方を見ると、久しぶりに見る顔があった。

進藤一。剣術科の顧問だ。

「進藤先生。やっぱりルクスの様子見ですか?」

ああ、と頷いて、彼もまた張り紙を見る。

驚きこそしたものの、すぐにふっと短く笑い、合点がいったように何度も頷く。

「なるほど、あの許可証はそう言うことか」

「許可証?外出許可証ですか」

「ああ。彼は・・・いや彼等は理由の欄にこう書いていたよ」

そう言って、その申請書を取り出して俺の方に差し出す。

「・・・はぁ!?」

申請理由は・・・遠足、と書かれていた。















「はぁ!?天道寺君と天野さんが寮を抜け出した!?」

目を見開き叫ぶのは、私の目の前に座る永江菖蒲だ。

征伐で溜まりに溜まった欲望を解放するかのように、真っ先に部屋に押しかけてはベッタベタとくっ付いてくる彼女の電話から、二人の外出の情報が飛び込んで来たのだ。

情報の出所は、桜木だ。

「んで、二人はどこへ?・・・海ィ!?それじゃ手出しできないじゃ・・・まさか」

思い立つ節があるのか、彼女はあらぬ方角を見やり、苦い顔でひっそりと呟いた。

「あの老いぼれめ・・・余計なことを・・・」

その言葉の意味を深く理解しようとせずに、私はただ目の前の雑務をこなす。

「報告書はあらかた書き終わった。どうする、他にやることがないなら私は行くぞ」

「今忙しいから待ってて欲しいッス!!」

叫びに変わるか変わらないかの間の声量で、研究科のトップは焦燥そのものの表情で言い捨てた。











学院、生徒会室

辺りの世界から隔絶されるように暗闇に閉ざされた、ある一つの教室で男女が言葉を交わす。

文面だけ見ると恋愛漫画のワンシーンのようだが、交わされた言葉の内容を知れば、それが過ちだとすぐに気付く。

「・・・本当か、それは」

「間違いないッス。外出許可証も既に出されたそうで」

「見誤ったのは私の方だ。すまない」

「・・・どうするんスか。まだ二人を監視するつもりッスか、生徒会長」

生徒会長と呼ばれた男は、静かに息を吸い、そして口を開いた。

「・・・仕方ない、ひとまずはバルトアンデルスを付けるとしよう。まったくあの二人には困ったものだ」

やれやれと言う風に吐き捨てる彼の表情は、言葉と裏腹に暗闇の中でひっそりと笑みを浮かべていた。

「わっちは反対なんスけどね。彼等が危険な存在とはとても思えない」

冷静に、感情的に、女の方が生徒会長に言い放つ。

「今回の戦いでも、二人は立派に戦ってくれたッス、特に」

天道寺ルクス。

その名を女が告げるより早く、生徒会長は席を立った。

「何処行くんスか」

「お前に伝える必要はない」

その一言を、ただの同級生に放ったものだと、誰が信じられようか。


深く、ドス黒い感情を込めたそのたった一言を。















「すまないなぁ。車を寄越させるはずだったのだが」

「いえ、気にしないでください。歩くのもいい運動になりますし」

学院の外へと再び出た僕達は、新宿とは真逆の方へ足を進めている。

美月は未だ眼を煌めかせ、抑えきれぬ興奮は身体のあちこちに現れていた。

「どんな、どんな船だろう。島風?隼鷹?ひょっとしたら愛宕なんてありうるかも!?」

「言いにくいのだが、それらは全て沈んでおるよ・・・しかし参ったな。これでは海までかなりかかってしまう」

露骨に落ち込む美月に、俺の艦はもっと凄いから期待しろ、と告げて、そして周りを見やる。

人一人としていない荒地だ。草木は生え散らかし、手入れされていないのが一目でわかる。

無人の荒野というのを察したのか一度深く頷くと、鯨井さんは右眼に左手を重ね、そしてニヤリと笑みを浮かべて声高に叫んだ。


「来たれい!嫉妬の魔龍、リヴァイアサン!!!」


天地が狂う。

大地は湿り気を帯び、晴天の空からは突然の雨が降る。

空気中の水分が意思を持ったかのように、弾け、混ざり、それらは陽炎のように現れた一つの影を迎えるように、魔法陣のような円を走り描く。

ディープブルーの丸い影に薄い青の線が走り、いくつもの円が球体を囲む。

それは卵となり、核であり、心臓であり、そして「水」であった。

ドクンドクンと脈打つ液球が、一際大きく膨れ上がると、それまで荒れ狂っていた水がそこへ吸い込まれる。

全ての水が吸収され、全長五メートルはあろうかという程膨れ上がったところで、魔法陣が青く眩い光を放つ。


ばっしゃあああああああああん!!!!


という豪快な破裂音とともに現れたのは、見上げるほどの巨大な一頭の、龍。

輝く鱗は透き通る水を思わせ、風になびく髭はまさに清らかな水の流れ。

されど尾にかけて薄まるヒレの色は、血のごとく真紅に染まっていた。


「グ・・・オアアアアアアッ!!!」


一声吠えただけで、辺りの水分が脈打つようにパチパチと音を立てる。

僕らの肌を打つ風は、透明な水を浴びていると言ってもいいぐらいに冷たい。

あまりの光景と感覚に絶句し立ち尽くしていると、笑いながら鯨井さんが紹介を始めた。

「紹介しよう。我が友たる精霊、リヴァイアサンだ」

サプライズが成功したかのような笑みを浮かべて、どこか誇らしげな鯨井さん。

そんな人に紹介されたリヴァイアサンは、対照的に寝起きのような声で不機嫌そうに告げた。

「なんだ、敵が来たのではないのか。普段と違う言葉で呼び出すから何事かと思ったぞ」

「何、ただカッコつけたかっただけだ。わははは!」

豪快に笑う鯨井さんを、リヴァイアサンが鋭く睨みつける。

「・・・よもやそれだけのために呼んだのでは」

尾を大きく翻しバタンと地を打つと、衝撃波は水面の波紋となり、やがて本当に水源が生まれ、間欠泉のごとく水が吹き荒れる。

「あるまいな!!!!」

龍の怒りを体現するが如く、辺りを水が覆い尽くす。

その様子に、その世界に、一歩も退かず、ましてや怯える必要などないとばかりに堂々と、軍刀を携えた男は口を開いた。

「すまん!それもある!!」

「ええっ!?」

思わず僕の方から驚愕の声が漏れ、ますます世界は荒々しくなる水流に包まれるが、鯨井さんは気にせず続ける。

「だが頼みがあるのは本当だ!・・・船まで我々を連れて行ってはくれまいか」

「・・・お前というやつは、いつまでたっても馬鹿で阿呆のようだ」

呆れたように龍の精霊が言い捨てると、水の勢いはみるみるうちに衰退し、先ほどまでの光景が嘘のように平地が戻る。

「これが我と契約する時、何を捧げたと思う」

まるで友人の失敗談を聞かせるかのように、リヴァイアサンがこちらを向いて話し出す。


「眼球だ」


「・・・え?」

「その話は、是非とも船でゆっくり聞かせよう!」

そう言う鯨井さんの表情は、むしろ今のが武勇伝だとでもばかりに明るく輝いていた。

「聞かせるためにも・・・リヴァイアサン、頼む!」

「馬鹿で阿呆な、それでいて無計画な友のために、この身を貸せというのか、まったく」

そう言いながらも、身体をべったりと地につける水龍に、美月と共に感謝を述べる。

「気にするな、元よりこいつはこういうやつだ」

肩をすくめる代わりに尾を一度軽く上に持ち上げ、ゆっくりと下ろしてリヴァイアサンは言う。

「こいつが人類の防人とは、お主らも苦労するだろうにな」

苦笑しながら、ヒレのようなもので背中を指す。乗れというサインだ。

意外にも全く滑らないその鱗を、ロッククライミングのように掴んで言われた通り背に登る。

美月、鯨井さんと続いて乗ったところで、海龍は一度大きく嘶き、空へと飛翔する。

「わ、わ、わわわわわ!?」

「なにこれなにこれなにそれなにそれなにそれ」

驚く僕、震える美月、笑う鯨井さん。

僕達を乗せたリヴァイアサンは、もはや嫉妬の魔龍どころか東洋の神龍のような神々しさを纏って海へと向かって行く。


ーーーー今度から外に出る時は、絶対に乗り物も借りよう。


ジェットコースターの類が苦手な僕は、密かに決心するのだった。
















「着いたぞ。・・・おーい、着いたぞー?」

軍服姿の初老の男性が、意識を手放してしまった栗毛の少女に呼びかける。

「美月?美月!大丈夫?起きて!?」

遅れて傍らの少女が目を覚まさないことに気付いた少年も、驚愕を露わにして必死に呼びかける。

「・・・少し飛ばしすぎたか?」

その声は人間のものではない。

男の背後にとぐろを巻き、ばつが悪そうな様子の声の主は、巨大な龍とも蛇とも取れる姿をしていた。

「まさかこういうのが苦手だとはなあ」

「み、美月・・・大丈夫かな」

各々の面持ちで少女の顔を覗き込む二人と一体の側に、その存在は現れた。


「あらあら〜、珍しいお方が来てると思ったらぁ、これはなんですかぁ?」


先ほどの水龍とはまた別の、人間ではない声が彼らの耳を撫でる。

リヴァイアサンが川の激流だとすれば、今の声は穏やかな大海だ。

水龍と違い、完全に水でできたその身体から溢れる雫の一滴一滴は、地面に落ちる前に弾けて重力に抗うように身体へ戻る。

いきなり現れた謎の女性に驚く少年とは対照的に、男はため息混じりに言い放った。

「なんだ、館林の使いとはお前か。となると船を直しているのはお前か?」

「船!!!!」

がばっ、と音を立てて少女が起き上がる。

その眼にはっきりと世界を映し、気を失っていたのが嘘のように少年に詰め寄る。

「ルクス君船!船はどこ!?ねえ!!」

「お、落ち着いて!もう着いた、着いたから!」

困惑したルクス少年が助けを求めるように男を見るが、男はくつくつと笑って面白がっていて、何も言おうとしない。

代わりに声をかけたのは少女の背後の、なだらかな水流を思わせる声の女性だった。

「可愛らしいお二人ですこと〜。あなた名前は?どこから来たの〜?」

「えっ、あの・・・」

顔を俯き言い淀む少年に、栗毛の少女が訝しむように顔を覗き、そして背後を見る。

「なっ・・・あっ・・・!?」

少女もまた硬直するが、少年とは違いすぐに冷静さを取り戻す。

しかしそれは精霊の存在を受け入れただけであり、その「容姿」に関しては全くの逆だった。

「な、なんて格好してるの!?裸同然じゃない!!」

指摘された女精霊は、それがどうしたと言わんばかりにその身体を揺らす。

確かに、その精霊は人間ではないが、その風貌はまるで際どい衣装に身を包んだ、青い肌の踊り子だ。

必要最低限とまではいかないものの、思春期男子の目を奪うには十分な肌の露出は、人間なら街中を歩くだけでも視線を集めるだろう。

見慣れたのか、そもそも興味がないのか、容姿には全くの無反応な男と違って、少年少女は羞恥に顔を赤らめる。

「他の子と違って〜、水そのものから生まれたわたしには〜、服とか裸とかの概念自体が無いんです〜」

間延びさせて言うその声は、どこか面白がっているようにも見える。

その発言に訝しむ男を余所に、少年と少女は各々の反応を見せる。

「だ、だからってそんな・・・」

「もう目を瞑るしか無いみたい。うん、もう瞑った。大丈夫」

狼狽える少女に対して、暗闇に生きる道を選んだ少年が感情のこもっていない声で言う。

「あらあらよろしいのですか〜?人間の男はこう言うのが好きなんでしょぅ?」

その身体を惜しげもなく見せつけようと、官能的な姿勢を取ろうとしたところで、虚空から凛とした騎士のような女性の声が、少年を誘惑し面白がる精霊の耳を打つ。

「からかうのはそこまでにしておけ、ウンディーネ」


水の女精霊をウンディーネと呼んだのは、またしても人間の声ではなかった。


「いやですねぇ、少し遊んだだけじゃ無いですかぁ。名前の割に硬いんですよ、シルフィード」

「・・・大盤振る舞いだな、あいつも、お前達も」

呆れ果てたかのように呟く老紳士の側に、小さな竜巻が生まれる。

草を薙ぎ砂を撒き散らし、その存在を辺りに知らしめたところで、竜巻は破裂した。

中から現れたのは、またしても人型の精霊。

ウンディーネとは違いきちんと服のようなものに身を包んでいるが、その手足は鳥のような羽に包まれ、羽毛の隙間からは鋭利な爪がキラリと光る。

「お前と言うやつは、毎度毎度人間をたらしこまないと気が済まんのか!」

突風のようにピシャリというが、水精はまさにどこ吹く風だ。

「だってぇ〜、面白いんですもの〜」

「ああもうお前は!さっさと服を着ろ!我々を痴女にするな!」

はいはい、とため息混じりにこぼして、ウンディーネもまた水でできた服を纏う。

鳥獣やハーピーといったものに違い姿のシルフィードに対し、ウンディーネは御伽噺の乙姫のような衣を纏う。

「申し訳ない、こいつは我々の中でも一番の問題児なのだ、許してほしい」

「問題児って・・・酷いです〜」

抗議するように言う水精の声など聞こえていないかのように、風の精霊は謝罪の姿勢を崩さない。

「あ、その、大丈夫?です」

「むしろ何が不満なのよ」

きっ、と睨む天野の目線に射抜かれ、その身を小さくする天道寺。

「そろそろ、俺の船を見ようじゃないか」

そう言いながら海を示す。

二人の眼に入ったのは、水平線と大陸の狭間、少年達の眼前に広がる、一隻の巨大な戦艦。

白き盾のようなものを纏い、海上にそびえ立つように浮かぶそれは、惜しげもなく船体を煌びやかに輝かせていた。

「あれが、俺の船だ」

誇らしく、堂々と。

艦長である鯨井繁光は、愛船の名を高らかに告げる。


「イージス艦、二代目『あまつかぜ』だ」

あとがきとなります、オルタです。

はい、また精霊です()

リヴァイアサンといえばタイダルウェイブだったりで有名ですね。

かくいう私もなんとかファンタジーは好きなので、つい引きずられてしまった感は否めません・・・

ただ飛んでいくシーンはクエストのマザーなんとかを思い出してしまったり。


今回はこの辺で!

オルタでした。

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