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聖戦学院  作者: 雪兎折太
33/56

聖戦学院 28話 祝い、そして、新たな・・・

死神の鎌は、殺人鬼の身体を刈り取る。

霧に怯える新宿は、今平穏を取り戻す。

少年は、少女は、勝利の中で何を見る。

これが、死・・・?

身体の半分が消え去り、彼女を構成する核が剥き出しの状態で、彼女はそんなことを考えていた。

身体を構成する霧の殆どを致命的なまでに失ってしまい、その再生にかける時間すら無くなった彼女に、もはや手立ては無い。

「く、う、あああ」

自然と漏れたーーーーーもはや発声器官も殆ど失われ、何処から出たのか分からないがーーーーーーその声に込められていたのは、信じられないという、否定の感情。

否。

自分が好きな人間に、自分が嫌いな人間に。

殺されたい、殺されたくない。

なに、これ。

なんで、こんな。

湧き上がる、真逆の、矛盾の思い。

それに呼応するかのように、彼女が彼女である「前」の記憶が、まるで霧が晴れるようにゆっくりと彼女の脳内に蘇る。

それは、笑顔。

多くの、世界全土に比べたらちっぽけな、それでも余りにも多くの、笑顔。

イギリスと呼ばれた国の、ロンドンと名付けられた都市の隅。


かつて彼女が暮らしていた、イーストエンドの街。


「あ、あ、あ・・・」

声にならない思いが、彼女の記憶とともに、あるべき所へと還ってくる。

焦がれ、いつの間にか愛してすらいた一人の男の顔と、彼の向けてくれた優しさと笑顔とともに。

「ジ・・・ャ・・・」

ジャック。

ジャック・ウェルバー。

自らの忌み名の元になった、大切な彼の名前を思い出し、そして歪んだ自身をおぼろげな意識の中で見つめ。

彼女は思う。

これで、良かったのだと。

白い・・・霧ではない、白い世界で。

彼女は、見た。

笑顔を。

追い求めていた、その人の笑顔を。

「アア・・・!」

もはや一体のモータルではなく、危険種でもなく、「一人の人間」として、彼女は最期に彼の名を叫ぶ。


ーーーージャック。


やっとまた、会えた。

ずっと、会いたかった。


ジャック!じゃっく!じゃっく・・・・・・!



そして、白銀の剣は彼女を天へと導いた。

何者にも傷つけられることのない、魂の安らぐ場へと。
















朽ち果てた殺人鬼の身体から剥き出しになった、白い球体に剣を真っ直ぐに突き刺し、僕は立ち尽くす。

最期にジャック・ザ・リッパーが見せた、幽鬼や殺人鬼とはかけ離れた、一人の少女のような笑顔が脳裏に刻まれていくのを、何処か遠いものを見つめるように感じていた。

・・・その笑顔は、今はもうない。

貫かれた球体はガラス細工の球が金槌で叩かれたように、パリ・・・ン、と、静かに綺麗な音を響かせて粉々に砕け散った。

それと同時に、残っていた身体が霧となり、空気に溶けるように消え失せた。

「・・・核だよ」

僕の耳に、音が戻る。

最初に入ってきたレインの声に、ゆっくりと振り向いて尋ねる。

「終わった・・・の?」

頷いた、レインの表情は、明るくもあり、悲しげでもあり。

その瞳には、決して死を喜ぶようなものは、一切なく。

ただ、哀れな命を悼むような。

それでいて、生き残ったことを喜ぶような。

いつしか僕の心に浮かんでいたものと同じ、複雑な感情の螺旋が渦巻いていた。


















「勝った!勝った!!ルクス君達が!あたし達が勝ったああああああっ!!!」

わああああああっ!!と大歓声の波が、大地を、空気を、新宿中全てを歓喜の嵐に包む。

あたし自身も髪を大きく揺らし、感情に任せて飛び跳ねながらその喜びを分かち合う。

男子の目線がスカートの中に入り込むのすら、今は全く気にも留まらなかった。

そもそもスパッツを履いているのだが。

桜木先輩も、あの理性的な里村先輩でさえも、破顔してハイタッチを何度も交わして嬉しさに身をよじっているのだ。

特に里村先輩は目に涙すら浮かべて、桜木先輩に背中をバンバンと叩かれてからかわれてすらいるではないか。

そんな微笑ましい光景が辺り一帯に広がっている中、多少スパッツを見られた程度で目を三角にするほど、あたしはーーーー恥ずかしさがあるのはどうしても否めないがーーーー空気の読めない女ではない・・・はずだ。

「天野、やったな!」

「私達が勝ったのよ!」

嬉しいことに、三年生の先輩方は一年生の、ぽっと出のあたしにすら声をかけて一緒に祝おうと誘ってくれる。

「はい!やりました!やりました!!」

大きく何度も相槌を打ち、新宿に入る前に感じた不穏な感覚すら忘れて先輩への感謝を述べ、握手を交わし、時には抱擁ーーー流石に同性とだがーーーーを交わし、そして辺りを改めて見回す。


遅まきながら、あたしは気付く。


生徒会長と、永江先輩の姿が、何処にも見当たらないことに。
















走る。

戦場を離れ、その先へ。

瓦礫の塔、或いは鋼鉄の大樹とかしたビルの立ち並ぶ新宿を、私は駆け走る。

「観測は確かなんだろうな?」

「データは何度も見返した。間違いないッス。あれは・・・」

一切振り向かずに、後ろを付いてくる同い年の少女に声をかける。

少女は全く迷う様子を見せずに、断定の意をはっきりと込めて告げる。


「あれは・・・ジャック・ザ・リッパーの分身と見て、間違いないッス」


今となっては残滓ッスけどね、と付け加えて、再び足音だけが鳴り響く世界が戻る。

ジャック・ザ・リッパーの、分身。

あれが霧を切り離し、新たな「切り裂きジャック」を生み出そうと言うのか?

それとも、既に意識のコピーを行い、自我を増殖させた・・・?

様々な予測が脳内を駆け巡り、考えうる限りの最悪の結末を回避すべくルートを選定する。

その中で、妙に引っかかるものがある。

永江の言っていた、「あれ」。


時間は、少し遡る。

霧が失われた時、殺人鬼があの場全員の、私と永江以外の全員の死角に解き放った、「紫色」の影。

それはすぐに色を変え、白い綿毛のように、されど意思を持っているとしか思えない軌道で戦場から遠くに飛んでいった。

それを見た私と永江は、すぐさま追跡を開始。

その最中に計測器を取り出した永江が、信じられないといった様子で声を震わせて言った。

「なんで・・・あの危険種と同じ反応なの・・・!?」

普段の特徴的な口癖の取れた、正真正銘の本気の動揺。

それだけで彼女の言葉が冗談でもなんでもないことが、すぐに分かった。


あれがジャック・ザ・リッパーと同じ反応、同じ存在なのだとしたら、一瞬見えた紫の影はなんだったのだろうか。

見間違いか?それはない。

「人間機械」とまで言われた永江も同じものを見ていたのだ。

私ならともかく正確さにおいて学院一と言っても過言ではない永江が、見逃したり、見間違ったりなどあるはずがない。

ではあれは、本当にジャック・ザ・リッパーなのか?

いや、そもそもあれは・・・

そこまで考えた所で、早速検証の機会に巡り会えた。

「見つけた・・・」

白い、霧を纏った「何か」が、そこにいた。

目や耳、口といった感覚器が見当たらないにもかかわらず、何故かしっかりとこちらを見ていると、何の根拠もなくそう思えてしまう。

白い物体は蠢きながら、まるで逃げる算段を整えているように見えた。

「永江、計測を」

「言われなくても」

そう言って計測器を改めて取り出しーーーーー刹那。

永江の腰から、音速に迫る速さで機械の腕が飛び出し、白い物体の一部を刈り取った、と認識できた束の間に。


深蒼と純白、そして黄金の光が眩く辺りを照らし、轟音と共に稲妻が走った。


「なっ!?」

「雷・・・!?」

隣の同級生と同時に目を丸くし、その口から驚愕がこぼれ落ちる。

強い閃光が眼に白い蓋をし、あらゆるものが視界に入ることを許さない。

それも一瞬だった。耐えかねた瞳の訴えに応じて瞼が黒いカーテンをかける。

暗闇にまで差し込む光が、やがて薄っすらと消えていくのを感じて、恐る恐る眼を開ける。

「・・・君は」

呆然と、愕然と、震える声で誰かに話しかける永江の姿が目に入り。

「・・・!?」

私もまた、その意味を実感する光景を目に焼き付けることになる。

立っていたのは、一人の少年。

二本の刀を両手に携え、背中にさらに三本の刀を背負うという、幻想に身を委ねすぎた若者とでもいうような格好の、黒服の少年。

それは見るものが見れば、こう感じただろう。



まさに、幻想に愛された少年だと。



「選抜生・・・」

少年は、学院ではそう呼ばれる。

しかし、その姿を見せたのは初めてと言っていいだろう。

私も、おそらく永江すら、こうして対面するのは初めてだ。

私達二人のうち、どちらかが呟いたその小さな声を避けるかのように、少年は再び雷光を纏い高く飛び上がった。

稲妻が天へと帰り、場に静寂が訪れる。

「二人とも、こんなところにいた!」

快活な、しかし怒りを込めた声に、私と永江の奪われた時間が動き出す。

「二人して戦場を抜け出して何やってたんですか!?きっちり説明してもらいますからね!・・・早く戻ってお祝いしますよ!」

しかめた顔は苦笑から明るい笑顔へと戻り、素早く伸びた二つの手が私と永江の腕を引く。

「会長」

彼女が運んでくれたこの空気に流されようとしたその時、私にしか聞こえない声量で永江が囁く。

「解析はまた後に。どうにか一部は入手できたので」

そう言いながら彼女がチラリと見せた、魔粒子の活動を抑制する特殊なケースに、「紫色」の靄のようなものがしまわれていた。

手を引く天野に悟られないようそれを確認した私は、小さく頷いて不安に満ちた思考をひとまず止めた。


そうだ、終わったのだ。

殺人鬼ジャック・ザ・リッパーは、打ち斃されたのだ。


そう、考えるようにした。





















勝利を祝うパーティーは、地下都市の一角、集会場のような所で豪勢に開かれた。

学院では滅多にお目にかかれない水々しい野菜の数々に、脂と肉汁を惜しげもなく輝かせる焼肉。

食料を得るために新宿に作られた大農園と牧場から繰り出される、大量の素材から生み出される料理の数々に、出し惜しみは一切感じられない。

悠も、里村先輩も、天野さんも、永江先輩も生徒会長も、そして征伐メンバー全員が勝利と生還を喜び、その幸せを分かち合う。

僕はその輪から若干離れた所で見つめ、無意識のうちに口元を緩ませていた。

・・・だが、勿論忘れてはいけないこともある。

地下都市の平和をずっと守っていた新宿自警団、その多くが今回の戦いで犠牲になった。

僕も詳細な数はまだ知らされていないが、約五十人の英雄が命を散らしたということは知っている。

パーティー開始前の黙祷を経てもなお、僕の心が晴れることはなかった。

「よう」

短く、泡が弾けるように僕にかけられた声に振り向くと、一切食べ物に手をつけていないレインの姿があった。

「隣、いいか」

言うが早いか、返事を待たずに僕の隣に腰掛ける。

山形に折りたたまれた脚が、スカートを滑らせ・・・異性に見えてはいけないものを映し出す。

もう彼女を女性でないと思うことは、僕にはできなかった。

慌てて目を逸らし何か意識を向けられるものはないかと探して、ふと気づく。

ヨルムンガンドの気配が無いのだ。

「あいつには席を外してもらってるよ。・・・いや、というか食いたい物があるとかなんとか抜かしてたな」

心を読んだように口を開きながら、折りたたんでいた脚を真っ直ぐに伸ばしスカートを直す。

少し顔を赤らめてはいたものの、お互い話題には出さずに話を続ける。

「珍しいね、ヨルムンがレインの側にいないなんて」

「・・・前にもあっただろ」

口調こそ乱暴だが、そこに苛立ちや怒りといったものは感じられない。

「そう?あ、前に保健室に来た時か」

「そ、そう、そうだよ・・・そういえばさ、もう身体は大丈夫なのか?」

珍しく言葉が詰まるレインが、少しだけ慌てたように話題を切り替える。

「うん、なんとか。流石にこれ以上の戦闘は無理だけど、普通に歩いたりするくらいなら大丈夫だって」

そうは言ったものの、その通りに普通に動いても、身体の節々が軋むように痛みを訴える。

悟られないように笑みを浮かべて振る舞うが、何処をどう見たのか、というか何を思ったのか、レインが途端に僕の身体に腕を回す。

「えっ!?あっ、や、ちょっと!?」

痛みはある。

だけどそれ以上に心臓が鼓動がというか肌が触れて何がなんでというか少女にしては発達してる胸が当たってる当たってる当たってーーーーーー!!!

「聞いてくれ」

「ひ、ひゃい?!」

耳元で囁かれる何処となく妖艶な声に、我ながら途轍もなく情けない声を出してしまう。

しかしレインの方から微かに伝わる鼓動は、ゆっくりと、とくん、とくん、と僕に冷静になれと伝えている。

「だ・ま・っ・て、聞いてくれ?」

ちょっとだけ咎めるように言い、そこで小さく息を吸う。

その吐息が耳に当たって、少しくすぐったい。

「・・・まずは、その、頑張ったな」

「ん・・・」

きゅっ、と優しく抱きしめられるその感覚は、僕の疲れや傷といったものを、全て忘れさせてくれた。

「頑張ったお前に、また尋ねるのは自分でもどうかと思うが・・・答えてくれ」

真剣な表情だが、その顔は赤らめたまま声を小さくして、聞いてくる。

「お前に、目的はあるか?」

「?」

それはさっき言ったはず、そう言いかけたところにレインが続ける。

「勘違いするなよ、あの時のあれはあくまで目標だ。あたしが聞いているのは、目的。間違えるな」

責めている様子じゃない。

そう直感した僕は、改めて考える。

目的。

戦う意味。

・・・自分にそう言えるものが何一つないと、僕はこの時ようやく気がついた。

強くなりたいと言うのは、確かに目標に過ぎない。

天野さんが問うたのは、あくまでその過程で自らがなるもの、成し得る存在になること。

対して今レインが問うているのは、己の願い。

何を為し、何を残したいのか。

そういうことなのだろう。

一人納得した僕の様子を感じ取ったのか、改めてレインが問うた。

「で、目的はあるのか?」

「・・・・・・無い、と、思う」

小さなため息。

耳に当たったそれに、びくっ、と身体が震えてしまう。

声が出なかったのが幸いだろう。そもそもこんな恥ずかしい所、誰にも見られたくない!!

そんな僕の心境を知ってか知らずか、顔を耳元へ密着させたままだったレインが、ゆっくりと僕の前へと少女らしいその顔を戻す。

「だったら、一つだけヒントをやるよ」

少しだけ、悪戯っぽく微笑んで。

「お姉さんからの、頑張ったご褒美、だ」

間近でウィンクを決め、直ぐに表情を戻し。

肩を掴んで、見るものによっては口づけを迫るかのような姿勢で。


「ルクス。お前の過去にーーーーーー」


「ちょっとー?なーにコソコソやってんのよーふーたーりーでー!」

ばばっ、と音を立てて離れる僕とレイン。

もはや仄かどころではない、お互い顔面を真っ赤に染めて、空中に手を泳がせてなにかを伝えようとするけど何も出てこなくてどう釈明したらいいのか分からなくて!

っていうかなんで天野さんがこんな隅っこに来たのかそれすらも考えられないほど頭がぐるぐるぐる!!

「よ、よう!!あ、あたしら二人はこういう賑やかな場は慣れてねえんだ!?な!?」

「そ、そそそそそそうそうそうそう!だから天野さんは僕達なんか気にせず皆と楽しんでくるといいよ!うん!」

「おいあたしまでなんかって言うなよ!?」

「今そこ突っ込むの!?」

完全に動転して何を言っているのか分からなくなる僕達二人を、じぃーーーっと天野さんの両眼が視線で貫く。

「ふぅ〜ん?なんだかすっごい良い雰囲気だったじゃな〜い」

間延びした声に、そしてその吐息から漂うとある香りに、僕達は一つの確信を得た。


(天野さん、ノンアルコールのワインで場酔いしてる・・・)

(こいつ、ノンアルコールなのに場酔いしてやがる・・・)


いつしか、顔一面の熱はすっかりと冷めーーーー違う、無理矢理意識を逸らしただけで、実際はまだ二人とも熱を持っていたーーーーーー仕方がないのですっかり泥酔してしまった天野さんを運んで行くことにした。

「未成年なのに飲み過ぎるからだよ、天野さん。ノンアルコールのワインで酔うなんて」

「なーにーよー!あたしをのけものにしようってのー!そうはいかないんらからぁー!!」

「もうすっかり出来てるぞ・・・どうやったらアルコールゼロ%でここまで酔えるんだよ」

ははは・・・と、苦笑する。

天野さんの意外な一面が見られたのは素直に嬉しいのだが、さっきの言葉の意味が気になる。

僕の、過去。

思い返しても、何一つ不自然な点は見当たらない。

父と、母と、そして僕。

我ながら何不自由なく暮らし、ある日突然この学校に入学させられ、その後、父と母は殺された。

・・・?

何も、無い。

そう、何も無いのだ。



ーーーーそこに至るまでの、詳細な記憶が。


まるで、霧がかかったようにおぼろげだ。




「るくすくん〜!こらぁ〜!あたしをおいてくなぁ〜!!いっしょにのむの〜!!」

ぎゃーぎゃーと大きな声で叫ぶ天野さんを、一応救護班の班長さんの元へと連れて行く。

レインが軽く手を振ると、細長い眼鏡がよく似合う、白衣の天使を思わせる風貌の霧島奈緒先輩が、大人しそうな笑みと共に会釈し、次いで苦笑する。

「これ、どうしたんですか?ここにあるのは全部ノンアルですよ?」

ふふっ、と笑いながらも慣れた動作で彼女の身体を触診する。

先輩が肌に触れた時点で顔を背けようと思ったが、レインに苦笑しながら「大丈夫だよ」と言われたので、少しドキドキしつつも目線を逸らさないようにした。

「あらら・・・完っっ全に場酔いね、コレ」

触診だけで分かるものなのだろうか、そんな疑問を投げかけようかと思ったが、止める。

「この様子じゃ、パーティーに参加し続けるのは無理ね。運んでおくわ、それじゃあね」

それだけ言うと、あれよあれよという間に天野さんの身体を抱えた霧島先輩が、流石三年生とも言うべき動きで遠くに消えて見えなくなる。

見届けたところで、僕は改めてレインに問おうとするが。

「・・・あれ?」


彼女の姿もまた、忽然と消えて見えなくなっていた。


(よう、お嬢ちゃんをお探しかい?)

突然頭の中に声が響く。

辺りを見渡すが、声の主は見当たらない。

だが、誰が話しかけているのかは分かっているのだ。

気配の全く掴めなかった、僕の恩人。

精霊、ヨルムンガンドは、手招きの代わりにこう告げた。

(話がある。旧新宿の目に来な)

















「ヨルムンガンド?」

パーティー会場から旧新宿の目までは、僅か五分もかからなかった。

僕の声がスイッチとなったかのように、虚空から鉄鎖の蛇が姿を現わす。

「来たか。なんだ、随分と早いご到着じゃねえか」

「パーティー会場から近かったからね。分かっててここに呼んだんでしょ?」

肩をすくめながら言うと、碧黒の精霊はカラカラと笑うだけでそれには答えず。


代わりに、ある事を告げた。


それは僕の道を決める決定的な一言であり。

運命の羅針盤を回す一言であり。

一冊の本に新たな頁を書き加える一言であり。

未来への架け橋となる一言であり。



「天道寺ルクス」


「お前の記憶を、取り戻したくはないか?」


「取り戻したいのなら、「政府」を探れ」


「そして、己の世界を疑え」


「お前にとっての聖戦は、ここから始まるんだ」








こうして、地獄のような新宿の戦いは、多くの犠牲とともに、一夜にして終わりを迎えた。


だが、それは序章に過ぎず。


地平線の彼方から暁の太陽が残酷な調べを奏でるための、序曲に過ぎなかったのだと。

僕は思い知ることになる。

新宿編、これにて完結。でございます。

オルタです。

聖戦学院28話、如何でしたか?


ここで、ジャック襲撃時の滝宮生達の動きで、泣く泣く書き切れなかった部分をご紹介。


里村→鳴り響く警報に反応し、即座に会長に連絡し合流するべく移動。

安村→警報の後に里村からの連絡を受け、移動中に部品を回収。

永江→部品を探している中自警団に呼ばれ、作戦の指揮を請われると同時に鳴り響く警報で、防衛の指揮と武具の作成。



長かった新宿編も終わり、新たな謎が次々と現れ、物語の舞台は新たな方向へと流れていきます。

選抜生と呼ばれた少年、ルクスの過去、そして何故それをレイン達は知っているのか。

そして、次なる敵とは。

ルクスは目標と目的を、遂げることができるのでしょうか。


次回、何編が始まるのかはまだ未定ですが。

楽しみに待っていただけたら嬉しい次第です。

それでは、今回はこの辺で。

オルタでした。

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