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聖戦学院  作者: 雪兎折太
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聖戦学院2話 食堂にて

初めましての方は初めまして、

1話を読んでくださった方はありがとうございます!

オルタです。


早くも2話目が完成いたしました。

今回、ちょこっとだけ戦闘?シーンがありまする。期待せずにご覧くださいませ。


図書室を出たルクスと悠、食堂で話をしていると、突然上級生の男が現れて・・・?

「さて、そんじゃそろそろ飯にするか。お前も腹減ってるだろ?」

先ほどまでの重い雰囲気は何処へやら、爽やかな笑顔で悠が問いかけてくる。

自分でも忘れていたが、いま僕と悠がいる部屋は図書室、学院の6階にある結構広い教室だ。

この学院の内装は、正直かなりめちゃくちゃなので、時折自分がどこにいるかさっぱりわからなくなる。

図書室もその例外ではない。外から見るとどこにでもある学校(と言っても変革前の話だが)の図書室と、広さはそう変わらないように見えるが、中の広さは一般的な図書室とは比べ物にならない広さである。

普通に歩いていては目当ての本はおろか帰ることすらままらなくなるほどの広さなので、生徒たちはあるカラクリを使って移動しているのだが。

「そういや朝から何も食べてなかった・・・時間もちょうどいい頃だし、食堂行こうか。」

おう、と悠は頷いて立ち上がり、僕に教えるために使っていた本を、元の棚に戻さなきゃな、と言いながら、ズボンのポケットから、小さな長方形のカードを取り出した。

慣れた手つきでそれを右手の上でクルクルと回し(これだけでも十分凄いと思うのだが)、それを空中に投げ、

「せ の46番。返却。」

と言いながら左手に持っていた本を掲げる。


すると、左手の本と空中のカードは、それぞれ淡く青い光を放ち、その後、本場無数の小さな光になって消滅した。


これが、この図書室のカラクリである。魔術科の教師が膨大な図書室を管理しやすくするために開発した、この学校独自の図書カードである。別に正式名称などはない。

このカードを空中にかざしながら、本の元あった場所の名前を発声すると、本はそこへと転送される仕組みになっている。

また、自分の名前を言ってから読みたい本の名前を言うと、なんとその本が手元に転送される。

このため、この図書室の生徒用スペースは全体の10分の1にも満たない。それ以上必要ないのだ。

学院の外ではまだまだ科学は現役なのだが、こういう光景を見ると、いつかお株を奪われるんじゃないかと思う。というよりそのうち取って代わられるだろう。


落ちてきたカードを再び右手でパシリと掴み、行こうぜ、と促してきた悠に返事を返し、僕たちは図書室を後にした。


「・・・本当、時代は変わったよな。」

ふと、悠が食堂への道を歩きながらそんなことをつぶやいた。

「まだ外では普通に科学が使われているとはいえ、こんなのが大量に発明されたんだ。確実に魔粒子学は発展する。」

そう言いながら、先ほどのカードを手に取る。

カードには 滝宮学院 2年 魔術科 桜木 悠 という文字が書いてあった。

「まあ、この学院のシステムの大半が魔粒子頼みだからな。でも便利になるならいいことじゃないか。」

そういうんじゃないんだよ、と悠は苦笑しながら呟く。意味がわからず、思わず首を傾けてしまう。

「ま、今の俺たちがいるのはここ、滝宮学院だ。外のことなんて、今更気にしてられないさ。」

僕がよくわからなくなっている間に一人でまとめてしまったようで、ふと顔を向けた時には、着いたら何食べるよ? と僕に聞いている、明るい悠の姿がそこにあった。





図書室を出てから10数分が経過した頃だろうか、ようやく僕たちは学院2階にある食堂にたどり着いた。

学院の内部も、かなり改装されたのか迷宮のようで、1階移動するだけでも場所によってはかなりの労力が強いられる。

特にまだこの迷宮に慣れていない1年生たちは酷いもので、迷いすぎて授業に遅刻するということがザラにある。

かくいう僕も何度も迷って、その度に悠にお世話になっている。

食堂は、そんなカオスな学院内部の施設の中でも、一番まともなところだと言っていい。


「意外とあっさりついたな。おいルクス、今何時だ?」

早くも食堂の席を確保した悠が、時間を訪ねてきた。

僕は左腕につけている腕時計を見やる。

「えっと・・・12時43分。昼休みが終わるまで、あと・・・」

「おいおい読み間違えてるぞ、24時43分だ。昼終わりまで1時間ちょいか、かなり余裕ができたな。」

食い終わってもしばらくは駄弁れそうだ、と悠は上機嫌。

先ほどの悠の時計の読みは間違いではない。大変革以降、全生命の時間の感覚が、約2倍になっていることが明らかになった。つまり1日が48時間になり、1ヶ月は60日、1年は730日となった。「政府」の見解によると、細かな自転のズレによって起きるうるう年も無くなり、それに伴い暦も変化。

この新しい暦は、西暦2022年から適用されるようになった。

界震最大の爪痕、とも言われている時間感覚の変化も、考えようによっては、人類の得となる。

あくまで時間の感覚だけが2倍になったので、本来の寿命や、太陽と月、星々の周期などは一切変わっておらず、1日には太陽は二度昇り、体感寿命は2倍となったのだ。

「全く、慣れないなあ、48時間制なんて・・・」

「むしろ感謝するべきなんだろうよ、単純計算で俺たちの授業時間が2倍になってるんだ。真面目ちゃんには嬉しいことなんだろうぜ。」

「そういう言い方やめろよ・・・学年トップクラスなのにそういうこと言ってると、また何か言われるぞ。あ、僕味噌ラーメンにするね。」

そう言いながら僕は財布から学生カードと小銭を取り出す。

「言いたい奴には言わせときゃいいんだよ。ったく。んじゃ俺は・・・天玉焼きそば、っと。」

悠も話を返しながらカードと小銭を取り出した。


これも図書室のカラクリと原理は同じだ。対価を払わねばならないという違いはあるが。

対価とはつまりお金のことだ。こんな世界になっても日本円は有効なのである。流石の「政府」も、貨幣の統一は難しかったのだろう。


暫く待つと、机の上に置いてあった、互いの小銭とカードが青く光りだし、小銭だけが消えた。

次の瞬間、そこには小銭の代わりに味噌ラーメンと、天玉焼きそばなる食べ物が現れていた。

一緒に現れたお箸をとって、いただきます、と言ってから箸を進める。うん、普通に美味しい。

と、ふと気になることがあったので、

「そう言えば、悠はどの入試で入学したの?実技?それとも推薦?」

僕は推薦だけど、と付け加えて、目の前の友人兼先輩にその問いを投げてみることにした。当の本人はわずかに苦笑しながら、

「お前と同じ、推薦だよ。親父が、お前はここに行くんだ、って聞かなくてな・・・」

泣く泣くだ、と肩をすくめながら悠は答えた。


この学院に入る方法は3つある。

一つは悠や僕が取った、推薦入試。

親族の許可と学院の面接、そして簡単な試験に受かれば合格だ。

面接官は受験者の全てを見ることができる魔法を使っている、などという噂が立つほど、この入試で入った学生は人格者ばかりらしい。

その割には、普通にやんちゃな人たちも見かけるのだが。目の前の人とか。


もう一つは実技入試。実際に試験官と戦って、その結果で合否を判定する。

試験で使う得物はなんでも良く、刀剣や弓、槍術や格闘、魔粒子技術、種類を問わず自分の好きな武器を使える。

ただし、その得物や戦い方に応じて、学科も入学時に決められてしまう。

主に独学や習い事で武術を学んでいた人達が受ける入試だ。


最後の一つは選抜入試。所謂スカウトだ。

これで入学した人は一人しかいないと言われ、その人も滅多に姿を現さないと言われている。


「ここがどういうところか、あいつはわかってないんだよ。俺は正直ゴメンだったんだけどさ。こんな所。」

そう言いながら天玉焼きそばを頬張る悠。

「でもお父さん、悠が学年トップって聞いたら驚くんじゃ無い?」

「ねーよ。あいつ、ずっと無干渉だったし。」

若干投げやりに返す悠と、それに曖昧な表情で沈黙する僕。どうやら父親とは不仲だったようだ。

どう切り返したもんか、と僕が考えていると、横を通り過ぎようとしていた、生真面目そうな生徒が突然僕の方を向き、やや不機嫌そうな様子で

「君、1年生だな?先輩には敬語を使うものだと、中学で習わなかったのか?」

・・・お叱りをくらってしまった。

「違う違う、俺が言ったんだよ。タメ口にしてくれって。ダチに対してずっと敬語ってのもおかしいだろ?」

と、横から悠が割り込んできた。確かに初めて話した時、悠は僕にタメ口にしてくれと頼んできたのは事実だ。

「ダチだと・・・君は自分の立場が分かっているのか桜木!?下級生を導き、育てることも我々の使命だろう!」

「そうやってガッチガチな態度とってるから1年坊にビビられるんだよ里村。大切なのはチームワーク、どんな時でも仲間を大切にって言ったのはお前だろう?」

言い争いが始まってしまった!?これは早急にどうにかしないといけないのだろうが、僕がここで出しゃ張るとさらにややこしい事態になりかねない。

黙っていよう、と決めたその時。里村先輩が叫んだ一言で、



「君がそんなでは、守れる命もまた守れなくなるんだぞ!?」



空気が、一変した。


先ほどまで何方かと言えば言い争いを楽しんでいた悠の表情は、急に厳しいものとなり、ワナワナと震えながら里村という男子生徒を睨みつけている。

その里村先輩は、しまった、というような表情を浮かべている。

「・・・すまない、酷いことを言ってしまっーーーーーーーーッ!?!?」

何が起きたか一瞬分からなかった。

バンッッッッ!!!という衝撃の音がした。

その余波で僕は数mほど吹き飛ばされてしまった。

驚きと困惑とともに、僕がようやく認識できたのは。


謝ろうとした里村先輩の首元を、分厚い氷の鎧を纏った悠の左手が、鷲掴みにしているところだった。


「・・・次言ってみろ。殺すぞ?里村。」

「ガーーッ、ア、ググ、す、すま、なかっ、・・・グ、グアッ、カハッ!?」

先ほどまでの悠の声とは全く違う、ドスの強く効いた声。僕には一瞬、それを悠が発しているとわからなかった。

里村先輩の謝罪を聞くと、悠はゆっくりと目を瞑り左手を広げる。重力によって、里村先輩の体は食堂の床に帰ってくる。

「ゲホッ、ゴホッ、か、カハックハッ ・・・」

苦しそうに咳をする里村先輩。

ずっと呆然としていた僕は、そこでようやく動き出すことができた。

「ちょ、ちょっと大丈夫ですか!?悠!!何してるんだよ!!この人を殺す気か!?」

里村先輩の元に駆寄り、傷の応急手当をする。そして悠の方へ振り向き、叫んだ。

ちらりと周りを見ると食堂の他の生徒たちが、何事だ何事だ、と僕らの周りを取り囲んでいる。野次馬目的の輩が殆どだが、よく見ると教師を呼んでいる人や、魔粒子で治療しようとしてくれている人・・・おそらく上級生達だろう、もいた。

彼らの優しさに心の中で礼を言いながら、改めて悠の方へ向き直った。

悠は俯いたまま無言だ。だが微かに後悔の気配が感じられたので、ひとまずは安心する。

「全く・・・1年が入って・・・3ヶ月だ。お前も、もう少ししっかりしろよ・・・桜木。」

この人は恐れを知らないのか!?と、この状況には少々不釣り合いなことを考えてしまい、誤魔化すように悠を見る。

すると、悠は細かく震えていた。

「すまねえ・・・傷つけるつもりは・・・」

「分かっている。お前がどれだけ努力しているかなぞ、私もよく知っている。」

その両腕のこともな、と優しげに悠に微笑みかける里村先輩。先ほどの謝罪といい、良い人なのだろう。悠もその微笑みにつられ、弱めであるが笑顔を取り戻したようだ。


と、その時






敵襲!!敵襲!!エマージェンシー!エマージェンシー!総員、直ちに戦闘準備を!!!繰り返す!!

敵襲!!敵襲…





大音量で警報が鳴った。


食堂に集まっていた上級生の顔が、みるみる絶望に変わっていく。

「嘘だろ・・・来るのかよ、結局来ちまうのかよ!?」

「やめてくれ・・・あいつと、ようやくあいつと付き合えたっていうのに!!!」

「嫌だ・・・いやだ!!いやああああああああああっ!!!!!」


何故、「政府」はこのような学校を建てたのか。

何故、軍では対処しきれなかったのか。

僕の問いに悠はこう答えた。

いずれわかる、と。


「もう来ちまったみたいだな。」

声をかけてきた悠の方を見ると、その顔は怒りと憎しみ、そして恐怖に満ちていた。

里村先輩の方も、表情にこそ出さないが、体の震えが恐怖をこらえ切られていないのを証明している。

「答え合わせの時間だぜルクス。」

悠が僕に告げる。


「これが、今の世界の真実だ。」

あとがきとなります。オルタです。

聖戦学院2話、お読みくださりありがとうございました!

今回は前回紹介できなかった設定や、初のバトル?シーン、新キャラの登場など序盤の展開盛りだくさんでございます。

え?こんなの序盤の展開って言わない?ゴメンナサイ・・・


今話では、悠の力が少しだけ明らかになりました。そして露骨な敵出現。ロコツ!

上級生の人達がまるでO撃のO人のようなビビリっぷりですが、その理由の一端が次の話で明かされる・・・といいなあ。


ルクスくんたちがどうやって戦うのか、そのメカニズムについては、もう少しお待ちを!


それでは、願わくば3話でまたお会いしましょう!

有難うございました!

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