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聖戦学院  作者: 雪兎折太
17/56

聖戦学院17話 「外」での戦い

いよいよ征伐の日となり、ルクス達は新宿へと向かう。

その途中、瓦礫と草木の入り混じった森で新たなるモータルが襲いかかる。

征伐当日の午前八時。

集合場所である学院正門前に到着した僕は、まだ姿が見えないメンバーが何人かいる中どうしたものかと悩んでいた。

剣の修行とまではいかずも練習程度、あるいは慣らし程度はしておきたかったものだが、彼方此方で張り切っている戦闘班のリーダー格である先輩がみんなに喝を入れている。

「いいか、俺たちは一匹でも多くモータルを狩り尽くし、そして一人でも多くの人を助ける為に戦うんだ。敵に遭遇しないことじゃなく、むしろ遭遇するべきなのだということを心に刻んでおけ!!」

はるか遠くまで聞こえそうなほどの大声で仲間に叫んでいた彼は、僕を見つけると些か大袈裟すぎるほど手を振りながら。

「おーい、一年坊!!お前達の活躍も期待しているぞ!!」

と言葉を送ってくれた。それに同調するように、周囲の何人かからもエールが飛んでくる。笑顔で一礼すると、リーダーは満足そうに頷いた後、再び他のメンバーに喝を入れ始めた。

征伐メンバーは戦闘班、前線支援班、救護班、索敵班、そして後方支援班の五つの班に分けられる。

それぞれの班に割り当てられた役割をこなしながら戦うのが基本であり、僕達は後方支援班に属している。

メンバーは三年生の精鋭五人に天野さん、悠、里村先輩、永江先輩、そして僕を加えた十人。ちなみに班長は過去に何度も征伐に赴いているという永江先輩だ。

「あれ、毎回言ってるのかな?」

そう言いながらふらりと隣に現れたのは天野さんだ。

指先で得物の媒介であるリングを器用に回しながら、僕のそばまで来ると壁にもたれて腰掛けた。

「言ってるんじゃないかな、恒例行事?みたいな」

そう言うと、大して興味はなかったのか、ふーんとだけ返事する。

「一応話しておこうと思うんだけどさ」

顔だけ彼女の方に向け、続きを促す。

「あたし、この征伐に参加するの正直嫌だったんだ」

「というと?」

唐突なカミングアウトに少し驚くが、なるべく顔に出さずに続きを聞く。

「正確には、今参加するのが嫌なの。だってさ、まだ前の征伐の人達帰って来てないじゃん。それにあたし達はいくらあの死神と戦って生き残ったとはいえ一年と二年だよ?そりゃあ永江先輩は三年生だし、研究科のトップだからいざという時にはすごく頼りになるけど、なんであたし達も連れて行かれるの?」

これまで不快そうなそぶりを一切見せていなかったので、彼女の言葉には驚きを隠しきれなかった。

僕自身も疑問に思うところはあったが、何かしらの行動が起こせるということで彼女が指摘した事実には目をつぶっていた所もある。

「でも少しでも外の世界を見れるのは良いことだと思う。それに・・・」

「それに、今回の征伐で力をつければ、目標に近づける・・・って?でも天道寺くん、君の目標って何?」

「何って、皆を守り抜くのと、世界がどうしてこうなったかを突き止めること、それが僕の目標だよ」

彼女の目線が僕を真っ直ぐ射抜き、問いかける。

何のために、戦っているのか、と。

思ったままを答えると、彼女はきょとんと目を丸くさせて、そして微笑みながら、しかし真剣な表情で僕を見据える天野さんは、ゆっくりと語る。

「あたしにもあたしの目標があるわ。ねえ、天道寺くん覚えておいて。目標は戦うための「言い訳」じゃないの。これ案外大事なことよ?」

「それって、どういう・・・」

続きを聞こうとした瞬間、遠くから聞き馴染んだ声が響いて来た。

「おーーっす!!早いな二人とも!」

声がした方を見ると、駆け足で近寄りながらこちらに手を振っている悠がいた。

見れば、里村先輩と永江先輩も一緒にいた。相変わらず永江先輩は里村先輩にくっついている。

「続きは帰ってからにしよっか」

耳元に囁く天野さんに頷き返し、悠達の方へ歩き出す。

「いよいよ今日だな。二人とも体調は万全か?」

悠の言葉に、僕も天野さんもしっかりと頷く。

それを見た悠は満足げに笑い、次いで僕達の肩を叩く。

「正直何が起こるかわからないけどさ、絶対みんなで生きて帰るぞ!」

何やら張り切っている悠の大声に、周りの三年生が次々と反応し始める。

「俺たちも忘れるなよ!」

「下級生だけに命張らせるわけねえだろ?」

「うちらも全力で守るからな!」

頼もしい皆の声に心を支えられながら、背中の剣の柄に手をかける。

「よろしくな、相棒」

誰にも聞こえないように囁き、ぐっと柄を強く握り締める。

「全員集合!」

征伐メンバーを指揮する安村先輩の号令に、僕達は一斉に集まった。

「整列!」

「「「「はい!!」」」」

整った動きで全員が五つのグループに分かれ整列する。前へならえは必要ない。

「これより、第九期征伐を開始する!目的地は東京二十三区の一つ、新宿だ!」

全員が頷く。

「一人でも多くの人を救うために、全力を尽くせ!」

ゆっくりと手を上に挙げ、そして振り下ろす。

「行くぞ!!!」

その一声をきっかけとして、鬨の声をあげながら次々と征伐メンバーが駆け出した。

















「悠、右!その次左!!」

学院を出て約一時間。新宿まで凡そ十キロの森林地帯。

かつて都市であったこの場所は、今やすっかり草木の生い茂る廃墟と成り果ててしまった。

そしてそこをねぐらにする怪物の大群が、今まさに僕らを襲撃しているところだ。

あまりに数が多すぎるためか、戦闘班や前線支援班のメンバーの姿も、そして何故か永江先輩の姿も見えない。

「応っ!」

悠が答えながら、両脇からくる敵を次々に殴りつける。

しかしその打撃を受けたモータル、「風刃蜂」は力尽きることなく再び草むらに逃げ込んでしまう。

だが追撃をかけるべく剣を構えて走り出す僕より早く、里村先輩が矢を放ちその迷彩色の身体を貫き、仕留める。

「くそっ、幾ら何でも俺達だけに任せるっておかしいだろうが・・・おい、あと何匹だ!?」

「多分十ちょいだと・・・思いま、すっ!と!」

鎌を構えながら悠の苛立ち混じりの声に威勢良く答えたのは、天野さんだ。まるで生きた独楽のように回転しながら蜂を追い詰め、最後の一振りを死神の鎌のように振るい、怪物の命を絶つ。

永江先輩による各班での各個撃破が命じられてから数分、数は大分減ったものの蜂は次々と攻撃をかわし必殺の一撃を叩き込まんと突っ込んでくる。

余裕が出来たと判断され、三年生は前線の支援に向かったので、今応戦しているのは下級生である僕達四人。

「これ全部焼き尽くした方が早いんじゃねえのかよ!?」

「よせ、落ち着け!それより悠、戦闘班が大型と遭遇した」

遠視を使っている証である青色の眼をした里村先輩が悠に駆け寄る。

「他の種ならともかく、風刃蜂なら九匹程度、あの二人でも楽勝だろう。救護班や索敵班も動けない今、我々も援護に向かった方が良い」

里村先輩の言葉に一瞬驚嘆と怒りを見せた悠だが、ふと何かを思い出し、ついでにやりと笑う。

「確かにな。だが一応・・・・・・」

続きを聞く前に僕の方へ蜂が飛んでくる。意識を蜂の方へ引き戻して、同時に殆ど反射的に剣を振る。

あえなく避けられ、またもや草むらに逃げ込まれたものの、自分の身体に切り傷が無いことを確認して、安堵する。

しかし、木陰で僕達以外の光が殆ど届かないこの森の中では、草むらに逃げ込んだ迷彩色の蜂を視認することは難しい。

かといって無闇に照らせば僕達二人の体力の消耗が激しくなってしまう。

まだ目的地に着いていない今、消耗は少しでも避けたい。

悠と里村先輩は、どうやら他の班の援護に向かったようで、すでに姿はなかった。三年生のメンバーも同様だ。

「天道寺くん、天野さん、作戦があるッス」

背中越しに見ると、戦闘班の支援をしていた筈の永江先輩がいつの間にか戻って来ていた。

「恐らく他の蜂は一箇所に集まってこちらの様子を伺ってるッス、風刃蜂は狡猾なやつらッスからね」

「じゃあ、どうすれば?」

「あいつらの弱点を突くんスよ、これで」

先輩が取り出したのは、死神戦でも見せた閃光玉ーーー正確にはフラッシュグレネードというらしいーーー。

それを見た瞬間、過去に見た資料の知識から僕達二人は先輩の狙いを察した。

「天道寺くんには蜂を草むらから出してもらわないといけないッス。かなり危険な仕事になるッスけど、大丈夫ッスか?」

問題ありません、と深くうなずき、剣を構える。

「天野さん、蜂が出たらこのピンを抜いて、すぐに投げるッスよ。一瞬でも遅れたらアウトッスからね!」

そう言い残して、先輩も戦闘班の所へ戻っていった。

青い矢が突き刺さった死骸を踏み抜き、両手に持った剣を虚空へと振り抜く。

否。それは普通の剣の長さを遥かに超えた光の剣。

何もないはずの空間を引き裂いたそれは空気を震わせ周囲の蜂を引きずり出す。

その数、八。

つまり、周囲の残りの蜂全て。

「今だっ!」

僕の声に応じて天野さんが先程の爆弾を構える。

「ちょっとだけ眼つぶってて!」

一言そう告げると蜂の前に見事なコントロールで投げ込み、あたりを眩い閃光で包む。


さて、風刃蜂は草木の迷彩色をした全長約一メートルの毒蜂だ。

針は細く、長く、針というよりむしろ刀のような形状をしており、毒蜂の例に漏れず猛毒を含んだ体液を孕んでいる。

刺されれば、もとい、斬られれば最後。

即効性の毒が全身に回り動けなくなったところで、ありとあらゆる所の中を喰われるか、あるいは毒による呼吸器官の機能停止により、死ぬ。

その上数十匹の群れで動き、巣というものを持たないため、突発的な危険性はかなり高い。

だが、彼らは普通の蜂とは違って眼が異常なまでに発達している。暗闇の中でも確実に獲物を仕留めるためだ。その代わり耳が殆ど聞こえず、簡単に言うならコウモリの逆バージョンといったところか。


それは、僕たちのような「光」を扱える人間にとっては大きな弱点となり得る。


暗闇の中少しでも光を逃すまいとする彼らの眼に、過剰なまでに溢れんばかりの光りが突き刺さる。

人間の眼にすら眩しく感じるその光は、蜂の視覚と意識を落とすのにら十分だった。

声かどうかも危うい悲鳴を上げて、次々と風刃蜂が地に堕ちていく。

決して小さくはないその体で脚を細かく痙攣させる彼らに、容赦なく剣を突き立てる。

ならうように、天野さんも次々と蜂の腹を鎌で切り裂いていく。

「よっ・・・と。これで全部かな」

一息ついて、改めて周囲を見渡す。

視界に映るのは無数の蜂の死骸と、戦闘の影響で燃えたり切れたりした草木の群生。

新たな敵の出現が無いことを確認してから、手に持っている剣を鞘に戻す。

「それじゃ、先輩達のところに行こっか」

鎌状の光を霧散させながら、天野さんも得物をポケットに直す。

歩き始めようとした、その時。

「ーーッ!?」

「きゃーーー!?」

地面が大きく揺れる。

少し遅れて、凄まじい風圧が僕達を襲った。

次いで、思わず漏れた僕達の声をかき消す、耳をつんざくような咆哮。



「ギュィィィィイイイイリャアアアアアアアッ!!!!」



大気が大きく揺れ、事態の異常さを僕達に伝える。

「な、何!?」

「悠、里村先輩・・・っ!」

何かを考えるよりも早く走り出す。遅れてあとを追いかける天野さんを一瞬だけ確認し、すぐさま前を向く。

走る。

走る。

走る。

気づくと、さっきまで影の中だったはずの森林は、いつのまにか殆どの葉が吹き飛んで陽射しが容易く照らせるようになっていた。

道が見えやすい。音も聞こえてくる。

ーーーーー音?

走りながら耳を澄ませると、金属のぶつかり合う音、爆発音、地鳴り、咆哮。

そして、それに合わせて空気が震えるのが聞こえてくることに気づいた。

「一体何がいるんだよ・・・!?」

焦りと不安に煽られるように、自然と足が速くなる。後ろの方で待ってと言う声が聞こえた気がしたが、振り向かない。振り向いてる余裕が、ない。

生い茂る雑草を手で払いながら、声の方へと進む。

何度も何度も咆哮が聞こえ、徐々にその音量が大きくなり。

ようやく、人影を見つけた。

「ッ!?い、一年、なんでここに!?」

こちらに気づいた前線支援班の一人が、驚愕と焦りを含みながら僕に駆け寄る。

「退がれ!今ここはーーーー」

彼の言葉が終わるよりも速く、次の衝撃が僕達を襲う。

空気、地面、上と下から襲いくる揺れにバランスを崩しそうになるが、なんとか耐える。

「・・・・・・今ここは「大型」との混戦地帯だ。巻き込まれない内に離脱しろ!」

それだけ言うと彼は去っていく。その後を救護班のメンバーが二人追いかける。

その方角を見ると・・・・・・確かに巨大な影がそこにあった。

緑色の巨体から伸びる巨大な翅、六対の足、そして二振りの大きな、赤黒く血塗られた鎌。

目は血走り、人間を、いや生き物をただのコロスタメのモノとしか捉えていないような眼差し。


「それ」の姿は辛うじて蟷螂が元になったというのが分かるくらい、元の姿から大きくかけ離れていた。

先程の風刃蜂もかなり変容していたが、今目の前にいるあれと比べれば些細な変化だ。

いや、そもそもこれを「虫」などと呼んでいいのだろうか。

それよりも。


ーーーーこのモータルの名前は知らない!!そもそも図鑑や資料でも見たことすらない!?完全な初見・・・・・・ッ!?ーーーー


未知の相手。完全情報不足。

気がつけば奴から誰よりも遠いはずなのに、僕は誰よりも震えていた。

戦わねば、しかしどうやって。

後ろから援護を、剣で何が出来る。

足、そうだ。足を動かさなくては。

動かない。

手を、せめて、手を。

動かない。

僕は死神を撃退した。

奴は、死神よりも大きい。

いつしか、言い訳を探していた。

逃げたい。

どうすれば。

逃げたい。

誰にも非難されずに。

逃げたい、逃げたい、

どうすれば。

嫌だ。



死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたいーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!!!!!!



あの人は離脱しろと言った!

だからここで逃げても誰にも文句は言われないはずだ!

逃げて良いはずがない、後ろを向いて良いはずがない。

頭の中では分かってる!だけど身体が動かせない!?

まるで金縛りにあったかのようにピクリともーーーーーーーーいやーーーーーいや、違う。動かせないんじゃない、「動かない」。金縛りにしているのだ。自分自身を。

殆ど実戦経験がないゆえの恐怖。

それが、誰にでもわかる、金縛りの正体。


巨大蟷螂が、空高くその禍々しい鎌を掲げる。

ただの威嚇のはずなのに、それだけで全身がすくみ、とうとう立てなくなってしまった。


だが。しかし。それでも。


遠く、遠くの方でかすかに人影が見えた。

あれは、あれは何処だ?ああ、空だ。そう、空中だ。

あの巨大蟷螂に比べたら、まるでモンシロチョウのように小さな人影が、いくつも集まって狂刃に抗っている。


皆は、戦っていた。


咆哮に咆哮を重ね、刃に刃を重ね、振り下ろされる死に命をぶつけ、誰もが抗い戦っていた。

双の剣が舞う。紅蓮の拳が唸る。青き魔弾が射る。翡翠の槍が穿つ。

心地いいまでに刀が肉を断つ音が通り、怪物の肉が断ち切られる。

殺意を持って振るわれる風を、決意を持って受け止める。

何度も、何度も、形を持って目の前まで迫ってくる「死」を。

彼等は、己が「力」で押し返す。

それは、生きてやるという信念か。

或いは、自らが望む結末への執着か。

それとも。

ここから先は、僕にもわからない。

突如。

キィンッッッッッ!!

甲高い音が鳴り響き、次いでいくつもの金属が擦れ合う、身の毛のよだつ音。

戦闘班のメンバーたちがあの鎌を押さえ込んだのだ。

「う、ぉら、あああああああああああッ!!!」

一際大きな声をあげて、戦闘班のリーダーが身長と同等の長さの大剣を叩きつける。

ブラッドレインのそれよりは短いものの、豪腕から振り下ろされるその一撃は、並みの怪物なら一撃で沈む威力であろうことが素人目にもよくわかる。

だが、まだ足りなかった。

蟷螂は自らを傷つけたテキを払い飛ばし、自分に群がるガイジュウのクジョを始めようとする。

蠢く足は槍に、震える翅は烈風に、ヒトを完全に滅殺せんと、巨大蟷螂は動き出す。

それでも彼らは、尋常ではない速度で迫る鎌を、紙一重でかわして反撃の一手を打つ。

前線支援班が撹乱し、救護班が迅速に怪我の治療をし、後方支援班が懸命に援護射撃を行う。

彼らの援護を受けて、戦闘班がその得物を自由に振るう。

なぎ倒された木々を足場とし、縦横無尽に駆け回る。

戦闘班長の号令が、彼等の力をより高める。

その動きの一つ一つの、小さな一手の積み重ねは、確実に決めの一手へと近づく。

「ギュルルイッ!!?」

足を断たれ、体勢を崩した蟷螂が転倒する。

なお暴れようとするそれに、交戦していた全員が一斉に畳み掛ける。

「掛かれええええエエエエエエッ!!」

鬨の声を上げ、刃を構え、槍を構え、拳を構え。

斬る。

刺す。

殴る。

燃やす。

凍らす。

切り裂く。

潰す。

「ギャ、ギュギャ・・・ギ、ギギギキキキキキキ!!!」

炎に焼かれ土に潰され、全身にあらゆる傷を負った蟷螂が、耳障りな苦悶の声を上げながら、何度も足をバタつかせ、もがく。

最後のあがきとばかりに振り回される鎌を、的確に彼等は受け止める。

それでも殺らせまいと足掻く蟷螂の勢いは、傷を受ける度次第に衰えて行き。



そしてーーー気がつけば、ソレは死体になっていた。



「・・・・・・ねん!・・・・・・おい・・・・・い・・・・ん!!」


「おい、一年!!!」

目が醒める。

気がつけば、身体は横になり、僕はあの巨大蟷螂との戦場からかなり遠ざかったところにいた。

話を聞くと、僕が動けなかった間に救護班の一人が治療してくれていたらしい。

「天道寺くん!?」

顔を覗き込む天野さんにどうにか微笑んで返し、ゆっくりと起き上がる。

「僕は・・・・・・倒れていたんですか?」

しかし、首はすぐさま縦に振られなかった。

「君も、後から追いついたあたしも放心状態だったみたい」

「放心状態・・・・・・そんな・・・・・・」

「あの蟷螂が倒れるまで、酷い顔だったみたい。それから糸が切れたように倒れたんだって」

絶句する僕の横から、戦闘班の三年生の先輩が慰めを入れてくれる。

「無理もない。初めてああいう奴を見た者は大抵、そうなるものだよ。俺だってそうだった」

彼の言葉に、周りがうんうんと頷く。

どうにか気にしないようにと気を使ってくれているようたが、今はそれが帰って辛い。

何故なら。

先程の戦闘で負傷したメンバーが救護班の治療を受けているのが、否応無しに視界に入ってくるからである。

今僕に声を掛けてくれた彼も例外では無い。腕に何箇所も切り傷を負い、隠しようの無い流血の跡がどうしても僕の視界に入る。

治療の痛みに耐える呻き声が、判断ミスを嘆く声が、どうしても耳に入ってくる。

なのに、自分が何もしていなかったという事実が。

辛い。

「初めてだったから、なんて言い訳が通用しないのはお前達もわかっているだろう」

制服の上から黒衣のコートを羽織った、前線支援班の先輩が僕達に言う。

「お前も見ていたとおり、支援班の役割は文字通りの支援だ。言い方はあれだが俺達の助けがあるからこそ、彼等は全力で戦える」

「よさないか!・・・彼等はまだ経験が浅いんだ。そう責め立てるべきじゃ無い」

腕に包帯を巻き治癒を受けながら、先輩が制止する。

「お前達は甘いんだ!!こんな足手まといを連れて行くなんて俺は最初からごめんだったってのに・・・「外」での戦い方も知らないド素人を介護してやれる余裕なんて無ェんだよ!!」

「浦田!!」

浦田、と呼ばれた黒衣のコートの先輩は、不機嫌そうに舌打ちしながら最後に一言だけ言って去っていった。

「これだけは言う・・・「二度目」は無いと思え」

突き刺さる一言に、自分の無力さを痛感する。

だが、心の何処かでこう思ってしまった。


もし、あの時自分も戦っていたら。

被害はもっと少なくて済んだのでは無いか?



思い上がりとわかっていてもそう思う心に苛立ち、

そして、動かなかった自分を、ただ、責めた。



「外」での戦い・・・僕は、まだ、弱過ぎる。

お久しぶりです、オルタです。

機種変更なりで中々触れる時間がなく、大幅に遅れてしまい申し訳ありませんでした。

期間、全く守れて無い!!これはイカン・・・


さて、それを補うべくか、今回はいつもより若干文量多めでお届けしました。

今回ルクスではなく、三年生の先輩方の強さをフィーチャーしたかったのですが、いかんせんルクスがその場に居なかったのでセリフが殆ど入らず・・・ルクスの語りオンリーになってしまいました。

ちなみに。桜木悠も里村輝もちゃんと巨大蟷螂戦には参加しています。

そしてこの巨大蟷螂にもきちんと名前はありますので、お楽しみに(する所があるのか?)


三年生とルクス達の連携は、次回以降に書く予定です。


それではまた次回、オルタでした!

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