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聖戦学院  作者: 雪兎折太
16/56

聖戦学院16話 予兆は浅く、されど深く

(今回は前書き無しデス、ご容赦を・・・)

「以上で、会議を終わります」

事前におよそ一時間程度で終わるはずだと聞いていた征伐会議は、まさかの三時間という長い時間をかけて漸く終わった。

真面目な雰囲気を醸し出していた三年生の先輩方の殆どは疲労に顔を歪ませ、生徒会長の安村先輩でさえもやっと終わったとばかりに円卓の椅子にぐったりと腰掛ける。

「か、会議って普通ぐだぐだ適当に時間潰すものじゃないんですか・・・」

「そ、それは普通の学生だけだ・・・」

天野さんと悠が僕を挟んで会話する。その口調にいつもの力強さはなく、長い会議に二人ともやられたようだ。

「こ、ここは私がまとめなくては・・・・・・」

「無理でしょ・・・・・・あ〜眠いっす、超眠いっす・・・・・・」

まさかの先輩方全滅に驚愕を禁じ得ない。僕も無言で椅子に深く腰掛ける。瞼がくっつきそうになるのを必死にこらえて会議の内容を思い出そうと頭を働かせる。が、眠気にやられた頭はまさかのサボタージュを決め込めたようで体を動かすことにすら拒否感を行使しようとする始末だ。

「エナジードリンク全員分買って来たぞ!!」

その言葉に全員が殆ど一斉に立ち上がる。どんなに対モータル戦に長けた精鋭達でも、元はただの人間なのだ。腹も減るし恋愛だってしたくなる。

そして人並みの眠気もある。

全員がそれを払拭すべく、我先にとドリンクの元へ直行。アルミ缶に入っている独特な味のする液体を一気に飲み干す。あの安村生徒会長さえもだ。

僕も円卓机の一角(角と言うのもおかしいが)に並べられた飲み物を一本頂戴し、一気に飲み干す。エナジードリンク独特の味が口の中を満たし、頭の回転がゆっくりと滑らかになるのを感じる。

唐突にドリンクを飲んだ全員がーーー僕を含めてーーーーピタリと止まる。手に持ったアルミ缶を円卓机に置いて、一呼吸。

やがて、誰かが大声で言った。

「不っっっっっっっ味!!!!」













暇だ。

暇すぎる。

下の階で自分の受け持つ生徒達が眠気や独特な味のドリンクにやられている中で、剣術科顧問の進藤一は書類の整理をしていた。

といってもそれは形だけのものであり、本来は彼を静養させるためにあるのだが。

彼は学生達と比べて年齢がかさんであるため、魔粒子の恩恵が他人より薄い。

故に本来ブラッドレインとの戦いにおいては最も不利な戦いだったはずなのだが、彼はその差を自らの技量と経験で補った。

とはいえ直接彼女と斬りむすんでもいるので、身体への負担は他の人より大きい。

故に、彼は今実技授業を行うことは禁じられ、こうして完全に慣れてしまった事務作業に勤しんでいるのだが。

「おや進藤先生、征伐会議には参加しないのですか?」

「どうせ何もすることないでしょう、向こうでも」

ふてくされたように返す。返答した相手は研究科の顧問教師である一ノ瀬潤だ。

「まあそれでもいてやった方が少しは彼らも張り切るでしょう。この時期に征伐というのも如何なものかと思いますが」

肩をすくめ、皮肉地味た口調でやれやれと述べる一ノ瀬。

目の前の眼鏡をかけた細身の長身に進藤は、こちらもやれやれと言った風に返す。

「征伐は今の学院、ひいては日本全土の人々を守る為に必要なこと・・・今この滝宮にモータルが攻めて来ないのは、現征伐メンバーの彼等が命を懸けて頑張っているからというのは理解している」

だがな、と続けようとする進藤の言葉を、一ノ瀬が引き継ぐ。

「学生の彼等が遠いところに行って、無闇にその命を懸けることはない。所詮「政府」の犬でしかない私達・・・いや彼等が何か大きなことを成せるはずなど無いのだから」

「・・・・・・・・・それでも私は彼等のやってる事が無駄だとは思いませんよ。出来るものなら自ら助けてやりたいとも思っている」

後半拳を握りしめて言葉通り歯がゆそうに話す進藤に、一ノ瀬は一言だけ返しその場を後にする。

「それは私も同じですよ」













会議に参加した殆どは完全に授業のサボりを決め込んだようで、各々の足取りで寮にある自分の部屋に戻っていく。僕もそれに習って自分の部屋に戻ろうと足を進めようとしたのだが。

ぱしぱしっ、とその殆どから外れた二名に寮の腕を掴まれ、こう懇願された。

「「今の会議のこと、よくわからなかったので教えてください!!」」

とりあえず自室へ招待したものの、ソフトドリンクとジャンクフードを提供されるがままに貪る二人にどう一喝しようかどうか迷っている。悠に至っては何やら大きな荷物で部屋の隅を占拠している。

「おーいルクスー、冷蔵庫からソーダ取ってきてくれー」

「あ、あたしグレープジュース!」

「はいはい、ポテチと一緒に取ってきますよー」

これが現状だ。

・・・僕もその流れに飲まれてしまっているのだが。

とりあえず一喝とまでは言わなくとも、このたるみきった空気に一石を投じることだけはしようと思った。

のだが。

「あのー」

「よーしそろそろ・・・」

そうそう、二人から振ってきたんだからね?

「ゲームしようぜ!」

ガクッ、とずっこける。もはや完全に明日本気出すタイプのバカ。それも一人は上級生なのだ。ていうか二人ともかなりの手練れのはずなのだが。

「ソーダもグレープジュースもここまで!ゲームはしません!ていうかそろそろ話を始めるから食器とか片付けてください!」

へーい、と叱られた男女が渋々食器を片付けに戻る。男の方は桜木悠。炎と氷の魔法を扱う、自由格闘を得意とする二年生。

女の方は天野美月。僕と同じく光の魔粒子を宿す、双鎌という独特な武器を操る一年生。

ーーーーこうやって改めて自分の周囲を認識し直すのも大事なことかなーーーーーー

などと思いながら、先の会議のまとめをするべく白紙のプリントを数枚用意し、僕も片付けを手伝う。

一息ついたのちに、プリントにささっとシャープペンシルで字を書いて、わかりやすくまとめる。

「いい?征伐の目的は大きく分けて三つ」


一つ、滝宮周囲及び征伐地域に存在する人間に危害を加えるモータルの駆除。


二つ、危険地域と化した地区の清浄化及び安全化。


三つ、人類にとって有用な建築物及び施設の保護。


「しつもーん。清浄化ってなんですかー?俺らの世界バイオなハザーディングしてるんですか?」

うっわわざとらしっ。

「魔粒子による汚染・・・汚染といっても濃度が濃くなってるだけで、何も人間がゾンビになったりはしないんだけどさ」

一息吸って、続ける。

「モータルは寄生型魔粒子と生物、あるいは生物に近い形を持った無機物が結合して生まれるのは知ってると思うんだけど、魔粒子の濃度が濃くなるとそういったのが増えるのに加えて、精霊型とは少し違った、完全に魔粒子のみで身体を構築された実体を持ったモータルが誕生するんだ」

「んん?つまりはあのドラゴンとかか?」

「ドラゴンはトカゲとかが魔粒子によって色々異常発達したものだから、普通に寄生型だよ」

疑問を投げかけた悠に、研究科の資料室で身につけた知識を披露する。敵を知ることは結構大事なのだ。

「ゲームでいうゴーストとかそんなとこ?」

その通り、と僕が頷く。

「要するに地球に存在していた、あるいはそれらを原型とした幻想生物とは違うもの。かつ人智を超えた存在にして精霊では無いもの・・・・・・らしい」

これもまた、先ほどの会議の資料から得た知識だ。ちなみに僕も言っていて訳が分からなくなる。

つまりなんなんだ、と言いたいのはこちらもである。

「まあ話を戻すけど、要するにそういうやつらはマジ強いからこちらもそれ相応の戦力で挑もうぜ。っていうこと・・・かな?」

「なんでお前が疑問系になるんだよ」

ツッコミが入るが気にしない。

「そもそもなんで「征伐」なの?普通こう言うのって遠征とか探索とか言わない?」

この天野さんのある意味もっともな問いには、悠が答えた。

「征伐っていうのは、逆らった逆賊とかを武力で鎮圧するっていう意味なんだ。モータルを逆賊として見立てて、あくまでも人間の方が上だと主張したいんだろうさ」

知らなかった。一年生二人は揃ってへぇ、と口を開けて悠の博識ぶりに感心する。流石は成績上位者だ。

「人類に対して有用な建築物とか施設って何なの?」

この問いには僕が答える。

「電波塔とか、発電所とか、そんなところ」

これも資料に書いてあった。てか二人とも資料読めよとツッコミたい。

「この時代にも電力も電波も重宝されるからな。魔科学にも電力は必要だし、電波だって重要だ」

「なるほどー」

悠の言葉に納得、とばかりに天野さんが頷く。

「そういうわけで、今回の目的地は新宿。そこは覚えてるよね?」

二人とも当然とばかりに頷く。流石にそこは覚えていたようだ。

「確か、人類最大の拠点である東京都の奪還に向けて、色々当たってるんだったよな」

「うん、今回新宿なのは向こうに難民、モータルに追われて隠れている人がいるから、その保護も兼ねてるからだってさ」

「よーし、大体は把握したぜ」

「はい!後は明後日に備えて特訓です!」

二人の理解を確認したところで、慣れない教師役を降りる。

「あんまり無茶して体調崩さないようにしないとね・・・明日の朝練止めておこうかな」

「何言ってんのよ、明日こそ本気で特訓するわよ!今日は退院後の初登校で、先生に投稿時間決められたから出来なかっただけ!」

なるほど、考えようによっては妥当とも取れる。

僕も天野さんも悠も、あの戦いのせいで一ヶ月のブランクがあるのだ。それを埋めようとしないのは得策では無い。

「じゃあ今からでも八階でやろっか?午後の授業サボったんだから時間に余裕はあるし」

うっし、と悠が、続いてうん、と天野さんが立ち上がり、各々の得物ーーーーー僕から見ればそれは手袋と鉄の輪っかだーーーーーを取り出す。

僕も木剣を取ろうとして、ふと思う。彼らは実戦用の武器なのに、僕は練習用の武器なのか、と。

そう思っただけだったのだが。

すると、悠が何やらニヤニヤしながら部屋の隅を占拠していた荷物を開ける。

「御高説のお礼、と言うのもおかしいか。まあ受け取れルクス!」

そう言いながらぽーんと放られたそれは、青と白を基調とした、鞘に収まった長さ凡そ一メートルの剣だった。

思わぬサプライズに呆然としていると、横から天野さんが笑顔で言う。

「このあいだの死神戦で、あたし達結構学院から高評価もらってるのよ?つまりはご褒美よ!」

ご褒美。つまりはこれは貸し与えられたものなどではなく、僕のもの。

その事実に目頭が熱くなる。この学院で自分の武器を持つことは、学院に実力が認められたということだ。

「ーーーっ!!」

嬉しさのあまり叫び出しそうになるのをこらえ、自分の手の中にある、これから相棒となるものを見つめる。ゆっくりと抜くと、刀身は白銀のような色で部屋の明かりをして美しく光る。

まるで僕の喜びに同調するかのように、と感じるのは僕の思い上がりだろうか。

「とまあ、これでもう一つ理由が増えたな」

ん?と天野さんが悠の方を見る。僕も見た悠の顔は少し真剣さが増していた。

「そいつに慣れなきゃ、な」

指差す先にあるのは、僕の剣だ。

ああ、と納得した様子で天野さんがこちらを見る。

僕も深く頷いて、涙を袖で拭う。感動している暇は、もうない。

何せ期間は短すぎるくらいだ、その間に。この剣に完全に「慣れ」てみせる。そのために。

「二人とも、手合わせ、よろしくお願いします!」

快い承諾とともに、僕達は八階の、いつもの体育室に向かった。












「彼らの決定に口を出す気は無いのだが」

教員室で、事務職員に今期征伐の資料を渡された進藤が、職員に言う。

「個人的な意見としては、私は今の新宿征伐には反対だ」

何故です?という職員の疑問に答えたのは、槍術科の担当教員だ。

「死神戦に参加した彼らですよ。非力な者は隊の足を引っ張ることになりますからね」

悪気なく言ったことなのだろうが進藤は若干苛だった。自らの教え子の強さを否定されたからだ。

だが、それもやむなしと思う。特に天道寺ルクスは一年生。経験も地力もまだまだ浅い。

天野美月も一年生ではあるが、恐らく彼女にはその経験と地力がある。あの戦いで二人を見ていた進藤には、それが感覚でわかった。そして、それは征伐という舞台ではいささか力不足だということも。

だが。

「私はそこを言っているのでは無い」

「おや、進藤先生。彼らの戦力以外にどのような不安が?」

この世界では珍しい、言葉の割には嫌味のない純粋な疑問だった。

なので進藤も嫌味なくまっすぐ答える。

「東京二十三区の新宿。その少し東にある世田谷区で、変わったモータルが発見されたとの情報があった」

ふむ、とその場にいた二人が少し俯いてから。

「そのモータルはどのような?」

少し悩んでから、言う。

「外見は切裂魔によく似ている。発見されたのは、恐らくその亜種個体だ」

「せ、切裂魔・・・征伐の要注意モータルのうち最も危険と言われているあいつらの・・・亜種ですか」

事務職員があからさまに嫌な顔をするが、槍術科の担当教員は顔色を大きく変えることなく、それでも僅かに動揺をにじませる。

「前期征伐に赴いた者達が写真を撮ることに成功した」

言い、机の下から一枚の写真を取り出す。かなり遠くから撮ったようで僅か三センチほどしか写ってはいなかったが、それでもハッキリと「それ」は写り込んでいた。

外見はフードを被った猿のようだが、まず大きさが異様だ。隣に写っている人間は、写真で見ると二センチほどしかない。つまりこのモータルの大きさは人間の凡そ一・五倍。

さらにフードの下から覗かせるのは、非常に長い刃のような、爪だ。

「通常の切裂魔は、人間よりも小柄で原型はカエル。爪もここまで長くはありません。間違いなく普通のものじゃない」

「つまり未確認のモータル!?で、では教職員権限で征伐を中止、あるいは延期するべきでは・・・」

進藤も最初から二人と同じことを考えていた。今期のの征伐を中止し、この正体不明のモータルについて何か対策を練られないかと。

無論、報告を送った当の前期メンバーに聞けるものなら聞いている。しかし彼らは未だ征伐の途中であり、本来ならば帰還は一週間後だ。

・・・もう少し待って欲しかったものだがな、あの頑固者め。

内心毒づきながらも、もしも、と考える。

この征伐で「彼ら」が少しでも成長すれば。

いや、大きく成長するだろう。

予定より大分早くなってしまったが、天道寺の目標の過程である征伐に参加出来たのは、普通に考えれば死にに行くようなものだが逆に考えれば幸運とも取れる。

なぜなら彼はこれを望んでいた。そして弱っていたとはいえ死神を退けるほどの実力を示した。

恐らくはその件での褒賞である彼専用の武装も貰っているだろう。

だが、逆に彼にとって都合が良すぎるほど順調に進んでいる。とも進藤は考える。

「何も起きなければ良いがな」

誰にでもなく呟き、胸ポケットからタバコを出そうとするが。

「教員室は原則禁煙です」

ピシャリ、と槍術科の担当教員、時雨凛に止められてしまった。




















同じ頃、新宿にて。

「ヨルムンガンド、こいつはどうなっていやがる」

苦々しく、そして荒々しく言葉を吐くのは、死神と呼ばれ、恐れられた少女。

「分からねえ」

困惑したように鉄鎖の蛇は口を開く。

「なんでーーーーー」

聞こえるはずの咆哮は聞こえず。

見えるはずの地獄はどこにもない。

目の前にあるのは、無だ。

地獄ともとれぬ、かといって天国でもない。

煉獄とも呼べぬ目の前の光景は、彼女にとっては無が一番ぴったり当てはまる表現だった。

大剣を勢いよく、半ば苛立ちを込めて地面に突き刺し、倒壊したビル群を蛇鎖を頼りに渡り飛ぶ。

見えてくるのは、死体だけ。

無作為に地面に転がる死体は、その両眼を死の間際の痛みに見開き、灰色の空を見上げるように転がっている。

彼らの身体には幾重にも斬り刻まれた痕跡があり、しかしそれは彼女の大剣が振るったものではなく。

「なんで、あたしらが来る前からコイツらくたばってやがるんだよ・・・!!」

後書きとなります、オルタです。

前書きに何を書いたら良いのかわからなくなってきました・・・

ところで割と本編からは関係ないのですが、ルクスの持ってた木剣について。

この剣は学院で有志が作り上げたものです。

3〜4話あたりで校舎の周りには木が生えていないとありましたが、まだ戦力が整う前、かなり前の征伐時に採取されたヒノキを材料として、魔粒子による加工を行い作られました。

強さは低級のモータルが相手なら一対複数でなんとか倒せるレベルです。これでも拳銃よりは効き目あり。


さてさてどうでも良い情報で尺を稼いで、次回に続きます!

オルタでした!

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