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聖戦学院  作者: 雪兎折太
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聖戦学院15話 転機到来

死神襲来を終え、日常を取り戻したルクスにある知らせが届く。それは、ブラッドレインとの戦いにおける戦果を見込んで、次期征伐に参加して欲しいとの要望だった。

「朝だっ!」

一度目の太陽が昇り始めた早朝から、はつらつと叫んでいる横のベッドの天野さんを若干微笑ましく横目に見やり、医務室のベッドから軽く飛び降りる。

死神の襲来から凡そ一ヶ月。

僕達死神交戦組は例外なく医務室のベッドに寝かされ、完全に体調が回復するまで絶対安静を命じられた。

どうやら剣にも魔法の類が掛けられていたようで思ったよりも完治に時間がかかってしまい、予め宣告された一週間という期間を軽く超えて一ヶ月弱も医務室から出ることはできなかった。

とは言っても医務室という名の病院みたいなものなので、案外娯楽の類はそれなりに揃っていたので退屈することはなかった。

各地のファストフード店や雑貨店からわざわざこんな死地にまで来てもらってるのだろうと考えると、本当に申し訳なくなり、有り難くなる。

そして今日は、医務室から完全に元どおりになった校庭と体育室を眺めながら、久しぶりの通常登校の日だ。

ちなみに何故男女が混合で配置されているのかについては、保険医曰くベッドが足りないのとめんどくさいからだそうだ。

「あ、天道寺くん、先に行ってて!あたしもう少しかかるから!」

いつ一緒に登校しようという約束を交わしたのかと突っ込みたいところだが、軽く了解を投げて自分の容易に取り掛かる。

予め運んでくれていた僕のカバンを肩にかけ制服に着替えるべく更衣室に向かい、ささっと着替えを済ませ医務室の出口をくぐった。

久しぶりの外の空気に僅かに感動しつつ、目の前にいる先輩兼友人、桜木悠の背中を追いかける。

「おっ、ルクスじゃねえか!」

足音で気付いたのか、こちらに振り向くなり表情を崩し右手を大きく振る。僕も早足で駆け寄り挨拶を交わす。いつもの日常だ。

「すっかり怪我は治ったみてえだな。まああんまし無理はするなよ」

「有難う悠。そっちも大丈夫みたいで安心したよ」

肩を軽く叩きながら身を案じてくれる悠に感謝しつつ、ゆっくりと前から近づいて来た里村先輩に一礼する。

「おはようございます、里村先輩」

「よう、里村。お前も元気そうじゃないか」

「おはよう、天道寺くん、桜木。君達も元気そうで何よりだ」

異口同意の挨拶に笑顔で返し、自前の弓を腰に携えて挨拶を交わす。

その弓を見て悠が訊ねる。

「てかお前、もしかして朝練してたのか?怪我治ったばっかりなのに大丈夫かよ」

里村先輩は苦笑しながら少し肩をすくませ、続いて右手に青色の光球を作り出した。

「とりあえずこれが出来る程度には」

光球を軽く掴み、上から下に素早く振り下ろすと光球は一本の青き矢に変化する。

手慣れた動作で左手で腰の弓を抜き、相当な重さであるにも関わらずそれを感じさせない身軽な動きで左をーー僕達からは右をーーー向き、弓を引きしぼり射撃体制に移行。

「大丈夫のようだ」

右手を離すと、青の矢は離れたところにあった空き缶を貫いて、その奥にあった弓道部の的の中央に音を立てて突き刺さった。

ぱちぱちと僕達が拍手すると、里村先輩は照れたように俯き、それから改めて真剣な面持ちで僕達に向き直る。

「桜木、天道寺くん、昼休みに次回の征伐のための会議が行われる。我々も参加するようにとのことだ」

「征伐!?僕達が?」

思ってもみなかったチャンスだ。外の世界の真実を知ることができれば、界震の原因に少しでも近づくことができるかもしれない。

だが浮かれる僕とは対照的に、悠は難しそうな顔をしていた。

当然だ。

本来は三年生の選りすぐりのメンバーのみが参加を許される征伐に、実力の劣る自分たちが加わっては足手まといになる可能性が高い。自分たちだけが死ぬならともかく、他の人まで道連れにしてしまっては最悪だ。

「なんにせよ昼休みに、だな」

悠の言葉にこくりと無言で頷く僕と先輩。

「場所は一階事務室横の会議室だ。時間は昼休みのチャイムが鳴ってから三十分後。いいな?」

「了解したぜ」

「わかりました」

返事を返す僕達に頷き返すと、軽く手を振って里村先輩は校舎の中へと姿を消した。

先輩や他の学生に習うように僕達も各々の教室へ向かい、席に着く。

授業を受けながらふと、死神の襲撃時に天野さんから渡された刀ことを考える。

ヨルムンガンドが言った、「精霊の刀」という言葉。

もしそれが聞き間違いでなかったのだとすれば、天野さんもまたブラッドレインと同じく精霊の契約者ということになる。

それは間違いなく僕達の大きな戦力になるはずだ。だが彼女は恐らくその事は誰にも話してはいないはずだ。

気づいているのはヨルムンガンドから聞いた僕と、確証はないが永江先輩の二人。あの時先輩は変装していた天野さんの名前を呼んだ。つまりは永江先輩には分かっていたという事だ。

ともすれば天野さんが精霊と契約していることを知っていても不思議ではない。

尤も、何故それを知っているかについては説明できないのだが。

そして、その精霊の刀がもし担い手の力を増幅する類のものだとしたら。

あの刀が無ければ僕は死神とまともにやり合う事すら叶わず、一刀のもとに斬り捨てられていただろう。

つまりそれは僕がまだ未熟だという事だ。

こんな状態で征伐に行けるのだろうか。

不安で胃が痛くなるのを堪えながら、僕は昼休みを待ち続けた。










一体どういう事なのだ。

あたしが征伐メンバーに?

馬鹿げてる。

起床後天道寺くんを先に学校へ送り出した後、あたしの元へ永江先輩がやってきた。

曰く、貴女も次回の征伐メンバーに選ばれたから、会議に参加せよ。時刻は昼休み開始後三十分後。との事だ。

当然反論しようとしたが、どうやら死神との一件を買われたらしい。

あの人の顔こそ笑顔だったものの、その奥にある本心までは読み取れなかった。

先輩の、ひいてはあたしをメンバーに選んだ面子の心情が理解できない。

死神との一件を買ったのならば、同じ理由であの場にいた全員が選ばれている事だろう。

彼らの実力が決して低くない事はあたしも充分承知している。

だが、征伐には単純な戦闘能力以上に必要なものが数多く存在する。

学院防衛に当たっていた彼らには、当然あたしにもだが、些か無茶が過ぎるのではないだろうか。

「馬鹿馬鹿しい」

誰も何もない、無人の教室であるこの空間に向けて一人声を放ち、あたしは変装魔法を使った。

あたしのポニーテールは黒いロングヘアとなり、体型を除けば完全に別人となった。

あたしの目的は他にある。その障害になるならこの征伐、潰させてもらうつもりだ。

スカートのポケットに入れているリングを取り出し、そっと握りしめて小さくため息をつく。

「ま、どうせ裏方仕事でしょうけどね」

征伐メンバーといっても、全員が戦闘員というわけではない。

補給班、救護班、先遣隊、指揮官、様々な役割を持った舞台で構成された、凡そ五十名で構成される一部隊、それが征伐メンバーだ。

モータルに侵され人類未確認領域となった地域の探索、奪還や、危険地域の捜索に当たる際には、これぐらいの準備でもまだ足りないほどだ。

前回の会議にある先輩の姿を借りて参加し、情報を集めてきたのがここで役に立つとはと、あたしは思わずにはいられなかった。

だが、それ故に疑問が残る。

何故、あたし達を選んだのか。

こればっかりは自問自答を繰り返していても仕方がない。

「ねえ、どう思う?ツクヨミ」

あたしが呼びかけると、紫髪の精霊はふらりと姿を現し、少し考えるそぶりを見せた。

(そうじゃのう、妾が出れば多少の戦力差は埋められるじゃろうが、彼奴らはそれを知ってはおらぬじゃろうし・・・何か目的があるのかは分からぬが、用心に越したことはあるまい)

ふむ、と一考する。

が、彼女の言葉は殆ど私と同意見であったためその必要はなかった。

「まあ、目的がなんなのか、あたしたちには皆目見当もつかないんだけどさ」

ツクヨミも同調するように肩をすくめ、苦笑の気配を滲ませる。

さて。

ところであたしは誰でもない、「天野美月」として呼ばれた訳なのだが。

「・・・これって元の姿で来いってことなのかな?」

救いを求めるように呟くが、返答はない。

逃げた相棒へとわざと大きなため息をついて、あたしはゆっくり教室へと向かった。











「失礼します」

「よく来てくれたね、待っていたよ」

昼休み開始後二十分後、一階会議室、通称円卓会議室に来た僕は、そこで生徒会長である安村久遠に再開した。

会議室を見渡すと、巨大な円卓の周りに五十は椅子が並んでいた。しかし生徒会長以外の面子はまだ来ていないようだ。

「お久しぶりです、安村生徒会長。先日はどうも」

頭を下げる僕に遅れて生徒会長もお辞儀をする。少々滑稽に見えた風景と空気は、次第に張り詰めたものへと切り替わる。

「何処でもいいから掛けるといい。ああ、ただ私の両隣は遠慮してくれ、副会長たちの席だからね」

促されるままに近くにあった席に座ると、生徒会長はこちらに近寄って来た。

「まずは先日の無礼を謝罪しよう。感情的になってしまい不適切な態度を取ってしまった。すまなかった」

「え!?いや、その、あの、えっと」

今度はお辞儀などではなく謝罪の意を込めて頭を下げる生徒会長にどう対応すればいいのかわからず、どもってしまう。

その様子を見た生徒会長は、目を丸くしたかと思うとぷっと噴き出した。

「君は面白い人だな」

たった一言だけだったが、その声色にはあの時のような闇はなく、明るく、人間じみた口調が滲み出ていた。

「失礼します」

「入るッスよ」

「失礼しまーす」

「し、失礼します!」

音もなく開いた扉とともに、聞き覚えのある声が四つ聞こえて来た。僕と同じく征伐会議に呼ばれた悠と里村先輩、恐らくは呼んだ張本人であろう永江先輩、そしてこれまた同じく呼ばれたのであろう天野さんだ。

驚くべきか否か、天野さんは本来の姿でここに現れており、緊張からか些か気恥ずかしそうに黒いポニーテールを揺らしている。

「よく来てくれたね、好きに掛けてくれ」

了解の言葉を口々に述べ、思い思いの席に座る皆。悠と天野さんは僕の両隣。里村先輩は悠の隣。当然のごとく永江先輩は里村先輩の隣だ。

隣に座った悠が、天野さんの方をそっと指してどう言うことだと言う目線でこちらを見て来たが、当の天野さん本人がそれに気づき、両手を合わせて悠へ無言の謝罪をしていた。後で説明を要求する!といった悠の目線は、何故か僕に突き刺さる。解せぬ。

彼らに続いて、三年生の主力メンバーが集まってくる。この学院では、学年が上がるにつれその総数が減っていく。勿論モータルによる犠牲者が続出しているためだ。

三年生は一年生の十分の一しかいない。その半数が校舎の防衛に勤めているので、残った半数からさらに厳選して征伐メンバーは決められる。

つまりここに集まっている三年生達は、全員がこの学院のトップクラスの実力者である。

「よし、全員揃ったようだな」

あっという間に満席になった椅子を見わたし、安村生徒会長が満足気に言う。若干の不満を醸し出している永江先輩を除けば、会議室の雰囲気は悪くはない。

今から始まるのは、僕の転機となる会議。

僕の最終目的である界震の原因の調査。それに少しでも近づくためには避けては通れなかった征伐への初参加。

まさかこんな早くに来るとは思わなかったが、早すぎる時期故に覚悟しなくてはならない。

これから待ち受ける試練、即ち死地への潜入。

毎回生死の境目をくぐり抜けて来ている彼らの足手まといにはならないためにも、この会議でもたらされる情報は、一言一句聞き逃してはならない。

「まずは紹介しておこう、先日の死神襲来においてその命を省みずに学院のために戦ってくれた、勇気あるもの達だ」

僕らの方へ向けられた手を辿るように、三年生達の目線がこちらへと向く。慌てて起立して一礼し、再び席に着く。他の四人も同じようにしたようだ。

「まずは私の対応の遅さから、彼らに辛い戦いを強いてしまったことに、改めて深くお詫びしたい。必ず今期征伐で償わせてもらうことを、ここに約束する!」

ぱちぱちぱち、と三年生達から拍手が起こるが、僕達に向けられていたり生徒会長に向けられていたりとバラバラだ。何より永江先輩が笑顔とも怒りとも取れぬものすごい顔をしているのが何より怖い。

「さて、それではそろそろ始めよう」

パン、と手を叩いて全員の注意を引きつける。その一音の大きさから、かなりの力を入れて叩いたのが分かった。

僕も気を引き締める。これから大事な会議なのだ。一瞬の聞き逃しも許されない。

そして、生徒会長安村久遠が、高らかに宣言した。



「では、これより征伐会議を始める!!」

1日遅れの投稿となりました。

その上千字程足りない、オルタです。

訳あっていつもの端末が使えなくなり、現在他の端末から書いています。


さてさて、漸く新たな展開となり始めました15話目。征伐、進撃のナントカに出て来た遠征みたいなものですね、にルクス達が参加することに。

果たして何処に行くのか、どんな敵に出会うのか、ルクス達を待ち受けるものとは。

次回、なるべく早く書けるよう努力します・・・オルタでした。

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