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聖戦学院  作者: 雪兎折太
12/56

聖戦学院 12話 二つの光

解き放たれた擬似太陽が死神を焼き尽くす。

しかし死神が倒れることはなく、戦場は再び絶望に包まれる。

仲間が全員戦意喪失になる中、ただ二人だけが校庭に残された。


「擬似太陽、展開」

その一言で、戦場は光に包まれた。

夜の帳を引き裂き、影に包まれた世界が一気に照らされる。



界震後の世界では、太陽は一日に二度登る。

およそ8時に一度、32時にもう一度、といった具合だ。

48時間が一日となったこの世界では、既にこの事実は周知のものとなっている。

しかし、一日に太陽が二度登るこの世界で、唯一三度目の太陽を登らせられる者がいる。

それが、永江菖蒲。

研究科総括科長としてありとあらゆるモータルの研究を行い、同時に解剖学、生態学にも精通しているれっきとした科学者である。


その戦闘能力は、即座に戦況を判断し、分析し、対処する全ての行動のあまりの正確さと、相手が誰であろうとも確実に「殺す」ほどの無慈悲さ故に、「人間機械」と言う忌み名が呼ばれるほど。


八本のアームについたレンズは、閃光玉の光を全て吸収し、ただ一箇所に向けてその光を照らす。

永江の魔法によって増幅した八つの光の道が交差し、徐々に光球を形作る。

そして、それは永江の一言によって唐突に肥大化し、


まさに、小さな太陽と形容すべきものになった。


「小型の・・・太陽だと!?」

戦慄する死神に向けるように、そのレンズを素早く光球の後ろに回す。

光球は作られたその場に留まっているが、光の供給は既に途絶えている。

にも関わらず消滅しないのは、永江が魔法で抑えているからだ。

永江の体に宿る魔粒子は、「機械」。

炎、氷、光といった目に見えるものではなく、元は機械に取り付いていたものや、機械から生まれた魔粒子が人間に取り付いたものだ。

寄生型と物質型の中間に位置する性能であり、宿主に自らの影響下にある機械の支配権を与えることが出来る。


つまり、機械に対する絶対支配。

例えそれがどのような無理な命令であろうとも、容赦無く強引に従わせる、機械の女王。



ポーチから伸びる二本の鉄腕を支えにして、ゆっくりと宙に浮く永江。

光球の後ろで孔雀のように開かれたレンズのアームが、小型の太陽に光を送る。

ブラッドレインが死神ならば、今の永江はまさに太陽の女神と言えよう。

「太陽を・・・人間が作り出しただと・・・!?」

その輝きに圧倒され立ち尽くす死神に、太陽の女神は無慈悲に鉄槌を振り下ろす。



「放てえええええええっ!」


高らかに永江が号令を下し、その命令に答えてレンズが蓄えていた輝きを鋭き矢へと束ねて放つ。

一瞬にして、あたりは眩い閃光に包まれた。

レンズから供給されていた光は、一転して太陽を崩す矢となり光球を貫いた。

球の形状を維持できなくなった擬似太陽は、その身を高熱エネルギーのレーザーと化して大地を焼き尽くす。

草木も、土も、空気すら塵と化すその熱線が、たった一人の人間を滅ぼすために放たれた。

無感情に、正確に、太陽神の砲撃が世界を白く染める。

それはもはや魔法と呼べる領域をはるかに超え、神の御業と形容するほかなかった。

ルクスも、天野も、桜木も、里村も、目の前の光景を信じられないという思いで見つめることしかできなかった。

進藤だけが、この光景にたじろがずにじっと焼き尽くされる敵の姿を睨んでいた。


そして、熱線が放たれてから数十秒が経過した。


擬似太陽の熱線は正確に死神に向けて放たれた。

全てを焼き尽くす神の業火が、たった一人の人間に向けて振るわれた。

誰もがブラッドレインの死を確信した。


しかし、足りないものがあったとすれば。

それは文字通りの神の力だろうか。


「・・・いまのは流石に死にかけたよ、女」


いかに神に近い力と言えども、

それはあくまで人の力でしかなかったということだ。



濛々と立ち込める砂煙の中から一つの影が姿をあらわす。

長い白髪、露出の激しい服装、身長よりも長い大剣を盾のように構えるその狂戦士じみたその風貌。

紛れもなく死神、ブラッドレインだ。

全身の所々に痛々しい火傷を負ってはいるが、信じられないことに戦闘不能になる程ダメージを受けてはいない。

「バカな・・・あれほどまでの火力をモロに喰らって、何故立っていられる・・・!?」

あり得ないと言わんばかりに進藤が呻く。

傷だらけの身体を動かし、神の業火の如き熱線を受けてもなお無傷の大剣を引きずりながら、ゆっくりと敵対者の方へ歩み寄る。

機械の駆動音を響かせ、抗おうとする永江だが、リミッターを解除してまで放った一撃に反動が無いわけはなく、機械の腕がガシャガシャと音を立てて次々と地面に落ちる。

魔科学によって造られた機械は、一般的な機械とは違い魔粒子という生命のもたらす力を動力として稼働する。

故に、魔粒子の供給が途絶えれば、ただのガラクタに成り下がる。

ただの鉄と化したアームを呆然と眺めながら、永江菖蒲は自らの死を覚悟する。

桜木も、里村も、進藤も、永江でさえも、この場にいる全員が、各々の人生の終わりを覚悟せざるを得なかった。






死神は信じたくないぐらいに圧倒的だった。

斬撃も、打撃も、貫撃も、全部が僕達の想像をはるかに超えていた。

悠も、里村先輩も、進藤先生も、永江先輩も、

みんな歯が立たずに倒れていった。

もう終わりだと思った。

せっかく強くなったのに、何も出来ないままにここで死んでしまうんだと。

僕がもっと強くなっていれば、みんなに加勢することもできたのに。

みんなを見捨てて逃げようとした。

何も、出来なかった。

強くなった意味なんて、なかった。

絶望が反響し合い、大きな負の波となって僕の心を飲み込んでいくのを感じる。

手足がだんだんと動かなくなる、いや、動かしたくなくなる感覚。

恐怖、畏怖、戦慄、ありとあらゆる鎖が感情ごと身体を締め付ける。

このまま、深い深い奈落の底に落ちていくような。

そんな暗闇の中で、呟く。




「でも、後悔はしたくない。」





確かに死ぬのは嫌だ。痛いのは怖い。

あの大剣が僕の身体を両断するのを想像するだけで身体の温度が一気に下がる。

あの蛇のような鎖にがんじがらめにされ、ゆっくりと絞め殺されるのを想像するだけで身体が竦む。



だが、みんなが死ぬのを想像するよりは遥かにマシだ。


誰一人として死なせるものか。

自己犠牲になどなるものか。

例え死ぬとしても戦って死ぬ。

だが元より死ぬつもりなどなし。

矛盾している。

だがそれでもいい。

今立ち上がらないで、いつ立ち上がるというのか。

今戦わないで、いつ戦うというのかーーーーー!!!



戦え、天道寺ルクス。



身体が、立ち上がる。

力の奔流をダムのようにせき止めていた「何か」が、一気に崩壊していく。

畏怖に塗られた自分の顔が、闘志に塗り替えられていく。

何のために修行したのか。

何のために強くなろうと思ったのか。

誰も傷つけさせないため、誰にも死んで欲しくないため。

心に流れてくる、今までの僕の思いが。

結晶となり、力となる。

ボロ布のように横たわっていた身体に、再び力が入る。

ゆっくりと、一本ずつ、身体を縛り付ける鎖を引きちぎりながら。

諦観、恐怖、絶望、僕の身体にまとわりつく全てを無理やり振り払って。

襲いくる死へと、その足を進める。





横を見ると天野さんも覚悟を決めたようで、その瞳に確かな光を宿してじっと死神の方を見つめていた。

その様子に若干の嬉しさを感じながら、近くまで駆け寄りたった一言告げるべき言葉をかける。

「天野さん、武器は?」

僕の言葉を聞いた天野さんが驚いた様子でこちらを見やり、その愛らしい顔を一気にぱあっと明るくさせ、すぐに真剣な顔つきに戻る。

「これを使って!」

虚空に手を伸ばした天野さんは、何もない空間から突如、一本の日本刀と思しき刀を取り出し僕に投げ渡す。

取り落としそうになりながらもなんとかキャッチし、即座に刀を含む全身に軽く光を纏わせる。

「一応聞くよ、作戦は?」

「そんなのない、臨機応変よ!」

「知ってた!」

短くたずねると威勢良く返してくる相棒に、半ば呆気にとられるも気を取り直して戦地に立つ絶望を見やる。

「おーおー、威勢のいいことで・・・」

校庭の中心には、傷を負ってはいるが戦闘不能には程遠いといった様子のブラッドレインが、僕らをにやけながらずっと待っていた。

「しっかし理解できねえな。どんなに足掻こうが、雑魚は雑魚。強者たるあたしを楽しませられるわけねえだろうがよ」

僕らが臨戦態勢に入った今、彼女が容赦する理由はどこにもなくなった。

その証拠に、一度は地につけた大剣を再び構えなおし、熱線で火傷を負った左腕から、まるで威嚇するかのようにジャラジャラと強い金属音を立てて蛇のような鎖がその姿を現わす。

「雑魚にも出来ることはある」

天野さんに渡された刀を構え、目の前の破壊者に相対する。

こうして立っているだけでも、全身に震えが走る。

人間の深層心理、生存本能から「逃げろ」という命令が何度も何度も脳を打つ。

その震えを振り払うように横を見やると、こちらに網を向ける相棒が、自分の背中から二振りの、拳ぐらいの大きさのリングを取り出していた。

「死にたがりってわけじゃあ無いみたいだな・・・ご丁寧にチャクラムなんか取り出しやがって」

東洋の投擲武器である円型刃の名を出しながら、気怠げに死神が言う。

その言葉に好戦的な笑みを返しながら、腕を胸の前で十字に組み、そのまま両手に持つリングを軽く一振りする。

すると、リングだったそれに光が宿り、振動に合わせて短い鎌のようなものを形作った。

名付けるなら双鎌とでもいうべきそれは、見る者によってはトンファーにも感じる形状をしていた。

死神は半ば驚きを隠せずに、それを遠目ながら怪訝そうに見やる。

目線に気づいた天野さんが、不機嫌そうにトゲのついた言葉を投げかける。

「自分の得物の正体を、どうして敵に教えないといけないの?」

「!・・・ははっ、ごもっともだ」

天野さんの言葉を軽く笑いながら流し、まるで聖剣を構えるが如く高らかに大剣を掲げる死神。

僕達もそれに習うように改めて得物を構え直す。



無力感と絶望感に支配されていた校庭に、微かな、しかしどんな音よりも大きい音が、チャキ、と鳴り響く。

光の刀を持った少年が、対の鎌を構えた少女が、

その戦士と言うにはあまりにも幼く、英雄と言うにはあまりにも頼りない身体を、真っ直ぐに死神へと向ける。

その表情に恐怖はあれど、その表情に絶望はなく。

ただ眼光に戦意のみを宿し、強く各々の得物を握りしめる。

彼らを見つめていたブラッドレインは、その顔色をつまらなそうなものから道化を見るようなそれに変え、

ニヤケながら、それでいて油断のない態度で彼らに相対する。

荒れた大地に吹きすさぶ風が、少年の蛮勇を咎めるようになびく。

暗き空に漂う入道雲が、少女の無謀を嘲笑うように漂う。


しかし漆黒の夜に差す一筋の月光だけは、彼らを勇敢と讃えるように二人を照らしーーーーー




振り降ろされた大剣の一撃が、二度目の死闘の合図を告げた。




「ぜぇやあああああああああっ!!!!」

刀を両手に持ちながら、上段に構えて突進し、全身の光を一気に強めて真っ向から死神と応戦する。

不敵な笑みを浮かべた死神が、挨拶代わりとばかりに大剣を薙ぎ払い、その余波で空気が刃のような衝撃波となって迫る。

目にハッキリと映るほどの強い空気の乱れを正面から叩き斬ろうとしたその時、後ろから投擲された二振りの得物が弧を描き、風の刃を相殺してブーメランのように担い手の元に戻る。

心の中で礼を言いながら、一気に死神の眼前まで跳躍し、首から右手までを纏めて狙い、乱れ斬り。

続いて縦、斜め、斜め、縦、水平、思考と同時に身体を動かし、相手に反撃の隙を与えない為、限界まで速く刀を振るう。

攻撃の合間を縫うように合わせて、後衛から光のブーメランを投げる天野さんのおかげで、なんとかブラッドレインに防戦を強いることができている。


今の戦況を鑑みると、思っていたよりは順調に攻められている。

大剣から放たれる破壊の鉄槌は、振りかぶられることも許されずにひたすら僕の刀を弾くしかない。

僕の乱撃の一瞬の隙もすぐさま光の鎌が飛んできて潰す。

僕と天野さんのコンビネーションは即席ながら恐ろしいほどのかみ合いを見せ、死神に反撃を許さない。

未だ決め手に欠けるものの、このままじわじわ追い詰めていけばいつか勝機が来る!


そう考えた矢先、左手から鞭のようにしなる鎖が僕の身体を弾き飛ばした。

天野さんの援護も間に合わず、一転攻勢とばかりに獰猛な笑みを浮かべ、実態を持った突風の如き剣戟が、余りにも軽そうに振り回される。

まるで空間そのものを断ち切らんとする斬撃が、その余波すらカマイタチの如き刃となって僕に襲いかかる。

自分の体にのみ命中するものを全て刀でいなし、追撃で放たれる必殺の斬撃に備える。

しかし、放たれたのは鎖。

黒碧の蛇は僕の意表をついたと嗤うように、あっさりと僕の懐に入り込むーーー

その一歩手前で、再び光のブーメラン。

苛立つように僕から離れる蛇を警戒しつつも、ブラッドレインの方へと視線を移す。

彼女もまた、自分の敵である僕達が倒れないことに、苛立っているようだった。

狂戦士とも言うべきブラッドレインの猛攻は凄まじく、大剣と鎖がまるで暴風雨のように振り回される。

身の丈を軽く超える凶刃が地面に叩きつけられるたび、まるで小さな地震のような揺れが襲い、体のバランスを崩しそうになる。

そこを掬うように鎖が空を穿ち貫く。

風を受ける炎のように身体を揺らめかせながら、その身を回転させて何度も何度も斬りつける。

だが、永江先輩達が与えたダメージが響いているのか、先輩たちとの時に見せた鋭さや迫力はやや薄れ、動きも若干遅くなっているので防戦になった今でもなんとか渡り合うことが出来ている。

それでもレイピア並みの速さで大砲並みの一撃が次々と放たれるので、攻撃を止めさせる余裕が全くない。

攻撃の間のほんの僅かな一瞬、後ろを見やると急加速の構えをとって静止している天野さんの姿を認識し、同時に彼女の狙いを読み取る。

「おらよ!」

乱暴に叩きつけられる大剣を横に飛び退いて回避し、続けざまの水平斬りに合わせて垂直に飛ぶ。

そのまま体重をかけながら剣を振り下ろし、死神の鎖と相殺され 狙い通り 後ろに大きく飛ばされる。

「はあっ!」

入れ替わるように、天野さんが、土煙を高く舞い上げながら一気にブラッドレインの懐まで、高速で回転しながら飛び込む。

そのまま気合いの一声と共に、回転を利用して両手の得物で竜巻のような斬撃を乱れ打つ。

咄嗟のことで判断が遅れた死神の僅かな隙を見逃さず、その華奢な身体を独楽のように回転させながら、手に持つ武器で次々と斬りつける。

不完全な防御を強いられ、今まで全くブレなかった死神の身体が。


ついに、大きくブレた。



そのまま流れるように両手両足を駆使して次々と演舞のような斬撃を繰り出しながら、完全に防御を潰すために、大剣を持つ右手の手首に思いっきり回転蹴りを浴びせる。

ブラッドレインの右手は突然の衝撃に耐えられずに一瞬痺れ、固く握られていた大剣を取り落とし、主に鈍痛のような不快感を押し付ける。

死神は自分から愛剣を取り上げた眼前の敵を睨みつけながら低く唸る。

「ディスアーム・・・こんなガキが!?」


ディスアーム、武装解除術。

相手の得物や得物を持つ手に衝撃を与え、文字通り相手の武装を解除させる、対人向けの技だ。

だが、あまりにも実戦難易度が高く、その上モータル相手には殆ど意味がないため、授業はおろかその存在を知っている生徒は殆どいない。

また、到底僕達のような高校生に使えるようなものでもなく、素人が不用意に使おうものなら、反撃で頭を撃ち抜かれるなり首を跳ね飛ばされるなりで即死亡は免れない。


だが、天野さんは学生にしては不自由なほど鮮やかにそれを決めてのけた。

大剣を地面に落とし、初めて狼狽える姿を見せた死神に、さらに次々と得物を叩き込む天野さん。

その美しくも激しい乱舞は素人目で見ても達人級のそれであり、ブラッドレインですらその対応に手を焼いている。


今が好機。

彼女の視界の外で、天野さんから託された刀を静かに構える。

取る構えは平静眼。幕末の天才剣士、沖田総司が最も得意とした構え。

ただ斬るよりも貫くこと、突き穿つことだけをイメージしながらその一瞬を待つ。

「チッ、ウゼェな」

微かな舌打ちと共に、ブラッドレインが大剣を鎖で回収しつつ大きく後方へ跳躍する。

その刹那、空中で回避の自由がきかないこの一瞬を狙って、僕は一気に加速して宙に浮くブラッドレインへと肉薄する。

遅れてこちらに気づいたブラッドレインが、その顔を驚愕に染め上げながらも必死に応戦しようとする。

が、無理。

大剣は鎖に巻き付けられており、鎖を引き戻さないと防御は不可能。

その鎖も僕とは正反対の方向に伸びて大剣を捉えているため

大剣での防御も、鎖の軌道逸らしも絶対不可能な速さ、僕の考えうる限りでは最速の攻撃。

激突の直前、確実に当たると確信していた僕は、



それ故にありえない挙動で僕の身体を弾いた鎖に反応が遅れた。



死神の手は鎖を使おうとはしていなかった。

鎖だけがまるで意思を持ったかのように、突如僕の方に動き出し、蛇のような正確さで僕の脇腹を狙ってその身を叩きつけた。

すぐさま急転換し、不意打ちを狙っていた天野さんの元に急接近して跳ね飛ばす。

僕達は死神を中心として全く反対のところへと弾き飛ばされ、その間に死神は完全に態勢を整えていた。

ダメージは大剣の足元に及ばないものだったが、重要なのは、必殺の、それも完全に不意打ちで放った一撃が防がれたことだ。

相手はこちらの戦闘力を低いものと見て、完全に意識を向けていなかったはず。

そんな相手がいきなり致命打となる攻撃を打って来たら。


当然、一気に警戒するか即座に潰すかの二択になるだろう。


「今のは正直危なかった、褒めてやるよ」

僕達は決死の一撃を外した。

そして相手は手加減をやめ全力を出そうとしている。

二人の戦意が全身から抜け落ちる。

それは文字通り僕達の死を意味する。

「お前たちはよくやったさ。だから苦しまないように一瞬で殺してやる」

ゆっくりと構えられた大剣が、まるで死神の鎌のようなオーラを放ち、先ず僕の首に突きつけられた。

死を覚悟し、ぎゅっと目を瞑る。そのまま空気が引き裂かれる気配。





しかし、僕の首はずっとついたままだった。

恐る恐る目を開けると、死神は大剣を振りかぶったまま静止していた。

痛いほどの沈黙が、戦場を包み込む。

誰も動こうとせず。否、出来ずにその場に留まるしかなかった。

どんな選択であれ、ブラッドレインの決めることに従わなくてはならない。

いつしかそんな空気が漂っていた。

ハァ、と、その身に似合わない妖艶なため息。

そして、ギャリイン!と地面に得物を突き立てる音とともに彼女の決断が下された。



「やっぱりいい。お前たちは殺さない」



淡々とそれだけ告げて、死神、ブラッドレインは何も言わずに飛び去っていった。

空に移る彼女の影から放たれた蛇鎖が、放置されかけていた大剣に絡みつき、乱暴に地面から抜き放つ。


鮮血の嵐は、ようやくこの学院から去った。

後書きとなります、オルタです。

遅れに遅れ、書き直しを繰り返してようやく投稿となりました!

戦闘シーン、ルクスの心情、その他諸々を思いっきりボス戦っぽくしてありますが、こいつ中ボスであります。

大ボスともいうべき存在はまた別にありますので、どうかそれまでお付き合いいただけるだ嬉しいです。


それでは出来れば13話でお会いしましょう!

オルタでした。

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