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聖戦学院  作者: 雪兎折太
11/56

聖戦学院 11話 蹂躙する者、される者

突如ルクスと美月を襲った犯人は、超危険人物である、死神・ブラッドレインだった。

好戦的なブラッドレインが暴れまわる中、

ルクスの先達たる桜木、里村、永江、進藤の四人は、滝宮のみんなを守るためにブラッドレインの撃退に臨む。

「じゃあ、次はどいつだ?」

不敵に笑いながら僕達を見据える死神が、ゆっくりと上段に大剣を構えなおす。

天の構え。剣道でもよく用いられるオーソドックスな構えだ。

だが剣道のそれとは比べるまでもなく迫力があり、少しでも隙を見せれば一瞬で頭ごと真っ二つにされそうだ。

月の光がその禍々しさを一層際立たせ、月光に反射する血刃の光が僕たちを照らす。

風は静かな空間に唯一音をもたらすものとなり、平等に僕らの体を打つ。

先輩たちや天野さん、進藤先生ですらその緊張から一歩も動けない。

ただ時間だけがゆっくりと流れ、風の音が耳をすませるまでもなくはっきりと聞こえるほど静かな校庭に、


「決ィめた」


ついに、土煙が舞い上がった。


「まずは手前ェだああアアアアアアア!!!」

咆哮とともに里村先輩の方へ猛スピードで駆け出す死神。

間一髪で大地を砕く凶刃を背後へ流し、反撃とばかりに青色の矢を乱れ打つ。

それが開戦の合図となり、悠が炎を生み、先生が刀を抜き、永江先輩が腰の二つのポーチから機械の足を作動させる。

「永江、最大火力で一撃で仕留める!桜木は俺と里村であいつを出来る限り抑え込む!いいな!?」

「「了解!!」」

一気に先生と悠が駆け出し死神の側に張り付く。

永江先輩はその場で背中のリュックから何本も機械の腕を作動させた。

腕の先にはレンズのようなものがついてあり、その照準は虚空に向けられている。

「一撃で仕留めろ、だなんて無茶言うッスねえ・・・どんだけ時間かかると思ってるんスか」

そうぼやいてはいるが、その表情は固くひたすら死神の方を見ている。

ブラッドレインは大剣をまるで軽い棒切れでも振り回すかのように自由に操りながらも、悠達の攻撃をほぼ完全に防いでいる。

その上その防御動作全ての合間に繰り出される、大剣の振り下ろし、蛇鎖の貫き、そしてその両手両足から繰り出される体術一つ一つが、全て必殺の威力を持っているのが遠目でも分かる。

三人とも全力で、殺す気でブラッドレインに得物を叩きつけているのにも関わらず、その攻撃の全てを超える力をあっさりと振るい圧倒する。

風をなぎ、大地を割り、一振りで十を殺す鮮血の雨。


まさに死神の遊戯。

人間の価値や意思など一切無視したワンサイドゲーム。


「天野さん、こっち!」

立ち尽くしていた彼女の腕を掴み、半ば強引にこの場から遠ざけようとする。

しかし、それを許すまいと機械の腕が僕達の行く手を阻む。

つまりは、永江先輩の仕業。

「永江先輩!?どうして!」

「天道寺くん、それに天野美月さん。君たちにはここにいてもらうッス」

冷酷に告げられたその言葉に、どのような反論も無意味だった。

彼女が告げたそれは命令であり強制であり、そして懇願であり。

その顔に、僕が抱いていた反感は、全て消え失せてしまった。

「こんだけ待てば、流石に意識の外側ッスよね」

ふと、そんなことを言ったかと思えば。

先輩はリュックから手のひらにおさまる大きさのボールを取り出し、空高く放り投げた。

機械の腕よりも高く上がったそれは、唐突に強い光を放ち、その光が八つのレンズに全て吸い込まれてーーーーーーー







(一体何なんだこいつは!?)

里村輝は目の前を飛び回るブラッドレインに千を超える矢を射ながらも、一向に収まらない恐怖と戦っていた。

射れども射れども、その身が揺らぐことはおろか矢を視界に捉える様子すらない。

しかし視野の外にあるはずの矢を、弾くべく振り回されるその大剣が、感じたことのない圧を持って、常に死への恐れを否応なく抱かせる。

それでも地面を走り回りながら、一定の距離を保ちつつ、攻撃と攻撃、防御と防御の間に生じる一瞬の隙を狙い打つ。

そこへ堅牢な守りを崩さんと桜木の拳が、紅蓮の焔を、蒼破の氷を纏い何度も打ち込まれる。

ジョブ、フック、ストレート、あるいは格闘技ですらない殺法が明確な殺意を以って形となり死神を堕とさんと叩きつけられる。

畳み掛けるように、風を斬り甲高い音を何度も響かせる進藤先生の刀が、空気を捻じ曲げ必殺の意志を伴った斬撃を放つ。

しかし、どれも決まらない。

放たれた矢は大剣が盾となり。

振るわれた熾凍は片手で赤子の手を取るように受け止められ。

烈空の刃の嵐は蛇鎖が残らず叩き落とす。

そして、振るわれる反撃の一閃。

彼女がただ一度得物を振るうだけで、地面と空気が無機質な悲鳴を上げその身を削り、

その余波だけで致死の一撃となり我等を襲う。

「ふざけやがって・・・化け物が!」

思わず毒づいた桜木が、再び両の拳に氷炎を纏わせ突撃する。

その光景を見ながら、里村は必死に思考する。

結界か、魔法か、あるいは契約している精霊の力か。

私や桜木、進藤先生の攻撃をいとも容易く受け止め躱す、あの身体能力。

その正体が分かれば、あの死神を倒すことも可能なのではないか。

「ーーーなんて、考えてたりするのか?」

「なーーー!?」

いつの間に背後に回られたのか、などと思う暇もなく里村の体に大剣が直撃する。

刃の部分で無かったのは幸いだったが、それでも尋常じゃない痛みが背中を襲う。

背骨にヒビが入る感覚とともに、遠方へと吹き飛ばされ、空中で受け身を取る間も無く壁に激突する。

体が動かせない。指がピクリとも動かない。

「里村あああああッ!!」

口から血反吐が吐き出され、血塗られたボロ雑巾のようになった里村に、遠くから桜木が近寄ってくる。

来るな、来てはいけない、里村がそう思っても言葉に出来ないまま、隙だらけの桜木を死神が放っておくはずもなく。

「マヌケ」

放たれた蛇鎖が五体を貫かんとうねり、漆黒と碧の螺旋を伴い桜木の背に迫る。

しかし、唐突に現れた風の刃が桜木を守るように立ち塞がり、襲い来る蛇の行く手を阻む。

その衝撃に呼応して、桜木の周りを檻のように囲む真空の刃が、その透明な刀身を僅かに揺らめかせる。

「私の教え子に手出しはさせん」

狩りを邪魔された死神は、双眸を進藤の方へ向け嗜虐的な笑みを浮かべる。

「やれば出来んじゃねえか、センセイ?」

鎖を左手に引き戻し、大剣を構えなおして一直線に突撃する。

再びの衝突。今度は進藤とブラッドレインの一騎打ち。

進藤が持つ刀、物干し竿とも呼ばれるそれは、天道寺との試合で使う木刀よりもさらに長く、その長さは一mを軽く超える。

細く、それでいて長く、重く、しっかりとしたその刀身は、ブラッドレインの放つ大剣の凶撃をずらし、彼女の首を幾度も落とそうと空を斬る。

だが予知していたかのように、完璧なタイミングで蛇が阻み、一方的に防御を強いるように次々と殺意が襲う。

大剣を躱せば鎖が、鎖をいなせば大剣が、視野の外から途切れる間も無く豪雨のように襲いかかる。

ブラッドレインは蛇鎖と大剣という、本来併せ持つはずのない得物の両方を組み合わせ、半ば強引にブラッドレインという人物のための、ただ一つの得物に仕立て上げている。

隙が出来やすい大剣と、小回りの効きにくい鎖。

その二つを併用することでそれぞれの隙を最小限に減らし、且つ遠近両方の間合いにほぼ完全に対応できる。

嵐のような反撃を受け、進藤の足は徐々に後ろに下がり、その武者のような顔つきに焦りが生じ始める。

桜木も里村もなんとか援護しようとするものの、わずかな間すら見出すことができず、ただ立ち尽くしているしかなかった。

「なんだよセンセイ?こんなんでガキに授業出来るのかァ!?」

大振りの一撃で進藤を退がらせ、煽るように死神が嗤う。

まだ満足していないと、その華奢な腕を数回鳴らし、ほぼ肌が露出しているにも関わらず無傷なその身体を再び狂戦士のそれにシフトしていく。

しかし、進藤は死神から脱兎のごとく距離を取り、逃すまいと放たれ追いすがる鎖をはたき落とす。

「擬似太陽、展開」

無機質に告げられた言葉の主を、ブラッドレインは見上げる。


瞬間、辺りは一瞬にして、昼同然に明るくなった。






「一撃で仕留めろ、だなんて無茶言うッスねえ。どんだけ時間かかると思ってるんスか」

進藤先生の号令に、思わずため息が出てしまう。

当然だ。

相手はあの「死神」ブラッドレイン、これまで百人以上の犠牲者を出しながら、危険種レベルの実力を持つ超ド級の危険人物だ。

そんな化け物を一撃で仕留めうる方法など、私は「一つ」しか知らない。

「武装、展開」

腰にぶら下げた二つのポーチから、機械の腕がジャキン!と音を立てて勢いよく飛び出す。

そして背中のリュックサックから一斉に八本のアームが現れ、全て私の支配下に移る。

その動作の合間に、一瞬だけ周りの状況を確認する。

戦況は芳しくない。

輝っちはあのままだと持って一分。

桜木君は恐らくその倍か?いや、輝っちを助けにいってやられる可能性もある。

進藤先生も怪しいところだ。2〜3分が限度だろう。

そして隅の方では、天道寺君たちが逃げようとしている。

彼らは重要なパーツだ、ここに留めておかなくては。

一秒も経たずに全て頭で整理し、己がすべきことを実行に移す。

閃光玉の用意、天道寺君たちの拘束、レンズの調整。

時間が全ての戦場では、速さこそが雌雄を決する最大のポイントであると、私は思っている。

いかに早く、正確にことをこなせるか。

コンマ一秒が生死を分けるこの世界では、たった一つの逡巡で命を失うことなどザラだ。

だからこそ、私は全てを正確にこなす。

故に「人間機械」などと呼ばれることになろうとも。

閃光玉を高く放り上げ、その光をレンズに吸収させる。

アームについているレンズは魔科学で出来ているもので、光を蓄えることができる特別なものだ。


そして私の魔法を使えば、全ての魔科学で作られた機械を支配し、性能を強化させられる。


光吸収率70%・・・80%・・・90%・・・

閃光玉の光がだんだんと弱くなっていき、それに伴いレンズの表面が徐々に真っ白に発光していく。

アームの一本一本が軋んでいくのを感じる。

これ以上入らないとレンズが悲鳴をあげるのを感じる。

感じる、感じる、感じる。

それでも、全てを否定し奮い立たせる。


光吸収率・・・・・・100%・・・110%・・・

まだだ、まだ足りない。

この程度では、あいつを「殺し」きれない。

ただの光球ではない、それこそ太陽クラスのエネルギーをぶつけるーーーーーー



光吸収率、150%



今だ。



「擬似太陽、展開」

後書きとなります、オルタです。


死神さん、大暴れな回となりました。

死神さんことブラッドレインを書いている時に常に考えるのが、どのように彼女の圧倒的なまでの強さを表現するか・・・なのです。

4話のドラゴンは元々人間では無かったので割と扱いやすかったのですが、人間が人間に恐怖するとなるとなかなか勝手が違って苦労します。

てかほぼ死神さんのために時間使ったようなものです(自業自得)


さて、そんな若干お気に入りキャラと化してきた死神さんの大暴れな11話、如何でしたでしょうか?

次回、ルクスが頑張ります。多分。


オルタでした!

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