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聖戦学院  作者: 雪兎折太
10/56

聖戦学院 10話 死神

唐突に飛来してきた大剣は六体ものゴーレムを全て葬り去った。

安心するのもつかの間、その暴威はルクス達を標的に定める。


「な、何が・・・!?」

突然飛来して来たその物体に、僕と天野さんは目を奪われる。

黒を基調とした、僕の身長よりも一回り大きいその大剣は、猛烈な回転とともに体育室の窓をぶち破り、六体のゴーレムを巻き込んでそのまま地面に突き刺さった。

「だ、誰かが助けてくれたのかな」

困惑を隠せないと言った表情で声を震えさせるのは、天野さんだ。

先程までの明るさは何処へやら、すっかり怯えてしまっている少女を横目に見やり、周囲の警戒をする。

飛んで来た方角は学生寮の方、入射角は上から、ここは8階・・・つまりーーーー学生寮の上から!?

「天道寺くん危ないーーーーー!!」

突如横から衝撃を受け、体育室の隅まで吹っ飛ばされる。何度か壁に衝突する寸前で止まれたものの、木刀が手から離れてしまった。

目の前には僕の体を抱きかかえている天野さんの姿が。

そして僕がさっきまでいた場所を見やると、そこには何か蛇のようなものが、床を貫き文字通り突き刺さっていた。

はっきりとした殺意を目にし、僕も天野さんもすくみあがってしまう。このままでは二人とも殺されるーーーー!!

「は、早く逃げよう!」

「わ、わかった!」

急いで側にあった出口に天野さんを連れて飛び込み、鍵をかけてひたすら走る。

どうする、どうするどうするどうするーーーーー

必死に思考を巡らせる。あの蛇の攻撃で、大剣の持ち主が僕たちに敵対的なのは明らかだ。

仮想ゴーレムをまとめて一撃で葬り去るあの威力は尋常じゃない。直撃すればまず命はないだろう。

かといってこのまま逃げ果せられる自信もない。必ず何処かで追いつかれる。

「天道寺くん後ろ!!」

隣の少女の叫びを聞いて、咄嗟に彼女を抱えて真横へダイブ。

直後、目と鼻の距離で先ほどの蛇が空間を穿つ。

「ーーーーーッ!!」

相手はこちらの場所を把握しているらしい。足音もなくただ無情に正確に突き穿つその蛇を、ひたすら避けながら全速力でひた走る。

光での加速は制御が難しく、特に校舎内のような入り組んだ地形だと、天野さんを守れる自信がない。

ガンッ!!ガンッ!!と床や壁を貫く音が僕たちの体に響き、迫りくる絶望の予感を否応なく感じさせる。

「せめて広いところに出られれば・・・!」

「直線なら逃げきれそうなの!?」

「直線なら光の加速を使えば、二人でも問題ないはずだよ!」

「だったら外に出なきゃ!」

「どうやって!?」

魔境と名高い校舎内をひたすら駆け回りつつ、互いに逃げ出す案を考える。正直そんな余裕など殆どないが、無策で逃げ回っていてもいずれ殺される。

いっそ窓から飛び降りるか、しかし30mはあるこの高さから飛び降りて、無事で済むはずがない。

ならばあの蛇と大剣の主と戦うか、ゴーレムに苦戦するような僕たちじゃあれを一撃で全滅させたやつには勝てるわけがない。

「おいお前ら、そこで何してる?」

唐突に呼び止められたので、走りながら声の方角を向くと、薙刀を持った一人の長身男性が僕たちを訝しげに見て立っていた。

「一ノ瀬先生!?」

その人は先日僕を侮蔑して来た、一ノ瀬潤先生その人だった。

「なんか大きい音がしたからきてみれば、床も壁も穴だらけ、何があっーーーー」

「逃げてください!!!大剣を持ったやつが、蛇が!!」

先生の言葉を遮るように全力で叫ぶも、先生は何が何だかといった表情でこちらにやってこようとする。その後ろから、あの蛇が先生ごと僕らを貫こうとしているーーー!!

「先生!後ろーーーー!?」

叫んだのは天野さんか、それとも僕か。

蛇は先生を貫通したーーーーはずだった。

「蛇、ってのは・・・こいつのことか?」

先生は薙刀を一瞬であの蛇の顔面に叩きつけ、壁にめり込ませ抑え込んでいた。

「政府」から来た大抵の職員は非戦闘員なので力は弱く、魔粒子の適性も低い。

そのため、進藤先生などごく一部の例外を除いては実戦などとてもできないはずなのだが・・・

「・・・なるほどな、おいお前ら、今すぐ他の奴らを呼んでこい。進藤でもなんでも構わねえ。このクソッタレを校舎の外に引きずり出す」

何かを理解した様子の一ノ瀬先生が、僕達にぶっきらぼうに告げる。しかしその表情には一切の余裕はなく、むしろ焦燥に満ちていた。

「僕は研究科室に行って悠たちを呼んでくる!!」

「わかった!こっちは槍術と弓術の人を連れてくる!」

階段を駆け下りながら担当する場所を決め、そ。研究科室は確か4階だったはずだ。一ノ瀬先生も長くは持たないと見て、光の加速も惜しまずに使う。

早く、早く、早く早く早く早く早く早く「早く早く早く早く早く早ーーーーー!!!」

焦りが僕の体を乱そうとするのを必死に抑え、研究科室への最短ルートを狂い無く走り抜ける。道中の他人の目線などお構いなしに真っ直ぐ悠たちの元へ向かう。

余裕はない、猶予もない、一秒一瞬がもどかしい。

視界に入った研究科室の扉目掛けて、思いっきり手を伸ばすーーーーー



天道寺くんと別れて、すぐさま階段を下りながらローブをかぶる。

踊り場を曲がる頃には変装を終え、階段を一階降りた頃には、あたしの姿はツインテールの茶髪の少女になっていた。

あたしの姿を彼以外に知られてはいけない。

あたしの計画を成し遂げるために、こんなところでつまづいてはいられない!

ひたすらに走り続け、あたしの記憶の中にある教師の顔を探す。

道行く人々に話を聞き続け、槍術科の教師が近くにいることを知る。

「いた!すみません先生!!助けてください!!」

そして6階にて槍術科の教師が生徒に指導しているのを見つけ、息を切らせながら事情を説明する。

「お願いします!!早く来てください!!」

「わかった、おいお前!槍持って8階だ、急げ!」

「はい!」

話を聞いていたその男性教師は、最初は不審げな目線を向けていたが、学院内部に潜入されたと聞くと、数人の3年生をすぐに呼び出し、8階に向かうように指示してくれた。

「ご苦労さん、念のためこちらで弓術科と魔術科のやつらに連絡しておく。お前は早く安全なところに避難しろ」

駆け出していく彼らの足音を聞きながら、あたしは再び駆け出していた。

天道寺くんは上手くやれただろうか、せめて彼のそばにいなければ。

あの人を今失うわけにはいかない。

あたしの目的のためにーーーそれ以前に、人として!

再び階段を駆け下り、天道寺くんがいるはずの研究科室を目指す。

急がなきゃ、急がなきゃ、

何分経ったかもうわからない。数えている暇もない。

一ノ瀬潤があの化け物を抑えてくれていることを祈りつつ、あたしは走っていた。

曲がり角から飛び出す人影にも気づかずに。

回避もできずにあわや衝突のその直前、その人影に拾い上げられそのまま連れられる。

「な、何!?」

あたしが突然の出来事に混乱していると、後ろから天道寺くんの声が聞こえてきた。

「天野さん!緊急事態だ!」

その顔には先ほどのものよりも色濃く焦燥が満ちており、ただならぬ予感を嫌が応にも感じさせる。

「ど、どうしたの!?ていうかこの人たちはーー」

ふと自分の体を見ると、あたしを抱きかかえているのは人間の腕ではなく、機械の腕ーーーあたしが1ヶ月前なりきっていた「彼女」の武装だった。後方には眼鏡をかけた細身の男子生徒と、いかにも武闘派といった体つきの男子生徒。殿にはなんと進藤一先生までいる。

皆揃って険しい表情をしており、武闘派はすでに臨戦態勢に入っている。

「話は後だ、一旦校庭に出るぞ!」

武闘派が前に出ながら叫び、そのまま集団で揃って窓の方へと突撃する。

4階から飛び降りるつもりなのか、あたしは制止しようとしたが間に合わず、特性ガラスを突き破り学生寮とは正反対の校庭の方へアイキャンフライーーーーーは、しなかった。

窓から出ると、何やら冷たいものが肌に当たる感触。

下を見ると、氷で出来たスライダーが校庭の方へと続いていた。

鉄の腕から降ろされて、少しだけ安堵する。お礼を言おうと振り返ると、永江先輩はなんとスライダーの上で跳躍し、進藤先生の側に着地した。

くぼんでいる上に取っ手まであるので落ちる心配はなさそうだが、なんというか、その、むちゃくちゃ怖い。

永江先輩の後ろにいた天道寺くんにかっこ悪いところを見られまいと、なんとか下を見ないようにするべく、先ほどまであたしたちがいた体育室を見る。体育室は見るも悲惨なほどボロボロであり、ところどころにあの蛇が貫いたであろう大穴が開いている。

よく見るとまだ内部で戦闘が起こっているようで、火花や蛇の体、そして飛来してきた大剣が振り回されているのが見える。

天道寺くんも同じところを見ているようで、不安をぬぐいきれないといった表情でじっと体育室を見つめていた。

「生徒会長や選抜制に呼びかけたんスけど、選抜生の方はまだ返事がないッス!」

大声で報告しているのは、研究科の永江菖蒲先輩だ。

片手のスマートフォンを横目にやり、進藤先生と何やら相談しているらしい。

「生徒会長はなんと?」

「全校生徒の避難、だそうッス!」

「同意見だな!!」

滑りながら作戦会議が行われ、あたしと天道寺くんはいつの間にか体育室の見張りになっていた。

ぼろぼろになった壁の隙間から見える生徒と謎の侵入者との攻防を、瞬きも惜しんでしっかりと目に焼き付ける。

どうやら侵入者は女性のようだ。長い白髪に露出の高い服装、そして大剣と鎖のような蛇・・・

いや違う、「蛇」のような「鎖」・・・!?

「まさか・・・あの侵入者は!?」


瞬間、唐突に壁が内側から吹き飛ばされ、3年生達が宙に舞った。

各々の手段でどうにか地上への激突は回避したものの、その身体には大きなダメージを負っているのがわかる。

が、そんなことを考えている時間はなかった。

吹き飛ばされた壁が瓦礫となって、氷の道を叩き割らんと迫って来る。

言葉を発するまでもなく武器を取り出し、その石飛礫を一つ残さず打ち砕いていく上級生。

「後3秒で飛び降りる!2・・・1・・・今だ!!」

進藤先生の合図で飛び降りた直後、あたし達の背後を「何か」が通り過ぎる気配。

振り向くと、そこにはあの大剣があたし達のいた空間を容赦なく穿ち、そのまま校庭に突き刺さっていた。

そして、あたし達が地面に足をつけた直後、その「怪物」は空より舞い降りた。




校庭に着いた僕たちは、全員揃ってあの大剣を見ていた。

赤黒く、ところどころに血のようなものがついたそれは、まるで破壊することだけを許された兵器のようで、僕は担い手がいないのにも関わらず震えを起こしていた。

不意に、先ほどまで僕らを襲っていた蛇が、天空から大剣めがけて一直線に飛んできてーーーそのまま大剣の柄に食らいついた。

すると、まるで鎖を巻き戻すかのような音が耳を打ち、空からそれを手繰る人影が現れ、その畏怖を感じさせる凶器に飛び乗った。

大剣の上に現れたのは、白い長髪にスラリとした細いラインの身体に、アマゾネスを彷彿とさせる露出度の高い衣装をまとった女性。

膝上までたくし上げられたスカートにもべっとりと血が付いており、見えそうで見えない下着よりも、まずその異常性に目が行くほど色気が無い。

上方よりこちらを見据える目は大きく開き、口は顔を引き裂かんばかりに裂かれ笑みを浮かべている。口の中からは獰猛な犬歯が見え、麗しい女性というよりも人の形をした餓狼を想像してしまう。

「・・・初めまして、でいいのか?こいつの上はバランスが取りづらくて仕方がねえ」

気だるげに言いながら大剣から飛び降りたそれは、自分の身長よりも大きい得物に鎖を放ち、絡めとらせて勢いよく引き抜く。

そのまま眼前の大地に叩きつけ、力任せに引き戻し、両手に取る。

蛇遣いの如き鎖使い、否だ。彼女の鎖は間違いなく「蛇」そのもの。

まるで鎖と蛇が融合したかのようなそれを自在に操るその姿は、言いようのない恐怖感を僕らに感じさせる。

「お前は・・・誰だ?」

恐る恐る僕が尋ねると、目の前の女は意外そうにこちらを見つめ、次いでわざとらしくため息をつく。

「なんだ、あたしのこと知らねえのか?まだまだ有名人には程遠いってことか」

そう呟いた後、両手に持っていた大剣を右手に持ち、軽く地面につける。

それだけの動作で、地面に小さくヒビが入った。

「知らねえんなら教えてやるよ。あたしの名前はブラッドレイン」

長い白髪を揺らしながら、僕達に名乗るそのブラッドレインという女性は、目を見開き僕達に告げる。

「「死神」って言えば分かりやすいか?ガキども」

途端、全員の体が今までにないほどの緊張に包まれる。

「死神」、現在地球上唯一のモータル狩り。

一度戦闘を始めると、そこは死神の狩場になるとまで言われ、邪魔をするものは例え人間であろうと容赦なく叩き潰す戦闘狂。

そんな彼女がここにいるということは。

「もう察したんだろ?あたしはお前達を狩りに来たんだよ」

獰猛な笑みを浮かべて死の宣告を告げる死神は、地につけた大剣を肩に担ぎ上げ、軽く眼前に振り下ろす。

「お前達はあたしの獲物だ。あたしだけのものだ。モータルどもにも、「政府」の臆病者どもにも渡さねえ」

顔をうつむかせながら大剣を持つ腕に力を込めるブラッドレイン。それに呼応するかのように地面が揺れ始め、彼女の周りの砂が浮き上がり凶々しい気配を感じさせる。

「誰にもだ!!!!!」

大剣を振り上げたのその瞬間、僕達の間、誰もいなかったその地面が、一気に両断された。

「「「「「ッ!?」」」」」

進藤先生以外の全員が、何が起こったか一瞬理解できなかった。

真空波か、剣圧か、あるいはショックウェーブか、

彼女の圧倒的な力を目にした僕は、直感で悟った。


この人には、勝てない。


「おいおい、もうビビっちまったのか?嘘だろう?やめてくれよ、そんな冗談よ・・・」

煽るように叫んでいた彼女の口調が、だんだんと抑圧された怒りを感じさせるそれになる。

あたりの揺れがさらに強くなり、もはや人間と相対しているという事実さえ疑いたくなるほどの、強烈な圧に押されて一歩退く。

「あのトカゲもつまらねえ。でっけえ蛇も弱え。大阪にいたあのカニ野郎もただの雑魚だった」

言葉の区切りに合わせて大剣を地面に叩きつけ、その度に地面がヒビ割れ、悲鳴をあげる。

「その上お前達までそんなんじゃ・・・あたしが楽しめねえだろうがああああああああアアアアアアアアアア!!!!!!」

絶叫とともに剣を構えながらこちらに突っ込んでくる死神を、間一髪のところで回避。


したと思ったその時、目の前に僕を蹴り飛ばそうとするブラッドレインの姿があった。

「なーーーーーーーっ!!!?!?」

回避は間に合わないと見て咄嗟に木刀を光で強化し防御するも、木刀をへし折りながら僕の体に回し蹴りが炸裂する。

胃液が無理やり吐き出され、そのまま吹っ飛ばされる。二度、三度とバウンドし、数m転がったところで止まる。

「天道寺くん!!!」

遠くの方で僕の名前を呼ぶ天野さんの悲痛な声が聞こえる。

立ち上がろうとしても、体にうまく力が入らない。

このままじゃーーーー殺されるーーーーー

「ルクスに手ェ出してんじゃねえええ!!!」

怒りに任せて叫びながら、爆炎をまとった拳を叩きつける悠。しかし死神は左手を突き出して簡単にそれを受け止めてしまう。

「へぇ、やる気だけはあるんだなァ!」

そのまま地面に叩きつけ、無造作に投げ捨てる。

大剣を構えなおし、まるで品定めするかのように僕達を一瞥した死神は。

口角を釣り上げ、その整った歯をむき出しにし、敵対する者の死を告げた。


「じゃあ、次はどいつだ?」

後書きとなります、オルタです。

散々遅れての10話が投稿となりました。

様々な事情が重なり、大分遅れてしまいました、すみません!

ようやく書きためていたのを吐き出すことができました・・・

11話もかなり近いうちに投稿する予定なので、そちらも見ていただけると嬉しいです。


さて、新キャラとして死神さんが登場しましたね。

この人は思いっきり中二な名前にしようと考えていたのですが、なんだか世界観に合わないなあと考え直し、結果この名前になりました。

どこぞの杉田さんみたいな名前ですね・・・


そんな死神さんと上級生達の全面対決が描かれる11話、どうぞお楽しみに!


オルタでした!

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