幼少期8:『魔法』と『魔力量』ーー『転生チート』は有るのか、無いのか
ああ、神様。貴方って人は……っ!
何てことをしてくれたと声には出さないように耐えたが、一瞬でも表情でそう訴えてしまった。
というのも私、ティーリア・ダーゼリア。六歳になりました。
☆★☆
来年からゲームの舞台となる学園の初等部(舞台自体は高等部)に通うために、その前段階ーー入学準備として、(きちんと仲直りした)両親とセイロンとともに神殿(かな?)へと魔力測定と属性魔法の確認に来ました。
六歳の子は貴族だろうが平民だろうが、各神殿で神官たちにより、(人数が人数なので)一週間ぐらい掛けて確認されるとのこと。ご苦労様である。
まあ、貴族平民入り交じりなら、ヒロインもこの場のどこかに居るのだろう。もし居なくても、『聖属性』を引き当てたことで騒ぎにはなるはずだ。
そもそも、この世界。『魔法』が存在している。
属性は『聖』『光』『火』『水』『風』『地』『闇』の七つ(と派生が)あり、乙女ゲーム主人公が所有する『聖属性』は所有者が少ない属性(それと比べたら『光属性』はまだ多い方)で、『闇属性』とは対になり、互いに相殺することが可能(『闇属性』の反対なら『光属性』じゃないのかというツッコミは無しで)。
ちなみに、乙女ゲーム主人公は『聖属性』で固定だが、ギャルゲー主人公はランダム方式でゲームスタートする度に属性が変わる。つまり、全属性持ちの可能性があるのだが、厄介なことには変わりない。
で、私たちの結果だが……私だけに関してなら、冒頭に繋がる。
セイロンは『火属性』と『風属性』、私は『水属性』と『地属性』。私たち二人だけで、四聖が揃ったぞ。
だが、問題は魔力の方。『地属性』故か、見た目に反するーー水晶型計測器を破壊するレベルでは無かったもののーー魔力量を叩き出しやがりました。
神官曰く、『地属性』持ちは魔力量が多いんだとか。知らないよ、そんなこと。
とにもかくにもーー
ああ、神様。貴方って人は……っ!
と言いたい。『火属性』はともかく、この世界の『風属性』って、使う魔法次第では空を飛べることが出来るみたいだから、使ってみたかったのだが。
でも、これが『転生チート』ではないよね? 『普通』の私にはこれぐらいがお似合いだとかいう理由で授けられたのなら、「本当に何してくれてんだ」って言って、ぶん殴りたいけど。
「ティー、戻ってきてー! 現実見てー!」
セイロンが揺らしてくるが、私はちゃんと現実を見ている。見た上で、現実逃避してるのだ。
つか、両親はどこ行った。
「セイロン様」
セイロンに揺らされていれば、横から可愛らしい声が聞こえてきた。
目を向ければ、そこに居たのは銀髪碧眼の美少女。
「ルリエ!」
あっさりと私から手を離したセイロンが、彼女の名前を呼ぶ。
彼女の名前は、ルリエ・アットグラフ。セイロンの婚約者候補(の一人)で、初恋相手。
ゲームにもセイロンの婚約者として登場して、乙女ゲームの主人公と彼を巡って対峙することもある。我が兄ながら、モテていらっしゃる。
「あ、お初にお目に掛かります。ルリエ・アットグラフと申します」
「どうも、ご丁寧に。セイロンの双子の妹、ティーリア・ダーゼリアと申します」
私の存在に気付いたルリエ様とともに、互いに頭を下げる。
それにしても、セイロンが自慢するほどあって、可愛い子である。成長すれば、メインには勝てないけど、サブクラスではぶっちぎりに近いんじゃないかな?
「ティー、ルリエを苛めちゃ駄目だよ?」
「何で未来の姉を苛めなきゃなんないのかな?」
「ふぇっ!?」
セイロンの発言に、からかいも含めて返せば、セイロンは固まり、ルリエ様は少しずつ真っ赤になる。
「みみみ未来ののの……!?」
「ルリエ様、動揺しすぎです」
「ででででもっ……!」
あ、でもセイロンが構う理由が分かった気がする。いちいち可愛いんだわ、この子。
「どちらかが心変わりしない限りは、二人を応援するから」
「心変わりする前提?」
「出来ればしてほしくはないけど、そうならない可能性が無いわけじゃないでしょ?」
特に、学院でヒロインに出会った場合、セイロンが彼女に惚れない可能性が無いとは言えないし、もし彼女が転生ヒロインだったら、積極的に仕掛けに来るはずだ。
(そんなこと、させないけど)
転生ヒロイン対策として、私が攻略対象者の家族である以上、出来るだけ家族の闇は潰す。
学院に入れば、レヴィンやレティーリアには手は出しにくくはなるけど、アール兄様とサム姉様、セイロンのフラグ折りぐらいは出来るはずだ。
「むー……ティーは認めてるのか、認めたくないのか。どっちなのさ」
『認めてない』ではなく、『認めたくない』と表現している辺り、セイロンらしいと言うか、私のことを分かっているというか。
「ルリエ様はどちらが良いですか?」
「ふぇっ……」
「ティー」
からかうようにルリエ様に振ってみれば、せっかく引いてきた赤みが復活し、セイロンには「だから、いじめないのー」と言いたげに注意される。
「ごめんごめん。でも、やっぱり二人には幸せになってほしいからさ」
「ティー……」
「ティーリア様……」
これは間違いなく本心で、それが二人に伝わっていてほしいと思ってるから。
「僕も、ティーがあの二人のどちらを選んで幸せになるのかは分からないけど、幸せになるように祈っておくね」
ここが神殿だからか、目を閉じ手を合わせるセイロンとそれを真似するルリエ様。
つか、二人って、絶対にクロウとイアンのことだよね?
「うーん……」
二人のどちらと婚約者になったとしても、それを想像することが出来ない。寧ろ、友人で居続けていることの方が、あっさりと想像することができる。
「別にあの二人じゃなくても、ティーが幸せになれる人なら良いんだからね?」
「それは……」
本人たちの居る前じゃなくて良かった。もし居たら、絶対気まずくなってるだろうし。
「けど、ありがとうね。でもねーー」
「ふーん。お前らが、噂の双子って奴か」
何か遮られた上に、呼んでもないのに何か来たし。
……というか、どちら様?