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幼少期5:『親子喧嘩』と『自己紹介』、いつもと違う『妹』のこと(セイロン視点)


双子の兄、セイロン視点。




 セイロン・ダーゼリア。

 それが、僕の名前なんだけど、そんな僕には双子の妹がいる。

 『ティーリア』という僕の妹は優しくて、可愛いんだけど、頑固なところもあって。何よりーー一度悩み出すと、誰かに話すこともなく、一人で抱え込む癖のようなものがある。

 最近は減ったかと思ってたけど、単に落ち着いていただけらしい。

 だから、油断していたわけなんだけどーー……


「あーもう!」


 僕はティーと双子だから気持ちとか察せられたけど、お兄様とお姉様はともかく、両親はティーの様子には気付いてないらしい。

 空気が悪いことを察したティーが出て行ったものの、悪かった空気が少しでも変わってくれるかと思いきやそんなこともなく、僕は思わず我慢できなくなったとばかりに叫んだ。


「セイロン、お行儀悪いですよ」


 そうお母様が窘めるが、どうやら通じてはくれないらしく、僕はムッとしたまま両親に目を向ける。


「でもーー」

「お父様、お母様。何故、この二人ーーレヴィンとレティーリアが、我が家に来ることになったのか、まだ説明をしてもらってないんですが」


 僕の言葉をアール兄様が遮り、直接二人に尋ねる。


「俺もサムもセイやティーだって、その経緯を話してもらえていません」

「それに、ティーが退室した理由、お父様たちが分かってないわけではありませんよね?」


 アール兄様やサム姉様が、お父様たちに尋ねる。


「話してください、二人が来ることになった経緯を」

「……」


 けれど、両親は口を閉じたまま。

 ようやく口を開いたかと思えば、


「貴方たちは気にせず、二人の良きお兄さんお姉さんで居なさい。もうーーこのことについて聞いてくることは、いくら貴方たちでも許しません」


 その言葉のみ。


「っ、お母様! 彼らがどこの子でも構いませんが、私たちは事情を知る権利があります! 学院に通うようになってから、(いじ)められたりした場合、二人を守るための防御材料が少なすぎます!」

「それだけじゃない! 本来知るべき事を、俺たちは知らされていない!」


 サム姉様とアール兄様が反論する。


「食事中です、その口を閉じなさい! あと、その話はおしまいだと言ったでしょ!!」


 ーーああ、どうしよう。

 こういうときは、大体ティーが何かを言って終わらせていたから、僕には何を言ったらいいのか分からない。


「ティーが……五歳であるあの子が空気を察し、経緯すら話してもらえない自分は両親から信頼されてないのかもしれない、と思っていてもですか!?」


 サム姉様が、爆弾を落とした。

 どうやら、サム姉様はティーを見ていたらしく、表情から察したらしい。


「ティーはさ、一回悩んだりしたら面倒くさいよ。それに頑固なところがあるから、お父様たちが話そうとしないと、ずっと距離が空いたままになるかもね」


 これは脅しなんかじゃない。

 連れて来られたに等しいレヴィンやレティーリアは何も悪くないから、ティーは普通に会話しそうだけど、お父様たちはどうなるのか、僕には分からない。


「……一体、誰に似たんですかね」


 貴女ですよ、お母様。

 お父様、アール兄様、サム姉様とともに、そう言って溜め息を吐いたお母様に目を向ける。


「とりあえず、僕はティーの様子を見てきます。お父様たちは、ちゃんとアール兄様たちに説明してくださいよ」


 昼食も終わったので、席を立てば。


「セイ、ついでだから二人も連れていってくれ。これ以上この部屋に居させるわけにはいかないから」

「そうね。二人とティーのこと、お願いね。セイ」


 そうアール兄様とサム姉様に言われ、レヴィンたちに目を向ければ、二人が無言で立ち上がる。


「それでは、失礼します」


 そう頭を下げて、僕たちは部屋を出た。


   ☆★☆   


「……」

「……」

「……」


 しばらく無言のまま、三人で歩く。

 僕の前にはメイドが居り、レヴィンたちのために用意された部屋がどこにあるのか分からないため、彼女に案内してもらっている。


「あ、あの、本当に、私たち、ここへ来て良かったんですか……?」


 思い切って聞いてきたのだろう、ティーとは違う女の子(レティーリア)の声に、僕は口を開く。


「大丈夫だよ。簡単に言えば、家族が増えただけだし。まあ、お父様たちが君たちを引き取った経緯を話してくれないのが、少し気になるけどね」

「……」


 それを聞いてどう思ったのかは分からないけど、そのままみんなで黙っていれば、部屋に到着したらしい。


「こちらがレヴィン様、その隣がレティーリア様のお部屋となっています。ご用がある際には何なりとお申し付け下さい」

「……」

「あ、ありがとうございます」


 案内を終えたメイドが軽く頭を下げて去っていくのを見ながら、無言のままのレヴィンに対し、レティーリアがお礼を言う。


「それじゃあ、僕は二人の部屋の位置も把握したから、もう行くけど……家を探検したかったらすればいいから。どこに何があるのか、場所を覚えてもらうにはその方が早いだろうし」


 入ったらいけない場所が無いわけじゃないけど、探検ついでに覚えてもらえればありがたい。


「……名前」

「ん?」

「あんたの名前、聞いてない」


 今日が初対面の相手に対して、『あんた』と来たか。

 でも、名前かぁ……。


「僕? 僕はセイロン。セイロン・ダーゼリア。セイで良いよ。みんなそう呼んでるし」


 ついでだから、ティーたちについても教えておこう。


「また後で会ったりしたときに教えられるだろうけど、今教えておくと、兄弟で僕と髪の毛の色が同じだった人は、アールグレイ兄様で、赤い髪の毛の女の人はアッサム姉様。僕と双子で同じ顔をしている、あの部屋を最初に出て行ったのがティーリア。ちなみに、僕とティーとでは僕の方が兄だから」


 一度に言ったけど、分かってもらえたかな?


「……セイ、お兄様?」


 首を傾げて、レティーリアがそう呼んでくる。


「うん」


 頷けば、レティーリアの目が輝いたように見える。


「これから、よろしくお願いします。セイお兄様」

「うん、よろしく。レヴィンもね」

「……」


 レヴィンからの返事は無かったけど、心の中では頷いてくれていると信じることにするとして。

 部屋に入っていったレヴィンに苦笑いして、レティーリアに「それじゃあね」と言って、その場から離れた。

 さて、ティーはティーで、どこにいるのやら。


   ☆★☆   


 ずっと悩んでいても、どこに居るのか分からないので、一度部屋に戻れば、ティーがベッドの上でうつ伏せになっていた。


「……あ、セイ。戻ってきたんだ」


 あ、生きてた。……と思いつつ。

 ぼんやりとした目を向けられたけど、昼食を終えたときと変わってない気がする。


「……どうしたの?」


 じっと見ていたからか、ティーが不思議そうな顔をする。


「ううん。お父様たちと兄様たちが揉めてて……」

「そっか」


 身体を起こしたティーが、枕を抱えてぼんやりと何も無いところを見ている。


「レヴィンたちはあの場から連れ出したけど、アール兄様たち、大丈夫かな?」

「あの二人を連れ出したなら大丈夫でしょ……と言いたいところだけど、あの場から逃げた私が言うべき事ではないし、セイが何か言ったとしても、膠着(こうちゃく)状態になってただろうから、空気を変える意味では良かったんじゃない?」

「こうちゃ……?」


 時々ティーは、よく分からないことを言う。


「セイは今気にしなくて良いよ。後で覚えれば良いんだから。それに、難しいことはお父様たちとアール兄様たちに任せておけば良いんだよ」

「そう言われるとそうなんだけど……ティー、本当に大丈夫?」


 何だか、いつものティーじゃないみたいだ。


「お父様たちが話してくれなかったことが、そんなにショックだったの?」


 ティーが首を横に振る。


「部屋に戻ってきてから、少し頭が冷えたんだよ。『何で話してくれないの?』っていう考えが占めていたせいで、『お父様たちが、私たちに話さないのには理由があるんじゃないか』っていう考えが抜け落ちてた」

「……話さない理由って……」

「例えばだけど……あの二人が『お父様たちが口にも出したくない人たちの関係者』とか、『引き取った経緯が経緯なために、私たちを何らかの問題に巻き込まないために口を閉ざしてる』とかね。でもこれは、私の推測でしかないから、実際のところは分からない」

「そのこと、兄様たちには……」

「気付いているんじゃないかな? 特にアール兄様は」


 え、そうなの?


「跡継ぎであるアール兄様には二人のことを知る権利があるし、サム姉様が一緒に残ったって事は、その補佐役ってことでしょ」

「補佐役……」

「本来なら、サム姉様じゃなくて、弟であるセイがするべき事だけど、難しい話に発展した場合、今のセイよりは年上であるサム姉様の方がより理解と把握してくれるでしょ?」

「つまり……?」

「年齢による理解力の差」


 ……妹が遠慮なく、ズバッと言ってきた。

 軽く落ち込むも、ティーが気付いた様子は無く、僕と同じ、紅茶色に見える茶色い眼がこちらに向けられる。


「けどまあ、セイにも心配されちゃったことだし、明日、二人に謝らないとねー」

「今日の夜じゃなくて?」

「そりゃあ、早いに越したことはないだろうけど、私としては、もう少しだけ時間が欲しいかな」


 ベッドに座ったまま、ティーは足をぶらぶらと揺らす。


「私も、ずっとギクシャクしたままは嫌だし」

「ティー……」

「だから、協力してよ。お兄ちゃん(・・・・・)


 ……どうやら、僕の双子の妹は、いつもの調子に戻りつつあるらしい。


「分かったよ」


 僕としても、ティーがレヴィンたちと仲良くなってくれるなら、喜んで協力をしよう。

 でも、やりすぎないでね?



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