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幼少期3:まだ見ぬ数センチ先の『未来』と双子の兄のとある『イベント』


「やあ、ティーリア嬢。久しぶり」

「ええ、お久しぶりです。イアン様」


 にこにこと笑みを浮かべる彼ーーイアンに、こっちも笑みを浮かべて対応する。

 彼が我が家に来るのは、婚約者候補同士になってから一度来たぐらいで、それ以降となるわけだから、本当に久々だ。

 まあ、彼にも私以外の婚約者候補が居るかもしれないから、そちらに行ったりもしていたんだろうけど。


「それで、彼は……?」

「こちらはクロウ・ラインベルグ様です。イアン様と同じ、私の婚約者候補のお一人です」


 イアンがクロウに目を向けたので、彼を紹介すれば、クロウはクロウで軽く会釈する。


「クロウ・ラインベルグです」

「イアン・アークライトと言います。よろしく」


 笑顔で握手をする二人。


「それにしても、間が悪かったみたいだね」

「いえ、大丈夫ですよ。お客様が一人、増えただけですから」


 現にメイドたちがイアンの分を用意している。


「彼とは、いつ会ったの?」

「イアン様とお会いした数日後に、クロウ様とはお会いしました」


 だって事実だし、嘘は言っていない。


「そうなんだ」


 そう言った後、じっとこちらを見てくる。


「それにしても、随分楽しそうに話していたみたいだけど、どんな話をしていたの?」

「これからのことですね。学校のこととか、これから出来る友人のこととか」


 本当はゲームのことを話してたけど、言えるわけもないので、それらしいことを言ってみる。内容的には間違ってない気もしなくはないが。


「ああ、なるほど。僕も来年から通うことにはなっているけど……勉強とか、いろいろと不安かな」


 この国の教育方針として、七歳から小学校に該当する学院の初等部に入学することになっている(まあ、ゲーム制作者が制作者だから、七歳からなのだろうが)。

 現在六歳であるイアンを含むアークライト家では、学院への入学準備がされ始めている頃だろう。

 我が家の場合、アール兄様とサム姉様の二人がもうすでに通っているため、私たち二人に対しては慌てることはないとは思うが……さて、どうなることやら。


「まあ、後で君たちも来るというのなら、楽しみでもあるけどね」

「楽しみ、ね」


 それまで、ずっと黙っていたクロウが口を開いた。


「では、入学後。頼りにさせてもらいますよ、先輩」

「ああ、楽しみにさせてもらうよ。後輩」


 にやりと笑みを浮かべる男二人に、私は肩を竦め、紅茶に口を付ける。

 そのまま良き友人関係を築いてくれよ、お二人さん。私としても、その方がありがたいからね。


   ☆★☆   


「うへへ~」

「……」


 二人が帰った後、部屋に向かってみれば、セイロンがだらしない顔(その表現以外だと思いつかないし、表現しにくい)をしていた。

 どうやら、私がクロウたちとお茶会もどきをしている間に、セイロンはセイロンで(お父様を介して)婚約者候補と会っていたらしい。

 その子が美少女だったのかは分からないけど、セイロンが気に入ったのは分かる。分かるんだけどさ……


「セイ。その笑い方、気持ち悪いから止めて」

「え~?」


 かなり本気で声を掛けたんだけど、にやけ顔を()める様子は無い。

 こうなると、放っておくしかない。私の中のティーリアが訴えてくる。たった五年と言えど、その経験は馬鹿には出来ない。


「ねぇ、ティー。僕のこんやくしゃこーほさんね。良い子だよ。可愛くて、優しいんだよ」

「そっか。セイが気に入ったなら良かったよ」

「うん。今度、ティーにも紹介するね」

「今度、ね」


 それにしても、紹介、か。私もセイロンにはイアンとクロウを紹介したが、途中から私たちの会話に飽きたのか、クッキーを食べることや紅茶を飲むのに集中し始めたために、それを見ていた二人は困惑していたようだった。

 やっぱり、『トラウマイベント』が必要なのかな。私個人としては、痛い目に遭いたくないんだけどなぁ。





 『セイロンルート』での『トラウマイベント』。

 双子の妹であるティーリアとともに“ある事件”に巻き込まれ、さらには(肉体的・精神的どちらかの)傷を負わせたことで、兄であるのに妹を守れず、次はこんなことを起こさせないために、と変わることを決意する。

 ただ、妹であるティーリアの負う“傷”は、セイロンの回想とはいえ、ゲームでの選択肢で変化するものであるため、(過去編に該当するであろう)現時点では不明である。


 なお、ティーリアの負う“傷”が『肉体的』の場合ーー事件の犯人が持つ刃により傷つけられ、身体に傷が残る。

 その傷がいくら服で隠せる位置にあるとはいえ、女の子にそんな傷を負わせたことを気にするのだが、セイロンは自分が何かと側に居てくれたヒロインを好きだと気づいた後、彼女の協力もあって、「このぐらい大丈夫って言ったのに、セイは本当に気にしすぎなんだよ」という台詞を引き出せれば、後はルートエンドを迎えるのみである。

 ティーリアが負う“傷”が『精神的』の場合ーー(ティーリアが)犯人から認識阻害など状態異常を引き起こす魔法を受け、家族や友人たちから存在認識の有無を繰り返されることになる。

 居るのか居ないのか分からない、妹を幽霊みたいな存在にしてしまったことにセイロンは罪悪感を持っており、事情を知ったヒロインの協力もあって、認識できるティーリアから「完全に消えたりしている訳じゃないし、もう大丈夫だから気にしないで」という台詞を引き出せれば、後はルートエンドを迎えるのみである。


 つまり、結論から言うとーー『セイロンルート』のキーパーソンは、双子の妹である『ティーリア』という存在だということだ。



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