学院・初等部編 前編5:集いし『同室者』と混沌とせし『室内』(クロウ視点)
今回はクロウ視点。
「……」
もう、俺はこの部屋から出ていっても許されるはずだと、俺は思うのだが――……
「……」
にこにこと笑みを浮かべて会話をするイアンとセイロンに、顔が引きつるのが止められない俺。そして、どこかイライラした様子を隠しきれていないエルヴィン。まさにカオス。
というのも、ティーリアの冗談混じりな発言が事実となってしまった男子寮では、不在の部屋長代理とばかりに、一つ上のイアンの発言もあり、先に自己紹介を済ませておくことになったのだが、この面々で初対面なのはイアンとエルヴィンのみなので、二人が挨拶するだけで終わってしまった。
ただ、そこまでは良かったのだ。
「そういえば、みんなクラスはどうなったの?」
「ああ、みんな一緒だよ。ティーとルリエも一緒」
何気ないイアンの問いに、セイロンがそう返す。もちろん、そこに何らかの意図があったわけではないとは思う。
「そっか。みんな一緒か」
何が楽しいのか、ふふ、と微笑むイアンに、何となく「あいつ、ヤバいのに好かれたな」とティーリアに対して思いつつ、俺も「こっちに来る前に、イアン様も部屋で一緒だったら、ってリアたちと話をしていたんですが、事実になりましたねー」と会話に加われば、「そうなの?」と返される。
「そうなんですよ。本人は冗談のつもりだったみたいですが、実際に……」
「なっちゃってるよねぇ」
もう、何かの陰謀だと思いたい。
神様。何で、攻略対象(下級生組)を固めたの。
ティーリアだったら、この状況をどうしたのだろうか? この事を知ったら、遠い目をするんだろうな。きっと。
「まあ、挨拶は明日になれば出来るから、それまではのんびりといこうか」
「明日……?」
セイロンが不思議そうに首を傾げるが、明日何があるのか忘れたのか、こいつは。
「新入生歓迎会だよ。先生が説明してただろうが」
セイロンにそう説明するが、正直、初等部の新入生歓迎会って、何をするのかは分からない。
ただこれ、全学年の参加予定者はエスコート役がいらないことにはなっているのだが、双方で納得している場合のみは認められるんだとか。
ちなみに、兄姉が先に入学していた場合は、顔合わせも兼ねて上の者と一緒に行動するんだとか。攻略対象三人に囲まれるとか、あいつ大丈夫か。
「まあ、ぶっちゃけ子供用の社交界みたいなものだからね。下手に対応すると、目を付けられるよ。中には下の者には何しても良いって思ってる奴らもいるから」
「……ふーん」
「……」
イアン、それは笑顔で言うことじゃないし、セイロンはセイロンでエルヴィンに目を向けるし、エルヴィンはエルヴィンで無言で視線を返している。
「まあ、いざとなればティーが言い返してくれるよ」
「妹任せなのは、兄としてどうなんだ?」
ティーリアが苦労する様子しか見えないぞ。
「え、だって、アール兄様やサム姉様だって居るし、僕まで気を張る必要は無いでしょ?」
ティーリアたちが苦労するのが決定した瞬間だった。
「気にしすぎも、しなさすぎも良くないとは思うけど、まあ、新しい友達を作るつもりでいれば良いんじゃないかな?」
「……リアの忠告を覚えていらっしゃいますか? イアン様」
お前も一緒に言われたはずだぞ。ティーリアが居ないときに、セイロンが惚気たら、居合わせたどちらかがどうにかするのだと。
たとえ、話や考えが飛躍していると言われるかもしれなくても、その可能性があるだけに否定できないのが辛い。
「もちろん。覚えてるよ」
「……何の話だ」
話を知らないらしいエルヴィンが聞いてくるが、本人の目の前で説明する勇気はない。
「後で説明する」
納得出来なさそうな顔をされても困るんだが、こればかりは仕方がない。
「それにしても、部屋長の人、遅いね」
「あー……、多分どこかで捕まってるんじゃないかな?」
セイロンの言葉にイアンが返すが、確かに少しばかり遅い気がする。
部屋の時計で時間を確認するが、下手すると夕食を食べ損ねそうだ。学院に来て、最初の食事なのに。
「僕たちだけで、先に食堂に行ったら駄目かな?」
待てども待てども来ないから、どうしたものかと窓の外に目を向ける。外はというと、暗くなり始めてました。
「あと五分だけ待って、それでも来ないようなら、僕たちだけで食堂に行こうか」
運が良いと言えば良いのか、この部屋の最上級生である部屋長はいないが、一応先輩であるイアンは居るので、食堂まで迷うこともなければ、利用方法が分からず、おろおろすることも無いはずだ。
その後、結局いつまで経っても部屋長が来ることはなく、俺たちはイアンの案内の元、食堂へ向かうこととなり、その利用方法も教えられることとなるのだが――……
「ちょっ、ほら部屋に戻――って、マリベル。そっちは職員寮だから行かない! ああ、そっちは中庭!」
途中で見かけたティーリア(たち)を見て、あいつは部屋でも苦労するのかと思わずにはいられず、そっと手を合わせておいた。
向こうはこっちに気づいてはいないみたいだったが、セイロンに「声を掛けに行かないのか?」と尋ねれば、「今行くと睨まれそうだから止めとく」と返された。
多分、それで正解だろうから、俺も声を掛けるのは止めておくことにした。俺も睨まれたくはない。




