幼少期2:『名前』の法則と『二人目』の婚約者候補
イアン様たちが帰り、夕食後に私は覚えている限りのゲームの内容を書き出した。
「なにしてるの? ティー」
髪も目も同じ色彩を持つ、双子の兄であるセイロンが聞いてくる。
振り返れば、髪型を左のサイドハーフアップにしてリボンで纏めている私とは違い、幼少時の男の子らしい髪型のセイロンが首を傾げていた。
まだ幼いが故に同じ部屋で寝たりしているためか、机や寝具など、それぞれに必要なものはちゃんと二つずつ室内に存在している。
そんな私とセイロンだが、双子でありながらも好きなことが違う。
私は本を読むのは好きだが、物語を考えるのも好きで、絵を描くのも好きだ。世が世ならそういう職に就いていたかもしれない。
一方で、セイロンはというと、本は読むといえば読むけど、どちらかというと図鑑系を好んでいる。昆虫とか乗り物とかの。やっぱり、そういう面では男の子である。
「んーとね、ひみつー」
子供っぽく言って、笑顔を浮かべれば、釣られたようにセイロンが笑みを浮かべる。
……うーん。セイロンはティーリアの兄であるはずなのに、何でか分からないけど弟にしか見えない。前世の記憶が戻る、ティーリアとしての記憶を思い出してみても、だ。
「まさか、所々で記憶の中のティーリアがしっかりしてる理由って……」
「?」
思わずセイロンを見てみたが、「何のこと?」と不思議そうに、こちらを見つめてくる。
……まあ確かに、片割れがこれでは、いやでもしっかりするわなぁ。
「そういえばさ。ティーは今日、『こんやくしゃこーほ』って人に、会ったんだよね?」
「うん。優しい人だったよ」
前世の記憶が戻ったり、イアンと悪そうな笑みを浮かべたりしていたけど、優しいのは間違いないと思う。
「そっかぁ」
ふふ、とセイロンが笑みを浮かべる。
「次はセイの番だね」
もうすでに、兄であるアールグレイ(アール兄様)と姉であるアッサム(サム姉様)には婚約者候補は居るが、セイロン(声に出すときは『セイ』と呼んでいる)はまだだ。それに、まだ来ていない二人のこともある。
「でもさぁ、ティーと一緒にいられなくなるんだよね?」
「いつのこと、話してるの。それは大きくなってからでしょ?」
「そうなの?」
「そうだよ」
ノートに纏めるのを止めて、不安そうなセイロンの頭を撫でる。
「セイは、私のおにーちゃんなんだから、だいじょーぶだよ」
「ティーがそう言うなら……」
これでも、未来ではしっかりしていたんだから、大丈夫なはずだ。
☆★☆
我がダーゼリア家の面々には、ある法則性がある。
その法則性というのが、『名前』である。
制作者の意図なのかは分からないけど、家族の名前には紅茶の種類が使われている(らしい)。
家名である『ダーゼリア』は『ダージリン』から、アール兄様はそのまま『アールグレイ』、サム姉様は『アッサム』、といった具合に。セイロンについては……分からん。だって私、紅茶の種類にそこまで詳しくはないし。
ちなみに、私の場合は『ティー』です。そのまんま。
「にしても、そうか。義弟と義妹はまだ来てないのか」
自身の名前の愚痴を口にしていたら、話を聞いていたのか、いなかったのか。くっくっと笑われた。
今、目の前に居る人物ことクロウ・ラインベルグは、イアンたちが来た数日後に紹介された、私の婚約者候補である。
二人も? とも思ったのだが、三人居るのは普通だと言われてしまった。今は子供だから良いと思うんだけど、下手したら三股掛けてるみたいじゃない?
ちなみに、彼ーークロウは私と同い年(五歳)でありながら、同じ転生者でもあり、現段階で唯一前世の話が出来る存在でもある。しかも、どうやらギャルゲー側のプレイ経験もあるみたいで、二人して作戦会議することもあるほどだ。
まあーーそんな彼が、今日は我が家に来ているわけで。
「まあ、来るとしたら、来年でしょ」
メイドたちが出してくれたクッキーを摘み、淹れてくれた紅茶も口にする。
ゲームでの回想シーンから察するに、義弟や義妹が来るのは、あと数ヶ月後といったところだろうか。
「なぁ、羽鳥」
「何かな。出水君」
私を前世の名前ーー皆神羽鳥という。ふと思い出したーーで呼んできた彼に、彼の前世の名前ーー出水千歳というーーで呼び返す。
「良い奴だといいな。主人公たちも、攻略対象者たちも、それ以外の奴らも」
「そうだね」
きっと、側にいるメイドたちには、私たちが話している内容のほとんどは分からないだろう。
けれど、会話が途切れたと判断したのだろう。メイドが声を掛けてくる。
「お嬢様。アークライト家のイアン様がいらっしゃいましたが、こちらにお通ししてもよろしいでしょうか?」
「えーー」
固まる私に、どうするんだと言いたげに、クロウが目を向けてくるが……他人事じゃないんだから、ニヤニヤしないでほしい。
さあて、どうしようか。来てもらっている以上、帰すわけにはいかない。
「良いよ、通して。クロウ様もご自身以外の、私の婚約者候補の方に会ってみませんか?」
「え」
一人で逃げようとしても無駄。絶対に逃がさないからな、と込めた目を向ければ、クロウは顔を引きつらせる。
「ーー幼少時の攻略対象に」
そう小さく呟いた私に、クロウの目が見開かれるのと同時に、イアンはこの場に姿を見せた。




