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プロローグ/幼少期1:思い出したのはーー『転生』と『ゲーム』と『婚約者候補』


 はて、どこかで見たような気がする。


 お父様たちに呼ばれ、応接間に行ってみたら、お父様と同い年ぐらいの男性と私と同い年ぐらいの少年が、そこには居た。

 応接間に入ってきて早々、不思議そうに首を傾げる私に、お父様は言った。


「今日からお前と彼は、婚約者候補の関係となる。仲良くするんだよ。ティーリア」


 ーー婚約者ではなく、婚約者候補(・・)


 それと同時に理解した。私は転生したのか、と。

 どうやら、私はいつの間にか元の世界で死んでいたらしく、運が良いのか悪いのか。呼ばれた名前に今蘇った前世の記憶と婚約者候補(・・・・・)となった彼の顔で、状況はある程度、把握できた。


 ここ、乙女ゲームの世界じゃないですかーー!


 そんな叫びを内心で押し(とど)め、顔も引きつらせるだけに(とど)めた私を誰か褒めてほしい。

 ……あ、いや、駄目だ。ちゃんと内容は覚えてるけど、残念なことにゲームのタイトルは忘れてる。

 ただ、このゲーム、実はギャルゲー版もあって、面倒なことに私の家族は乙女ゲームとギャルゲーどちらにも出てる。というのもーー


「ティーリア・ダーゼリアと申します。これから、よろしくお願いしますね」


 にっこりと笑みを浮かべて、挨拶をする。


 金茶色の髪と、光の加減では紅茶色にも見える茶色い眼を持つ貴族令嬢、ティーリア・ダーゼリア。

 それが今世での名前であり、(両ゲームで)与えられた私の『立場』は、ゲームに出てくる『攻略対象の家族の一人』というもの(なお、ギャルゲーでは一つ追加して、『隠しキャラ』だった……はず)。

 ちなみに、攻略対象たちの家族だから美形や美女、美少女だと思うだろうが……残念。何が起こったのか、私だけ普通(モブ)顔だよ。どうやら容姿の良さは、ほとんど双子の兄に持って行かれたらしい。私にも少しだけ残しておいてほしかったよ、我が兄よ。双子なのに似てないとか悲しいじゃないか。

 さて、そんな我が家の家族構成としては、父と母、兄と姉に(私と)双子の兄、義弟と義妹という大家族っぷりだ。ただ、義弟と義妹に関しては養子で、二人とも攻略対象である。


 ちなみに、これは偶然だが、夜中に起きた際、両親が養子云々を話していたのを聞いた。

 さて、ここで問題になるのが、その『養子』なのだがーー我が家の養子になるのは、乙女ゲームだと義弟、ギャルゲーだと義妹になるのである。どちらかであれば、どちらのゲームに沿って進むのかは分かるのだが、二人となるとなぁ……。

 つか、何で兄という立派な跡継ぎが居るのに、二人も養子なんて取るつもりでいるんだ、両親よ。

 あれか、『世界の強制力』って奴か。どちらかだけだと不公平だとか、世界のバランスがぁ、とか判断したのか。世界や神様って奴は……っ!


 ……まあ、文句や内容云々に関しては後回しにするとしても、だ。『ティーリア()』と『彼』が婚約者候補同士になるとかーー否、婚約者候補同士にする(・・)とか、我が父(たち)は何を考えているんだ。

 そもそも、『彼』ーーイアン・アークライトは、ゲーム通りであれば、イケメンにはなるのだが、タイプの違う、それはもう様々な女性と居ることが多く、女好きと噂されるレベルの如何(いか)にも軽そうな男へと変貌する。

 幼い時から数人の婚約者候補たちの相手をしていたために、女性の扱いには慣れたフェミニストではあるのだが、彼自身は自分の見た目や地位にしか目がない女性たちに辟易しており、自分に靡かないヒロインと出会ったことで、興味を持って近付いているうちに彼女に惹かれていく。そしてヒロインも、次第に変わってきた彼にーーというのが、彼の大まかなルートである。


 さて、今の状況としては、私がちょっと現実逃避している間に、「後は若い人たちだけで~」と親たちが応接間を出て行ったため、強制的に二人っきりにされたのだが、どうしたものか。

 そして、先程から彼は、じっとこちらを見ている。それはもう、身体に穴が空くんじゃないかっていうぐらいに。


「……あの、何か」

「いや、君みたいな反応をされたのは初めてでさ」


 あ、そういうこと。

 なら、少しばかり顔を赤らめたりした方が良かったのか? 今更だけど。


「そうですか」


 一度、目を逸らし、再び目を向けてみれば、にっこりと微笑まれた。


「……アークライト様は」

「イアンで良いよ」


 あえて家名で呼んだっていうのに、名前で呼ぶように言われた。


「……では、イアン様。先程の発言から察するに、貴方には私の他にも婚約者候補がいらっしゃるように聞こえたんですが」

「呼び捨てで構わないんだけど?」

「イアン様」


 お前のことは、何があっても呼び捨てでは呼ばねーよ? という意味も込めて、笑みを浮かべる。

 さっさと話せ。


「うん。まあ、そうだね。確かに、僕には君の他にも婚約者候補は居る。けどさーー気のない振りをしながら、もう独占欲が働いた?」

「まさか。私以外に婚約者候補が居てくれたようで、ありがたいだけです。あと、私には両親のような独占欲はありません。貴方が他の方を選ぶというのなら、『どうぞ受け取ってください』と言って、差し上げる自信があります」


 そして、その相手がヒロインであることを願う。


「……言ってくれるね」


 目を細められる。


「五歳児らしくないね、君は」

「そのまま、お返ししますよ。その台詞」


 互いに、ふふふ、と笑みを浮かべる。

 彼の指摘通り、私としても五歳児がこんなに口が回るとは思えないが、べらべらと話してしまったのだから仕方がない。

 まあ、指摘してきた彼も六歳児らしくないのだから、お相子(あいこ)ってことにしてほしい。


 ゲーム開始まであと十一年。

 主人公(ヒロイン)や悪役令嬢、攻略対象にサポートキャラというわけでもないけれど、攻略対象である家族を守るためなら、少しだけ頑張ってみようか。

 悪い方へと転ばないようにしつつ、婚約破棄の心配が無いとはいえ、彼とは適宜な距離を取りつつ、良い関係を築いてみても面白いかもしれない。

 ただーー転生ヒロインからの攻撃や嫌がらせは嫌だから、最低限自分の身を守れるぐらいの力量は身に付けておきたい。

 あ、この世界には魔法も存在しているようだから、使えるようなら使ってみたい。

 まだまだ人生は長いけど、せめて前世よりは長く生きたいから。


「婚約者にはなれなくても、良き友人にはなりましょうね。イアン様」


 ーーまずは、家族以外の味方から作ろう。



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