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レスラー

 岩城、加賀谷ペア、椎茸、マミペアは初期配置位置が近かった為、早期に合流を果たしていた。

 彼らの目に映るダウンタウンをイメージして作られた街並みは、至る場所にスプレー缶で落書きがされており、その無秩序でありながらも優れた画家には到底描けない自由な絵は、ある意味で芸術的にも思える。

 そんな無名の芸術家たちが描いたアートに、潰れた頭がペンキのような赤い血をぶちまけ、スプラッターなアクセントを加えていた。

 岩城らは市街地に入ったのはいいものの、周囲を大量のゾンビに囲まれており窮地に陥っていた。

 四人は街中につくられたバケットコート内に避難したが、亡者の群れがコートをぐるりと囲む鉄アミを押し倒そうとガシャガシャと音を鳴らす。

 次々に数を増すゾンビたちは大量の観客の如く周囲を埋め尽くし、大きく揺れる鉄アミは今にも打ち破られそうだった。


「椎茸さん、ゾンビ、ゾンビィ! 恐いわ! 助けて!」

「ま、マミさん、そんなにしがみつかれると照準エイムが乱れるでふ」

「いやあああ、ああああああ! うおあああああああっ!!」

「離してほしいででででふふふふ」

「おあああああああっ! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!! パニック! パニック!!」


 獣の雄たけびのような絶叫を上げるマミは、拳銃を構える椎茸をガクガクと振るう。当然そんな状態では照準が乱れ、まともに命中しないまま弾切れを起こしてしまった。

 しかし集まったゾンビの数を考えると二、三匹倒したところで意味合いは薄い。


「ま、まずいでふ。岩城君!」


 岩城の方も拳銃を空撃ちしており、弾切れを起こしているのが見て取れた。


「無念。しかし加賀谷氏は絶対に守り通して見せる!」

「岩城さん……」


 勇ましく前に出た岩城を見て、うっとりとした表情を浮かべる加賀谷。

 直後コートの鉄アミが破れ、その穴からゾンビたちが雪崩込んでくる。

 ゾンビの包囲網が狭まり、青白い手がマミの腕を掴んで無理やり群れの中へと引きずりさっていく。


「いやあああああ! 助けて椎茸さん! 椎茸さーーーん!! パニック! パニック!!」

「マミさーーーん!! 彼女はもうダメでふ。彼女の死体にゾンビが群がってる間にここから逃げ出すでふ!」

「椎茸君、見切り早くない? っていうか、今わざとマミ氏を突き飛ばさなかった?」

「人聞きの悪いことを言うのはやめるでふ! マミさんはぼくたちの為に尊い犠牲になったんでふ! 彼女の想いを無駄にしちゃいけないでふ!」


 椎茸はマミが飲み込まれたことによってできた包囲網の穴から脱出しようとするが、その瞬間ゾンビが吹き飛ばされ、椎茸のすぐ隣をかすめていく。


「えっ?」

「フン! フン!」


 一体何が起きたのかと思い、マミが連れ去られた方を見ると、彼女はゾンビに囲まれながらも一体一体の足を掴んで、次々に華麗な投げ技を決めていく。

 姿勢を低くし、相手に掴まれない態勢を維持しながら背後に素早く回り込み、腰を掴んで背面にぶん投げコートに頭を突き刺していく。


「バ、バックドロップ、いやジャーマンかな……?」

「彼女サポートバッグから格闘武器がでてきたらしいでふが、まさかレスリング技と融合するとはでふ……」

「フン! ハッ!」

「凄い……次々にゾンビたちが地面に……」

「今のうちに逃げるでふ!」

「でも、今ならまだ助け」

「いーや無理でふ、絶対無理無理! ぼくらには無理でふダメダメ全然ダメ。全滅するだけ、早く逃げるでふ」

「めっちゃ否定するでゴザルな……」


 マミが活躍している間に、椎茸たちが包囲網を脱出しようと試みるが、今度は岩城がゾンビに服を引っ張られ群れの中へと引きずり込まれていく。


「ゴ、ゴザル~!!」

「岩城さん!?」

「拙者のことはいいでゴザル! 早く椎茸君たちと一緒に逃げるでゴザル!」

「そんなできません! 岩城さんを離して!」


 加賀谷はゾンビの群れに引きずり込まれた岩城を助けようと、必死に腕を引っ張る。だが、彼の体はびくともせず、逆に加賀谷の体にゾンビの手が伸びるのだった。

 椎茸はその光景を見て「あっ、映画でよくある二人とも助からん奴や」と察した。


「離して! 岩城さんを離して!」


 加賀谷は懸命に引っ張ったが、ゾンビの力は強く全く助けることができない。


「加賀谷氏、行くでゴザル!」

「ダメ! そんなことできません。離して、離……離せって言ってんだろコラッ!!」


 プチっときてしまったのか、加賀谷はその手に武骨なハンマーを持つと、次々に周囲のゾンビの頭をカチわっていく。


「なめてんじゃねぇぞ、ゴミが! オラッ、オラッ、オラァ!(野太い声)」


 豹変した加賀谷は勇ましい声をあげ、岩城を取り囲むゾンビを片っ端から殲滅していく。身動きできない岩城に脳漿が次々に浴びせられ、彼の眼鏡は血肉まみれになっていた。

 数分後、加賀谷とマミの活躍で包囲していたゾンビは全て頭をかち割られたか、地面に突き刺さるかのどちらかになっていたのだった。


「手こずらせやがって、このゴミカスが(野太い声)」

「…………」


 岩城は血まみれの加賀谷を見て戦慄していたが、彼は振り返ると岩城にひしっと抱き付いた。


「恐かったです岩城さん」

「お、おう」


 野太い声から急に乙女声に戻った加賀谷に、岩城は震え声で返した。

 椎茸の方も、凄まじい殲滅力を見せたマミに笑顔で近づく。


「いやぁマミさん、凄い活躍でふね。ぼくもうダメだと思ってたでふが、無事でよか――」


 言いかけた椎茸の背後にマミはさっと移動すると、彼の腰に手を回した。


「椎茸さん、あなたわたしを囮にしましたね?」

「えっ……な、なんのことでふか? ぼ、ぼくそんな気は全く……」

「わたしを突き飛ばしたでしょう?」

「あ、あれは事故――」


 白を切ろうとした椎茸は既に宙を舞っていた。彼の体はゾンビと同じく背面に放り投げられ、頭から地面に突き刺さったのだった。


「椎茸さん、信じてたのに……」


 マミは泣きながら走り去っていった。


「まぁ、今のは椎茸君が悪いでゴザルな……」


 残された岩城と加賀谷は、椎茸を無理やり地面から引っこ抜くのだった。

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