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グッドゲームクリエーター~VRゲームとらぶる開発記~  作者: ありんす
1stG グッドゲームクリエーター編
7/82

元彼

 今度は麒麟が絶叫する。


「し、失礼しました」


 一斉に注目を浴び、恥ずかし気に顔を伏せるが即座に麒麟は遼太郎に顔を寄せる。


「ほ、ほんとですかそれ?」

「ええ、ですが大学一年までの話なので。いやー僕がゲームばっかりやってるもんで愛想つかされまして」

「そ、そうなんですか……」


 いやーお恥ずかしいと頭をかく遼太郎を麒麟は信じられないと瞼をしばたたかせる。


「麒麟、第三の報告をしなさい」

「す、すみません」


 社長に促され、麒麟は慌てて報告を行う。


「第三は現在低調にあるVRオンラインアクション、メタルビーストの運営システムを完全に見直し、中間パッチを連続でリリースする体系に変更、現在第一弾のパッチリリースに向けて開発中です。第四開発の方から人材を多数お借りしています」

「だ、第四開発は第二と第三が使用するツール作成を行っております。何分第三の方に人材がいっておりまして、お渡しできるのに遅れが生じるかと思われます、はい」


 山田はこの場に慣れないのか汗だくで、ずっとハンカチで額をふいている。

 確かにピリッとした空気が漂い、無駄口でも叩けば銃殺されるんじゃないかと思われる空気は遼太郎も苦手であった。

 社長が資料を見直すと麒麟に視線を向ける。


「第四からの応援に、補正予算の計上、中間パッチの連続リリース……大分開発費が膨らんでいるが、逆にユーザーは減少している。本当にこれで利益が上がるのか?」

「はい、現在は委託会社の失態をこちらでカバーすることになっています。その為第一パッチがリリースするまでユーザーの流出は避けられない状況にあります。しかしパッチで大幅なバランス調整を行いますのでこれから3か月から半年をめどに回復方向に繋げられると思います」

「あら、麒麟良かったじゃん。先月まであの眼鏡イケメンと一緒にそこでガタガタ震えてるだけだったのに」


 第二のリーダー桃火が茶化す。


「うるさいわねピーチ姫」

「誰がピーチ姫よ!」

「二人ともわきまえよ」


 社長の低い声で二人は黙り込む。


「ワシから人事のことで一つある。第三の迫田が異動届をだしておる。迫田は第三のメインだった人間だろう、奴を抜きに今どうやって回している」

「それは第四からプランナーをお借りしています」

「そちか?」


 遼太郎はガタッと立ち上がり頭を下げる。


「第四開発、現在は第三でお世話になっています平山遼太郎です!」


 開発室のトップは桃火と山田を除き全員顔を見合わせ、一様に誰? と首を傾げる。


「ワシも知らんな」

「彼がたてた運営プランにのっとって現在第三は開発を行っています」

「その説明は矢島から受けた。確かに第三が考えそうなプランではなかったな」

「はい、メタルビーストを復活させるには大きな変革が必要だと思い、私も賛同しました」

「ふむ……お前のことはあまり心配はしておらんが、大丈夫か徹夜とかしてるんじゃないだろうな。お肌に悪いぞ」

「だ、大丈夫です」

「その可愛いお目めにクマなんぞつくったらワシ許さんからな」


 遼太郎はあれあれ~、この社長ちょっとアレなのかな? と思い始めてきた。


「お前はまだ若い、開発なんぞクソ共に任せてお前はちゃんと家で休みなさい」

「パパ!」

「パパ?」


 そう言えば、第一、第二、それに社長全員苗字が真田だと気づく。


「とにかく第三はこのまま開発を進めます」

「しばらくは見守ろう。しかし麒麟よ、損切のラインは見定めなさい。手遅れになってからでは遅い。お前は優しい子だからな」


 社長は完全に公私混同しながらフハハハハと悪役みたいな笑い方をする。

 遼太郎は大丈夫かこの社長と不安になる。


「ワシからは特にない。解散して構わんがリーダーのみ残れ」


 言われて遼太郎と雪奈は会議室を後にする。残された真田三姉妹と、山田は社長に視線を向ける。


「先ほど言った迫田の話だ。どの部署か引き取るところはないか?」


 社長は振るがどこも表情は良くない。


「ゲームがやばくなって逃げたんでしょ、そんな無責任な奴いらないわよ」

「玲音お前は?」

「丁度お茶くみが欲しかったです。いちいちウチの人間をコンビニまで走らせるのは嫌でしたので」


 玲音はクククと先ほどの社長の笑いなど比にならないほど悪い笑みを浮かべる。

 社長は、うん第一はないなと確信する。


「届を認めず第三に残留させるということもできるが?」

「彼にもう一度ゲームを作る意識があるのなら戻しても構いませんが、恐らく彼がこだわっているのはゲーム作りではなくメインプランナーというポジションでしょう」

「いきなりぽっと出の新人に居場所かっさらわれちゃって立つ瀬がないって感じ。いいじゃん退職させてあげたら? 多分異動認めなかったら辞めるでしょ」

「そういうわけにもいかん。彼は取引先銀行の息子だ。向こうは既にこちらで出世し、お前らの誰かと結婚すると思っておる」

「なにそれあの年で既に天下り? 正確にはコネか。そんなのあたしたち知らないわよ。というかあいつ麒麟の男でしょ? 自分でなんとかしなさいよ」

「違います、ただの同僚です」

「向こうはそうは思ってないんでしょ?」

「知らないわよ。メタルビーストの開発で企画の基盤を作った人が辞めちゃって、その後釜に入って来た人が迫田さんで、そこからマスターまでの間に何回か食事しただけよ」

「なにそれ、じゃあぶっちゃけあの迫田って奴なんもしてないんじゃない」

「それは……その、そう……なる、かな」

「じゃあ第四は? 今人とられて困ってるんでしょ?」

「そうなんですが、我々のところはツール開発や、素材作成がメインですので正直企画オンリーの方ですと……」


 山田は汗を拭きながら、なんとか言葉を濁す。


「プログラム打てない奴なんかもってこられても邪魔ってわけね」

「その、そういうわけではないのですが……」

「桃火よ、なんとかお前の第二で面倒を見れぬか?」

「結局そうなるのよねぇ。まぁ姉さんとこに送り込むよりかは人道的な扱いはするわ」


 桃火はわれ関せずを貫く玲音あねを半眼で見据える。



 会議が終わり、桃火は外で待っていた雪奈と合流する。


「なんかウチで不良債権ひきとることになったから」

「君は言い方に手心というものが全くないな」


 二人はエレベーターに乗り込む。

 最上階に上がってくる人間は誰もおらずエレベーターは二人きりだった。


「それで彼どうなんだい?」

「銀行頭取のエリート息子よ。父さんが懇意にしてるから多分玲音姉さんのチェックすり抜けて入って来たのね。新入社員は姉さんがチェックしてるし」

「そうじゃなくて。君の平山遼太郎モトカレだよ」

「あ~あいつ? あいつはまぁただのバカよ。有害な人間じゃないわ」

「野草じゃないんだから、どういう表現の仕方なんだ」

「良い奴よ、真面目だし」

「そこがつまらなかったのかい?」

「えらく食い下がるわね」

「君の恋話なんて聞いたことがないからね」

「まぁ有体に言えば振ったのよ。結構こっぴどく」

「そりゃ穏やかじゃないね」

「あたしもあいつも夢がゲーム作りだから、高校上がったら同じ大学行ってゲーム屋目指そうって言ってたんだけど、あたしは玲音姉さんから声かかってさ。大学一年の時にさくっとここはいっちゃったのよ。迫田のこと言えない、あたしも100%コネよ」

「そりゃ君の父上の会社だからね。馬鹿正直に勉強してライバル企業に入る理由もないだろう」

「そりゃそうなんだけどさ。それで心構えないまま会社に入ったからもう必死で、あいつのことなんか構ってる余裕なんかなかったの。そんであるときあたしの誕生日にさマスター直前だったんだけど、これ以上無視しまくるの可哀想だなと思って頑張って時間あけていったのよ。そしたらあいつ待ち合わせ場所に来なくて、後日ブチギレちゃったの」

「君怒ると容赦ないからね」

「それは理解してるわ。今まで散々待ちぼうけさせたりすっぽかしたりしたくせに、こっちが一回すっぽかされたくらいでブチギレだもん、あたしが男なら嫌になるわ。そんでブチギレついでに振ったの、こっぴどく」

「うわぁ……」

「初めて男の人が泣くとこ見た。あれは今でも心に刺さってるわ」


 桃火は嫌な事思い出したと頭をかく。

 エレベーターがポーンと軽い音を立てて扉を開く。

 すると突然怒号が飛んできた。


「オイ平山このアップデート直前になってイベント一つ追加したいだと! 寝ぼけてんのかテメーは!」

「いや、いきなりこのアイテム渡されても意味わかんないじゃないですか! ここにチュートリアルを兼ねたイベント戦闘入れましょうって、絶対その方が熱いですって!」

「はぁ!!? バカかオメーは熱い熱くないでゲーム作ってんじゃねーんだよ!」

「うひぃ、また矢島殿と平山氏のバトルが始まったでゴザルぅ!」

「関係ない、関係ないでふ」

「いきなりそんなこと言ったところでイベントセクションがキレるだけだろうが!」

「それをなんとかしてでも入れましょうよ! 絶対その方が面白いですって! ねぇ椎茸さん!」

「あぁん!?  オメーはどっちなんだ椎茸ぇぇ!」

「ヒィっ、こっちに飛び火したでふ!?」


 桃火は額を押さえた。


「あんのバカ……」

「第三一気に騒がしくなったよね」


 雪奈はニヤッと笑みを浮かべる。


「なに、どしたの?」

「ね、第三のゲームやりに行かない?」

「はぁ?」

「いいでしょ、何作ってるかボクも見てみたいな」

「あんたも物好きね」


 はぁっと桃火は一つため息をついて小さく頷いた。

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