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長女

 この話は今より数カ月前のことになる。

 グッドゲームズカンパニー社長、真田鉄也は憤っていた。


 休日を自宅で過ごしていた時の話だ。

 長女玲音、次女桃火、三女麒麟と子供は全て娘で女家庭であったが玲音は業務の多忙さからあまり家に帰らず、桃火は一人暮らしを始めている為、家にいるのは二年前に海外から帰国した麒麟だけだった。

 その麒麟も最近家をあけることが多く、社長の鉄也より娘たちの方が圧倒的に忙しい状況になっていた。

 しかし彼の危惧は仕事の忙しさではなく、別のところにあった。



 居間には夕食の料理を並べる麒麟と、携帯ゲームを片手に持っている桃火の姿がある。

 麒麟はいつも通りワイシャツにネクタイ、チェック柄のミニスカートに対し、桃火はシャツ一枚にホットパンツ姿とラフな格好だ。


「桃火姉さんが家に帰って来るなんて珍しいですね?」

「そろそろ季節がかわるし、服をとりにきただけよ。ついでに晩御飯もいただいていこうってね。それよりあたしは玲音姉さんがいる方が驚きよ」

「姉さんは家も回さなければいけないのでちょくちょく帰ってきますよ。大体すぐ出ていきますけど」


 真田グループはゲーム事業だけでなく、アミューズメント業界、通信、デバイス開発、不動産等の事業にも力を入れており、その規模は毎年拡大している。そうなると自然と知り合いや血のつながらない親族が増えていくので、そちらに対応するのも玲音の仕事となっていた。


「姉さんの超人ぶりには妹ながら敬意を払うわ」

「ウチは玲音姉さんでもってるようなものですから」

「親族や子会社の偉い人達が次々とあいさつ回りしてくるの見て、よく愛想よくつきあえると思うわ」

「愛想はよくないですけどね。玲音姉さんを見た人は皆縮み上がってますから」

「まぁね、姉さんがほほ笑みながら来客対応なんかしてたら次の日は多分槍でも降って来るわ」


 話している最中も麒麟はテーブルに料理を運んでいく。並んだ料理を見て桃火は顔をしかめる。

 生焼けや黒焦げの焼き魚に、どす黒い味噌汁、黄身の潰れた卵焼き、きつね色を通り越して黒くなった唐揚げが大皿に親の仇かというくらいぶちこまれている。


「あんた……これお手伝いさんがつくったのじゃないよね?」

「最近家にいる時はずっと私が料理してますよ」

「えぇ……なんで……」

「前、遼太郎さんの家にお邪魔した時乙女のプライドをこれでもかってくらい砕かれたからです」

「あぁ、あいつ料理上手いでしょ。なに対抗意識燃やしてんの?」

「対抗意識というか、女としてここまでスペック差を見せつけられるのはどうかと思いまして」

「そんな女は家事、男は仕事みたいな古い時代じゃないんだから、できる方がやればいいのよ」

「姉さんはそれなりにできるからそんなこと言えるんですよ」

「まぁ私はあんたが海外留学してるとき台所に立ってたからね。旦那や彼氏が料理できるならやってもらえばいいのよ」


 そう言って桃火は唐揚げを一つつまみ食いすると、驚くほど味がなくて無表情になる。

 逆にどうやったらここまで素材の味を消せるのか謎である。


「そんなこと言って、相手に負担ばかりかけてたら、いつか唐突にもう耐えられないって別れ話きりだされますよ。姉さんはその時なにが理由かわからないとか言い出しそうです」

「比重は考えるわよ。あたし別に彼氏が主夫やりたいなら家にこもってもいいと思ってるし、家のことやってくれるなら外のことは全部あたしがやるわよ」

「それ、相手が逆に仕事は俺がやるから君は家にいてくれって言われたらどうするんですか?」

「そんなこと言う男とは付き合わない」

「ドライですね。連れ添う男の人が今から気の毒です」

「あたしは首輪つけてでも引きずっていくから」

「姉さん引きずるのも引きずられるのも好きですもんね。遼太郎さんも別れて正解ですよ」

「あんためちゃくちゃ言うけど、あたしどっちかって言うと尽くす方だからね?」

「知ってます。姉さん強気受けとか誘い受けですもんね」

「BLみたいに言わないで」


 桃火と麒麟が軽口をたたき合っていると、玲音が仕事のしすぎで肩と首の痛みを辛そうにしながら居間に入って来る。

 肩だしの裾長ニットに黒タイツ姿で、絹のカーテンのような長い髪が揺れる。

 私服でありながらもチェーン付きの眼帯は外されておらず、通常浮いてしまうようなアクセサリーも彼女の日本人離れした美しさには鳴りを潜めてしまう。

 玲音が登場した瞬間、桃火と麒麟は正座して何事もなかったかのようにふるまう。


 桃火と二つしか年が違わないはずの玲音だったが、彼女の持つプレッシャーは他人だけでなく姉妹にも有効であり、その切れ長の瞳はいとも簡単に人を黙らせることが可能で、実質的な真田家の最高権力者でもあった。

 玲音が席について正座すると、シンと空気が静まり返る。

 他人がこの場にいれば、この張り詰めたような空気に気分を悪くしてもおかしくないが、麒麟や桃火は慣れ親しんだ空気であり、別段思うことはない。

 麒麟、桃火に比べると全てにおいて玲音は異質な存在であり、よく言えば神聖さや高潔、孤高なんて言葉があてはまるが、悪く言うと人間味が少なく冷徹なロボットのように思えてしまう。

 それもそのはず、彼女は桃火、麒麟とは母親が違う異母姉妹であった。

 しかしながら姉妹がそのことを気にしたことは一度もない。

今回のお話は玲音のサイドストーリー的なものです

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