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痴漢

「さて、住居ですがどうしましょうか? どの辺りがいいとか希望ありますか? 物件の希望でもいいですよ。何階建てのマンションがいいとか、部屋数や、ペットOKなど条件で探しても」

「リョタローさんはどこに住んでるんですか?」

「僕ですか? 僕はときわ台にあるアパートですよ」

「ディーナもそこがいいデス」

「いや、あそこは自分で言うのもなんですが、人が住める場所じゃないですよ。冬は極寒ですし、夏は灼熱です。周囲に怖いおばさんがいるので、毎日怒鳴っていて精神衛生上よくないです」

「そうデスか?……でも、そこがいいデス」


 しゅんとしてしまうディアナに、う~むと困ってしまう。

 その後物件をいくつか回ってみたが、ディアナはどれもピンとこないようで、遼太郎はタブレットを片手に次はどこにしようかと唸るのだった。


「スミマセン……わがままで」

「いえ、いいんです。住居は長い時間付き合うことになりますから、あまり妥協はしない方がいいです。ゆっくり探しましょう」

「……ハイ。やっぱりリョタローさんは優しいデス」

「いえ、好きでやってることですから気にしないで下さい」

「……アナタともっと早くに出会っていたら、ディーナはかわっていたかもしれまセン」

「何か言いましたか?」

「何も言ってまセン」


 桜色の頬をしているディアナに、具合でも悪いのかな? とテンプレート的なことを思う遼太郎だった。


 それから数時間、物件を探し歩いて二人がたどり着いた場所がここだった。


「グッドゲームズカンパニー本社ビル……本当にここがいいんですか?」


 そびえ立つ本社ビルを前に首を傾げるが、ディアナはハイと嬉しそうに首を縦に振る。


「ここならリョタローさんとすぐに会えますネ」

「確かにそうなんですが。僕も泊まることが多いので一緒にいる時間は多くなると思いますけど……」

「出勤時間0デス」

「そ、そうですね。でも、グッドゲームズカンパニーは社宅を持ってますので、そちらに行く方がいいと思うのですが」

「ここがいいデス」

「そうですか? それならちょっと話してみます」


 遼太郎が麒麟に連絡をとると麒麟から総務部に連絡がいき、総務部から専務に連絡が行き、専務から玲音へと連絡が行き、玲音から麒麟に連絡が戻り、遼太郎へと話がバックした。

 電話越しに話す麒麟も少し困惑しているようだった。


「すみません、いろんなところに連絡が行ったみたいで遅くなりました」

「こちらこそ急ですみません、ご迷惑をおかけします」

「大丈夫です。それで結果は大丈夫だそうです。上階に仮眠室とは別のゲストスペースがありますので、そこを自由にしていいと。詳しいことは総務に通しておきますので」

「ありがとうございます。ご迷惑おかけします」

「いえ、むしろ上は喜んでましたので」

「喜び? ですか」

「ええ、本社ビルは関係者以外入って来れません。ディアナさん人気ですから怪しい人間に狙われる可能性がありましたが、ここなら安全ですから」

「セキュリティが高いのはいいことですね」

「まぁ内側のチェックは多分ガバガバですが」

「何か言いましたか?」

「いえ、何も、なので明日以降に彼女の荷物は普段業者さんが使ってる搬入口を使って運び込んでください」

「わかりました」


 通話を終えて、OKだったことを伝えるとディアナの顔はぱっとほころんだ。

 並の男なら即時KOされてしまうような、天使的微笑みだったが、そこは遼太郎、むしろ一緒に喜んでしまうのだった。



 住居選びもめでたく決まった頃、既に日は落ちつつありオレンジの光も徐々に薄くなってきた。


「住居も決まりましたので、今日のところは帰りましょうか」

「ハイ、あのリョタローさんはどうやってここまで来ているんデスか?」

「通勤ルートですか? 電車を使ってますよ」

「電車……」

「タクシーよりもはるかに安いので、帰りはそちらで帰りましょうか」

「ハイ」


 二人は会社の最寄り駅へと入ると、丁度帰宅時間と被っていた為、ホームには疲れたサラリーマンや学生であふれており人の多さにディアナは驚いていた。


「これが……切符ですか」

「小さいので落とさないで下さいね。母国では電車にはあまり乗りませんでしたか?」

「移動するときは大体、執事さんが車かジェットを出してくれまシタ」

「ジェ、ジェット機ですか?」

「はい、ロシア広いですから皆移動するときはジェット機です」

「は、はぁそうなんですか。凄いんですね……」


 やっぱ国土が大きい国は違うなと感心する遼太郎だったが、後に桃火からそんなわけないだろうがタコスがと言われるのだった。

 しばらくして電車が来ると、中から尋常じゃない数の人間が出てきてさらに驚く。


「す、スゴイです。電車とはこんなに人がいっぱい入れるものなのデスか?」

「いえ、入れませんよ。見た目通りの積載量です」

「Правда?(本当デスか?)」

「行きますよ」


 遼太郎はディアナの手を引いて中へと入る。

 予想通りのすし詰め状態であり、こんなものを朝も夜も経験しなくてはならないサラリーマンというのは実に生きづらい生活をしていると、その苦労に頭が上がらなくなる。

 ディアナと手を繋いでいたはずなのだが、あまりの人の多さと駆け込み乗車による圧迫で、二人の手は離れてしまう。


「しまった」

「リョタローさん」

「次の駅で人が減るはずなので、少し待ってください」


 そう声をかけたが、ディアナの姿は人混みに埋もれてしまう。

 早く次の駅につけと思いつつ、約5分ほどして次の駅へと到着する。

 彼の予想通り人は少しだけ減ったが、まだまだ身動きは取り辛かった。


「ディアナさんは……」


 ドア付近に彼女の姿を見つけ、遼太郎はなんとか少しづつ寄っていく。しかし、途中で彼女の様子がおかしいことに気づいた。

 顔を強張らせ、肩を震わせている。

 なんでだ? と思い後ろを見ると、明らかに後ろのバーコードサラリーマンの挙動がおかしい。

 なぜこのギューギューづめで小刻みに前後運動しているのか……。

 嫌な予感がして、遼太郎は人の海をかきわけながら進んでいく。

 すると嫌な予感は当たり、ディアナは完全に痴漢被害にあっていた。


「まさか乗った直後に被害にあうとは」


 しかし許せんと、遼太郎は痴漢とディアナの間に体を割り込ませようとする。

 だが、この痴漢ここは絶対譲ってなるものかと強い意志で隙間をあけようとしない。

 さすがにこれには遼太郎もイラっとする。

 同じ目にあわせてやろうと、遼太郎は痴漢のケツを揉みしだいた。


「な、なにをする!?」


 バーコードサラリーマンが慌てて振り向く。

 すると遼太郎は低い声で、「声を上げるな」と囁く。


「僕はね……ゲイなんですよ。あなたみたいにくたびれたサラリーマンが大好物なんです」

「ひ、ひぃぃっ!? や、やめて」

「ほら、いいんでしょ、素直になって下さい」


 痴漢はガチホモにターゲットされたと思い込み、足が震える。

 次の駅についた瞬間、遼太郎は大声で叫んだ


「この人痴漢です! 僕の股間を撫でまわしてきました! 誰か助けて!」

「なっ!? 誰が痴漢だ、痴漢はお前だ!」


 男は慌てて飛び出すと、この男を張っていたらしい私服警察が腕を掴む。


「鉄道警察です。いろいろ聞きたいことがありますのでご同行願います」

「違う! 私は被害者だ! 冤罪だ!」

「みんなそう言うんですよ」


 バーコードのサラリーマンは線路内を逃げ惑い、10分以上鉄道警察とチェイスした後にようやく捕まったらしい。

 遼太郎たちは警察に話を通した後、ようやく解放され、実に一時間近く時間が経過してしまった。

 その頃には帰宅ラッシュはひと段落しており、人は多いながらも痴漢に巻き込まれるようなことはなさそうだったが、ディアナは片時も遼太郎から離れようとはしなかった。


「すみません、少し目を離した隙に」

「いえ……Спасибоありがとうございます。リョタローさんディーナのかわりに声をあげてくれまシタ」

「女性は声をあげづらいですからね」

「そ、その、ゲイというのは本当なのでしょうか?」

「いえ、僕はいたってノーマルですよ。昔僕がやられて死ぬほど怖かったことをやってみました」

「ね、狙われたデスか?」

「ええ、筋肉質なガチムチのおじさんに。怖くてすぐ逃げましたけどね」

「それは怖いです」

「今度外に出る時はタクシーを使いましょうね」

「ハイ……さっき知らない人後ろに立った時、凄く怖かったデスけど。リョタローさん後ろにいると凄く安心しマス」

「僕も男なのであまり信用しないで下さい」


 冗談を言ったつもりだったが、ディアナはキョトンとしていた。


「もしかして日本人は電車での行為は日常的なのデスか?」

「そんなわけないです普通に犯罪ですよ」

「では恋人としても犯罪デスか?」

「恋人は……う~ん犯罪かなぁ合意の上だけど、こんなところでしちゃいけないのは当たり前だし、迷惑行為ですから。見ている人も不快になるでしょうし通報されたらアウトだと思います」


 と言ってると、また次の駅で人が流れ込んできた。

 今度はがっちりとディアナの後ろをキープし、誰も入り込めないように隙間をなくす。

 すると気づいた。これはこれでまずいのでは? 痴漢が自分にかわっただけでディアナに不快な思いをさせているのではないかと。


「す、すみません。少しくっつきすぎですね。離れたいんですけど、隙間がなくて」


 ディアナのむっちりとした臀部に自身の股間部が密着しており、柔らかで弾力のある尻肉の感触が伝わり遼太郎のアナコンダが「呼んだ?」と鎌首をもたげ始める。


「呼んでません!」

「?」

「いえ、こちらの話です」


 そんなことおかまいなしに電車は急ブレーキをかけたり、線路にそって右に左に揺れていく。

 その度にお尻の果実が遼太郎の股座を圧迫する。

 なんとかドアに腕を伸ばして耐えるが、カーブで体が揺れ擦れ合うたびにディアナは「ん……あっ……」と艶めかしい声をあげる。

 その時隣にいたOLらしきスーツ姿の女性がこちらを睨んでいることに気づいた。

 直感的にわかる。この人完全に痴漢と疑ってると。

 まずい、このままではさっきのバーコードおじさんと立場が入れ替わって人生バットエンドコースである。

 なんとか腕を突っ張って体を離そうとするが、その度に電車が揺れ、お前の抵抗など無意味だと密着を繰り返してしまう。

 そして運がいいのか悪いのか、何度となく密着したまま擦れ合っているのでディアナのスカートが段々めくれあがって来たのだ。

 なんとか直したいが、彼の腕はドアに突き立てたままだ。

 しかし、それでも一瞬の隙を見計らって遼太郎は彼女のスカートを下げようと手を伸ばす。

 その瞬間


「あなた痴漢でしょ。次の駅で降りなさいよ」


 正義感に溢れたOL女性が遼太郎の腕をがっちり掴む。遼太郎の手はまさにスカートに伸びかけていたところで完全言い訳不可避状態だ。


「ち、違うんです」

「何が違うのよ、見てたわよ。あなた前の子が嫌がってるのに、グリグリ股間を押し付けて最低ね!」


 なんとか無実を訴えようとするが、状況判断は圧倒的不利である。

 だが、その状況を覆したのはディアナである。


「どうかしまシタ?」

「すみません、痴漢と疑われていまして」

「あなたこっちに来なさい。そんな男の近くにいると危険よ!」


 OLがディアナを引っ張ろうとするが、逆にディアナは全く動かない。


「い、嫌デス。ディーナはリョタローさんから離れたくありません」

「えっ? 知り合いなの?」


 ここにきて状況が一変する。ディアナの一言で全てが決まる。彼女の発言で遼太郎は一生後ろ指刺される存在になるかもしれないと思うと、嫌な汗が流れ続ける。


「りょ、リョタローさんはディーナの兄様デス」


 とんでも発言にポカンとするOL一同。


「いや、兄ってどっからどう見ても外人と日本人じゃ」

「兄様、兄様」


 ディアナは遼太郎に抱き付くと、頬を胸に摺り寄せる。

 この辺りで乗客は、あっ、兄様ってそういうプレイ(察し)と納得する。


「な、なによ女の子に兄様なんで呼ばせて気持ち悪いわね」


 義憤に満ちたOLは次の駅でそそくさと下りて行った。

 なんとか助かったようで、遼太郎は胸をなでおろす。


「それにしても兄は無理があると思いますが。何か勘違いしてくれて助かりました」

「リョタローさん、痴漢されないよう守ってくだサイ」


 ディアナは後ろを向くと、扉に手をつき、お尻をぐっと突き出した。そして遼太郎の腕を自身の腰にもっていく。


「リョタローさんがディーナのお尻触ってれば痴漢できまセン」

「あの、本末転倒なのですが?」

「本松テントウ? 松こけますか?」

「いえ、いいです」


 これでは完全に満員電車を楽しむTPOをわきまえられない、はた迷惑なバカップルではないかと。

 う~んと唸っているうちに電車はディアナ宅へと一番近い駅へと到着するのだった。

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